都内某所にある、高級住宅地。そこに並ぶ建物の中でも一際豪華な屋敷の一室で、俺――黒川誠司(くろかわ せいじ)は大量の書類と格闘していた。とはいえ、これでも元の四分の一以下になっているというのだから笑えない話だ。
「……あー、疲れた! ちょっと休憩にするか」
 サインを済ませた書類を脇にどけ、椅子の背もたれに上体を預ける。とそこで、部屋の扉がノックされる音が響いた。
「……誰だ?」
「私です、ご主人様。紅茶とクッキーをお持ちしました」
 誰何の問いに返ってきたのは、聞き覚えのある若い女性の声。
「ああ、葉月か。入ってくれ」
「では、失礼します」
 そう言うと、声の主は扉を開けて部屋の中に入ってきた。彼女の名前は霜村葉月(しもむら はづき)。俺の家に勤めているメイド達の一人で、うちの副メイド長を務めている。肩口の辺りで切り揃えられた綺麗な黒髪に、出る所が出て引っ込むべき所はしっかりと引っ込んでいる理想的なスタイル、整った顔立ちに健康的な肌の色と、結構な美人さんである。
「ありがとう、葉月。今休憩しようかと思ってた所だったから、ちょうどよかったよ」
「ふふっ、どういたしまして。けど、書類も大分減りましたね」
「まあそりゃ、あれから大分経ったからな。この分なら、入学式までには何とかなりそうだ」
 俺の父である黒川竜司(くろかわ りゅうじ)は、天涯孤独の身から一代で財を築き上げた男だった。だった、と過去形なのは、既に親父は亡くなっているだめだ。三ヶ月前、親父は俺の母さんと一緒に飛行機事故に遭い、共にその命を落とした。ただ一人の息子である、俺を残して。
「それはよかったです。それにしても、ご主人様も大学生になるんですね。つい最近まで小学生だったような気すらするのに、月日が流れるのは早いものです」
「小学生って……まあ葉月がここに来たのは俺が小さい頃だったから、そう思うのも仕方ないかもしれないけどな」
 思えば、葉月との付き合いも長いものだ。俺が小さい頃にいたメイド達の多くはいつの間にかいなくなっていたりしたので、今も勤めているメイドの中では古参の部類に入るだろう。といっても葉月は中学生くらいの時から見習いのメイドとして家に来ていたから、古株というにはまだ若いかもしれないが。幼い頃はよく遊び相手になってもらったという事もあり、俺にとっては大事な家族のようなものだ。
「しかしまあ、この三ヶ月は本当に忙しかったなぁ。親父達の葬儀の手配はあったし、自称親戚は次々にわいて来るし、影沼の奴は裏切るし……推薦で合格が決まってなきゃ、今頃はもっと大忙しだったな」
「本当、色々ありましたよね。ご主人様が怪我をされたと聞いた時なんか、正直気が気じゃありませんでしたよ。まあでも、ちゃんと治ってよかったです」
「そうだな。後はこの書類が片付けば、一段落って所か」
 ちなみに影沼というのは、かつて親父の腹心でありこの家の執事長であった影沼恭一郎(かげぬま きょういちろう)という男だ。奴は親父が死んだ後、一部のメイドや執事達と共謀して家の資産を奪い取ろうと画策した。最終的には海外に高飛びしようとする前に奴の身柄を確保し、その野望を断つことに成功したものの……一歩間違えれば、俺やこの屋敷のメイド達は路頭に迷うはめになっていたかもしれない。そう考えると、本当に上手くいってよかったと思う。
「そうそう。あの時はありがとうな、葉月。葉月の協力がなかったら、危ない所だった」
「もう、そんなに気にしないでくださいな。それに、私だけが頑張ったわけじゃありません。ご主人様の力があってこそ、何とかなったんですから」
「いやいや、葉月の協力があってこそだよ。俺一人じゃ、多分影沼には太刀打ちできなかったからな」
 影沼が裏切った際、葉月は奴の側に付くふりをして俺に情報を流し、同時に影沼の側に付いたメイドや執事達の切り崩しを行ってくれたのだ。生前の親父からこの手の事態に対応するための教育は受けていたものの、葉月の助力がなければ影沼を追い詰める事は出来なかっただろう。
「も、もう、ご主人様ったら……それはそうと、あんまり放っておいたら紅茶が冷めちゃいますよ」
「それもそうだな。それじゃ、いただくとするよ」
 頬を紅く染める葉月の姿に苦笑を浮かべながら、俺はクッキーを一つつまんで口に運んだ。程よい甘さが、口の中で広がる。
「……うん。いつ食べても、葉月のクッキーは美味しいな」
「ふふっ、ありがとうございます」
 微笑を浮かべながら、スカートの両端を指先でつまんで一礼してみせる葉月。その姿は思わずどきりとするほど絵になっていて、俺は内心の動揺を隠すようにクッキーを二つ三つ口に運んだ。長年同じ家で過ごしていても、葉月が時折見せるこういった仕草にはいつも心を動かされっぱなしだ。本当、美人というのはずるい生物だと思う。
「それはそうとご主人様。色々とあって言い忘れてましたが……大学合格、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。といっても、まだあんまり実感湧かないけどな。親父は帰ってきたら合格祝いをやるとか言ってたけど、結局それが何なのかもわからなかったしな」
「そう、ですか。旦那様が、そんな事を……」
 何せ合格を喜ぶ間もなく、トラブルが次々と舞い込んできたのだ。そして現時点では相続そのものの手続きや大学の入学手続きは既に片付いたものの、相続に伴う様々な変更手続きはまだまだ残っている状態。おまけに影沼の件があったため、人事関係もやる事が色々と残っているのだ。これでは実感が湧かないのも致し方ないだろう。
「それなら……今晩私の部屋で、ご主人様の合格祝いをいたしませんか? 準備をしていたわけじゃありませんから、あまり大したもてなしは出来ないかもしれませんけれど」
「ああ、そりゃいいな……ってちょっと待て、葉月の部屋でって今言ったか!?」
「はい、そうですよ」
 そう言って、ニコニコと笑う葉月。
「えっと……念のために聞いておくけど、それって二人っきりでお祝いをするって事か?」
「そうですね。他の方達も色々予定があるでしょうし、無理に誘って嫌な思いをさせるのもどうかと思いますから。それに私の部屋なら、他の人に迷惑をかける心配もありませんからね」
 いやいや、だからって夜中に若い男と女が同じ部屋で二人っきりってのはどうよ? 子供の時ならまだしも、俺もうすぐ大学生だぞ?
