■『遅れてきたバレンタイン(スバティア編)』 2008.2.22



スバル:「
じゃーん♪これ、私からティアへの”友チョコ”だよ

ティアナ:「
や、やっぱり……。アンタもしかしてずっとそこに入れてたの?

胸元に手を突っ込み、ごそごそと動かし始めた辺りから何だか嫌な予感がしていたが、正に予感的中というやつだった。
スバルの手には可愛らしい小箱が乗せられており、明らかに誰かに渡すつもりであるというのが推察出来る。

スバル:「
うん、本当は朝練の前にティアに渡すつもりだったんだけどね

ティアナ:「
だったら、今の今までそんな所に仕舞っとかないで、さっさと渡せばいいじゃないのよ

スバル:「
だ、だってぇ……なのはさんが急に抜き打ち訓練やるからってドタバタしてたし……

さり気なく”友チョコ”の話題を振り、そして自然な流れでティアナへチョコを渡す……。
当初はそうやって朝練開始前には、全てがスバルの脳内スケジュールの予定通りに上手く事が運ぶ予定だった。
だが、そんな計画は脆くも崩れ去ってしまったのだ。
突発的訓練が大好きななのはさんのその日の気分によって……。

ティアナ:「
だからってアンタねぇ……。もうちょっと隠す場所とか考えなさいよ、全く……

スバル:「
あ、あの時は混乱しててしょうがなかったんだってば!それにティアにあげるのを手元から離したくなかったし……

安全な場所に置いておくとか、空いている者に預かってもらうとか方法はいくらでもあった筈。
しかし、スバルは自身の手できっちり渡したいという気持ちから、敢えてそれはせずにいたのだった。

スバル:「
だからねっ、ティア……私の気持ち、貰ってくれるかな?

ティアナ:「
アンタって本当に馬鹿よねっ……

スバル:「
ティア……?もしかして、感動してくれてるの……?

顔を俯かせ、手を震わせながらそう呟くティアナ。
――あれ?もしかして嬉しくて泣いてくれてるのかな……?
スバルはそう勝手に解釈し、ティアナの顔を覗き込もうとするが……

ティアナ:「
感動?何バカな事言ってるのよっ!!ずーっと何時間も、訓練ぶっ続けだったアンタのジャケットの中に入れてあったチョコなんて貰えるわけないに決まってるでしょ!!

スバル:「
ふぇぇっ!?で、でもホラそんなに汗臭くないし……!

ティアナ:「
汗臭かろうがなかろうが、私は気になるって言ってるの!

スバルの勝手な解釈に対し、ティアナの口からはマシンガンの如く文句が次々と吐き出されていく。
普通にチョコを貰えるのならばまだしも、数時間の間の激しい訓練を共にした汗臭そうなチョコをどうして貰わなければならないのか。
スバルが好きな男性局員なら喉から手が出るほど欲しいモノだろうが、生憎自分にはそんな趣味はない。
――渡すつもりならもっと考えてからにしなさいよ。この子は……
事情は分からなくは無いが、もうちょっと考えて欲しい。これが彼女の本心だった。

スバル:「
だ、大丈夫だよティア〜……ねっ、ねっ?

ティアナ:「
ちょ、ちょっと!無理矢理渡そうとするなってば……!あぁー、なんか生暖かいし……!

しかし、断られたからといって諦める訳にはいかない。
スバルは自身の想いを詰めたチョコを是が非でも渡そうと、強引に押し付けようとする。
小箱からは彼女の体温らしき温もりが感じられ、中身がどうなっているのか心配になってしまう。
スバルの淡い想いに加え、彼女の体温や体臭付き……ここまでくれば”友チョコ”というよりは”スバチョコ”とでも言った方がいいかもしれない。

ティアナ:「
だーっ、もう!とにかく、私はそれを貰うつもりなんかないから!

スバル:「
えぇ〜っ!?どうしても……?

ティアナ:「
そんな顔してもダメなものはダメ!自分で勝手に処理しなさいよ

スバル:「
ティア〜っ……!

最終手段に上目遣い+目を潤ませるというコンボで懇願をするも、ティアナには通じず。
泣きそうな声を上げて名を呼ぶスバルを置いて、ティアナは自室へと戻るのだった。

…………
………
……


――その夜 スバルとティアナの部屋にて。

スバル:「
あ、あれっ……?冷やしてたのが無くなってる……?

入浴を終え、サッパリした姿で自室に帰ってきたスバル。
風呂上りに冷えたドリンクと何かを取ろうと思っていたのだが、それが見当たらない。
――確かに冷蔵庫に入れておいたはずなんだけどなぁ……。
何が起きたのか理解出来ず、まるで狐にでもつままれた様な気分だった。

スバル:「
ねぇ、ティア……?

ティアナ:「
何よ?

――う、うぅ……やっぱり怒ってる。
今日のチョコの件であれからティアナとはちょっと微妙な空気が流れていた。
冷たくされている……というよりは話しかけ辛い雰囲気というのが正しいだろう。
それ故、そのチョコの事でまたティアナと会話をするというのは正直気が引けた。

スバル:「
あ、あのさ……冷蔵庫に冷やしてたチョコ、知らない?ホラ、今日ティアにあげようとした……

ティアナ:「
……

スバル:「
あ、あはは……知ってる訳ないよね、ゴメン……

スバルの問い掛けにティアナは視線すら合わせず、無言のまま。
また自分のせいで彼女の気を悪くさせてしまっているのは明白だった。
しかし……

ティアナ:「
さっき私が食べといたわよ

スバル:「
えっ?

ティアナ:「
だから、私が食べたって言ってるの

ティアナの口から意外な言葉が飛び出した。
あれだけ受け取りを拒否していたチョコを貰うどころか食べてしまったと言うのだ。

スバル:「
で、でも……

ティアナ:「
何よ、あれは私にくれた物なんでしょ?今更返せなんて言うつもりじゃないでしょうね?

スバル:「
そ、そうじゃないけど!でも、ティアいらないって……

ティアナ:「
あ、あれは朝練の後だったからいらないって言ったの!汗臭そうな上に中が溶けてそうなものなんて欲しくも無いわよ

――汗臭そうだったし、中も溶けてしまってそうだったから断っただけ。
あの時きっぱりと断ったうえに、後処理までもスバルに押し付けたのはどうやら素直になれない気持ちが生み出した余計な言葉だったようだ。
不器用というか何と言うか……ティアナ自身も分かってはいるが、やはり彼女の性格上難しいようである。
結果、こうしてスバルがいない間に行動を取ったり優しさを見せる事が恒例となっていた。

ティアナ:「
ま、まぁ味は悪くなかったわ。……美味しかった

スバル:「
ティア〜っ……!

ティアナ:「
な、何よ……

スバル:「
大好き〜〜っ!!

ティアナ:「
ちょ、こらっ!離れなさいってば!気持ち悪いからやめなさいーっ!!

素直になれないティアナと素直過ぎるスバル。
正反対ともいえる性格の二人のバレンタインはこうして幕を閉じたのだった。
来年もきっと同じような光景が見られるのかもしれない……。