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番外編  いとしの君






 黒の旅団の駐屯地。
 5、6人の兵士達がその一角に集まって、なにやら話し込んでいた。

 そこにとてとてという、大人の男ではありえないような軽い足音が近づいてくる。

 それに気付いた兵士のひとりが、顔を上げ、足音の主に振り返って挨拶をする。



「やぁ、ちゃんじゃないか。
 どうしたんだ?」

「お散歩ですよ。
 皆さんこそこんなところで何してるんですか?」

「俺たちは休憩中。で、雑談してただけだよ」



 他の兵士がにっこり笑いながら言った。はなるほど、と納得したように呟く。



「あ、そうだ。
 オレ前から聞いてみたかったことがあるんだけど、いいかな?」

「あたしに、ですか?」



 突然の言葉に、は面食らったような顔をした。

 兵士達はうんうんと頷いている。
 おそらくは、“雑談”の際に彼女が話題になってでもいたのだろう。



「いいですよ。
 なんですか?」

「ぶっちゃけさ……イオス隊長って、どう?」



 ストレートと言えばストレート。
 遠まわしと言えば遠まわし。

 具体的な内容のない言葉に、は意味がわからないという顔で首を傾げる。



「どうって、何がですか??」

「だからさ、こう……カッコいいなとか、一緒にいてドキドキするとか!
 そういうの、何かない?」



 やや具体的になった言葉にも、は首を傾げる。
 それだけでなく、「そういえば前にトリスさんにも似たようなこと聞かれたなぁ」などとのん気に考えていた。

 尋ねた兵士の肩に、他の兵士がぽんと手を載せる。



「まぁまぁ。
 きっと彼女、初恋もまだなんだよ。まだ子供なんだし」

「はつこい?」



 子供、という発言に引っかかりは覚えたが、その前の単語に興味を示し、は首を傾げた。



「え、もしかして単語そのものを知らない!?」

「わかんないです。
 はつこい、って何ですか?」



 これを世間知らずの一言で済ませていいものなのかと、兵士たちは顔を見合わせた。

 そのうちのひとりが、ちっちゃな子供に言うように話した。



「一緒にいたり、その人のことを考えたりすると、胸がどきどきしたり、嬉しい気持ちになったり。
 あと、カッコいいなって思って憧れたりとか、そういうのだよ」

「どきどきしたり……うれしかったり…………」



 ぽつぽつと口の中で言葉を反芻すると、はぽっと僅かに頬を染めた。



「おっ、いるの!?」

「誰だれ? やっぱり隊長?」



 ここぞとばかりに、わっと兵士達が口々に問い掛ける。



「あたしの……命の恩人で、いろんなことを教えてくれて……
 すごく、カッコいいんです」

 俯き加減に笑顔で話す声は、まさしく恋する少女のもの。

 予想外の反応に、兵士達も楽しそうに笑う。



「なんだ、わかってるじゃん」

「でも、誰なんでしょうか?」
「隊長だろ? 命の恩人だし、いろいろ教えてるし」
「ついでにカッコいいってか?」

 ひそひそと兵士達が囁きあう。
 次の瞬間が呟いた言葉は、兵士達には意外そのものだった。



「前の世界にいたときに、助けてくれて……

 今は、どうしてるのかな」



「「「「……あれ?」」」」



 隊長じゃないのか。

 ていうか、何者?



 恋する乙女よろしく頬を染めて憧れの君について話すは、いつになく生き生きとしていたとか。

 その噂がイオスはもちろん、ルヴァイドの耳に届くのも、そう遠い話ではなかった。

 恋するヒロイン。
 イオスさんは? という疑惑が。(笑)

 序盤のイメージですが、この段階ではヒロインの中でイオスは拾ってくれた飼い主(ヲイ)くらいの認識しかないと思われ。
 しっかし、大の男が集まって恋バナしてる光景って言うのもなにやら異様ですな。

UP: 04.07.06

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