籠の鳥事件 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 
 
 十二月二七日。
 早朝、ヴァルの車に乗って、八草は城の外に出た。
 三日目にして初外出だ。
 今日の八草は、ヴァルの甥っ子という設定で男装していた。八草にしてみれば、普通の男物の服を着ているだけだ。シャツとジーンズにブーツを合わせた今風の格好だ。
 王宮から車で二時間の場所にある空軍基地へ見学に行った。見学者に開放されている大きなハンガーに足を踏み入れ、実際に戦闘機を目の当たりにすると、自然と笑みが零れた。
「ヴァル、これって何?」
 八草は、目の前にある戦闘機を指差す。
 操縦員席が二名になった複座式の戦闘機で、形が古い。
 現実からかけ離れた世界に圧倒される。
「それは第二次世界大戦中のものです。こちらへどうぞ……」
 今日、ヴァルは非番だが、職場ということもあってか、軍服を着用している。場所との相乗効果で、普段より八割増しで格好良く見えた。場に相応しすぎて、映画の一場面のようだ。
 ヴァルに拳銃を構えてもらって、「戦時下、基地に潜入して追い詰められたスパイと将校ごっこ」をやりたいと思った。
「姫様?」
「……こ、ここは展示場で、あっちが滑走路か?」
 ぼんやり見惚れて反応が遅れた。
 慌てて大股歩きでヴァルの隣に並ぶ。
「そうです」
「……なぁ、ヴァル」
 八草は、ヴァルに耳を貸せと手招く。
「なんですか?」
 ヴァルは長身を折り曲げ、耳を傾けた。
「敬語はダメだ。バレる。普通に喋れよ」
 八草も、ラサの口調ではなく、八草の口調で話した。
「分かりまし……分かった」
「よし、じゃあ次は? ヴァルの乗ってた戦闘機は?」
「別のハンガーにある。私が乗っていたのはEFTと言ってな……分かるか?」
「分かる。知ってる!」
「EFTは超音速巡航を可能とし……あぁ、こんな話はつまらないか?」
「いや、そんなことは……ほら、俺は自分の国のことに無関心過ぎたから勉強しないといけないから……その、来月には国王妃になるしさ、色々、聞きたいかな」
「俺?」
「甥っ子役なのに、わたくしとか言ってたら不気味だろ」
「成程、いやしかし我が妻となるかもしれぬお方は勉強熱心だ」
 ヴァルは嬉しそうに笑った。
 アッシュブロンドの髪が一筋、額にかかる。
「だから、我が妻とかは禁止。今日は甥っ子だって」
 八草は背伸びして、そのアッシュブロンドを指先で撫でつけてやった。この男の髪は、見た目だけでなく触り心地も良い。
 そのアッシュブロンドに顔を埋めて、猫みたいに頬ずりしたら、さぞや気持ち良いだろう。
「…………」
「あ……ごめん」
 ヴァルが驚いた顔で八草を見つめていた。碧色の眼に、八草自身の顔が映っている。これは、接近し過ぎ。
 手を引っ込め、距離を取る。
「どうした?」
「ごめん、違う……他意はなくて……きれいだったから」
「きれい?」
「男にきれいはないな、ごめん」
「私よりも、お前の髪がきれいだよ。真っ黒で、艶やかで、絹糸みたいだ。その髪を撫でて、指で梳とかしてやりたい」
 ちゅ、と音を立てて、つむじにキスをする。
「……っ」
「あぁ、悪かった。これも、甥にするべきことではないな」
 我に返ったヴァルはすぐに身を引くと、八草の手を引いて歩き出した。
「ヴァル、恥ずかしがってる?」
 何気なく繋がれた手を握り返し八草は笑う。
 あぁ、この人は善い人だ。
「いいえ、別に」
「本当に?」
「本当だ」
「俺は、ちょっと恥ずかしかった」
「分かっている」
「なんで?」
「顔が……というか、耳まで真っ赤だ。お前は、表情筋はあまり動かないが、恥ずかしがると顔が赤くなる」