「いやその……それは色々とまずいんじゃないか?」
「どうしてですか? もしかして……私と二人でいるのが、嫌なんですか?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ……」
 悲しみを顔に浮かべる葉月を前に、慌てて俺は彼女の言葉を否定する。すると一転、彼女の表情は明るいものとなった。
「じゃあ大丈夫ですね! 準備が終わったら呼びに来ますから、今夜を楽しみにしててください。では、私はこれで失礼しますね!」
「あっ、ちょっと……」
 言い終えると、流れるような足取りで部屋を出て行く葉月。その背中に向けて声をかけた時には、既に部屋の扉は閉まっていた。
(葉月のやつ、どうしたんだ? 何か、様子が変だったけど。まさか、誘ってるってわけじゃない……よな?)
 一人残された俺は首を傾げるが、その理由は思いつきそうにない。一体、葉月は何を考えているのだろうか。
(……まあ多分、夜になればわかるだろ)
 気を取り直すべく、俺は冷めかかっていた紅茶を一気に飲み干す。そして口の中にクッキーを放り込み、再び書類に取り掛かった。



 そしてその晩、俺は葉月に連れられて彼女の部屋へと向かっていた。俺の前を歩く葉月は、やはり様子がおかしいように見える。ほんのわずかだが、いつもに比べて動きがぎこちないような、そんな感じだ。本当に、どうしたというのだろうか。
「なあ、葉月。今日はいつもと様子が違うように見えるけど、何かあったのか?」
「そ、そうですか? 私としては、いつもどおりのつもりなんですが……」
(……むぅ。やっぱり変だ。何か緊張してるように見えるというか、そわそわしてるみたいというか……)
 少なくともただ俺の合格祝いをするだけなら、こんな風になるとは思えない。まさか、告白でもされるのでは……いや、流石にそれは自惚れが過ぎるというものか。葉月からすれば俺は、歳の離れた弟のようなものだろうし。
「ひょっとして、どこか体の具合でも悪いのか? もしそうだったら、医者に診てもらった方がいいんじゃ……」
「いえ、そんなことはありませんよ。でも、心配してくれてありがとうございます」
(ううむ、やっぱり違うか。まあ見た感じでは、体調が悪いって感じじゃないしな。けど、だったら一体何なんだ?)
 いくら頭をひねっても、納得のいく解答は得られそうにない。そうこうする内に、俺達は葉月の部屋の前に着いていた。葉月はドアの鍵を開け、ドアノブを捻り扉を開けた。
「ご主人様、お先にどうぞ」
「あ、ああ。それじゃ、お邪魔しまーす……」
 促されるまま、俺は葉月の部屋に入る。よくよく考えてみれば、葉月の部屋に入るのはこれが初めてだ。昔から親父の命令で、メイド達の部屋のあるエリアには行かないようにきつく言われていたからな。確か、メイド達にもプライバシーがあるのでみだりに入ったりしないようにとか言われた記憶がある。まあその命令をした本人はもういないし、今回は葉月の方から誘われたわけだから問題ないだろう、うん。
「へえ、葉月の部屋ってこんな風になってたのか」
「あ、あんまりまじまじと見ないでください。何か、恥ずかしいです……」
「わ、悪い。メイドの部屋に入るのはこれが初めてだから、何か物珍しくてな」
 葉月の部屋は、思っていたよりも広かった。部屋に置かれている家具類も、見た所それなりに上等な物のようだ。部屋の中央には小さなテーブルと座布団が配置されており、テーブルの上には皿に載せられたケーキが二つとシャンパンの瓶が二本、それにフォークとグラスが二人分置いてあった。恐らくは、葉月が用意したものだろう。
「ほら、座って座って」
「あ、ああ……それはそうと一応俺はまだ未成年だし、アルコールはまずいんじゃないか?」
「ご心配なく。ご主人様の分は、ちゃんとノンアルコールのものを用意しましたから」
 俺を座布団の上に座らせながら、得意げな表情を浮かべる葉月。俺より七つほど年上の葉月だが、こういった仕草は可愛いと思う。
「それじゃ、シャンパンを注ぎますね……よし、それじゃ乾杯しましょうか。ご主人様の大学合格を祝って、かんぱーい!」
「か、かんぱーい……」
 若干テンションの高い葉月に少々気圧されつつ、互いのグラスを軽くぶつけ合う。そしてそのまま、俺はグラスの中身を飲み干した。
「うふふっ……それじゃ、ケーキを食べましょうか。このケーキ、私が作ったんですよ」
「葉月のケーキか。道理で美味しそうなわけだ」
 用意されていたフォークでケーキを切り分け、口へと運ぶ。生クリームの甘い味が、口の中いっぱいに広がった。
「うん、美味しい」
「ふふっ、ありがとうございます。あ、グラスが空になってるじゃないですか。今、注いであげますね」
「ああ、ありがとな」
 ニコニコしながら、俺のグラスにシャンパンを注ぐ葉月。その頬はアルコールによるものか、ほんのりと朱が差している。何だか、すごく色っぽい感じだ。
 ……等と考えていたら、対面にいた葉月が俺の隣に移動を始めた。そして俺の腕に抱きつくと、しなだれかかるように身を寄せる。思いもよらぬ出来事に、俺は動揺した。
「ほらほら、ご主人様ももっと飲んでくださいよ~♪ さっきから、全然飲んでないじゃないですか~♪」
「ちょっ、そんなにくっつくなって! いきなりどうしたんだよ!?」
「ふふっ、いいじゃないですか~♪ ご主人様と、私の仲でしょ~?」
(は、葉月の奴どうしたんだ? ひょっとして、お酒にものすごく弱いとか? にしても、酔っ払うの早すぎだろ!?)
 少なくとも、葉月はまだ二、三杯しか飲んでないはずなのだが……シャンパンの度数が特に高いというわけでもないし、よっぽどアルコールに弱いということだろうか。
「むぅ~、飲んでくれないんですかぁ~? そんな意地悪なご主人様には、イタズラしちゃいますよ~?」
「わ、わかった! 飲む、飲むから!」
 葉月に密着されてどぎまぎしながら、俺は目の前のグラスの中身をぐいと飲み干した。それを見た葉月は、にんまりと微笑む。
「ふふっ、いい飲みっぷりですねぇ♪ ほら、もう一杯どうぞ♪」
「あ、ああ……」
 葉月に促されるまま、二杯、三杯とグラスに注がれたシャンパンを飲み干していく。その様子を、葉月はニコニコしながら眺めていた。
「ほら、まだ飲めますよね? じゃあ、もう一杯……♪」
「いや、そろそろ離れ……て……」
 不意に、視界がぐらりと傾く。同時に、急激な睡魔が襲ってきた。
(あ、れ……? なん、だか、急に……ね、む……く……)
「……ふふっ♪」
 そのまま、急速に意識が遠のいていく。失い行く意識の中、こちらを見て妖しく微笑む葉月の姿が見えた気がした。


(んっ……)
 まぶたの裏に明るさを感じ、徐々に意識が覚醒を始める。背中の下には、柔らかいクッションの感触。
(確か俺は、葉月の部屋で突然意識を失って……葉月がベッドまで、運んでくれたのか?)
