Another Name For Life

番外編  暗黒時代






 ある日のゼラム、ギブソン・ミモザ邸。



 トリス・アメル・ミニスの三人娘が、午後のお茶を楽しみつつ、お喋りに花を咲かせていた。

 と、そこに玄関の方から賑やかな声が聞こえてくる。



「ただいまー!」

「あ、おかえりなさい。
 買い出しご苦労様でした」



 今日の夕食の材料や旅の消耗品などを買いに行っていたマグナとショウ、レオルドに、アメルがねぎらいの言葉をかけた。



「アメル、買ってきた食材はいつもの所に置いとくな。
 レオルド、こっち」

 ショウはそのままレオルドと共に台所へと向かった。
 その後ろ姿を見送り、しみじみとトリスが呟く。



「相変わらずてきぱきしてるわねぇ」

「ショウすごいんだよ。
 美味しい野菜の見分け方とか詳しいし、値切ったりとか安く買ったりとかも上手かったし」

「へぇー、何か一緒に買い物してると楽しそうね、そういうの」

 楽しそうに話すマグナの様子に、ミニスも感心したように言った。

 そうしているうちに、ショウ達が戻ってきた。
 マグナ達が、話題にしている相手の登場に、思わずそちらに目をやる。視線が集中したのを見て、ショウは首を傾げた。



「ん、どうかしたか?」

「いやぁ、いいタイミングだと思って」

「ちょうどショウさんの話をしてたんですよ」

「話……ねえ。
 オレなんて話題の対象としては面白みに欠けるだろ」



 ニコニコと笑顔のマグナとアメルに苦笑してみせた。

 そんなことないのに、とその場にいる者は思った。
 どうにもショウは、自分を過小評価しているような節がある。



 ふと、トリスがにやりと笑った。



「じゃあさ、ショウが面白くしてよ」

「面白くって言われても……
 オレ、自分の話で面白いモンなんて」
「恋人とか、いなかったの?
 向こうの世界では結構モテてたんじゃない?」

 ショウの言葉を遮って、ミニスが楽しそうな口調で問い掛けた。

 しかしショウは手をぱたぱたと振る。



「あー、いないいない。
 それに、モテたことなんかないって」



 あっさりと否定されたのが面白くないのか、トリスとミニスは揃って頬を膨らませた。



「そんなこと言って、ごまかそうとしてるでしょ!」

「してないよ」

「ウソつきー!」

「嘘じゃねえっつの!!」



 口々に非難され、ショウはげんなりする。



「じゃあ、納得いくように説明してッツ!」

「そうよそうよ!」

「お前らな……」



 ショウは呆れたようにトリスとミニスを見て、それから観念したようにため息をつき、ぽつりぽつりと話し始めた。



「2年くらい前に……ちょっといいかもと思った子は、いた」



 意外にもあっさりと話し始めたショウに、一同は僅かに驚きを見せた。

「え、どんなコ!?」

「告白した!?」

 ここぞとばかりに詰め寄るふたりの少女を制して、続ける。



「本格的に好きになったとかじゃないんだけど……
 たまたま、他よりも仲の良かった女友達で」

「友達以上、恋人未満の曖昧な関係ってやつよね」

「友情がいつしか恋に……素敵ですね」

 ミニスの言葉に、アメルが両手を組んでうっとりと目を細める。



「……あー、トリップしてるトコ悪いんだけど、そんないい話じゃないぞ?」



 ショウがばつが悪そうに頭をかく。

 トリス達は揃って首を傾げた。



「ある時にな。
 その子にものすごーく爽やかな笑顔で言われたんだよ。

君ってほんっとうにいい人だよね!
 これからもずーっと友達でいてね!!』

 ……って」



「「「「………………」」」」



 周囲に気まずい沈黙が立ち込める。



「で、その子はそれから1ヶ月もしないうちに、なんとオレの友達と付き合い始めました。
 おしまい。」

 ショウは遠い目をして力ない笑顔を浮かべ、まるで子供に昔話でも聞かせるかのような口調で話を締めくくった。



 重苦しい雰囲気に、さすがのトリス達も何も言えない。



「他にもあるぞー。
 5年位前には似たようなケースで告白の手伝いまでさせられたし。
 無事にくっついて、『恋のキューピッド』とまで言われたさ」



 聞けば聞くほどに痛々しい話が、そんな調子でぽんぽん出てくる。
 本人はもう完全に開き直りきっているようで、笑い話か何かのような口調で話している。



「……とまぁ、そんな感じだったからなぁ。
 オレに色恋話させるのはかなり無理があるぞ」

「「…………ゴメンナサイ。」」



 トリスとミニスは至極申し訳なさそうに謝った。

 世の中には、触れてはいけないモノがある。
 それを思い知った。



「ショウさんの世界の女の子って、結構見る目ないですねえ」

「だよなぁ」



 しみじみと、アメルとマグナが呟いた。

 家事全般OK、面倒見も人当たりも悪くない。身体能力も低くない。
 そんなショウが彼女いない歴18年というのは、やはり意外だったようだ。



「大丈夫よショウ!
 あれだけ家事ができるんだから、きっとおヨメの貰い手はあるから!!

 手近なところでマグナとかどお!?」



 根拠のない、且つかなりズレた、ついでに力いっぱい間違った方向の発言を、何故か拳を握り締めて力説するトリス。



「だから嫁言うなーッツ!!」

「ていうかなんで俺が貰い手なんだよーッツ!?」



 ショウの魂からの叫びと、とばっちりを受けてしまったマグナの叫びが、屋敷中にこだました……

 ショウ受難話。
 というか、過去暴露。かなりアイタタな青春を送っていたご様子です。
 最後またしてもトリスが暴走。被害者はマグナ。自分が貰うとは一言も言わないあたりがうちのトリスさんです。

UP: 04.07.06

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