| ■メニュー(SS付きイラスト) 2007.6.4 |
| #『風の精が恋のキューピッド?』 ――とある日のドレイク城。 ゼクティはキリヤの姿を目に留めると意を決して彼に声をかける。 ゼクティ:「あっ、キリヤ。ちょっといいかな……?」 キリヤ:「ん?ゼクティか、どうしたんだ?」 ゼクティ:「えっと、あのね……」 キリヤ:「?」 目的のキリヤを呼び止めたは良いが、言葉が口から出てこずにしどろもどろになってしまう。 そんな彼女の様子に疑問の表情を浮かべるキリヤ。 とそこへ元気が良い声が二人の間を割って入ってきた。 シーナ:「キリヤ!今からロウエン王とこれからの事で話があるからちょっとついて来なさいよ」 キリヤ:「な、何で俺が……団長とホウメイがいるなら俺が行かなくてもいいだろ?」 いつもと変わらず強い調子でキリヤを困らせるその声の主は、ルミナスナイツ団長のシーナだった。 これから会議があるようでキリヤを強引に連れて行こうとしている。 シーナ:「アンタは筆頭騎士なんだから付いてくる義務があるの。いいから黙って付いてくる!」 キリヤ:「い、イデデデ!わ、分かったからそんなに引っ張るなって!」 上の立場の者はいるんだから自分は行かなくても……と出席拒否の意を団長に伝えようとするキリヤ。 しかしシーナにはそのような意思が通るはずもない。 キリヤの意思関係無しに何かと理由を付けて、シーナは彼を連れて行こうとするのだった。 キリヤ:「ゼクティ、すまない……ま、また後で!」 ゼクティ:「あっ……」 まるで嵐にでも連れ去られてしまうかのようなキリヤ。 そんな彼の姿を寂しげな表情でゼクティはただ見送るしかなかった。 ゼクティ:「はぁ……どうしてなんだろう」 程なくしてため息をつきながらそう呟く。 キリヤを目の前にすると何故か頭が真っ白になってしまい冷静な思考力が失われてしまう。 それが彼女にとって大きな悩みとなってしまっていた。 ゼクティ:「キリヤ……」 キリヤの事を想いながら胸に手を当て、そっと目を閉じる。 手の平にはトクントクンと早い鼓動が伝わり、頬が染まっていくのが感じられる。 トライハルトの下に居た時も鼓動の高鳴りを感じた事があったが、その時とはまるで別物である。 ゼクティ:「私一体どうしちゃったの……?」 胸から湧き起こる不思議な感情に思わずそう漏らすゼクティ。 そんな彼女の下へある生物が近づいてきた。 ラッシィ:「ふぅ〜」 気が抜けた表情が特徴でもありチャームポイントなのかもしれないラッシィだった。 突然ゼクティの前に現れたかと思うと続けざまに喋りかけてくる。 ラッシィ:「ふぅ、ふぅ〜」 ゼクティ:「えっ……?『それが恋というものなのだ』って……えぇっ!?」 ラッシィは風の精霊でその言葉は精霊と会話が出来る者でしか理解できない。 ゼクティもまた彼の言葉を理解できる一人で、黙って話を聞いていたがその内容は彼女にとって驚くべき事だった。 彼女がキリヤに対して抱いていた不思議な感情は恋だというのである。 ゼクティ:「これが……恋、なの?」 それが恋だと言われても実感が湧かず、ただその恋という単語を繰り返し口にする事で実感しようとする。 ラッシィ:「ふぅ〜(訳:でもこの想いを実らせるのは中々難しいだろう。何しろあのシーナという娘がいるからな)」 ゼクティ:「あっ……」 ラッシィの言葉には納得いくものがあった。 これまでキリヤと二人きりになった事はおろか、ロクに会話をした覚えがなかったのだ。 それもそのはずで、いつもキリヤの周辺にはシーナが目を光らせており、彼に対し何らかの行動を取ろうにも取れない状態なのである。 先程のキリヤとの会話の強制中断も彼女の嫉妬心によるさりげない妨害なのだろう。 