 まどろむような感覚の中、俺は体を起こそうとした。だが、それは出来なかった。
(な、何だ? 手足が、動かせない……?)
 試しに動かしてみた所、指先の感覚はある。だが手首と足首の辺りに何かがはまっているようで、ベッドから体を起こす事はとても出来そうになかった。
(一体、何がどうなって……)
 僅かに残る睡魔を振り払い、俺はゆっくりと目を開ける。そして俺は、一瞬己が身に起きた事を理解できず固まった。
(…………えっ?)
「あら。目が覚めたんですね、ご主人様」
 見た所、俺がいるのは葉月の部屋にあるベッドの上のようだった。そしてその傍には、いつものメイド服に身を包んだ葉月の姿がある。まあ、ここまでは特に不自然な事ではない。
 ……問題は、俺の体がベッドの上で大の字に拘束されているという事だった。しかも、下着すら身に付けていない有様で。
「一応暖房は付けていますが、寒くはないですか? もし寒かったら、遠慮せず言ってくださいね。ご主人様が風邪でも引いたら、一大事ですから」
「あ、ああ。それは大丈夫……って、おい! これは一体、どういう事なんだ?」
 いつものようににこやかに接してくる葉月のペースに乗せられそうになりつつも、現状の理由を知るべく葉月に問いかける。まさか、葉月が俺を拘束したのか? この状況から察するに、そう考えるのが自然なのは確かだが。
「もう、そんなに怖がらないでくださいな。まあ、シャンパンに睡眠薬を盛ったのは私が悪かったと思いますけど」
 ちょっぴりすねたような口調で、葉月が呟きを漏らす。その言動から察するに、どうやら俺を裸にしてベッドに拘束したのは葉月で間違いないようだ。だが、一体何のためにこんなことを?
「実はですね。ご主人様の合格祝いに、私の身体で気持ちよくなっていただこうと思いまして」
「気持ちよく……って、えええええっ!?」
 葉月の言葉に、思わず俺は驚愕の声を上げる。葉月の身体で、気持ちよくって……それってつまり、そういう事、だよな?
「くすっ……♪ 多分、ご主人様の考えている通りで合ってると思いますよ。といっても、まず最初は刺激に慣れていただく事から始めるつもりですが」
「刺激に、慣れる?」
 言葉の意味が理解できず、首を傾げる。どういう事だろう。それは、俺が今ベッドに拘束されている事と何か関係があるのだろうか。
「ええ。失礼ですが、ご主人様はまだ童貞ですよね?」
「うえっ!? い、いやその、それはだな……」
 実の所、俺にそういう経験がないというのは確かな話だ。それどころか、俺はこれまで女と付き合った事もない。別に、俺がモテないというわけではないのだが……正直、寄ってくる中にまともな女性が全くと言っていいほどいなかったのだ。俺の親父は一代で財を築いた人物という事もあってか、色々と黒い噂があった。曰く、若い女を見つけてはメイド件愛人として囲っているだの、人身売買を行っているだの、どれもこれもロクでもない噂ばかりだ。そのため、息子である俺にもまともな女性は最初から近寄ろうとはしなかった。結果、俺の周りに集まる女性のほとんどは、金目当てで近づいてくるような輩ばかりという有様になったわけだ。流石に俺もそんな女性との付き合いはご免こうむりたかったので、幾度か告白は受けたが全て断っていた。
 ……ちなみに断った理由はもう一つあるのだが、それは後で言う事にする。
「ああ、別に責めてるわけじゃありませんよ? 誰にでも、初めてというものはあるものですから。けれどある程度刺激に慣れておいた方が、より満足のいく初体験が出来るでしょう?」
「そ、それはそうかもしれないが……いやでも、わざわざ拘束する必要はないんじゃないか?」
「いえ、それがそうでもないんですよ。こういった事はある程度時間をかけて行う必要があるのですが、最初の内はどうしても慣れない快感から逃れようとする人が多いそうです。ご主人様のように力が強い方だと、その拍子に誰かを傷つけたり物を壊したりする恐れもありますからね」
(そう、なのか……? 少なくとも、そこまで刺激が強いって話は聞いた事がないんだが……)
 俺は習い事の一環として小さい頃から空手と柔道をやっており、特に中高と部活に入っていた空手は高校の都大会で優勝、全国大会でベスト8まで行った腕前である。その為、腕力も同年代の平均に比べかなり強いと言えるだろう。まあだから、葉月の言う事が本当なら一応理屈は通っている事になる。あくまでも本当なら、だが。
「け、けど葉月はいいのか? その、相手が俺で……」
「私は構いませんよ。ご主人様の事、別に嫌いってわけじゃありませんし。まあ、ご主人様が私なんかが相手では嫌だと言うのなら、それはそれで仕方ないのですが……」
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
(正直そういう事なら、こっちからお願いしたいくらいです。はい)
 勘のいい方は既にお気づきかもしれないが、俺は葉月の事が昔から好きだったりする。というか中学の頃には既に、葉月を異性として意識し始めていた。今まで色々と辛い事や苦しい事があった時も、葉月の優しさと笑顔にどれだけ助けられた事かわからない。まあそもそもこれだけ美人で優しい年上のお姉さんが身近にいたら、そもそも意識するなという方が無理かもしれないが。
「……というか、葉月ってその手の経験が豊富だったりするのか?」
 俺の知る限りでは、葉月が男と付き合ったという話は聞いた事がない。だが葉月の様子を見る限り、とてもこういう事をするのが初めてには見えないのも確かだ。その辺りは、どうなっているのだろう。
「もう、ご主人様ったら。女性の過去を詮索するのは、マナー違反というものですよ?」
「ええー……」
 マナー違反て。というか、それはわざわざ女性限定にする事なのだろうか。一体男女平等の精神は、どこへ行ってしまったのだろう。
「さて、それじゃ始めましょうか。まずは、キスからですね。ご主人様、誰かとキスをした事はありますか?」
「い、いや。唇にされた事はまだないけど……」
 幼稚園の頃に母親や同じ組の女の子にキスをされた事はあるが、あれはどちらもほっぺにされただけだ。唇にキスされた事は、まだ一度もない。
「そうなんですか? ふふっ……じゃあご主人様のファーストキス、私が奪っちゃいます♪」
「え、ちょっ……んっ、んむ~~~っ!?」
 抗弁の声を上げるより早く、俺の唇は葉月のそれによって塞がれていた。それとほぼ同時に、生温かく柔らかい物体が口内に侵入してくる。それが葉月の舌だと気付いたのは、口の中での蹂躙劇が始まってからだった。
「んちゅっ、ちゅるっ、はぁむっ、れろぉっ……♪」
「んむっ、んっ、んんん――――っ!?」
(な、何だこれ!? き、気持ちよすぎる……っ!)