「…………次は、どこへ連れて行ってくれる?」
 指摘されて、余計に顔が赤くなるのを自覚しながら、恥ずかし紛れに尋ねた。
「お前が見たいと言った私の機体の元へ」
 そんな八草を、ヴァルは微笑ましく見つめる。
「こっち見るの禁止」
 八草は居た堪れず、そんな命令を出した。 



 ※



 巨大なハンガーで、硬質な光を放つ戦闘爆撃機を前にしている八草と、その八草を見守るヴァル。大の男が戦闘爆撃機の前に立っても小さく感じるのに、八草が立つと、もっと小さく感じられる。
 まるで巨人の前にいる小動物のようだ。
 八草はどちらかと言えば背も高いほうだし、か弱い見た目でもない。だが、ヴァルにしてみれば、鍛えられていない十代の子供など、ひ弱で、華奢で、折れてしまいそうなほど脆いものと同じだった。
 危なっかしくて目を離せない。薄い背中が、頼りなく見える。時折、ヴァルを見て眉を顰めるのが、可哀想になってくる。常に用心深く人を観察し、何かを警戒している。
 守らなくてはならない。
 脅えるものの全てから。
「すごいなぁ……普通じゃこんなの見れないもんなぁ……」
 ヴァルの心配をよそに、八草は一心にそれを見つめていた。
 見学場は貸切で、ここには、今はもう飛ばない、引退した機体を展示していた。ヴァルが乗っていたこのEFTも世代交代して、今はここで羽根を休めている。
「お、本当にいるじゃないか」
 基地にいたヴァルの同期が顔を覗かせた。
 ヴァルが、初めて身内を職場に連れて来たと聞きつけたらしい。八草が、ぺこんと頭を下げると「好きなだけ見ていきなさい」と気さくに声をかけてくれた。
「イラーセク、珍しいな」
 ヴァルは、八草の姿が目に届く範囲で、イラーセクと挨拶を交わす。
「机の前にばかりいたら発狂するさ」
「確かに。飛び回っていた頃が一番気楽だった」
「自分一人の命だからな」
「あぁ」
 今は、守るもののほうが多い。地位が上がれば上がるほど部下の数は増え、守ることばかり考えるようになった。向う見ずには生きていられなくなった。
 そして今日、またひとつ守るものが増えた。
「そんなフェンデトードス少佐は部下にとても慕われ、あのような状況です」
 イラーセクの視線の先には、ヴァルの部下がいた。
 ヴァルの部下が、続々と挨拶に訪れ、ヴァルとイラーセクに敬礼する。あっという間に、小さな人だかりが出来た。
「…………君は、こういうのに興味があるのか?」
 二人を見ていた八草に、尉官が話しかけてくれる。
 ぽつんと一人で佇んでいるのが、可哀想に見えたのだろう。
 八草はヴァルから視線を外し、尉官との会話に集中することにした。八草がEFTに興味を示すと、尉官は饒舌に語り出す。独りが語り出すと、また一人、二人……と人が集まり、大きな輪になる。
「これは当時の最新アビオニクス搭載だったんだ? 生産コストの八割がこれで占めてんの? 高っけ……え、ちょっと待って、カナードデルタ翼って脆いの? 大丈夫? でもすごいの? なんかやばいマジすごくね? ……っと」
 後半部分は日本語で喋ってしまい、咄嗟に口元を押さえる。
 これでは、ラサの夫としてヴァルがふさわしいかどうかを見極めるどころかではない。自分一人ではしゃいでいる。
「現用の新世代は更に改良を加えられ、LERXとし……」
「LERX?」
「ほら、あの雲みたいな水滴がぶわーって出るやつだよ」
「お前、なんだよその説明……」
「分かりやすいだろ?」
 八草の興味津々な態度に気を良くしたのか、はたまた、普段はその語りを聞いてくれる人がいないのか、皆が、我も我もと、矢継ぎ早に、嬉しそうに八草に話しかける。
