――なんでオレ、こんな所にいるんだろう……――



 ショウは、自分が今現在置かれた状況に対してため息をつくしか出来なかった。





Another Name For Life

番外編  下町の夜






「おいおい、そんなシケたツラすんなって!」

 豪快に笑うフォルテに、ショウは困惑した目を向けた。



 二人の目の前には、泡立つ液体の入ったジョッキ。
 周りには、同様のジョッキを持った漁師たち。



 ファナン下町の飲み屋のカウンターの隅に、ショウとフォルテは並んでいた。



「俺だってたまには誰かと飲みたいって思うわけよ」

「でも何でオレ……」

「他に付き合ってくれそうな奴がいねえだろ?」



 言われて、ショウは今頃道場で寝静まっている面々を思い浮かべる。

 女性陣はまず除くとして。
 ネスティやリューグが誘いに応じるとは思えない。
 マグナはネスティに止められるだろう。
 レシィや、中身はさておき見た目が子供のバルレルは論外だ。



「…………」
「な?」

 ショウが頷くと、フォルテは満足そうに笑う。



「ま、とにかく飲めって!
 たまにゃ男同士、腹割って話そうや」

「……ま、いいけどね……」

 ため息をつきつつ、ショウはジョッキの麦酒をあおった。



「お、結構美味い」

「ほぉー。連れてきといてなんだが、結構いけるクチだなぁお前さん」

「うちはみんな強いらしいから。
 一口でダウンする奴も知り合いにいるけど」

「あぁ、いるよなそういう奴!」

「もしかしなくても、からかって楽しむタイプだろ。フォルテって」

「あっはっは、わかるか?
 おっもしれえんだよなー!」



 イタズラ小僧そのままの笑顔で語られれば、一目瞭然。
 ショウは顔も知らないその人物に同情した。









「ところで……」

 ジョッキの中身を半分くらい空けたところで、ふいにフォルテが切り出した。



「お前ってさ、彼女とかいんの?」



 ぴたり。



 ショウの動きが止まった。
 そして、なにやらどんよりと周りに暗い影が立ち込めていく……ようにフォルテの目に映った。

「あー……いや。
 その、俺が悪かった。うん。」

 ただならぬショウの様子で全てを悟ったフォルテは、額に汗を浮かべて気まずそうに目をそらした。

「だ、大丈夫だって!
 お前もまだ若いんだし、これからいくらでも見つかるさぁ!!」

 乾いた笑い声と共に、フォルテはショウの背中をばしばしと叩く。
 ショウは至って複雑そうな顔でフォルテを見上げていた。



「なんなら、俺も協力してやるし。
 参考までに、どんなのが好みだ?」

 フォルテに問われ、ショウは一瞬言葉に詰まる。

「え? ……っと」

「たとえばうちの女連中で言えば誰だよ?
 やっぱり、とかか?」
「まっさか!!」



 にやりと笑うフォルテの言葉を、ショウは即座に否定する。

 思わず大きな声が出て、周囲から訝しげな視線を受けてしまう。
 ショウは「……すみません」と小さく謝罪の言葉を添えて、ばつが悪そうに頭を下げた。



「ムキになって否定するたぁ、怪しいな」

「そんなんじゃないって」

 楽しそうに口元に笑みを張りつけたままのフォルテに呆れたような視線を投げかける。



「そもそも、あいつとオレの兄貴、顔そっくりなんだよ?
 まかりまちがっても恋愛対象にはなりえないね」

「……そりゃまあ、確かに」

 姉ならまだしも、兄である。
 彼女そっくりの兄となれば、中性的な面立ちだったというのは容易に想像がつく。
 そのうえで恋愛対象には、やはりならないだろう。



「うーん、でもな。
 あんだけいいカラダしてるんだし、その辺はどうなんだよ」

「……フォルテ、その発言ちょっと問題あると思う」

 ショウは言いながら酒を一口含み、ため息をついた。



「ていうか、オレとしてはあいつみたいなタイプよりも、もっと……」



「あ? 何か言ったか??」

 ぼそりと呟かれた一言は、酒場の喧騒にまぎれてフォルテの耳までは届かなかった。
 フォルテが聞き返したが、ショウはただ曖昧に苦笑いを浮かべるだけだった。



「…………なんでもないよ」

 私はどうしてこう、野郎同士で騒ぐ話が好きなんでしょうか。
 今回のネタはずっと前から考えていましたが、なかなか決行に移せなくて。
 ちまちまとルーズリーフにまとめながら進めました。

 意味深な発言は、本編で明らかに。

 きっとフォルテのセリフの中に出ている、よくからかわれる対象はシャムロックです。

UP: 05.12.09

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