 葉月の舌が口の中で暴れ回る感触に、俺は思わず目を白黒させた。まるで俺の全てを貪り尽くそうとするかのような、ねっとりとしたキス。生まれて初めてのキスという事を差し引いてもなお、それは異様な程の快感をもたらしていたのだ。
「ちゅっ、れろれろっ、あむっ、んちゅっ……♪」
「んんっ、んんん――――っ!? んむぅっ、んんん――――――っ!?」
 十秒、二十秒と時間が過ぎても、葉月の口付けは終わらない。葉月の舌は俺の舌ににゅるにゅると絡み付いたり、上あごの辺りを舌先でれろれろとなぞったり、かと思えば舌の裏側にちゅうちゅうと吸い付いてきたりと、バリエーション豊かな動きを見せていた。責めてくるのは舌だけではない。葉月の口は時折俺の舌を引き込んで、優しく甘噛みしてくる。また、俺の口の中にはほのかに甘い液体――葉月の唾液が流し込まれていた。
「ちゅぱっ、じゅるっ、れろっ、ちゅっ、はむっ、じゅるるっ……♪」
「んんっ、んむっ、んむぅぅぅ――――――っ!?」
 まるで脳が蕩けそうな程の快感を受けながらも、拘束のせいで抵抗すら許されない。否、例え拘束されていなかったとしても、この快楽から逃れられたかは怪しい所だろう。それほどまでに、葉月のキスは気持ちよかったのだ。気付けば俺の意識は夢か現かもわからないような状態になっており、股間では未だ触れられていないにも関わらず、血液が集まったペニスが限界以上に屹立していた。
「ちゅるっ、はむむっ、じゅるるっ、れろれろぉっ……♪」
「んむっ、んむむぅぅぅ――――――っ!?」
(や、やばい……このままじゃ、キスだけで……っ! ああでも、気持ちいい……っ!)
 あまりにも長く続く、葉月のキス。それに対し、俺の体は既に白旗を上げようとしていた。身体の奥底から、白いマグマが込み上げてくる感覚。快楽に侵された脳が、射精を促そうとしているのだ。最早、放出は避けられそうにない……!
「んっ……っぷぁ♪」
「うあっ……!? はあっ、はあっ、はあっ……」
「ふふっ、私とのキスはそんなに良かったですか? もう少しで、このままイっちゃう所でしたね♪」
 その寸前で、葉月の唇がようやく離れる。ぎりぎりの所でお預けをくらい、俺は荒い呼吸を繰り返す。葉月の言う通り、後数秒あのキスを続けられていたら、俺は為す術もなく射精していただろう。しかし、どうして葉月はキスを止めたのだろうか。
「な、何で、途中で……?」
「あら、もう忘れちゃいましたか? これは、刺激に慣れる為の訓練なんですよ。だからご主人様には、もっともっと我慢してもらわないと」
(そ、そんな! これ以上我慢なんて、出来るはずないのに!)
 ギリギリの所で寸止めされたため、俺の肉棒は痛い程に張り詰めたままだ。その先端からは、ペニス全体を濡らすほど大量の我慢汁があふれ出している。今なら軽く指先で触れられただけでも、射精してしまいそうな有様だった。そんな俺の様子を眺めながら、葉月は妖しく微笑んでいた。
「うふふっ……ご主人様のココ、触ってもいないのにガチガチになってますね♪ これじゃ、ちょっと触っただけでイっちゃいそうです」
「あ、ああっ……!」
「もう、そんな情けない顔をしないでくださいな、これからちゃんと、触ってあげますから……ご主人様のココ以外を、ね♪」
 そう言うと、葉月は両手の指先で俺の上半身を、触れるか触れないかの距離を保ったままなぞるように触り始めた。くすぐったさと気持ちよさが半々くらいん、もどかしい感触。だが時間が経つにつれ、徐々に快感の比重が大きくなり始める。それに比例するように、俺の口から漏れる声は徐々に大きなものへと変じていった。
「あっ……うあっ、うっ、ふぁぁっ!?」
「ふふっ、気持ちいいですか? この触り方は、フェザータッチっていうんですよ。まるで、本当に羽根でくすぐられてるみたいな感触でしょう?」
 ニコニコしながら、俺の上半身に手を這わせる葉月。首筋や脇下、二の腕の内側や脇腹など、皮膚の薄く敏感な場所は特に重点的に撫で回される。だが先程のキスに比べると、それはあまりにも緩慢な刺激だった。これでは後何時間続けたとしても、決して射精には至らないだろう。
「は、葉月ぃ……! もっ、もう無理ぃ……っ! あっ、あああっ!?」
「もう、まだ触り始めてから五分も経ってませんよ。もうちょっと我慢してくださいな。ほら、次は下の方も触ってあげます」
 左手で俺の上半身を弄りながら、葉月は下半身にもう片方の手を伸ばした。その手が触れた場所は、股間――ではなく、ふくらはぎや太股の内側の辺りだった。この辺りも皮膚が薄いため、敏感な部位なのだ。そこを絶妙な手つきで触りまくられるのだから、たまったものではない。
「あっ、ふっ、ふあああっ!? やっ、やめっ……うあああっ!?」
「ほらほら、まだまだ行きますよ~♪」
 悪戯っぽく微笑みながら、俺の身体のあちこちを撫で回す葉月。その刺激により、刺激を与えられ続けているので一物が萎える事はないが、決してイく事も出来ない。そして手足を拘束された状態では、逃れる事も叶わない。葉月の愛撫の前に、俺はただただ身もだえする事しかできなかった。
「もっ、もうやめっ……ふああっ!? これっ、おかし、くっ……うああっ、あああああっ!?」
「あら、もう限界ですか? 本当はもう少しくらい、頑張れたりしません?」
「むっ、むりぃ……ああっ、うああっ、あうううっ!?」
 こんな責めをいつまでも続けられたら、気が狂ってしまう。そんな類の快感を前に、俺は屈服してしまっていた。葉月はそんな俺の様子を眺めながら、んー、と首を傾けて考え込むような素振りを見せる。