ラッシィ:「ふぅ〜、ふぅ〜(訳:ゼクティ、お前はキリヤともっと仲良くなりたいか?)」 ゼクティ:「えっ?う、うん……」 ラッシィ:「ふぅ〜(訳:ならば私がなんとかしよう。お前の恋は応援してやりたいしな)」 ゼクティ:「ら、ラッシィ……ありがとう。でもどうするの……?」 ラッシィ:「ふぅ〜(訳:まぁ、待て。作戦会議室からキリヤが出てくるのを待つのだ)」 ゼクティ:「う、うん……」 ラッシィに言われるまま、ゼクティはキリヤが姿を現すのを待つ事にした。 それからしばらくして…… キリヤ:「はぁ〜……!やっと終わった……」 退屈な会議が終わり、大きく伸びをしながらキリヤが姿を現した。 ラッシィ:「ふぅ〜!(訳:シーナに見つかる前に急いでキリヤを外に連れ出すのだ!)」 ゼクティ:「わ、分かったわ!」 風のような速さで階段を降りキリヤの下へと向かう。 ゼクティ:「状況判断……色素反応……赤系、反応なし……」 そして駆けながら同時にキリヤ周辺の状況判断を行う。 幸いにもキリヤの後続にはシーナ(=赤系)の姿はない。 キリヤ:「あ、ゼクティ。どうしたん……ってうわぁああぁ!?」 ――この機を逃してはならない そう瞬時に感じ取ったゼクティは立ち止まる事もせず、キリヤの腕を掴むとそのまま外へ連れ出すのだった。 ゼクティ:「はっ……はっ……!」 キリヤ:「はぁっ……はぁっ……!」 無我夢中で駆け抜け、その足が止まった所はドレイク城の城下町ハンヨウへ抜けた所だった。 ゼクティ:「ご、ごめんね、キリヤ!突然連れ出したりして……」 キリヤ:「い、一体どうしたんだ?」 ゼクティ:「え、えっと……その……」 反射的に謝る事は出来たが、やはりキリヤを前にするとどうしても緊張してしまう。 頬が赤く染まっているのは先程の疾走が原因……というよりはキリヤを意識しすぎているからだろう。 ラッシィ:「ふぅ〜(訳:私が散歩に行きたがっていると言うのだ。それならば自然だろう)」 ゼクティ:「えっ?う、うん……」 キリヤ:「ゼクティ?」 ゼクティ:「あっ、あのね!ら、ラッシィが……一緒に散歩に行こうって……」 キリヤ:「え、俺も一緒に?」 ゼクティ:「う、うん……ダメ?」 上目遣いで頬を染めながらそう懇願してくるゼクティ。 あまり目にした事がない彼女の表情にキリヤは思わずドキリとしてしまい…… キリヤ:「あ、あぁ!別に構わないけど……。でもそいつって散歩に行く必要ってあるの?」 ラッシィ:「ふぅ〜!!(訳:失敬な奴だな!精霊だから散歩に行かないとか偏見だぞ!)」 ゼクティ:「それは偏見だって怒ってるみたい……」 キリヤ:「ご、ゴメン……ってその顔で怒ってるって言われてもなぁ……」 ゼクティ:「えっと……近くでもいいみたいだから、シスイカンの方にでも行ってみない?」 キリヤ:「そうだな、セイラン領なら安全だろうし」 ――シスイカン周辺。 バソウが守るシスイカンを抜け、すぐ近くの湿地帯へと二人はやってきた。 しかし到着して早々、問題が発生してしまう。 ゼクティ:「あ、あれ?」 キリヤ:「どうしたんだ?」 ゼクティ:「ら、ラッシィがいなくなっちゃったの」 キリヤ:「参ったな……散歩に来たのにはぐれるなんて。下手に動くといけないからここで待とうか?」 ゼクティ:「う、うん……そうね」 散歩に行きたいと言っていた本人が突然行方不明に。 おまけに相手は精霊でもある為、姿を消されてはどうしようもない。 状況が悪化するのを恐れたキリヤは下手に動かず大人しく待つ事を提案するのだった。 キリヤ:「……」 ゼクティ:「……(ら、ラッシィのバカ……!肝心な時にいなくなっちゃうなんて……私どうしたらいいのよ……)」 二人の間に訪れる沈黙。 