ギブソン・ミモザ邸の廊下を歩いていたの耳に、誰かが呻いているような妙な声が聞こえてきた。
「…………??」
不思議に思ったが、謎の声の発生源と思われる者のいるであろう扉に手をかける。
開けてみると、そこには、
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
机に向かい、頭を抱えるマグナがいた。
「……マグナさん……」
その様子から事情を察したが、苦笑いを浮かべる。
の声に振り返ったマグナは、もはや半泣きになっていた。
Break Time with You
「、助けてくれよ〜〜〜」
話を聞いてみると、どうやらネスティに出されたレポートが、今日〆切にも拘らずちっともまとまらなくて、完全に煮詰まってしまったらしい。
しかし助けてくれ、と泣きつかれたところで、にはレポートの手伝いなど出来ないわけで。
「少し休憩しませんか? 頭を少しリフレッシュさせるのも大事ですよ」
と言って台所へと向かった。
* * *
「ぷはぁー、生き返る〜……」
の淹れてきたお茶を飲み干し、マグナはふー、と大きく息をついた。
「たまに息抜きしないとだめですよ。
煮詰まったままだと、いつまでたっても終わりませんからね」
そう言って、も自分用に淹れたお茶を口にする。先日アメルと街に出たときに見つけたお茶で、香りもよくリラックスできる効果があると店の人に勧められたのを思い出す。今のマグナにはいいだろうと淹れてみたのだが、実際飲んでみるとなかなか効果がありそうで。
マグナも気に入ったのか、2杯目をカップに注いでいた。
「ごちそうさま。
ありがとうな、」
ポットに淹れていたお茶をすべて飲み干し、満面の笑みを浮かべてマグナはに礼を言った。
「どういたしまして」
喜んでもらえたようなので、も笑顔で返す。
「少しはリフレッシュできました?」
マグナの部屋で開かれたお茶会の本来の目的は、煮詰まりきったマグナの頭をほぐすこと。すっかりなごみきってしまったが、当初の目的が果たされているかが重要である。
が尋ねると、マグナは顎に手を当てて暫し考え込むようなしぐさをしたあと、
「んー、ちょっとこっち来て」
おもむろにをベッドのふちに座らせる。
「え? え??」
マグナの突然の行動に戸惑っているのもおかまいなしに、マグナはの膝に頭を乗せてベッドに転がる。
「ちょ、ちょっと! マグナさん!?」
が慌ててマグナを起こそうとしても、マグナに動く気配は無い。
「少し寝るから、しばらくしたら起こしてよ」
にっこり笑ってそんなことを言われて、動けるはずもなく。
おまけにこのわんこな召喚主様は、普段から超がつくほどのマイペースぶりを発揮し、自分や兄弟子を困らせているわけで。
「……しょうがないなぁ……
少しだけですよ?」
そんな彼の行動を許してしまう自分に、苦笑いがこぼれてしまう。
「さんきゅ……」
よほど疲れていたのか、礼の言葉もそこそこに、マグナは目を閉じて規則正しい寝息を立て始める。
歳よりも幼く見えるその寝顔からは、普段の厳しい戦いのことなどを感じさせない。
は、癖のあるマグナの髪にそっと指を通した。
くすぐったかったのか、マグナが軽く身じろぎする。
柔らかな紫紺の髪を暫く撫でる。
ゆったりとした時が、流れる。
戦いの中へと身を置かざるを得なくなってしまってから、彼は着実に実力を伸ばしていった。
しかし、いくら急速に戦闘力が上がろうとも、心が追いつかなくては何にもならない。
1年前の出来事で、自分は強くなれた。
それは、信頼できる仲間がいてくれたから。
帰るべき場所を守ってくれる人が、いたから。
マグナにも、安心できる時間や場所を見つけて欲しい。
そして、自分もその手助けをしたい。
自分の膝を枕にして眠るマグナの頭を撫でながら、はひとり、決意した。
* * *
その後、疲れが完全に取れ、頭もすっきり冴え渡ったマグナが、今までにない速さで、尚且つ完成度の高いレポートを作り上げ、ネスティを驚かせたとか。
それはまた、別の話。