Another Name For Life
番外編 料理教室
「料理?」
「うん、そう!
教えて!!」
ショウは、目の前で両手を合わせる親戚の少女に首をかしげた。
何故に突然こんなことを言い出したのか。
しかしとりあえず断る理由もないわけであるし、まぁいいかと深く考えないようにした。
「構わないよ、オレでいいなら」
「ほんと? ありがとうー!」
ガッツポーズで喜ぶ妹分に、ショウの顔も自然と綻んだ。
* * *
「で、結局ショウに習うことにしたの?」
その日の午後のお茶の時間にトリスに尋ねられ、紅茶を飲みながら頷く。
「ショウなら人選もばっちりだな。
頑張れよ、」
「うん、ありがとうマグナ」
にへ、と笑うは知らない。
マグナが内心で、
(これでの味覚がまともになってくれる……
ネス色に染まらなくて済む……!)
などと思っていたことは。
「それで、いつから始めるんだ?」
「明日のお昼。
いきなり朝食とか夕食だと大変なんじゃないかって」
問いかけに対する言葉に、ネスティがふむと頷く。
しっかり考慮してくれているあたりがさすがだと言うべきか。
「でもいいなぁ。
あたしも参加してみようかな」
「やめときなって。
指なくなっても知らないぞ」
「むぅー!
マグナにだけは言われたくないわよぅ!!」
隣で繰り広げられる兄妹喧嘩も何のその。
ネスティ達はのんびりお茶して過ごしていた。
* * *
次の日。
「そうそう、包丁を動かすんじゃなくて、野菜の方を回す感じで……」
「ええと……これでいいの?」
差し出された皮を剥き終えたニンジンを見て、ショウは満足そうに頷いた。
「うん、いい感じ。
何だ、上手いじゃないか」
「まぁ、刃物の扱いはそれなりにね」
「………………」
誉められ、てへへと照れくさそうに笑うが、言葉の内容は何やら恐ろしげであることに、この少女は気づいていない。
しかし、本人の言うとおり、刃物の扱いは上手いらしく、食材の切り口は初めてと思えないくらい整っている。
自分の一族の人間は、どうも代々料理の上手い家系らしく(昔親戚のおじさんに聞いた)、彼女にも少なからずセンスはあると踏んではいたが。
――さすがに上手いな。
これも兄貴譲りか?――
三兄弟の中で、長男の風真がもっとも料理上手だった。
まさしく絶品であるあの味を思い出してしまい、ショウはふと生じてしまった微妙にわびしい気分を慌てて振り払う。
料理教室はつつがなく進行した。
ただ、最後の方で問題がひとつ。
「んー……もうちょい塩、かな」
「このくらい?」
「どら……ちょっと多いなぁ」
は自分で味見が出来なかった。
調味料を加えてはショウが味見をする。
「……よし、まぁこんなとこだろ。
ホラ、この味よく覚えておきなよ」
ちょうど良くなったところで、にも味見をさせる。
小皿にとった料理の味を覚えようと、眉間に皺を寄せて必死になっていた。
(いや、そこまで力入れないとだめなのか……?)
もしかしたら、料理そのものを教えるよりも先に味覚を確立させた方がいいのかもしれない。
ショウは本気でそう思った。