「……仕方ありませんね。それじゃ、『イかせてください、葉月様』って言ってください。そしたら、ご主人様をイかせてあげます」
「なっ……!? そっ、そんな事……うああああっ!?」
 葉月の口から飛び出した言葉に、俺は驚愕する。いくら何でも、そんな言葉を口に出来るはずがない。そう思い、俺は抗議の声を上げようとした。だがその瞬間葉月の手の動きが速いものへと変化し、快感でそれを無理矢理押し止める。
「あれ、言わないんですか? 言わないって事は、このまま続けてもいいって事ですよね。じゃあ、もっともっとご主人様の身体を撫で回してあげます♪」
「やっ、やめっ……くっ、あっ、あああああt!? くふっ、あああっ、ふあああああっ!?」
 手の動くスピードが上がると同時に、葉月の指使いも変化する。なぞるような動きに加え、時折肌に軽く爪を立てるような刺激が加わったのだ。さっきまでの刺激でも十分にキツかったというのに、緩急が付いた事でさらに責めがパワーアップしたのだ。かといって快感から逃れる事は出来ないので、俺には身をよじらせる事くらいしかできない。こんな事を延々と続けられたら、いつかは狂ってしまいそうだった。
「ふわっ、うああああああっ!? いっ、言うからやめっ……あああああっ!?」
「ふふっ、ちゃんと『イかせてください、葉月様』って言うまで止めてあげません♪」
 そう言って、俺の身体に手を這わせ続ける葉月。言う時くらいは止めてくれるのではないかと思ったのだが、どうやらその考えは甘かったようだ。最早、俺に残された手段はただ一つしかない。
「うあっ、あああっ!? いっ、イかせて……うくっ、うううっ!? くっ、ください……!」
「あら、それだけですか? それじゃあ、止めてあげる事は出来ませんねぇ」
「あっ、あああああっ!? はっ、葉月……様……っ! ふあっ、あああああっ!?」
 全身を葉月の魔手に苛まれながら、俺は屈服の言葉を口にする。だが、それでも葉月の手は止まらなかった。
「すみません、よく聞こえませんでした。申し訳ないですが、もう一度言ってくださいな♪」
「なぁっ……うっ、うあああああっ!? いっ、言ったのにぃ……あっ、あひっ、ひゃあああああっ!?」
「だから、聞こえなかったんですって。そういうわけなので、もう一度お願いしますね♪」
 ニコニコと微笑みながら、葉月は無慈悲な宣告を俺に下す。葉月の都合のいいように誘導されているのはわかっていたが、他に方法はなかった。
「くっ、ううっ……いっ、イかせてください! あっ、あああっ……!? はっ、葉月様!」
「うーん、まだ聞こえませんねぇ。ご主人様、もっと大きな声で言ってくださいな。それとも、このまま続けられた方がいいんですか?」
「ううっ、うあああっ……いっ、イかせてくださいっ! はっ、葉月様ぁ!」
 必死で快楽を堪えながら、言われるがままに声を張り上げる。それと同時に、葉月はようやくその手を止めた。生殺しの快楽から解放され、俺は荒い呼吸を繰り返す。
「ふふっ、よく出来ました♪ それじゃ、お望み通りイかせてあげます♪」
 葉月は笑顔のまま、俺のペニスへと手を伸ばした。最初のキスと全身愛撫により、既にそこは限界以上に張り詰めている。そんな俺の肉棒に対し、葉月はその指先で俺のモノの表面を撫で回し始めたのだ。
「うあっ、あああっ……あっ、あああああああ――――っ!?」
 あっけないほどあっさりと、俺は絶頂に達していた。同時に自分でする時よりも遥かに多い精液が迸り、葉月の手を汚していく。いや、手だけではない。葉月の着ているメイド服の袖口辺りにも、べっとりと白い粘液が付着していた。それだけ、精液の勢いが強かったのだ。
「ふふっ、軽く触られただけでイっちゃいましたね……♪ でも、お楽しみはこれからですよ」
「えっ……あふっ、ふあああああっ!?」
 イったばかりのペニスに対し、葉月の手が出した精液を塗り付けるように動き始める。射精直後で敏感になった肉棒を弄り回され、俺は悶絶した。
「もっ、もうやめっ……あぐっ、あああああっ!?」
「あら、遠慮しなくてもいいんですよ。さっき私にイかせて欲しいって、言ったばかりじゃないですか」
「もっ、もうイってるからぁ! ふあっ、ふああああああっ!?」
 俺の抗議をスルーし、精液塗れになったペニスを両手で握る葉月。サオの部分を握っている左手を上下に動かしつつ、右手は亀頭部分を握り左右に回すようにして刺激を加えてくる。生まれて初めての強烈過ぎる快感に、俺は大きな声を上げてのた打ち回った。
「やっ、やめっ……うあっ、あああああああっ!? やっ、ふああああああっ!?」
「ほーらほーら、気持ちいいですかー? このまま、もう一回イっちゃいましょうね~♪」
 笑顔のまま、俺のペニスを扱き続ける葉月。そうこうする内に、再び身体の内側から欲望が込み上げてきた。必死に耐えようとするが、それも空しく放出の準備は整っていく。
「もっ、もうっ……ぐっ、うああっ、あああああああああ――――っ!?」
 葉月の手コキに耐えられず、俺は本日二度目の精を放っていた。一度目と変わらぬほど多量の白濁が、葉月の手を汚す。今度は右手を先端に被せるようにしていたためか、精液が葉月の服まで飛ぶ事はなかったようだ。
「まだまだ行きますよ~♪ 今度は、ココだけ集中的に責めてあげます♪」
「やっ、はあっ、うあああああっ!? あうっ、ぐっ、はうううううっ!?」
 射精の勢いが収まるのと同時に、葉月は左手で肉棒の根元を押さえ、右の掌で亀頭部分を撫で回し始めた。敏感な場所だけに刺激を加えられ、俺は拘束されたまま身体をバタつかせる。