ラッシィの突然の失踪に一番動揺しているのは他でもないゼクティだった。 自分に任せておけと言っておいて何て無責任なのだろうか。 そんなやり場のない怒りとキリヤと二人きりになってしまった事による緊張で彼女はどうにかなってしまいそうだった。 キリヤ:「……」 そんな中キリヤは頬を真っ赤に染め、緊張した面持ちのゼクティを見詰めながらこう思っていた。 キリヤ:「(そういえばゼクティとはあまり喋ったりしてなかったな……。よし、せっかくの機会だ色々と話をしてみよう)」 ゼクティ:「……(ど、どうしよう……キリヤと二人っきり……ダメっ、頭が全然回らない……!)」 キリヤ:「なぁ、ゼクティ?」 ゼクティ:「ひゃあっ!な、何……?」 キリヤ:「ご、ゴメン。びっくりさせちゃった?」 ゼクティ:「あっ、うぅん!私の方こそ……ごめんなさい」 心の準備が出来ていなかったゼクティは驚きの声を上げてしまう。 キリヤの方も予想していなかった反応だった為、お互いが謝ってしまう事になってしまった。 キリヤ:「でも……ゼクティって可愛い悲鳴をあげるんだね」 ゼクティ:「えっ……?」 キリヤ:「なんかゼクティってトライハルトの所に居た時の印象が強かったからさ」 ゼクティ:「あの時の私じゃイメージできない……?」 キリヤ:「そうだなぁ……悲鳴を上げる前に攻撃されそう?」 ゼクティ:「あっ、ひどいっ!だって仕方がないでしょう?あの時はキリヤの事を敵だって思ってたんだから……」 キリヤの以前のゼクティ像にむすっとした表情を浮かべながらそう言い返すゼクティだったが…… ゼクティ:「でも今は……」 キリヤ:「今は?」 ゼクティ:「えっ?えっと……大切な仲間、かな……?」 ――あの時は敵だと思ってたけど今は自分が一番気になる人…… そう言葉を続けたかったが出来る勇気もなく、その言葉は彼女の心の奥へと消えていく。 ゼクティ:「も、もう……ラッシィどこに行ったのかしら」 ![]() そして気恥ずかしくなってしまったゼクティは話を打ち切り、ラッシィを探し出してしまうのだった。 ゼクティ:「(私のバカっ……!せっかくキリヤとお話できてたのに……)」 そんな中、草葉の陰に隠れて二人の様子を見守る生物の姿があった。 そう、突然行方をくらましていたラッシィである。 ラッシィ:「ふぅ〜!(訳:せっかく二人きりにしてやったというのに何をやっているんだゼクティは!)」 どうやら姿を突然くらましたのはわざと二人きりにする為にした事らしい。 しかしその御膳立ても空しく、二人の仲が進展する……という事にはならずにいた。 ラッシィ:「ふぅ〜(訳:こうなったら強行手段に出るしかないな。男を落とすにはやはり色仕掛けなのだ)」 そう言うとラッシィは何やら力を溜めているようなそうでもないような微妙な表情になり、小刻みに震え始める。 すると次の瞬間ラッシィの身体はその場から消失していた。 どうやら精霊特有の力で自身の姿を見えなくしたようだ。 そしてそのままゆっくりとゼクティの方へと向かっていく。 ラッシィ:「(ふぅ〜『訳:ここをこうして……。あとは下も脱がせておこう』)」 ゼクティの傍へ近づいたかと思うと器用に彼女が着ている服の紐を緩め始めるラッシィ。 その行為は上着だけに留まらず下着にまで及んでいた。 ラッシィ:「(ふぅふぅ〜『訳:上の方はあとは突風でも吹かせれば自然に脱げるだろう。下は自分が持っていかないとな』)」 下着の方も紐で固定されている物だった為、手で解いたあとラッシィはそれを口に咥えてその場を離れる。 そして離れ際に自身の力によって突風を巻き起こし、最後の仕上げを行うのだった。 ゼクティ:「きゃっ!?びっくりした……何?