前へ進め01 下 (本文サンプル・書き下ろし分・えろ)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 
 
 寝落ちしたのか、気絶したのか、目を醒ませば二時間が経過していた。きちんと自分の部屋に辿り着いて、ソファに横になっていたところを見ると、それなりにあの薬もまだ効くようだ。
 身体が動くかを確認して、ソファに上半身を起こす。両手を開閉して、爪の間に血液がこびりついているのを見つけた。昨夜、人を殺した後、返り血を浴びた服こそ処分したが、風呂には入っていなかった。
 怠い体を引きずって、シャワーブースへ向かう。歩きながら、服を一枚ずつ脱ぎ捨てる。以前、脱ぎ捨てた服もそのままで、進行方向を邪魔するものを足先で蹴り避けた。
「……あ?」
 足の裏がやけに滑ると思ったら、中出しされた精液が流れていた。後ろに手を持っていくと、口を開けたアヌスからとろとろと際限なく漏れ出している。
「ん、ン……っ」
 入り口に触れる。直腸脱気味で、女の性器のようだ。もうずっと前からこんな形だが、ゆるすぎるのも問題だ。日常生活が不便で仕方ない。
 ここに触れると、それだけで勃起してしまう。ふちを撫でて、指を三本ほど挿入し、内壁を強くこする。膝がカクカク震えて、内部が蠕動する。奥のほうから指を伝って精液が落ちてくる。指を抜き、肘まで伝うそれを舐めた。この肘の辺りまで誰か突っ込んでくれないかな、とそんなことを思う。
 人一人が入るのがやっとの狭いブースで、頭から水を浴びた。冷たくて、心臓と一緒に脈が跳ねる。
「ぴょん、って跳ねた」
 兎みたい。くすくす、けたけた。子供みたいにひとしきり笑って、水からぬるま湯に切り替える。
 頭からソープをかけて、全身一緒くたにして洗う。よっぽど汚れていたのか、泡が立たない。白いはずの泡は血液とまじって薄ピンクになり、流れ落ちる。そんな些細な感覚にさえ反応して、勃起する。きっと脳味噌のどこかが壊れているに違いない。でも、勃起不全になるよりはマシだと、そのまま放置する。
 自慰をするのも好きだが、面倒臭い。自分で自分のことをするのは何よりも億劫だ。自分でするくらいなら、誰かを引っかけてヤるほうが手っ取り早いし、何より楽だ。
 これは病気だから、毎日毎日、こんなことの繰り返し。放っておけばその内、萎えるし、シャワーの水滴や皮膚を流れる泡にさえ発情するし、歩いている時に下着がこすれるだけで勃起して下着を濡らす。そういうものだ。いつでもどこでも発情して、突っ込んでもらえるなら何にでも股を開く。
 そんな自分に嫌気が差すとか、こんな自分は最低だと落ち込むとか、そんな時期は一度も来なかった。気が付いた時にはこうだったのだから、死んでも治らないと諦めている。
「……ふぁあ」
 シャワーをかけ流しながら欠伸をする。もう出ようかな、朝ご飯でも食べるかな、とぼんやり考えながらシャワーヘッドを掴んで、後ろの穴に突っ込む。ヘッド部分を難なく飲み込んで、括約筋が皺なく伸びる。
 どぼどぼと腸内を水が逆流する。水圧に押されて下腹がぽこんと膨らむ。一分程そのまま我慢して引き抜くと、自分の右手を手首まで突っ込んで、我慢する。腹の中で、ばちゃばちゃとかき混ぜて、内壁の汚れをこそぎ落して、右手を引き抜く。
 ばしゃ、じゃば、と大量の水が溢れて、精液も流れた。一緒に固形物も出たが、最後に食事を摂ったのがいつだったか思い出せないくらいなので、量も少なかった。
「……ふぁ、っふ、あは……がばがば……っ」
 またヘッドを押し込んで、腹の中に水を溜める。今度はそのまま水を止めて、ずぼずぼとヘッドで後ろを慰める。ペニスをタイルの目に押し付けて、裏筋を刺激する。
 引き抜いて、また排泄して、また挿れて、我慢して、無機物で後ろを慰めて、何度もそれを繰り返して、腕と脚が疲れてきた頃にやめた。自慰をするにも体力を使う。やっぱり、誰かに突っ込ませて、ヤらせているほうが体力を使わなくていい。疲れるのはいやだ。面倒だ。邪魔臭い。
 開き切った後ろのせいで歩きにくい。シャワーブースを出て、部屋のあちこちに放置してあるシャツとスーツの中から、比較的こぎれいなものを選んで身に着けた。水気を拭うのさえ面倒なので、濡れたままだ。
「……なんかくさい?」
 分からない。精液臭かったら、またヒンメルライヒかディーあたりが新しい服を用意するだろう。サキスイは自分で洗濯しないし、自分で自分の服も用意しない。
 濡れた髪から滴る雫が鬱陶しい。犬が水気を払うように左右に首を振った。くらくらして眩暈が起こる。
「ご飯、ご飯、食べたら治る」
 安直な考えだ。食事を摂って栄養補給すれば不調も良くなると考えている。
 思い出す限り、水分以外を口にしていない。誰かの精液か小便、それと普通の水を飲んだ覚えがある。水さえあれば、人間は結構長く生きていられる。
「精液はタンパク質だから、問題ない」
 ぼそぼそ独り言を呟いて、革靴を履いた。







 以下、同人誌のみの公開です。



2012/03/24 前へ進め01 下 (本文サンプル・書き下ろし分・えろ) 公開