「どうですか、気持ちいいですか~? これ、すごく気持ちいいでしょう?」
「やっ、やめっ……はぐっ、ぐあああああああっ!? しっ、死ぬっ! 死んじゃう! うあっ、あああああああ!?」
「ふふっ、そんな簡単に人は死んだりしませんよ。だから、もっともっと楽しんでくださいな」
 笑顔を崩さぬまま、先端だけをぐりぐりと虐め続ける葉月。その快感は最早拷問と言っていいほどの強さだったが、サオの部分への刺激がないのでイけそうにない。先程の全身愛撫もイけないという点では同じだったが、快楽の質がまるで違っていた。さっき身体を撫で回された時の刺激は穏やかなものであったが、今度のそれはあまりにも激しすぎる。男を悶絶させる魔性の亀頭責めの前に、俺はよがり狂わされていた。
「やっ、やめっ……あはっ、はうううううっ!? あくっ、うっ、うふあああああああっ!?」
「ふふっ、気持ち良過ぎて辛いですか? もう止めて欲しいですか?」
 葉月の問いかけに対し、俺は必死で首を縦に振った。この刺激から逃れられるなら、何だってする。それほどまでに、俺は追い詰められていたのだ。
「そうですか……じゃあ今度は、『葉月様にイジめられるの、気持ちいいです』って百回言ってください。そしたら、手を止めてあげます」
「あっ、あああああっ!? はっ、葉月様にイジめられるのっ……うああっ!? きっ、気持ちいいです……っ!」
 一瞬は躊躇したものの、俺は葉月に促されるままその言葉を口にしていた。今の俺の頭には、この刺激から逃れる事しか存在しなかったのだ。
「はい、後九十九回ですよ~♪ ほら、頑張ってくださいね♪」
「はっ、葉月様にイジめられるのっ、気持ちいいです……っ! うっ、ふぅうううっ!? 葉月様にイジめられるのっ……ふあああああっ!? きっ、気持ちいいです……っ!」
 強過ぎる快楽に脳を焼かれながら、屈辱的な言葉を何度も繰り返す。そんな俺を見下ろしながら、葉月は楽しそうに亀頭を撫で回し続けていた。



「はっ、はづきさまに……うああああっ!? いっ、イジめられるのぉっ……ふっ、ふぁああああっ!? きっ、きもちいいれすぅ……っ!」
「はい、これでちょうど百回ですね。それじゃ、手を止めてあげます」
 最後の方は舌が上手く回らなくなりつつも、どうにか俺は葉月に言われた台詞を言い終えた。それを確認した後、ようやく葉月は亀頭を撫で回していた手を止める。強烈な快楽地獄からようやく解放され、俺は荒い呼吸を繰り返す。散々悶えさせられたせいか、体にほとんど力が入らない。まるで、全身が鉛のように重く感じる。今の状態なら例え拘束がなくても、葉月に押さえ込まれたら逃れられないかもしれない。
「うわぁ……ご主人様のお顔、よだれと涙ですごい事になってますよ。おちんちんの先っぽをイジめられるの、そんなによかったんですか? ふふっ……ご主人様の、ヘ・ン・タ・イ♪」
「――~~~~っ!?」
 葉月に耳元で囁かれるのと同時に、ぞくぞくっとするような感覚が全身に走る。それは決して不快なものではなく、むしろ快感とすら思えるような甘い疼きだった。
(な、何だ今の感覚!?)
「ふふっ、上手く効いたみたいですね♪ 言葉でイジめられて興奮しちゃうなんて……この、変態♪」
「――っ、――ー―~~っ!?」
 再び、背筋がぞくりとするような快感が体中を駆け抜ける。わけもわからぬまま、謎の快感に翻弄される俺。
(な、何が起こって……葉月に変態って言われた瞬間、急に気持ちよく……!)
「一体何が起こったのか、わからないって顔ですね。それじゃ、種明かしをしましょうか。ご主人様は、自己暗示というものをご存知ですか?」
「じ、自己暗示? それって、スポーツ選手とかがやってるようなやつの事か?」
 俺も武道をやっていたので、試合前にメンタルを保つために自己暗示の類をやった事はある。俺は強い、これまで一生懸命練習を頑張ってきた、だから勝てる。そういったプラスのイメージの言葉を繰り返し唱える事で、自分の持つ力を最大限に発揮できるようにする。それがスポーツにおける自己暗示の手法で、いわゆるマインドセットと呼ばれる技術の一つだ。とはいえその効果は個人差が大きく、俺はどちらかといえばあまり効かないタイプだったので、正直気休め程度の効果しかなかった。だから仮にこれが先程繰り返させられた台詞の影響によるものだとしても、これほどの効果があるとは考えにくいのだが……。
「ええ、そうです。普通の自己暗示はあまり効果がない事もあるそうですが、これは自己暗示が表層意識――つまり本人が意識している部分にしか影響を及ぼさず、その奥にある潜在意識にまで影響が及ばないためだそうです」
「な、なるほど……でも、それじゃこんなに効果があるのはおかしくないか?」
 前述の通り、俺には自己暗示があまり効果がなかった。だというのに、今回だけそれが効いたというのはいくらなんでもおかしい。もしそうだとすれば、何かタネのようなものがあるはずだ。
「ふふっ、いい所に気づきましたね。そう、通常は表層意識が働いている限り、自己暗示でそこまで大きな影響が出る事はありません。ですがこの表層意識というものは、場合によってはほころびが生じたりする事もあるんですよ。例えば、睡眠不足で意識が朦朧としてるような状態とか、何か一つの事にものすごく集中しているような状態だとか。あるいは……とても気持ちよくて、他の事が考えられないような状態とか……ね♪」
「っ!?」
(そ、そういう事かっ! さっき責めながらあんな事を言わせたのは、表層意識が弛んだ状態で暗示を刷り込む為……!)
