Another Name For Life
番外編 わたしのごシュジンサマ
「ところでさぁ」
唐突に口を開いたに、その場にいたマグナとトリス、ネスティは首を傾げた。
「どうかしたの?」
「前々から気になってたんだけどさ。
私って、誰の召喚獣って事になってるの?」
「「「……は?」」」
「いや、だからさ。
私って、一応扱いとしては『蒼の派閥に保護されたはぐれ召喚獣』なわけでしょ?
だったら、誰が私を引き取ったことになってるのかなと」
どうやら、自分の『保護者』が誰になっているのかが知りたいらしい。
マグナとトリスは、一瞬互いに顔を見合わせてからすぐに答えた。
「そりゃ、ネスだろ」
「ネスでしょ?」
「ちょっと待て!!」
あまりにあっさりと言われ、ネスティが思わず声を上げた。
「に関しての報告書を提出しに行ったのはマグナじゃないか!
何で僕になるんだ!?」
「え? 俺ネスの名前で出したよ、アレ」
「勝手に人の名を使うなーッツ!!」
「俺に怒るなよぉ!
あれはトリスが……!」
怒鳴るネスティにマグナが慌てて反論した。
ネスティがじろっとトリスを睨むと、トリスは意に介さないようにあっさりと言い放つ。
「だって、を助けたときって、ネスだけ護衛獣いなかったじゃない」
旅に出てすぐの頃は、トリスにはハサハ、マグナにはレオルドが既に護衛獣として傍にいた。
同行するネスティには、護衛獣はいない。
「だから、ネスの護衛獣になったって事にするのが一番自然だと思って」
「君は……!
どうして当人の了承もなしにそういうことをするんだ……ッツ!」
もはや怒りを通り越したか、ネスティが力ない声で嘆いた。
「ふぅん、そうか……」
はネスティとは対照的に、何かに納得したような顔つきでぶつぶつと何やら呟いていた。
「よしっ!」
両手のひらをぱんっと打ち鳴らし、は満面の笑顔をネスティへと向ける。
「それじゃ、ネスティが私の“ご主人さま”なわけだね!」
「な……ッツ!?」
ネスティの顔は途端に真っ赤になり、焦りの色を浮かべる。
「きっ、君はいきなり何を言い出すんだ!
だいたい、それはあくまで書類上の話であって……」
「書類上だろうと何だろうと、そうなってるんでしょ?
だったらいいじゃん」
「よくないッツ!!」
笑顔を浮かべて上目づかいで“ご主人さま”。
本人は無意識だが、やられる方はたまったもんじゃない。
相変わらずの激鈍天然ぶりである。
トリスは面白そうにその様子を眺め、そんなトリスを見たマグナはネスティに同情した。
「何が駄目なのー?
あぁもしかして“ご主人さま”って呼称好きじゃない?
なら“マスター”にしよっか」
「何も変わってないじゃないか!!」
「んーじゃあ、レオルドに倣って“主殿”とか?
あっ、いっそハサハ風に“おにいちゃん”とかどうよ!」
「どうよじゃなーい!!」
お互いの意見は完全に平行線……どころか、すっかりねじれの位置を爆走してしまっていた。
「バルレル風はこの際置いといて、他に何かないかなぁ?」
「バルレル風??」
傍観者と化していたマグナとトリスに顔を向ける。
マグナが首をかしげると、けろっとした顔で言った。
「“メガネ”。」
「ぶッ!!
あはははははははははははは!!!」
トリスがネスティを指さし、腹を抱えて大笑いした。
マグナが「笑っちゃ悪いよ」とたしなめるが、声も肩も震えきっていて、そこには説得力という存在は影も形もない。
ネスティはふるふると怒りで身体を震わせていた。
それを見たが、ぽんぽんっとネスティの肩を叩く。
「まぁ落ち着きなよ、ご主人さま」
「……もとはと言えば君が原因なんだが……?」
の態度と台詞は、完全に火に油だ。
ネスティは据わりきった眼でギッとを睨みつけた。
それを見たが、しゅんと眉根を寄せる。
「ネスティは……私が護衛獣じゃ、嫌?」
「え……!?
べ、別にそういうわけじゃ……!」
「なら、何でそんなに嫌がるの?」
ネスティは暫く視線を彷徨わせてから、ポツリと言った。
「僕は……君の事は友人だと思っているから。
主人と護衛獣だとか、そういう主従関係じゃなくて、対等でいたい。
だから、いつもどおり名前で呼ぶようにしてくれないか?」
「……そっか。
うん、わかった」
にっこり笑って頷いたを見て、ネスティも照れたように微笑んだ。
* * *
「それにしても、何で急にあんな話をし始めたんだ?」
疑問に思っていたことを、マグナが尋ねた。
「んー?
いやぁ、今までずっと“ご主人さま”とか“マスター”とかって呼ばれる側だったからね。
ふと、呼ぶ側の気分が知りたくなって」
「……え、それだけ?」