今の凄い風……」 ![]() キリヤ:「どうしたゼクティ……ってうわっ!!?」 ラッシィが起こした突風はゼクティの周囲にしか発生しておらず、キリヤには当然影響はない。 悲鳴を突然上げるゼクティの身を案じたキリヤは彼女のほうへ近づくのだったが…… ラッシィ:「ふぅふぅふぅ〜(訳:ふふふふ……さぁ、キリヤよゼクティに身も心も奪われてしまうのだ)」 突然大声を上げるキリヤ。 それもそのはず、今のゼクティはさっきまで衣服で覆っていたはずの部分の肌を見事なまでに曝け出していたからだ。 ゼクティ:「き、キリヤ?」 キリヤ:「うわぁぁっ!ご、ゴメンっ!!」 何も知らないゼクティは露になっている膨らみを隠そうともせずに不思議そうな表情でこちらを見詰めてくる。 そんな彼女にキリヤは反射的に謝罪し、視線をゼクティの方から逸らしてしまうのだった。 ゼクティ:「私何か変な事しちゃったかな……?」 キリヤの態度に不安を覚えたゼクティはそう尋ねてくる。 キリヤ:「い、いや……変って言えば変なんだけど……。な、何でもないよ!」 何の脈絡もなく胸を露出させている事自体変といえば変なのだがキリヤは敢えてそこには触れずにすることにした。 今の彼にとってはこの状況をどう上手く伝えるべきか考える事が先決だったからだ。 そんな中この状況を作り出した張本人はというと…… ラッシィ:「ふぅふぅ〜!!(訳:なんだあの反応は!男ならガバッといかんかい!ガバッと!!)」 自分が望むような展開にならずにイライラを募らせていた。 今のキリヤのような反応が至極普通なのだろうが…… ラッシィ:「ふぅ〜!(訳:これならどうだ!)」 再び小刻みに震え始めるラッシィ。 それと同時に上空の雲の流れが急激に速くなっていく。 そして次の瞬間二人に向かって強烈な突風が巻き起こった。 ゼクティ:「きゃあっ!!」 キリヤ:「うわっ!!」 その風は先程ゼクティの周囲に巻き起こったものとは次元が違うものだった。 風の進行方向に身体が強く押され、体勢が崩されてしまい倒れ込みそうになるゼクティ。 それを反射的にキリヤは自身の身体で受け止める。 彼女が今どういう格好をしているかとかそんな考え無しに身体が勝手に反応していた。 ゼクティ:「んっ……!」 キリヤ:「くっ、うぅっ……!」 襲い来る風にじっと耐えるゼクティを抱き止めながら踏ん張るキリヤ。 ――どこか風を凌ぐ場所へ移動しなければこのままでは……! そう考え始めた頃…… キリヤ:「あ、あれ……?風が、止んだ……?」 先程までの荒れ狂うような暴風が嘘のようにピタリと止んでしまったのだ。 正に不可解な出来事に二人は目をパチクリさせながら顔を合わせてしまう。 ゼクティ:「い、一体何だったの……?」 キリヤ:「さ、さぁ……。もしかしてセイラン特有の気象……とか?」 ラッシィが起こした突風だという事など分かるはずもなく、異常気象かその地方の特有の気象ではないかとしか考えようがない。 お互い身体を密着させている事などすっかり忘れ、ただ不思議そうに辺りを見回していた。 ラッシィ:「ふぅふぅ〜(訳:ふふふ、私の目論見どおり二人は密着できたな。あとはキリヤ、お前の行動次第なのだ)」 どうやらあの強烈な突風は二人の身体を密着させる為に巻き起こしたものだったらしい。 自分の目論見どおりに事が運んだ事でラッシィはニヤリとしているのかよく分からない微妙な表情を浮かべる。 ゼクティ:「あっ……ありがとう、キリヤ。私もう大丈夫……だから」 己が置かれている状況に先に気付いたのはゼクティだった。 キリヤに強く抱擁されているという事を考えただけでもどうにかなってしまいそうだったが、何とか平静を保ちながら話しかける。 キリヤ:「え……あっ!ご、ゴメンっ!!」 