 思えば、その前にイかせてくれなどと言わせたのもその為の布石だったのだろう。一度似たような事を言わせる事で抵抗感を無くさせてから、本命の言葉を口にさせたというわけだ。
「い、一体何の為にそんな事を!」
「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。私は、ご主人様が気持ちよくなれることしかしませんから」
 そう言うと、葉月はストッキングを履いた両脚を俺のモノへと向けた。そして土踏まずの辺りで、ペニスを両側から挟み込む。
「な、何を……」
「ふふっ……私の足で、ご主人様のココをイジめてあげますね♪」
「あ、足でって……うっ、うああっ!?」
 俺の言葉を待たず、葉月の足が行動を開始する。精液と我慢汁でベトベトになったペニスを、両側から足裏ですりすりと擦りあげ始めたのだ。粘液塗れになったストッキングの感触に、悶絶させられる俺。
「やっ、ああっ、ふああああっ!? あ、足なんかで……くっ、うああああっ!?」
「ほらほら、足でイジめられるの気持ちいいですか~? それじゃもっともっと、気持ちよくしてあげますね~♪」
「なっ……あああっ、うああああああっ!?」
 いくら気持ちよかろうと、足で大事な部分を弄ばれるなんて本来なら屈辱的に感じる行為だろう。だが今の俺はそんな葉月の責めに対し、ただただ感じさせられるばかりだった。無論それは、先程刷り込まれた暗示の効果によるものだろうが。
「ぐっ、あっ、あああああっ!? ふあっ、ああああああっ!?」
「ふふっ……『変態』なご主人様には、刺激が強過ぎましたか?」
「――ー―~~っ!? ああっ、ああああああっ!?」
 変態、の部分をわざと強調してそう口にする葉月。それがダメ押しとなり、身体の奥からまたも精液が昇り始める。
「くすっ……そろそろ限界みたいですね。じゃあ……イっちゃっていいですよ、『変態』さん♪」
「~~っ、――ー―~~っ!? もっ、もうっ……ふあっ、ああっ、あああああああ――――――っ!?」
 葉月の足責めの前に、またも俺は射精させられてしまった。三度目にも関わらず、白濁液が勢いよく飛び出して葉月の足裏を汚していく。葉月は一滴残らず精液を搾り出そうというかのように、そのまま足を動かし続けた。やがてペニスの脈動が終わると、葉月はようやく足を離す――と思ったその瞬間、葉月は右足で肉棒を正面から押さえ込んだではないか。
「ふふっ、足でイかされちゃった気分はどうですか? ねえ、『変態』さん♪」
「――ー―~~っ!? やっ、やめっ……あああああっ!?」
 射精直後のペニスを、葉月は右足でぐりぐりと踏みにじる。普段優しく接してくれていたはずの葉月に、足で嬲られる。そんな状況に、俺の身体は意思とは関係なく反応していた。
「ほらほら、『変態』なご主人様のモノが踏んづけられちゃってますよ。抵抗しなくていいんですか~?」
「――~~っ、――ー―~~っ!? あぐっ、うっ、うあああああっ!?」
 葉月の足裏が、肉棒全体をぐにぐにと刺激する。屈辱的なはずのその行為に、俺は為す術もなくよがらされていた。ペニスに走る甘い快感に翻弄されながら、ひたすらみっともない声を上げて身体をばたつかせる。そんな俺を見ながら、葉月は楽しそうに笑っていた。
「ふふっ、また足でイかされちゃうんですか? 足でイっちゃうなんて、ご主人様みたいな『変態』さんくらいですよね?」
「――っ!? ――~~っ!? うあっ、ああああああっ!? ふあっ、ああああっ、ああああああああっ!?」
「くすっ……イっちゃえ、『変態』♪」
 その言葉と共に、ペニスを刺激する足に力が込められる。一物をぐっと強く踏みつけられ、俺は限界に達した。
「やっ、ふあっ、あああああっ……あっ、あああああああああ――――――っ!?」
 四度目の射精。だというのに、精液の勢いはまるで衰える事がない。それどころか、むしろ増えているのではないかと思える程だった。
「またイっちゃいましたね。ふふっ……ご主人様、もう私に逆らえないんじゃないですか?」
「は、葉月……どうして、こんな事を……?」
 普通に考えるのなら、葉月がこれまで隠していた本性を現したと考えるべきなのかもしれない。だが俺は、そうは思いたくなかった。幼い頃から見知っていて、影沼と対立した時も俺の味方に付いてくれた葉月。そんな彼女が私利私欲で俺を裏切るような真似をするなんて、とても思えなかったのだ。
「そうですね……実は、ご主人様にお願いしたい事があるんです」
「お、お願い?」
 一体、どんな事を要求するつもりなのだろうか。まさか、家の財産を全部寄越せなどと言うつもりではないと思いたいが……この状況でずっと葉月に責め続けられたら、例えそんな要求をされたとしても拒めるかどうかわからない。何せ、こちらは暗示を刷り込まれた上に四肢を拘束されている状態。今ならばまだ断る事は出来るだろうが、このままずっと責められていたらいつまで理性を保ち続けられる事か。
「ああ、安心してください。ご主人様に、そんな無茶な要求をするつもりはありませんから」
「じゃ、じゃあ一体どんな要求を……?」
「私のお願いは、三つだけです。一つ目は、この部屋で起こった事を誰にも言わない事。まあ普通の人なら、女性にえっちな事をされてアンアン喘いじゃったなんて、恥ずかしくて言えるはずもないと思いますけどね」
 まあ、それはそうだろう。俺としても、こんな恥ずかしい体験をわざわざ誰かに吹聴しようとは思わない。正直、こんな事をわざわざお願いする事もないとは思うが。
「……わかった。それで、二つ目は?」
「二つ目はですね……今後私の部屋で二人きりの時は、私の事を『葉月様』って呼んでください」
「なっ!? い、いくらなんでもそれは……うあっ!?」
 抗議しようとした俺の口から、声が漏れる。葉月が右手で、俺の肉棒を軽く握ったのだ。葉月の手は、射精を終えて萎えかけていたそれをゆるゆると扱き立て、再び硬度を取り戻させていく。
「あれあれ? ひょっとして、嫌なんですか? さっき、何度も『葉月様』って言ってたじゃないですか」
「あ、あれは葉月が無理矢理……うああっ!? やっ、やめっ……くうっ、うううっ!?」
 にちゃにちゃと音を立てながら、ほっそりとした葉月の指が俺のペニスを弄り回す。その指さばきに翻弄され、俺は情けなく喘がされていた。
「何も、いつもそう呼んでほしいって言ってるわけじゃないんです。この部屋で、二人っきりの時だけでいいんですよ。ねえ、いいでしょう?」
「わ、わかった! わかったから、手を止め……ふあああっ!?」
「もう、違うでしょう? 『わかりました、葉月様』ですよ」
 子供をたしなめるような口調でそう言いながら、いやらしい音を立てて肉棒に指を這わせ続ける葉月。その魔性の手つきの前に、俺はたやすく屈服させられていた。
「うっ、うああああっ!? わっ、わかりましたっ! くうっ……はっ、葉月、様……っ!」
「ふふっ、ありがとうございます。それじゃ、三つ目のお願いを言わせていただきますね」
 半ば押し切られるようにして、俺は承諾の言葉を口にする。まあ、こちらに関してもそこまで大きな問題ではない。強いて言えば、俺のプライドが幾分か犠牲になる程度だ。好き好んでやりたい行為ではないが、この程度の条件ならばまだ許容範囲というものだろう。
(とはいえ、問題はここからだ。三番目は、一体どんな要求を……?)
 相手が受け入れやすい事から先に提案するのが、交渉における基本。この流れに沿うならば、三つ目の要求は恐らく本命と言うべきもののはずだ。もしあまりにも無茶な要求ならば、何とかしてでも断るか、最低でも譲歩を引き出さねばなるまい。覚悟を決めて、俺は歯d期の言葉を待った。
「最後のお願いですが……この件の特別手当という事で、五十万円をいただきたいのです。その際は振込みではなく、直接現金でお願いします」
「……えっ?」
 葉月の発した言葉に、正直俺は困惑を隠せなかった。無論、五十万という金額が大金でないと言うつもりはない。大卒の初任給に換算して、およそ二ヶ月強。決して、少ない金額でないのは確かだ。
(けど……それってここまでのリスクを犯してまで、求めるほどのものか?)