 八草は聞く側に徹した。ここの人達はそれを望んでいるし、八草はここでは部外者だ。大切なことは、後々、ヴァルに迷惑をかけないこと。たった数時間だけの来訪者のせいで、ヴァルの評価が落ちてはいけない。印象が悪くなってはいけない。
 お行儀良く、それでいて、子供らしく。
「防衛機密を話すなよ」
 部下のテンションの上がりように、ヴァルが苦笑している。
 この国の姫なのだから話しても問題ないのだが、危険なことは教えたくないと思ってしまう。
「アイサー! 社会見学に来る小学生に教える程度のことしか話しません!」
「ひどい。俺、小学生よりは上なんだけど」
 八草は思わず訂正を入れた。
「坊主、何歳だ?」
「もうすぐ十八歳」
「こりゃ失礼。十四、五歳くらいだと思っていた!」
「最近の十八歳は、背が高いですね」
「筋肉はついてないけどな!」
 ばんばんと八草の背中を叩き、整備員が豪快に笑う。
「…………」
 額に手を当て、ヴァルが苦い顔になる。
 この国の王女なのに……。
「なぁ、この仕事ってやり外のある仕事?」
八草は整備員に尋ねた。
「そりゃぁ勿論! 最新鋭の航空機整備に当たれるんだ。その上、俺は、少佐の機体を預からせてもらってたんだ。あんな光栄なことはないね」
「なんで?」
「少佐は信頼できる人だ。職務を遂行する上でも、人間として向き合う上でも……。少佐は、家柄も財産も関係なく、独力で軍学校に入り、一から基礎を築いて、ここまで上り詰めなさった。何より、威張り散らすのが仕事なのに、それが苦手ときた」
「上下関係とか蔑ろににならないの? 大事なんだろ、軍隊ってそういうの」
 ラサが、堅苦しい毎日を過ごすのは嫌だ。
 何もかも、ラサ中心に物事を考える。
 でも、今、ヴァルの隣にいて堅苦しい思いをしている人物を想像する時、それは……。
「少佐は公私を使い分けられる。その上で、話しやすい」
「へぇ……そうなんだ」
 話しやすいのは良いことだと思う。
 意思疎通がはっきりするし、ちゃんと分かり合えるからだ。
 分かり合えれば、もしかしたら、八草の父母のように別れ別れになることもなかったかもしれない。そうすれば、八草は父に会えたかもしれないし、ラサは母に会えたかもしれない。
 生き別れることも、死に別れることもなく。
 素直に、生きていける。
「何でも一緒だよなぁ。分かり合えれば、きちんと伝わってれば、起こる悲劇も起こらないんだよなぁ。なのに……なんで、こんなことになってるかなぁ」
 八草は、万感の思いを込めて、小さく呟いた。
 世の中は全てヒューマンエラーで成り立っている。ひとつの間違いや、小さな嘘が、世界を形成している。
「坊主、達観してるなぁ!」
「わっ……」
 整備員にわしゃわしゃと髪を掻き混ぜられた。
「…………」
 ヴァルは天を仰ぎ見て、死を覚悟した。
 一国の王女の髪を掻き混ぜ。敬愛すべき存在の肩を気軽に叩き、背中を叩き、終いには意気投合して拳を合わせている。
「少佐、顔面が崩壊してるぞ、大丈夫か」
「……あ、あぁ」
 イラーセクの言葉に頷く。ヴァルは、八草の一挙手一投足に翻弄されて、気が気でなかった。
「俺は、なんでも直截的に言ってもらったほうが嬉しいな。ほら、どこかの王侯貴族みたいに、ぐだぐだ遠回しにされると、じれったい。なんかもう殺意さえ覚える」
 八草は、意味を咀嚼するのが嫌いだ。
 苦手だからではない。疲れるからだ。他人の考えを推測することはどちらかと言えば得意で、相手の感情を察する能力もそんなに悪くない。でも、そういうことをするのは、嫌いだ。
 相手のことばかり気になって、疲れるから。
 ちょっと鈍感なくらいが、多分、一番、気楽だろう。