そしてキリヤもゼクティの言葉で我に返り、今の状況を思い出す。 謝りながら慌ててゼクティから離れようとするが…… キリヤ:「(そ、そういえばゼクティって……い、今何も……)」 暴風のせいで忘れかけていた重要な事が記憶に甦り始める。 ゼクティを抱き止める身体には何だか柔らかな感触が生々しく伝わってきていた。 キリヤ:「(落ち着け……落ち着くんだ、俺……!さっきのは見間違いかもしれないだろう?冷静に、もっと冷静に考えるんだ……)」 自分が目にしたゼクティの姿は自分の煩悩が引き起こした錯覚かもしれない。 それにこの身体に伝わってくる感触だって本当は布越しからでも伝わってくるものなのかもしれないじゃないか。 そう冷静に考えながらゼクティの胸元にゆっくりと視線を落とすキリヤだったが…… ゼクティ:「?」 やはりそこには胸を覆い隠す衣類など何もなかった。 覆い隠すどころかその柔らかな乳房は形を変えてキリヤの身体に押し付けられている。 正に『ふにっ♪』という擬音が聞こえてきそうな美味しい状況である。 キリヤ:「(ノォォォォォッーー!!)」 錯覚ではなかったという事が分かり、彼の心の中で絶叫が響き渡る。 と同時に自身のとある部分に著しい変化が起こっている事にキリヤは気付いた。 熱が集まり、ムクムクと何かが膨れ上がるような感覚……。 それは心の叫びとは反対に今の状況を悦んでいる下半身だった。 キリヤ:「(うわわわ……っ!!や、やばいって、こんな事ゼクティに気付かれたら何て思われるか……!!)」 ――女の子を抱き締めただけでこんなになるなんて……最低っ!! そんな罵倒と冷たい視線をゼクティから浴びせられる光景が脳裏に浮かぶ。 このままでは七色の心剣士ではなく脳内桃色変態心剣士とでも呼ばれてしまうのではないか。 次々とネガティブな予感がキリヤの頭の中に駆け巡っていく。 そして彼の本能はゼクティに悟られまいと咄嗟に彼女から離れ、その場にうずくまる体勢にさせた。 ゼクティ:「ど、どうしたのキリヤ……?大丈夫?」 キリヤ:「ちょ、ちょっと立ち眩みしちゃってさ、ハハハ……。でもだいじょ……」 心配そうなゼクティを見上げながら口にしようとしたその瞬間だった。 彼女の丈が短いスカートが優しい風でふわりと捲り上がる。 そして目に飛び込んできたのは魅惑のトライアングルゾーン……ではなく光風館の桜の花弁(キリヤ的比喩)だった。 キリヤ:「……」 ゼクティ:「き、キリヤ……?」 スカートが風で捲れるのはほんの一瞬の出来事だったかもしれない。 しかしキリヤにとっては一瞬ではなくゆったりとしたものだった。 彼の視点はただ一点だけをじっと見据えており、微動だにしない。そして…… キリヤ:「ぱ……」 ゼクティ:「?」 キリヤ:「ぱんつ、はいてな……」 ――ぱんつはいてない そう微かに口にすると彼は鼻から血を垂らしながらその場に倒れ込んでしまうのだった。 ゼクティ:「き、キリヤっ!?」 鼻血を垂らしながら倒れるキリヤを心配するゼクティ。 しかし彼女の頭の中ではさっき彼が口にした言葉が引っかかっていた。 ――ぱんつ、はいてない……パンツ、穿いてな、い? ゼクティ:「えっ……!う、ウソっ!?」 引っかかっていた言葉を頭の中で何度も繰り返す。そしてようやくそれが自身に向けられた言葉だという事に気付いた。 そういえばさっきから何だか涼しい気がしていたが、気付いた頃には時既に遅し。 あるはずもない下着に手をかけようと視線を下ろそうとした時に、上着を着ていない事にも気付いてしまう始末。 もはや彼女はパニック状態となってしまった。 ゼクティ:「えっ、えっ!?な、何で着てないの!?そ、それよりも私、もしかしてき、キリヤに!?う、ウソっ……!!」 