Another Name For Life

番外編  無知ほど怖いものはなし






「ねえねえ、ネスティ」

 つんつんっと後ろからマントを引っ張られてネスティが振り返ると。

「どうした、?」
「あのさ、頼みがあるんだけど」
「なんだ?」



「料理、教えて!」



 にっこりと笑顔で発せられた言葉には、さすがのネスティも固まる。



「…………料理?」
「そう、料理。
 料理のしかた」

 ネスティは、彼女が何故自分にそんなことを聞くのかがわからず、訝しげにを見る。
 料理なら、自分よりも適役がいるだろうに。



「「ーッツ!!」」

 叫び声に二人がそちらへと目をやると、マグナとトリスが顔を真っ青にしていた。



「なななな、なんて恐ろしいことをしてるんだ!!」
「恐ろしいことって……
 単に、ネスティに料理教わろうとしただけっしょ?」
「だめー!!
 絶ッ対! だめッツ!!!



 わたわたと必死の様子の二人に、さすがのも訝しげに二人を見る。

「ていうかさ、何でそんな必死なの?」
「必死にもなるわよ!
 は自分のしてることの恐ろしさを理解してないわ!!」
「そうだよ!
 なんでよりにもよってネスなんだ!? 料理ならアメルに聞いた方がいいじゃないか!!」
「……おい」

 マグナの言い分は最もだと思いつつも、前半の酷い言われように、さすがのネスティも思わずツッコむ。

「いや、私も最初はアメルに聞こうと思ったよ?
 でもさぁ……」



* * *



 それは数刻前のこと。

「あっ、リューグ。
 アメル知らない?」
「……?
 アメルに何か用か?」
「うん。
 料理のしかた習いたいんだ」

「…………!?」

 リューグは、の言葉に固まる。

「……リューグ?」
「………………やめとけ。」
「は?」

 思わず間の抜けた声を出す
 俯いたリューグは汗をだらだら流している。

「あいつに聞くのだけは、頼むからやめろ。
 他の奴に聞け」
「……なんかよくわかんないけど、わかった」

 低く、絞り出されるようなリューグの声に、何やら尋常でないものを感じ取ったはその場を後にした。



* * *



「……てなことがあってさ」
「「「…………(芋か。)」」」

 三人はリューグの様子から彼が何を言わんとしているかを理解した。

 こと食に関してはほぼ白紙状態の
 彼女がアメルに料理を教わるということは、必然的に『芋信奉者』を増やすということ。
 これ以上芋料理人を増やしたくはなかったのだろう。



「で、でも!
 だからって何でネスなんだよ!?」

 マグナの問いに、はきょとんとした顔をする。

「え? だって、ネスティいろんな事知ってるし、料理のしかたも教えてくれるかなーって思って」

 にっこりと笑うに、マグナとトリスは無知の恐怖を思い知った。

「何にしても、それだけは絶対絶対、ダメ!!!」
「いやだから、どうしてそこまで……」

 トリスの必死の形相には、さすがのも怪訝そうな顔を浮かべる。
 マグナとトリスは、搾り出すように言った。
 それこそ、先程のリューグと同じ、いやそれ以上に深刻な様子で。



「…………味オンチなんだよ、ネス」
「…………そのうえ、ものすごく悪食だし」

「…………」



 は思わずネスティを見やる。
 ネスティはと言えば、憮然とした顔で押し黙っていた。



「だから、絶対にネスに料理を教わるのだけはやめて!」
「そうだよ! まで味覚がおかしくなるから!!」
「いや、そこまで言うか?」



 先述の通り、は食に関しては完全に白紙状態だ。
 当然、味覚も成立していない。どんな味が美味く、どんな味が不味いのか、彼女には一切判別が出来ない。
 そこへネスティに料理を教わったりしての味覚が彼色にでも染まったりすれば、それこそ芋地獄以上の地獄絵図が完成するに違いない。

 双子召喚師のあまりの物言いに、は呆れたようにため息をついた。





 その後、マグナとトリスの必死の説得により、はネスティに料理を教わるのを断念した。
 ついでに、散々いらんことを言ったことにより、マグナたちはネスティに仕返しをされていたのをここに記しておこう。



 彼女の親戚であるショウが、アメルに匹敵する料理の腕前の持ち主だということが発覚する、数日前の出来事である。

 web拍手用小ネタ番外小説第1弾。

 このネタは前々から書きたいと思ってたものです。でも書いても大して長くならなそうだと思ったために今までちょっと足踏みしてたんですが、拍手おまけとして使うならちょうどいいですね。
 ちなみに、長さ基準としては長編の各話(2つ以上に分かれたりしていないもの)くらいが自分的にちょうどいい長さだと思ってます。一般のSSからすると長めかなとかも思ったりしますが。

 拍手として使う場合名前変換が出来ないので、4コマなどと同じく名前は『主人公』で固定してました。
 文章書いてるとうっかりデフォルト名で書きそうになるからちょっと大変だったりします。(^^;
 まぁこれも慣れですね。

UP: 04.04.10

- Menu -