「その点、少佐はいいぞ。婉曲な言い回しばかりなさる王族って訳じゃない……っと、坊主も少佐の親戚なら王族か」
「いいよ。俺は、ここじゃ単なるガキで、なんせ十四、五歳に見えるんだから」
「悪かったよ、お前はちゃんと自分で物事を考えことのできる男だ」
「マジに?」
「あぁ。お前も少佐を見習って、ああいういい男になれよ」
「了解」
 敬礼の真似事をして八草は屈託無く笑った。
 整備員もそれに笑顔で返礼して、自分の作業に戻っていく。
 ひとしきり語って気が済んだのか、ヴァルの形相が徐々に引き攣っていくのが面白かったのか、イラーセクの声かけで解散となった。
「……大丈夫か?」
「うん? あぁ、大丈夫大丈夫」
 ヴァルは心配そうに、八草の背中やら、頭やら、肩やらを見つめている。ヴァルの目線からは、か弱い女子が、屈強な軍人どもに洗礼を食らったように見えたのだろう。
「最大級の歓迎を受けた感じ」
「面白かったか?」
「とても。でも仕事の邪魔をした、大丈夫かな?」
「構わない。彼らも、滅多に訪れない客に喜んでいた。こんなにも熱心に話を聞いてくれる客は、中々来ないからな」
 八草の弾んだ気持ちが、声や表情で見てとれる。今までにないくらい表情がくるくる変わる。
 ちらりと相手を観察するのは癖のようで、そればかりは変わらなかったのが少し残念だった。だが、そんな癖があることに気付けただけでも、ヴァルは充分だった。
「ヴァル?」
「髪が跳ねている」
 鳥の巣になった髪を、指先できれいに直してやる。
「…………なんでそう、さり気ないかな」
 何気ないその仕草に、八草は苦笑する。
「顔が赤い」
「いいんだよ。こういう顔なんだ」
「そうか、てっきりまた恥ずかしがっているのかと思った」
「……意地悪だ」
「すまん」
「許したげるよ。アンタの良い話を聞いたから。ヴァルのこと皆が褒めてた。すごく信頼されてるな」
「それは光栄だ」
「俺が褒められてる気がして、嬉しかった」
「そうか……。私は、私のことでそんなにも喜んでくれるお前を見られて、嬉しいよ」
「…………なんでそんなことが素面で言えるのか」
 ヴァルは、自分の気持ちを伝える時、すごくストレートだ。
 こんな素直な好意を寄せられたら、大抵の女はイチコロだろう。
「私は、王族としての生活より軍隊生活が長くてな。あの独特の話し方よりは、こちらのほうが慣れている……だからと言ってはなんだが、お前が、直截的に話してくれと言ってくれた時はとても助かったというのが本当のところで……」
 口端を持ち上げて、ヴァルは笑う。
「ヴァル、お前さ」
「なんだ?」
「笑うの下手だな」
「あぁ、自覚はあった」
 二人して、顔を見合わせて笑う。
「ヴァルはどうして軍人になったんだ?」
「難しい質問だな。ただ、王族だとか一般人だとか、そういう区別のない場所で生きたいと思ったのが最初だ。そして、その通りにしたら、思いの他に水が合った」
「でも、俺と結婚したら、王族としての生活が待ってるよ」
「お前は、私を夫として選んでくれるのか?」
「例えばの話だ」
「もしそうなったとしたら、それもまた自分で選んだ道だ。後悔はない。それに、お前となら楽しく過ごせそうだ。選んだ道は、自力で切り拓くことができる」
「そうか……」
 きっと、ラサは幸せになれる。
 その「ラサ」という単語で八草は我に返った。
 自己主張し過ぎた。ラサと自分の間にギャップを作ってはいけない。ヴァルのこの言葉はラサに向けられた言葉で、八草に向けられた言葉ではない。喜んではいけない。
「……しかし、本当に外出先がここで良かったのか?」
 そんな八草の心の機微を知らず、ヴァルは、本当は飽きてはいないか、と心配する。