気が動転し、何が何だか分からなくなってしまったゼクティ。 自分は気付かぬうちにキリヤに痴態を晒していたのかと思うと、身体が熱くなってくる。 見ず知らずの誰かに晒してしまうのも耐えられないものだが、好きな人の面前で晒してしまうなどなおさらだ。 そんな彼女の下へ一連の騒動の張本人がふよふよと姿を現す。 ラッシィ:「ふぅ〜!(訳:つまらん結果に終わった……なんなんだお前たちは!)」 ゼクティ:「ラッシィあなた何を言って……って口に咥えてるのもしかして……!?」 ゼクティが目にしたものは正に今日自分が着用していた上着と下着そのものだった。 ラッシィは自分で剥いだそれらを律儀に咥えて持ってきたようだ。 そしてその事に悪びれようともせずにこれまでに自分がしてやった事を話し始める。 ゼクティ:「……」 ラッシィ:「ふぅ〜!(訳:あれだけ御膳立てしてやったというのに……。キリヤのヤツは行動を起こすどころか倒れてしまった。全く……初心過ぎるにも程があるのだ!)」 ゼクティ:「ラッシィ……!!」 ラッシィ:「ふぅ?(訳:何だ?)」 ビリビリと彼女から殺気のようなものが伝わってくる。 ――もしかして自分とってもピンチ? 流石にこれにはあの間抜けな表情からでも血の気が引いていくのが見て取れた。 ゼクティ:「バカぁーっ!!バカっ!バカッ……!バカァッーーー!!!!!」 ラッシィ:「ぶふっ!?ふぐぅっ!?」 罵倒の言葉と共に浴びせられる平手打ちの雨。 ラッシィはまるでサンドバックのように左右に大きく揺さぶられている。 ――ナレーション:「しばらくお見苦しい映像が続きますので、終了するまでの間はこの耽美なるゼクティのヘソをご覧になって下さい(*´Д`)ハァハァ(Voice:キ○レインお兄ちゃん)」―― ![]() どれだけ平手打ちを浴びたのだろうか。 事が終わってしまった頃にはラッシィは地面に埋まってしまっており、身体からは煙を出している。 ゼクティ:「はぁっ……はぁっ……!ラッシィのバカっ……これじゃまるで私、えっちな子みたいじゃないっ……!」 恥ずかしげもなく自らの裸体を、しかも好意を抱いているキリヤに晒してしまった。 きちんと事情を説明したとしても嫌われてしまうのではないか。 そんな嫌な予感が彼女の中で芽生え始める。 ラッシィ:「ふ、ふぅ〜……(訳:私はそんなの気にしない……むしろオールオッケ……)」 ゼクティ:「あなたみたいなのとキリヤを一緒にしないでっ!!」 ラッシィ:「ぶふぅっ!!」 しつこくも自分の嗜好を述べる事でゼクティを安心させようとするが、当然の如く逆効果。 余計に彼女の怒りを買ってしまうことになってしまい、更に深く地面に突き刺されてしまった。 キリヤ:「う、うん……」 そんな中キリヤが意識を取り戻し、微かに声を上げる。 それに気付いたゼクティはすぐに上着と下着を着用し直すと、キリヤの傍へと向かう。 ゼクティ:「キリヤ、大丈夫?」 キリヤ:「うっ……!」 ゼクティ:「あっ……まだ無理しないで。えっと、ほら……私の膝に頭乗せていいよ」 携帯していたハンカチで優しく鼻血を拭き取る。 あまり心配はかけられないとキリヤは無理して起き上がろうとするが、頭がくらついてしまう。 そんなキリヤに対しゼクティは優しく膝枕をしてあげるのだった。 キリヤ:「す、すまないゼクティ……。そういえば……!良かった、ちゃんと着てる……」 今度はちゃんと衣類で胸が隠されていた。 先程までの痴態が見れなくて残ね……ではなくて安堵の表情を浮かべる。 ゼクティ:「ご、ごめんね!今日の一連の事はアイツがやったことなの……」 そう言うと地面に突き刺さったラッシィを引き抜いてキリヤに見せる。 