赤い靴履いてた男の娘が異人さんに連れられてイっちゃう話 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤)


※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。
※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。

 

 ツァイフが連れて来られたのは、お城と見紛うほどの豪邸だ。
「い、異人さんの前のおうちよりは小さいしぃ……」
 妙に張り合ってみたりしたが、ツァイフはその中でも一番奥の部屋に監禁された。
 てっきり牢屋か小汚い部屋にでも詰め込まれると思っていたら、それとは真逆の、お姫様のようなお部屋に通された。天蓋付きのベッドに重厚なカーテン、家具調度品。きらきら光るクリスタルのシャンデリアとあちこちに飾られた薔薇の花。ティーセットが用意されていて、貴婦人のお茶会が今すぐに開けるような装いだ。
「兄さん!」
「ジュサ!」
 ベッドの端に腰かけていたジュサが、ツァイフを見つけるなり駆け寄ってきた。
「どうして兄さんが?」
「お前こそ大丈夫か? 怪我はないか?」
「ありません。でも、どうして兄さんが……」
「俺のことはいいから。何もされてないな?」
「はい。……兄さん、そんな泣きそうな顔をしなくていいです。僕だって、今は光譜の人間です、これくらいのことは覚悟しています」
「してようがしていまいが、お前は俺の弟なんだよ。……一人で怖かっただろ? 後は俺に任せろ。大丈夫だ」
「……駄目だ、兄さん。光譜のトップは僕だ」
「弟を助けるのが兄貴の役目だ。お前は何も心配するな、後は俺がやる」
「……兄さん!」
「なんだ?」
「兄さんはもう、そんなことしなくてもいいんだ」
「俺はな、家族の為なら、なんだってするんだよ」
 ジュサの髪を撫でて、頬にキスをする。
 そう、家族の為ならなんだってする。兄弟の為に、ラードゥガの為に生きる。それが、ツァイフの人生だ。
「あぁ、素晴らしい兄弟愛だ!」
「……っ!」
「素晴らしい、涙ぐましい、美しい!」
 男が、大声とともに部屋へ入ってきた。背後に、ツァイフを攫ってきた男達を従えている。派手な色柄のスーツを身にまとった青年だ。黄金色の髪を後ろに撫でつけ、垂れ目がちの碧い瞳が笑っている。手足が長く、動作が演技がかっていて、まるで王子様のようだ。
「誰だ、お前?」
 ジュサを背中に庇って、ツァイフは一歩前に出た。
「この度は、手荒な真似を致しましたこと、まずお詫びしたい。私はエピタフの党首をしておりますエドワードと申します。どうぞエディとお呼び下さい。マイスウィートプリンセス!」
 大仰な立ち居振る舞いでツァイフの足元に跪くと、その手の甲に唇を押し当てた。
「…………」
 ツァイフはその手で、ばちんとエドワードの横っ面を張った。
「あぁ、そのつれない態度、初めてお会いしたあの日と変わらず……美しい!」
 殴られても、エドワードの爽やかな笑顔は全く崩れない。
「……おい、初めて会った日ってなんのことだ?」
「お忘れになるのも致し方ありません。あの頃の私はしがたない鉄砲玉、それに対してあなたは光譜のトップ。しかしながら、ラードゥガ暗殺に失敗したあの日、あなた様が私を逃がして下さった恩義を、私は忘れていません」
 王子様みたいな爽やかな笑顔で、エドワードは笑う。ツァイフに叩かれて赤くした頬に、きらりと白い歯が光った。
「エディ……エドワード……ラードゥガを殺そうと失敗して……俺が、見逃した…………あ、あぁ、あぁああ!!! お前、あの時のあのヘタレか!?」
 覚えている。この王子様みたいな男。まだ、ツァイフとラードゥガが対立していた時の話だ。ラードゥガ暗殺に使った鉄砲玉の一人が、この男だった。そして、それに失敗したエドワードを、ツァイフは見逃してやった。
