籠の鳥事件 (本文サンプル・書き下ろし分・えろ)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 
 
「舐めろ」
「…………」
 唇に、靴先が押し当てられた。
「貴様の望んだことだ。罵倒され、叱責され、殴られ、罰される。……さぁ、命令に従え、偽者」
「……な、……ん、で……ぃ、だっ!?」
 頭を、床に押しつけられる。犬のように四つん這いにさせられ、腰だけが高く上がる。その状態で、頭を踏まれた。
「……ぅ、ぐ!!」
 ぶしゃっ、と鼻血を噴いた。鼻腔が詰まり、息ができない。口を開くと、軍靴の感触がすぐ傍にあった。
「何でもするんだろう? ……できないと言うなら、お前は、またひとつ私に嘘をついたことになる」
「……っ」
「できもしないことを言うな。事の重大さも把握できないような、愚かな子供が」
「……ふ、っ」
 八草は、小さく息を吐く。
 笑みが零れた。ここまで嫌われてしまえば、もう取り替えしはつかない。こうなった時の対応の仕方は、分からない。
 いつも、こうならないように生きてきた。その努力の結果、最悪の事態だけは回避してきた。だから、分からない。本当に怒られ時にどうすべきか、分からない。見捨てられない為には何をすべきか、分からない。
 何が正解か、分からない。
 カタカタと自分の手が震える。奥歯が鳴って、その震えが耳に響く。息ができない。鼻血が、喉に下りてくる。
 こわくて、こわくて、口から吐き出す。
「……ぇっ、……ぅぇ、ええっ……げ、ぇっ」
 薄い血の混じった吐瀉物を、ヴァルの軍靴に吐いた。
 あぁ、最悪。
 これはもう、怒られるどこの話ではない。
「八草?」
「…………ぇ、あ」
 おずおずと舌を出す。
 唾液で濡らすように、軍靴に舌を滑らせた。口中に、独特の苦味が広がった。靴墨、吐瀉物、血液。どれも不味い。
「ぉ、え、っぇ……」
「……はっ、本当にやるとはな」
「っは、……ふ、ぁっぐ……っ」
 汚れた軍靴で、頬を蹴られる。固い靴底に押されて、自分の歯と頬の内側の粘膜が擦れ合い、やわらかい肉が破れた。
「するならもう少し懸命にしてみろ。そんなことでは、いつまで経っても私の許しは得られないぞ」
「ん、……はっ」
 俺、なんでこんなことしてるんだろう。
 女の格好して、床に這い蹲って、犬みたいに男の靴を舐めて、吐いて、鼻血出して、殴られて、蹴られて……。
 どこで間違ったんだろう。
 ちゃんと、頑張ってきたのに。
「犬にも劣るな」
「く……ぁ、っ」
 口汚く罵られ、口中に靴先を押し込まれた。舌いっぱいに、言いようのしれない屈辱が広がる。
 両腕をきつく握り締め、涙を堪えた。
 ちゃんとできなかった自分が悪い。ちゃんと対応できなかった自分が悪い。失敗したからだ。失敗したのだから、こうなって仕方ない。でも、ヴァルには赦されたい。
 何をしても、どう罵られても。
 何をされても。
「八草……」
「ひっ……!?」
 髪を掴んで、引き上げられる。
「今度はこっちだ」
「……ぇ」
「犬以下でも、これくらいはできるだろう?」
 軍服に包まれた下腹に、八草の顔を押しつける。
「…………」
 その怜悧な瞳で見据えられると、何故か、理性とは別の何かが突き動かされる。いやだと思うどころか、こんなことで赦されるなら……とそう思ってしまう。
 ちらりと、ヴァルの顔を見やる。