「うん。ここが良かったんだ。きれいなものが好きだから」
「きれいなもの?」
「そう。一番きれいなのは翼の流線だ。硬くて鋭くて、吃驚するくらい冷たいのに、その両翼がなかったら飛べない。一度でいいから触ってみたい」
「飛んでみたい、ではなく?」
「飛ぶのは資格のある人間だけだ。触らせてもらえるだけでもすごいことだろ? 乗る資格のある人間が命を預けるものに、触らせてもらえるんだからさ」
「お前は、随分と我々軍人に優しい考え方をするんだな」
「どういうこと?」
「これは戦争の道具だ。人を殺す。そして私は、それに乗っていた」
「でも、俺達を守ってくれる。……俺は、どちらかと言うと、人を殺すより、殺される心配をしてしまう弱い人間だから……争いごとは全てこわい、って思ってしまう。それが、小さな口論でも、大きな戦争でも。だから、こういう乗り物は、誰かが見て、きれいだね、って言っている内が華だと思うんだ。きっと、戦争になったらそんなこと考える暇はないから」
「飛ばなくては、戦闘機の意味がない」
「でも、飛んだら撃ち墜とされるかも知れない。それは死ぬってことだ。そういうのは、悲しい」
 八草は本心からそう言った。
 人が死ぬのは、漠然と悲しい。
 ヴァルが死ぬのも、悲しい。
 本当は言葉を飾ることが苦手な男。部下から慕われて、信頼されている男。努力を怠らない、軍人としての誇りを持って生きている男。親切で優しく、不器用なまでに実直な精神を持っている男。アッシュブロンドのきれいな男。笑顔が下手な男。人の顔色を見ずに、自分の信念で生きている男。
「死んじゃダメだろ。死んだら、何もできない」
 八草は、色んなものに重ね合わせている。
 どうにも感傷的だ。
 亡くなった父母のこと、出会ったばかりの妹のこと、まだ一度も会ったことのない祖父のこと、そしてヴァル。
 失った人のことを悲しいと思い、生きている者を失くしてしまうのが恐ろしいと思ってしまう。今を守らなければと思う。
 こんなこと、今まで一度も考えたことがなかったのに。
 ほんの数日前までは、自分の保身ばかり考えていたのに。
 突然、守るべき者や、守るべき秘密が増えて、今にも、両手から零れ落ちそうだった。
 考えが、追いつかない。
 だから、ラサは自由を欲した。ラサは、飛ぶ羽を持っていない籠の鳥だ。八草は、そのラサに羽をあげることさえできない、昨日今日に無力だと自覚したばかりの、何もしてやれない兄だ。せめて、一週間だけの自由だけは守ってやらなくてはならない。
「あぁいう翼があったら……」
「欲しいのか?」
「欲しいけど、墜ちるようなら……いらない」
「そんな寂しい顔をするな」
「だって、俺は無力だ」
「私は、決してお前を無力だと思わない」
「……ごめん、なんでもない。忘れて」
 ヴァルは親切だ。弱い者を見捨てない。そういう人間だ。
 だから、深く追及しないで。そんな気持ちを込めて、眉を顰める。庇護欲をそそる表情を、取り繕う。
「あなたは何故、いつもそんな風に、相手を推し量るのですか」
「……ヴァル?」
「私は、できることならずっとあなたを助けていきたいのです」
「本当の俺を知ったら、そんな好意は消えてなくなるよ」
 多分、確実に……。
 それどころか、嫌われる自信さえある。
 何せ、小さな口論も大きな戦争も嫌いで、遠回しで婉曲な物言いが嫌いで、真意が推し量れない言葉が嫌いで、嘘があるのは嫌だと言っているその口で、八草はヴァルを騙しているのだから。







 以下、同人誌のみの公開です。



2014/01/04 籠の鳥事件 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤) 公開