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――今日はバレンタインデー。 女性が恋人もしくは想い人へ、自身の淡い想いを込めたチョコレートをその相手へ贈る日である。 そしてジオフォートにも淡い想いを込めたチョコを贈ろうとする一人の女性がいた。 シリル:「トウマ、ちゃんと受け取ってくれるかしら……」 こういう事は初めてなのでどうしても緊張してしまう。 不安な気持ちが何度も頭を過ぎり、足を動かすスピードが落ちる。 シリル:「ダメよ、前向きに考えなきゃ。しっかりするのよ、シリル」 何度か立ち止まったりしながらも、そう自分に言い聞かせ、トウマの部屋へ着いてしまった。 中を覗くと渡すべき相手であるトウマは、自分の寝床の上で自身の愛用の剣を磨いている。 シリル:「トウマ!ちょっといい?」 トウマ:「おっ、シリルか、どうしたんだ?」 シリル:「え、ええ、今、トウマ暇かなと思って」 トウマ:「別に大した用もないし暇っていえば暇だぜ」 シリル:「そう、良かった……。ねぇ、隣いい?」 特に用はないらしい事にホッとする。 渡すつもりのチョコを気付かれない様に隠し、トウマの側へと向かった。 トウマ:「それで、何の用だ?お前が用事あるなんて珍しいな」 シリル:「う、うん。ねぇ、トウマは今日がどういう日か知ってる?」 トウマ:「んぁ?今日って何かあったっけか?」 腕を組み、必死で思い出そうとするが何も思い出せない様子だ。 シリル:「もう、今日はバレンタインデーよ」 トウマ:「ば、ばれんたー???」 更に眉をひそめ、唸り出す。 基本的に横文字が苦手なので当然といえば当然である。 シリル:「本当に何も知らないんだから、トウマったら…」 トウマ:「しょうがねぇだろ、んな事言ってもよー」 シリル:「いいわ、教えてあげる。今日はね、女性が好きな人にチョコを贈る特別な日なの」 トウマ:「へー、そういう日なのか。俺、全然そういう事に縁がないから知らなかったぜ」 シリル:「それでね、はい、これ……」 そう言うとシリルは隠し持っていたチョコを突然差し出してきた。 トウマ:「おっ、チョコじゃん!これシリルが作ったのか?」 シリル:「う、うん……」 トウマ:「へへっ、丁度小腹が空いてたんだよなー……ってあれ?」 ――何か忘れてないか? 普段はあまり物事を深く考えない性格だが、ふと先ほどからの会話の流れを注意深く思い出してみる。 1:今日はバレンタインデーである。 2:バレンタインでは女性が好きな人にチョコを贈る特別な日である。 3:シリルがチョコをくれた。 トウマ:「でぇえええぇぇえぇ!!!?Σ」 突然大声をあげ、飛び上がるトウマ。 冷静に考えてみたらこれは由々しき事態である。 目をパチクリさせて、シリルの顔を見るが、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。 ――マママママジかよッ!! バレンタイン自体を知っていれば、何かを期待して落ち着かなかったり挙動不審になったりするものだ。 しかし、期待するどころか全く知らなかったのでこんな展開になろうとは想像も出来なかった。 トウマ:「こ、コレ、おっ、俺にくれるのか?」 シリル:「………(こくんっ)」 トウマ:「バレンタインってす、好きな人にちょ、チョコあげる日なんだよなっ!?」 さっきのが聞き間違いかもしれないので念の為聞き返す。 シリル:「そ、そうよ。何度も言わせないでよ……」 トウマ:「い、いやったぁあぁあぁああ〜〜〜!!」 余程嬉しかったのだろう、ピョンピョンと飛び跳ねて全身で喜びを表す。 そして勢い良く部屋からテラスへ向かうとそこから大声で、歓喜の声を上げるなどしてもう周囲に迷惑なくらい騒がしかった。 ジラ:「アイツやっぱり子供ねぇ、あんなにはしゃいじゃってるよ」 シリル:「ふふっ、でもそこがトウマらしいんじゃない」 大はしゃぎのトウマを見つめ、微笑むシリルであったが、彼女の頭にはメーベルの言葉が過ぎっていた。 ――それはほんの少し前の事だった。 