 怒っている。でも、さっきよりは怒っていない。何か、他の感情が見てとれる。なんだろう? どうすれば機嫌を損ねないだろう。何をすれば、喜んでくれるだろう。
「それはやめろ」
「……?」
「その癖をやめろ」
「…………ごめん、なさい」
 あぁ、そうだ。
 これは他人を不快にさせるのだ。
 ダメだ、もう少し上手にやらないと。もっと自然に、普通を装って……そうしないと、また、失敗する。
「手は使うな」
「っ……ぁ」
 少しだけ口を開き、軍服の前立てに歯を立てる。上等の布地は、厚くても固くない。舌先でジッパーを探り当てると、口中に引き寄せ、前歯で噛む。かち、と音がする。じ、じ、じ……と顎に力を入れて引っ張る。これがけっこうな重労働で、顎が疲れる。ゆるんだ口元から、唾液が零れ、じゅわりと軍服に染み込んだ。
「ふ、は……」
 長い時間をかけて、少しずつジッパーを下げた。
「いつまでそうしている」
「…………」
 存外に、さっさと次へ進めと促され、八草は、こくんと喉を鳴らす。目を瞑り、下着越しにヴァルのものを舐めた。勃起もしていないのに、重みがある。
 舌を突き出して、唾液で濡らす。唇で噛むようにすると、上手だと褒めるように頭を撫でられた。
 あぁ、これは成功だ。
 もっと褒めてもらいたくて、直に触れた。
「奥まで咥えろ」
「っ……んぁ、ぐ」
 喉を開いて、口中に迎え入れる。
「こちらを向け。……目を瞑るな」
「ぅ、ぁる……」
 ペニスを咥えたまま、小さく呻く。
 どうして良いか分からない。この場合、何をすれば機嫌を損ねない? ヴァルの彫深い顔を、じぃっと縋るように見つめる。
「ひ、ぃっ!?」
 ドレスの上から、軍靴でペニスを踏まれた。
「はしたない声を出すな。それでも王女か?」
「ぎ、っあ、ぅ……ぃ、ぁい、ヴァルっ……!」
「私が強く踏めば、奥まで咥えろ。ゆるく踏めば、口を使え。頭を撫でてやったら舌を使え」
「あぁっ、あっ、おぁ……」
 強く踏まれる。奥まで咥えた。頬に布地が擦れるまで、ぴったり顔を引っつけて飲み込む。さっきよりも大きくて、重たい。 
「お前、慣れているな」
「ぉ、ご……」
 そんなわけない。
 怒られないように、精一杯やっているだけだ。
 本当は苦しいし、今にも吐きそうだし、胃のあたりまで犯されているような気持ち悪さなのだ。
 また、ペニスを踏まれる。喉を開いて根元まで頬張り、えずきながら先走りを飲み込む。ごり、ごり、と喉の曲がった部分に雁首が引っ掛かる。このまま、ずるんと奥まで突っ込まれたら、きっと死んでしまう。
「ん、ンぐ……っ、ぅ、……っン」
 苦しい。息ができない。
 使ってはいけないと言われた両手で、ヴァルの足に縋る。
 あまりにも八草が苦悶の表情を浮かべていたのか、ヴァルもそれは許してくれた。
 ようやく、そうして踏む力が弱いものに代わり、八草は、鼻で息を漏らした。
「ぷぁ、……ぅ、……んぁ、あ、ぉ」
 じゅる、じゅぷ……と音を立ててしゃぶる。まだるっこしいほどゆっくり、口角に泡が立つほど速く、緩急をつけて、口を使う。唇を窄めて吸い上げ、口腔粘膜で包み込む。
「八草」
「……ぁ、う?」
「誰かに仕込まれたのか?」
「ぅ、……うぅ」
 首を横にする。
 疑いの眼差しで見られて、八草は視線を落とした。
 今更、そんなことを言っても信じてもらえないだろう。最初から嘘をついていた人間は、後で真実を伝えても信じてもらえない。だって、もう信頼がないのだから。
「そうして、媚びを売ってきたなら、哀れだな」
