隠狐 (本文サンプル・中盤)※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。 ※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。 地元や、自分の家だけの風習かもしれないが、どうしても叶えたい願い事がある時は、稲荷に頼む、という風習がある。 ただし、稲荷に頼るなら覚悟が必要だ。一度でも稲荷に頼ると一生お祀りしないといけない。一度でも祀るのをやめると、祟られるからだ。 「稲荷に頼るか」 それでも、そう考えてしまう程度には思い詰めていた。 実家の寺には、稲荷の御社もある。 本堂よりも大きい稲荷社だ。 その日は、朝から、事故る寸前で黒い影に助けられ、「あぁ、そうそう、こいつにはこういう良い面もあるんだよな……」と思った矢先に、体育倉庫で犯された。 跳び箱にしがみついて、エロゲみたいに泣かされた。 昼食を終え、ジャージに着替え、五時間目の準備をし始めた昼休憩の出来事だ。 「……ひっ、ん、ひっ、ぃ、っ、ン、っひ……!」 ざりざり。陰茎の棘が、肉を抉り出す。 頭を押さえつけられ、腰を抱かれ、腹の中を掻き回される。内臓がぐちゃぐちゃになって、生理中の女みたいに股の間から血が流れた。真っ赤な血液は、太腿に滴り、膝下までまくったジャージを染め、足首に垂れる。 「やっ、め……や、あっ……ま、てめぇっ……ふざっ、け……んな……も、マジで……や、っあ……っ!」 どぼっ、どぼ、と二リットルペットボトルを逆さにしたような音が、腹の中で響く。射精されている音だ。入りきらなかった精液が、ばしゃばしゃと足元に液溜まりを作っている。 ぐるううう……。 黒い影が唸る。 「……は? や、め……なに、今の、おい、今の声……なんで、声なんか、声、聞こえ……ぇ、あっ、あ!?」 必死になって、跳び箱を引っ掻く。 爪を立てるも、掴めず、逃げるように空を掻く。 二メートル級の黒い影が、背中に圧し掛かってくる。 今まで、重さは感じていなかった。多少の圧迫感はあったが、こんな風に重くはなかった。ぐるぐる唸るドス暗い声も、聞こえていなかった。 「や、め……つぶれっ……せなか、折れるっ!」 力任せに、下から突き上げられる。 爪先が浮いて、骨盤が外れる音が聞こえた。だらんと力なく足が垂れると、黒い影に抱え上げられた。腹の内側がぼこぼこと陰茎の形に膨らみ、引き抜かれるとべこんとへっこみ、また、臍の上まで膨らむ。その腹を撫でられ、ごりゅ、ごりゅ……と音を立てて腸壁の曲がったその向こうまで、突き立てられた。 「……ぅ、げえええっ」 ゲロった。 さっき食べたばっかりの弁当を吐いた。 紅生姜の入った卵焼きが大好物なのに、吐いた。 大好物だけど、今更、「それ大好きだから毎日弁当に入れて」と母親に言えず、毎日食べられない紅生姜の卵焼きなのに、それを吐いた。 吐いても、まだその行為が止まることはなく、それどころかもっともっと……と、際限なく奥へと押し込まれた。 意識を手放し、次に目が覚めた時には保健室だった。 その保健室でまた黒い影に正常位で犯され、気を失い、放課後になった頃にまた目を覚まし、保険医に心配されながら自転車で帰った。 初めて、腹痛と中出しの危険性について知った。 今まで、腹の中に出されても腹痛が起きたりしなかった。どれだけ中出しされても、それが体に残り、ケツから垂れてくることはなかった。今日は、家へ帰るまでの間に、それらに襲われた。 「……卵焼きだけではいざ知らず!! 腹まで!!」 憎らしかった。 紅生姜の卵焼き。腹痛。精液ダダ漏れ。 どれが一番憎らしいかと言うと、それは勿論、紅生姜の卵焼きだが、それ以外もそろそろ限界だった。 今まで、重さも、声も、精液も、実際に分かるような感覚がなかった。それが、今日はあった。あんなデカくて、大きくて、無駄に力が強い精力の塊に圧し掛かられたら、死ぬ。 死ぬくらいなら、自由になってから死にたい。 だから、いっそ稲荷に頼もうと思った。 ※ 「憑いている狐の子が、お前を祓おうとして困っている?」 黒屋敷の若様の元に、オヌが頼み事をしにやってきた。 白皙、赤髪、碧眼。六尺三寸はあろうかという大男が、しょんぼり項垂れて、黒屋敷の庭先で正座している。 「あぁ、そう言えば……昨日の夜、昨今にしては珍しく、えらく熱心なお願い事があったと報告がありました」 隣に座っていた青年が、若様にそう告げる。 「……どの社だ?」 「梅天神です」 「確か、あそこには息子が一人、世話になっていたな」 「はい」 若様と青年は、手に手を重ね、頷き合う。 あの寺では、息子の一人が修行させてもらっている。その一家に迷惑をかけるオヌならば、黒屋敷の若様は、何の躊躇いもなく、目の前にいるオヌを祓うだろう。 「我を祓うのはやめよ」 オヌが低い声で唸ると、青年が助け舟を出した。 「御槌さん、梅天神の一族は、我々の血縁です」 「狐に鬼が憑くことのほうが、不可思議だ。我らの血筋に害を成すモノは悪だ。祓われても致し方ない」 「我は、梅天神の一族と契約している。祓われるは不本意なり」 オヌは、頑として譲らない。 「御槌さん……多分ですが……」 「あぁ」 若様と青年は顔を見合わせ、頷き合う。 「我には狐のことは分からぬ。説明願いたい」 「十七歳になるまで待たれてはどうでしょう?」 青年が、オヌにそう助言した。 以下、同人誌のみの公開です。 2014/03/03 隠狐 (本文サンプル・中盤) 公開 |