トウマの部屋へ向かう途中に偶然、メーベルと出会ったのだ。 メーベル:「今からトウマにチョコをあげに行くんでしょ?」 いつものように優しい笑顔で話しかけてくる。 自ら話さずとも彼女相手には全て見透かされているようだった。 シリル:「もう……メーベルにはウソはつけないわね」 メーベル:「ふふっ、やっぱりそうなんだ。それじゃ、お姉さんが上手く行くように一つアドバイスをしてあげるわ」 シリル:「え、何?」 メーベル:「私たちエルフに伝わるおまじないなんだけどね、”バレンタインでチョコを口移しであげるとその想いは必ず実る”って言われてるの」 シリル:「く、口移しって」 メーベル:「そっ、こんな風に……ねw」 そう言うとあごを少し前に出し、目を閉じる仕草をする。 ジラ:「うわぁ、それってキスしてって言ってるようなものだね」 シリル:「恥ずかしくてそんなの無理よ……!」 メーベル:「あらそう?でもこのおまじないって効果抜群だから良いと思うんだけどなぁ。シリルがやらないんなら私がトウマにアタックしちゃおうかしらw」 そう言うと懐から取り出したメーベル自家製のものであると思われるチョコを口に咥え、トウマの部屋へ向かおうとする。 シリル:「そ、そっちもダメっ!!」 すかさずメーベルの腕を掴み、阻止する。 彼女もトウマを狙っているので、そんな事を目の前でみすみす見過ごすことは出来ない。 それに彼女をよく見てみると、チョコを咥える仕草がとても艶っぽく、大人の色気というモノを醸し出していた。 これではトウマもイチコロだろう。 メーベル:「それじゃ私がしちゃう前に早く行きなさい。あんまりぐずぐずしているとトウマを貰っちゃうんだからw」 今思うとあれは偶然ではなくメーベルの狙いだったのだろう。 結局は彼女に乗せられる形となってしまったのだった。 これがトウマの部屋へ来るまでの出来事である。 シリル:「どうしようかしら……チョコは無事にあげれたんだし、しなくてもいい気がするけど」 しかし、あのメーベルの事だ。どこかで今の様子を見ているかもしれない。 おまじないを実行しなかったせいでトウマ×メーベルが……いや、メーベル×トウマだろうか。とにかくカップルが誕生してしまっては元も子もない。 ――やるしかない そう決意した彼女は、はしゃぐトウマを呼び止めるのだった。 シリル:「ねぇ、トウマ。チョコをこっちに渡してくれないかしら」 トウマ:「ん?いいぜ」 シリル:「ありがとう」 礼を言うとシリルは、まだ手が付けられてないチョコを手で割ると適度な大きさのモノを手に取り、口に咥えた。 そして、そのまま着ている白いローブを脱ぐと彼女はベッドの上で寝転がってしまった。 ![]() トウマ:「お、おい……どうしたんだよ」 ローブを脱いだ事でいつもは隠れているラインが見えてしまい、彼女が女性である事を益々意識させる。 ――普通におまじないを実行するのではメーベルの大人の魅力に負けてしまう。 そう考えたシリルは、対抗する為に大胆にもこのような行動に出てしまったのだ。 シリル:「トウマ、お願いがあるの……」 トウマ:「な、なな何だよ……」 胸の谷間を見ただけで刺激が強すぎるトウマには、このような扇情的なポーズでの誘惑は充分過ぎるものだ。 シリルのしなやかな身体を直視する事もできず視線を逸らしてしまっていた。 シリル:「私のこのチョコを受け取って欲しいの」 トウマ:「別にそ、そんなことしなくたって普通にやればいいじゃねぇかよ」 シリル:「こうやってあげないとダメなのよ……だから」 上目遣いでそう懇願してくるシリル。 これを断ってしまっては、男が廃るというもの。 据え膳食わぬは……というガドフォールから教えてもらったアバロンの名言もあるし。 意味はもう忘れたが、今の状況にしっくりくるようなモノだったと思う。多分。 トウマ:「ば、バレンタインってこんな事もするもんなのかよ……しょ、しょうがねーなぁ!」 突然の展開に動揺するトウマだったが、こういうものなら仕方がないと簡単に納得し、彼女の方へと近づくのであった……。 |