「…………」
 後頭部を優しく撫でられる。
 頭を撫でられたら、舌で愛撫しなくちゃならない。
「……ん、ぁあ……」
 ずるずると蛇のようにペニスを吐き出し、裏筋を舐める。
 雁首や先端、根元まで、舌を全て使って丁寧に舐め上げた。飲み込めない唾液が、にちゃにちゃと糸を引いて滴る。
「だらしのない顔だ」
「ぁ、ふ……」
 指先が、八草の耳朶を擽る。
 ぞわぞわした感触に首を竦めた。
「ひっ!」
「さぼるな」
「ヴァ……ル、ぃ、ぁ……痛、ぃ、っ!」
 靴底と大理石の間で、ペニスがへしゃげる。
 先端を押し潰すように、踵が立てられた。
「私が終われば許してやる」
「ん、ぁ……っぐ」
 慌てて、口淫を再開する。
 ごり、ごりと、床に裏筋がこすれて、八草の腰が、もぞりと揺れた。
「こんなことで勃たせるな」
 靴の上からでも分かる感触に、ヴァルが嘲笑を浮かべる。
「ヴァル、も……おね、が……」
 ペニスに頬摺りした。
 痛いのか気持ち良いのか分からない。八草の黒髪に、ヴァルのペニスから溢れた先走りが付着しても気にならない。懇願するように、性器に顔をなすりつけた。
「はやっ……く、も……」
 赦して。
 靴で踏まれて、男のペニスを咥えて、勃起してるなんて最低。軍服の男に見られながら、女装して鼻血垂らすとか最悪。そう思えば思うほど、気持ちは高揚し、酩酊する。背骨が痺れて、脳味噌と下半身を繋ぐ。
 軍靴の下で、八草は腰を揺らした。硬い物に挟まれた状態で、床オナを始める。カクッ、カク……とぎこちなくドレスがたわむ。しゃらしゃらと絹が擦れあい、上品な音を立てた。
 また鼻血が出ている。興奮して、血が止まらない。血流が早い。だらだらと血を垂らして、男に奉仕しながら自慰をする。
「姫というよりも、色情狂だな」
「ン、っ……!」
 頭を掴まれ、前後に揺さぶられた。上顎にペニスの先端を押しつけられ、頬の粘膜に傘高い部分を摩擦される。遠慮会釈なしに、乱暴に、口を使われる。じゅぶじゅぶと卑猥な音が漏れ出た。
「飲め」
「んっ、ンんぅううっ……!?」
 青臭い、苦み走った精液が吐き出される。
 顔を背けようにも、全て飲み干すまで頭部を押さえつけられた。えぐい味がする。飲み切れなかった精液が口端から零れた。
「締まりの悪い口だ」
「げ……ぇ、えぇっ……え」
「八草、後始末はどうした?」
「……は、い」
 命令に逆らえない。
 これは罰だ。
 こんなことでヴァルの気が済むなら、それで構わない。だって、これは成功なのだから。間違っていない対応なのだから。ヴァルはこれを求めているのだから。
「ぁー……ぁ、ンぁ、ぷ」
 八草は、射精し終えたペニスを舐め清める。ぴちゃぴちゃと音を立てて、ミルクの皿の底をさらう猫のように、舌を使う。
「汚れたな」
 頬に飛んだ精液を、指の腹で拭われた。
 その指が、怪我をした瞼の傷に触れる。傷の深さを確かめるように、ほんの少し腫れたその周囲を撫でる。じくじくと痛むような、むず痒いような、不思議な感触。
 うっとりする。
 下腹が、また、疼く。
 ドレスに隠れた両脚の間が、生ぬるく、気持ち悪い。
「踏まれて射精するような淫乱には、手がつけられんな」
「……っ」
 ヴァルにも、バレていた。
 自分の浅ましさが、途轍もなく恥ずかしかった。







 以下、同人誌のみの公開です。



2014/01/04 籠の鳥事件 (本文サンプル・書き下ろし分・えろ) 公開