「その、お前が……プリンスエドワードの分際で、このツァイフに恩を仇で返しに来たのか、それとも復讐でもするつもりか? あぁっ!?」
 王子様の胸倉を掴んで、前後に揺さぶる。
「ち、ちちちち違います! 私はただ、あの悪逆非道悪鬼羅刹鬼畜米英からあなたをお救いしたくて……!」
「救うだ!? 弟まで巻き込んでんじゃねぇよ!?」
「ご、ごごごめんなさい! でもそれは、その、あなたに大人しくしてもらう為に弟様にも一緒にいてもらったほうが良いかと思いまして!」
「何が目的だっ!?」
「お姫様を救うのは王子様の役目とウォルトがこの世に誕生した時から決まっています! おいお前達、写真をお見せしろ!」
 エドワードは部下を呼びつけた。スキンヘッドの部下が、ツァイフに茶封筒を差し出す。
「なんだ?」
 エドワードを床に放り投げて、茶封筒をひったくった。
 逆さにした封筒の中から出てきたのは、写真だった。
 ラードゥガの写真。ラードゥガの、浮気写真。
 黒目黒髪のオリエンタル美人。金髪碧眼のモデル女。気の強そうな赤毛の女性。亜麻色の髪の可愛らしいお嬢さん。素朴な笑顔のカントリーガールに、明らかに人妻、青い髪のパンクロック女子までいる。車中でのキスシーンやレストランから出てきた瞬間を撮られたもの、どこかのクラブで大量の女を侍らせているものもあれば、ホテルの一室で乱交しているものもある。
「これは……浮気……」
 ジュサが、小さく呟いた。
「あの男は、あなたと一緒になった後も、こうして遊びまくっていたんです! でもそれを知らずに、あなたはあの男の為に生きている。私は、あなたが幸せなら何も言う事はないのです……ですが、これだけはどうしても見ていられなかった!! どうしても、あなたを助けたかった!」
 エドワードは真摯な眼差しでツァイフ訴えかけた。
「…………」
「……兄さん?」
「ツァイフさん?」
 黙ってしまったツァイフに、ジュサとエドワードが怪訝な表情を向ける。
「い、いぃいいいぃぃいじんさんもいいとこあるんだよ!!?」
「……に、兄さん?」
「いっ、異人さんもいいとこあるんだよ! 足が長いとか料理が上手とか洗濯上手で掃除上手で買い物上手で床上手で、男前で金髪がきれいで碧い目が透き通ってるし、足も長いし、巨根で絶倫で昨日だって中出し四回したもん!」
 ツァイフは必死に弁明する。
「兄さん、やっぱり離婚して戻ってきなよ。相変わらず、性格とかやってることとか、何一つとして褒めるところがないじゃないか……足が長いなんか二回も言ってるし、他に思いつかないんでしょ?」
ジュサが溜息をついた。
「ち、ちちちが、っ、ちが……えぇと、そう! 異人さんのちんこ結腸まで届くもん!」
「身体的特徴はもういいから、性格で何か一つくらい良いところ言ってあげなよ」
「えぇと、えぇと……えぇぇえええっとぉおおお」
「後、ラードゥガさんって呼ばずに、異人さん呼びに戻ってるからね」
「い、いぃいいじんさんは、異人さんで……だから、あの、その……ご飯、おいしいよ?」
「完璧に胃袋を掴まれてるじゃないか。駄目だよ兄さん、それでは単に美味しい食事で餌付けされて、大量の精液に種付けされているだけだ」
「マイプリンセス! 証拠はこれだけではありません! 他にもいっぱいあります!」
「もうそれ以上、聞きたくないぃいいい!!!」
 頭を抱えて、蹲った。
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 以下、同人誌のみの公開です。



2011/10/03 赤い靴履いてた男の娘が異人さんに連れられてイっちゃう話 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤) 公開