ダメンズメーカー政務官 (本文サンプル・終盤)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 
 
「今回はお疲れ様でした」
 ヤムライハが、ジャーファルにお茶を出す。
「今回も、お疲れ様でした、だよー」
 その隣で、ピスティがお菓子をつまむ。
 ひと段落がついた頃、ジャーファルは、ヤムライハとピスティのお茶会に招かれた。ジャーファルを労う会という触れ込みだが、それは建前で、本音は、今回の事件を、にやにやといじくり回そうというピスティの魂胆が丸見えだった。ヤムライハは何も知らないに違いない。
 迷惑をかけた分だけの噂話のネタになるのも仕方がないと、ジャーファルは腹を決めて茶を啜っていた。
「……じゃあ、ジャーファルさんっていつも女の後始末をつけてあげてるの?」
「はい」
 女だけではなく、時には男の時もありますが……と心の中で続けて、ジャーファルは頷いた。
「真夜中に呼び出されて、王様の代わりに頭を下げてるの?」
「仕事です」
「うわぁ……」
 ほんっとうにダメンズメーカーなんだぁ、正真正銘のダメ男製造機なんだぁ……と、ピスティも心の中で続けた。
「あら、でもジャーファルさん、よく徹夜もされてますけれど、時折、食べ物をどこかへ運んでいらっしゃるでしょう? ご自分の分ですか?」
 ヤムライハは、研究で夜更かしをした時、厨房との間を往来するジャーファルを何度か見かけている。
「あぁ、夜中にシンが帰ってくるでしょう? そうしたら、酒ばかり飲んで食事は殆どしませんから、夜食の用意をしています。その後、シンが食事を摂るのに付き合い、小休止の後、お風呂に入れて差し上げて、着替えを用意して、シンが寝るまで起きています。勿論、合間に仕事はしていますが……」
「なんでそんなにしてあげられるの?」
 ピスティは渋面だ。ちやほやされることが好きなピスティであっても、上げ膳据え膳、そこまでされたいとは思わない。
「違いますよ、してあげるのではなく、させて頂いているのです」
「深夜に呼び出されて、どうして怒らないの?」
「だって、よその女のとこに行かれるよりいいですから」
 ふふ、と笑って袖口で口元を覆う。
 もし、ジャーファルがお迎えに行かなかったら、シンはよその女のところに行くでしょう? 他の女を頼るでしょう? そんなことをされるくらいなら、どれだけ真夜中であろうと、自分が出迎える。絶対に、他の女のところになんか行かせない。
 ジャーファルの元へ帰ってきてくれるのだから、怒るなんてとんでもない。外面上、お説教をしているけれど、本来なら、笑顔でお出迎えして、食器の上げ下げさえジャーファルがしたいくらいだ。
「それでいいの?」
「だって、もし怒ったりしたら、次からは、シンが私の元へ帰って来ないかもしれないじゃないですか」
「ジャーファルさん、王様のこと、好きなんですか?」
「男は嗜好品です。最高の贅沢品です。その男が誰よりも何よりも一番格好良くある為なら、なんでもする。そういうものじゃありませんか?」
「境界線が、ない……」
 ピスティが呟いた。
 シンドバッドとジャーファルの間には、境界線がない。
 二人には、肉体関係、精神的結束、なんでもありだ。二人の間に結び目がないほど、一本の糸で繋がっている。一蓮托生、相手のしたことは、自分がしたことと同じ。あなたの責任は私のもの、私の責任も私のもの、私の責任はあなたのもの、あなたの責任もあなたのもの。
 シンドバッドとジャーファルの間に、『個人』という線引きがない。境界線が曖昧で、べったりひっついてしまっている。やっていいことと悪いことの区別がない。
 例えば、シンドバッドがとても悪いことをしたとする。でも、仕方ないね、さぁどうしようか、と考える。怒らない、受け入れる。何故なら、もう一人時の自分がやったのと同じ、という考えだからだ。
 二人の仲ではそれが通常だから、その異常性に気付かない。
 ジャーファルが、シンドバッドの女の後始末をするのも、シンドバッドの為でなく自分の為。シンドバッドがしでかしたことは自分がしでかしたこと。何より、自分の元へシンドバッドが帰って来やすくする為に、ジャーファルなら絶対にシンドバッドを受け入れてくれるという安心を与える為に、ジャーファルはシンドバッドの世話を焼く。
 シンドバッドは、それが当然だと思っている。だから、自分と女が寝た寝室をジャーファルに見られても平然としている。情事の後始末も平気で任せっぱなし、やりっぱなし、無責任。
「王様、下衆い……」
「何を言っているんですかピスティ。シンが下衆いからこそ、私のしていることが聖人のように映るんですよ」
 男女の問題を金で片づける。鋭利な言葉と眼孔で脅迫する。権力で揉み潰す。社会的に抹殺する。精神的に殺す。物理的に死んで頂く。そんなことをしても、悪いのは全てシンドバッドだという共通認識があるので、誰もジャーファルを責めない。
「シンは優しいですね、私の悪行を全て自分の責任にして、ひっかぶってくれるのですから」
 あぁ、最高の人。
 これからも盛大に女癖と酒癖の悪さを披露すればいい。その度に、揉み消してあげるから。
 揉み消す役目をくれてありがとうございます。あなたの為に生きる私に、定期的にその存在意義を確認する仕事を与えてくださってありがとうございます。ジャーファルはこれからも頑張ります。
 ドン引きするピスティとヤムライハを尻目に、ジャーファルは温かい茶を楽しんだ。







 以下、同人誌のみの公開です。



2012/12/12 ダメンズメーカー政務官 (本文サンプル・終盤) 公開