スーツの下が手遅れで何が悪い (本文サンプル・書き下ろし分・後半)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 
 
 土曜日の朝も、平日の朝と変わりがない。むしろ土曜が休みになること自体が珍しいので、シツはいつも通りに起床した。
 今日は十八時頃に帰れる、とセカイが言っていたので、その頃に外で待ち合わせして、日用品の買い出しをすることにした。
 それまでにすることは沢山ある。掃除洗濯を済ませ、平日の食卓に並ぶ総菜の作り置きをする。それが終わったら、病院へ検査結果を聞きに行く。午前十一時の予約だ。
 春の健康診断で再検査を勧められた時は、さすがにちょっと焦った。まさかこの年齢で引っかかるとは思っていなかった。
「……やべ、後一時間半」
 一時間半後には家を出ないと、予約に間に合わない。
 風呂場で、ざぶざぶと下着の下洗いをしながら呟いた。セカイがいないと、ひとり言が多い。
 洗っているのは自分のパンツだ。
 尿道ピアスと拡張を始めてから、パンツが汚れるようになった。後ろから漏れる腸液もひどい。おしっこや精液のシミは、何度も続くと取れない。
 その上、女の子用の繊細なおぱんつさまだから、洗濯機にぶっ込んで丸洗いができなかった。浸け置きして、手で下洗いしてから、ネットに入れて、お洗濯。手間がかかる。
 そんなことも、セカイは自分がやりたいと言う。
 おしっこもうんこもゲロも何もかも見られているので、汚れた下着くらい……と思いがちだが、これもまた変なこだわりで、なんとなく下着だけは、シツも自分で洗いたかった。
 汚れた下着を見られて、セカイに嫌われたくない。だから、必死に自分で別洗いする。
 セカイもセカイで、浸け置きしてあるパンツに気付いたら、「勿体無い! 先ににおいが嗅がせろよ!」などと悔しがるし、シツが脱いだ瞬間、その下着をスゥハァするし、シツが洗濯を忘れていたら、セカイによって手洗いされる。
 心を無にすれば、そんな自分の旦那の姿にも目を瞑ることができた。十年かかって漸く、旦那の変態的な性的嗜好に慣れ始めた。リボンとレースがお気に入りで、使用済みぱんつのにおいを嗅ぐ伴侶。その姿にも愛しさを感じるようになった。
 慣れって怖い。
 下着を洗う手を止めて、シツはふと思った。
 悪い子になっちゃおう。
 薄い唇で、にた……と笑い、その場でおもらしした。幸いにもここは風呂場。掃除は簡単だ。
「……ん、は、ぁあ、ぁー……」
 おしっこ、今日はちゃんと出た。
 熱い水気がズボンに沁み込む。今日は、下着もおむつも穿いていない。ズボンを直穿きだ。おしっこして、じわじわと布地の色が変わるのを鑑賞する。この時点で、自分も大概変態的だ。
 じっとりと重くなった布地がペニスに張り付き、衣服を通しても、大きなピアスの形がくっきり分かる。
 濡れ手で、湯船の蓋に乗せていた携帯を手にとり、自分の下腹部をカメラに写した。それをセカイへのメールに添付して、おしっこ漏らした、と申告してやった。今晩お願いします、というメールが返って来るのは確実だ。
 あぁ、気持ち良かった。
 気を取り直して、バケツの中の可愛い下着洗いに戻る。おもらしした服のままっていうのも、存外、悪いものではない。
 内腿が痒くなってきた頃に、下着洗いを終えて、着ている服を脱いだ。ネットに入れた可愛いぱんつ、セカイの下着、シャツ、二人分の溜まった洗濯物、今、もらしたての自分のズボン、全部一緒に突っ込んだ。
勿論、おしっこを含んだズボンはそのままだ。わざと汚した服とセカイのパンツを一緒に洗濯して、汚してやる。
ざまぁみろ、俺に汚されろ、だ。
「……せかいの、ぱんつ」
 セカイのことを笑えないのは、自分も一緒だ。
 洗濯前のセカイのパンツを引っ張り出して、スゥハァした。大きく吸い込んで、胸いっぱいににおいを堪能する。こんなこと、本人の前じゃ到底できない。
「ふひっ、ひひっ……」
 ひとしきり旦那のちんことおしっこのにおいを嗅ぐと、洗濯層に放り込む。洗濯粉を容器にぶっ込んで、引き笑いしながらスイッチポン。
 シャワーを浴びて、髪を乾かせば、丁度、出かける頃合いだ。
 公共施設に行く時、シツは男物の下着を持っていないので、セカイの物を拝借することになっている。
 身支度を整えて、家を出た。
 病院への道中、珍しい男からメールが入った。
 カガミだ。
 通っていた高校は違うが、シツが高校生だった頃に知り合った友人だ。シツが世話になった竜護という男の恋人がいる。
 性格は傍若無人、引きこもり気味で、打たれ弱く、人間嫌い。電話も嫌いで、メールしかしてこない。
 たまに気が向いた時にシツにメールをくれて、『ちょっと外に出て見ようと思う』と言う。『ほな、茶ぁでもするか』と、シツが返信すると、『じゃあ今日』とすぐにメールが返ってくる。
 三時頃から夕方六時までなら大丈夫。それでもいいか? と言えば、お前と三時間も顔を合わせたくない。頑張って二時間が限度だ、とツンデレを発揮する。猫みたいな奴だ。
 じゃあそれで、と約束して、シツは電源を切った。
 さぁ、病院だ。







 以下、同人誌のみの公開です。



2012/10/04 スーツの下が手遅れで何が悪い (本文サンプル・書き下ろし分・後半) 公開