ラッシィ:「ふ、ふぅ……(訳:よ、よう……)」 キリヤ:「そ、そうか……そうだったのか……」 ラッシィは泥にまみれて汚れてしまい、弱々しく小刻みに震えている。 しかしそれでもあの間の抜けた表情だけは変わっていなかった。 キリヤ:「ぷっ……ハハハ……!」 ラッシィに色々と小言を言ってやりたい気分だったが、それを見たらもうそんな気は失せてしまった。 自然とキリヤの顔も綻び、口から笑い声が漏れる。 ゼクティ:「ね、ねぇキリヤ……。私の事、嫌いになった……?」 勇気を振り絞ってキリヤに最も気になっている事を聞き出す。 一連の騒動に対する怒りはラッシィへぶつけた事によって解消されはしたが、まだ肝心の問題が残っていたからだ。 ――自分のあんな姿を見られてどう思われているのか……。 そればかりが気になって仕方がなかった。 キリヤ:「えっ……?」 ゼクティ:「だって、キリヤの前で私あんなはしたない姿……」 キリヤ:「大丈夫……」 ゼクティ:「えっ?」 キリヤ:「大丈夫だよ。そんな事で俺は君を嫌ったりはしない」 しかし、そんなゼクティの心配は杞憂に終わる。 キリヤの口からはむしろ逆の意の言葉が優しく紡ぎ出された。 ゼクティ:「で、でも……」 キリヤ:「そ、それよりも俺の方が嫌われてないか心配だったよ……。色々、その、見ちゃったし……さ」 ゼクティ:「あっ……」 キリヤ:「謝っても許してもらえないと思うけど……ゴメン」 不可抗力とはいえ見てしまった事に申し訳なさを感じていたキリヤは素直に謝る。 ゼクティの方にもキリヤをどうこう言う理由もなく、彼を責める気など微塵もなかった。 ゼクティ:「う、うぅん……謝らないで。私もキリヤの事嫌いになってないから……安心して?それよりも悪いのは全部コイツなんだから」 ラッシィ:「ふぅぅぅぅ〜!!?」 そう言うと手に持っていたラッシィをぶんぶんと振り回す。 ゼクティの事を気遣い、色々と立ち回ってあげていたのに散々である。 ゼクティ:「でも……見られたのがキリヤで良かったかも……」 キリヤ:「え?」 ゼクティ:「う、うぅん!何でもない!それよりも今日の事は皆には内緒だよ……?」 キリヤ:「ああ、分かってる。でも……ソウマへの自慢話で使いたいかも」 ゼクティ:「も、もうっ!何言ってるのよ、キリヤの意地悪……」 キリヤ:「ハハ、冗談だよ冗談。大丈夫、誰にも話さないからさ」 ゼクティ:「約束だよ……?」 キリヤ:「あぁ、二人だけの秘密だ」 そう二人で指切りを交わすとキリヤはゼクティの膝枕の感触を味わいながら目を閉じるのだった。 ――この日以来、親しげに会話をするゼクティとキリヤの姿が見られるようになったとかなんとか。 ラッシィにとっては散々だったが今回の件は結果的に良い方向へと繋がったのかもしれない。 しかし二人は知らない。 しばらく時が過ぎた後にこの騒動での愚痴をラッシィがエルウィンにこぼしてしまう事を。 そしてエルウィン経由でヴァイスリッターの面々へ今回の件が漏れてしまう事を……。 |
| ■キャラ設定 |
| >キリヤ・カイト ウィンドにおける主人公。 シーナとは幼馴染の関係で、すっかり尻に敷かれてしまっている。 他の女性と交流をしたいお年頃だがシーナの目が光っている為、それもままならない。 ムッツリスケベだが意外とウブ。 >ゼクティ キリヤが夢幻大陸エンディアスに召喚された時に初めて出会った女性。 かつては敵同士であったが色々あって(略)今はキリヤ達の下で共に仲間として生活している。 キリヤに対し何か特別な感情が芽生え始めているようだが……? >ラッシィ 間抜けな顔が特徴な不思議な生物。 その正体は風の精霊で、彼の言葉を解する事が出来る者はごく一部しかいない。 精霊なのにスケベ。 |