 葉月は、うちの家の副メイド長という立場にある。その分他のメイド達よりも、給料は多めに貰っていたはずだ。だがこんな事をしてもし失敗でもしたら、場合によってはその職も失う事にもなりかねないだろう。それを考えると、五十万という金額は到底リスクに見合っているとは言いがたい。
(リスクと天秤にかけるなら、少なくともゼロが一つ以上は足りないはず……何か、事情でもあるのか? それとも、後々また請求するつもりか? いや、そうだとしたら今度は金額が多過ぎる……)
「あ、あの……ご主人様?」
「……ん? ああ、悪い」
 俺が考え込んで押し黙っていたためか、不安そうな表情で葉月が声をかけてくる。とりあえず考えているばかりでは結論が出そうにもないので、まずは可能な限り質問をしていく事にした。
「えっと……いくつか、聞いてもいいか?」
「な、何ですか?」
 さっきまでのペースはどこへやら、やや緊張した面持ちでこちらに向き直る葉月。そんな彼女に向けて、俺は口を開いた。
「さっき五十万円って言ってたけど、それを払うのは今回だけなのか? それとも、こういう事をする度に五十万円が欲しいって事なのか?」
「そんなの、今回だけに決まってるじゃないですか。いくらなんでも、毎回五十万だなんて請求したりしませんよ」
 ふむ、やはりそうか。流石に毎回五十万という話なら断るつもりだったが、その心配は杞憂だったようだ。流石に自分でもありえないとは思ったが、いわゆる高級娼婦と呼ばれる女性の中には、それくらいの値段が付く人もいるらしいからな。まあ昔親父から聞いた話なので、詳しくは知らないが。
「じゃあ、次の質問なんだけど……その金って、今日中に必要とかだったりするのか?」
「いえ、そんな事はないです。でも、出来れば来週くらいまでには払ってもらえると嬉しいですが」
 うーむ……特に緊急性の高い事情がある、というわけでもないのか。だとすれば、身内が急病になり治療費が必要だとかいうようなケースでもないと考えられる。
「あ、あの……どうしてもという事なら、ちょっとくらいはまけてもいいですよ? そ、その……ご、五万円くらいなら……」
 俺の沈黙をどう解釈したのか、そんな言葉を投げかけてくる葉月。どうやら、彼女は交渉の類はあまり得意ではないようだ。これでは、どちらが主導権を握っているのやらわかったものではない。
「えーと、葉月? ひょっとして、何かお金が必要な事情でもあるのか? 身内の誰かが事故を起こしたとか、そういう話なら相談に乗るぞ?」
「え? い、いえ、そういうわけではないのですが……って、ご主人様! ここでは私の事は、葉月様って言ったでしょう?」
「あ、ああ。悪い、葉月……様」
「うんうん、それでいいんですよ」
 ……何なんだ、この状況。というか、俺の呼び名はあくまで『ご主人様』のままなんだな。まあ、変な呼ばれ方をされるよりはその方がありがたいが。
(けど、本当にどういう事なんだ? まさかとは思うが、俺とそういう関係になるのが目的? いや、だとしたら金を要求する必要なんてないはずだ。それに葉月の反応から察するに、ある程度まとまった金がいるのは確かみたいだし……けど緊急性があるわけでもなく、おまけに俺に相談するような事情でもない、と。葉月はどちらかというと浪費を好むような性格でないのは確かだし、ギャンブルの類で借金をこしらえるようにも見えない。後、わざわざ現金で直接払って欲しいってのはどういう事なんだ? 銀行振り込みだと何かまずい理由でもあるのか? うーん……ダメだ、さっぱりわからない)
「それで、どうなんですかご主人様? 特別手当、払ってくれるんですか?」
「ちょっ、近い近い! そ、そんなに引っ付くなって!」
「ふふっ、照れてるんですか? さっきまで、もっと恥ずかしい事してたじゃないですか」
 俺の顔を覗き込むような体勢で、ずいっと身を寄せる葉月。ちょうど二の腕の辺りに、柔らかいモノが二つ程当たっていたりする状態だ。正直、色々とたまりません。
「特別手当を払ってくれるのなら、これからもいっぱい気持ちいい事をしてあげますよ。ご主人様は、えっちな事はお嫌いですか?」
「き、嫌いじゃないけどさ。だからってその、こういう事はだな……」
 五十万くらいなら俺のポケットマネーから出せない事もないが、女性を金で買うような真似をするのには少々抵抗がある。ましてその相手が、葉月となれば尚更だ。とはいえ、葉月と――好きな相手とこれからもこういう事が出来るというのは、あまりにも魅力的な話。
「ねえ、いいでしょう? 私も、ご主人様の事は嫌いじゃありませんし……それに『変態』なご主人様は、私にイジめられたくて仕方ないんじゃないですか?」
「――~~っ!? ふっ、不意打ちはやめろって!」
「ああ、そうそう。さっきのご主人様みたいにイジめられて気持ちよくなっちゃう『変態』さんの事、何て言うか知ってます? うふふっ……『マゾ』、って言うんですよ」
 葉月に耳元で囁かれ、俺は全身を走る甘い快感に身を悶えさせる。『変態』だけでなく『マゾ』という言葉にも、俺の身体は敏感に反応してしまっていた。
 そしてそんな俺の反応を、葉月が見逃すはずもなく。
「あれあれ? 『変態』だけじゃなくて、『マゾ』って言われても反応しちゃうんですね。『マゾ』の快感、そんなに気に入っちゃいました?」
「――――~~っ、――――~~~~っ!? もっ、もうやめっ……」
「ふふっ、恥ずかしがってるんですか? 本当は『マゾ』って言われるの、嬉しいんじゃありません?」
 悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、何度も蔑むような言葉を口にする葉月。その度に、俺の体は意思とは無関係にビクビクと跳ねる。
「ねえ、『変態』で『マゾ』のご主人様。ご主人様が特別手当を払ってくれる気になるまで、耳元でずぅーっと……『マゾ』、とか……『変態』、とか言い続けてあげましょうか? ああ、でもこういうのは『変態マゾ』のご主人様には、ご褒美になっちゃうかもしれませんね
「――~~~~っ、――~~~~~~っ!? わ、わかった! 払う、払うからぁ!」
 脳すらも蕩けさせられるような言葉責めの前に、俺は屈服してしまった。まあ五十万なら払えない額でもないし、葉月には影沼の件で助けてもらった借りもある。五十万は、その分のボーナスだとでも思うことにしよう。
「ふふっ、ありがとうございます♪ それじゃ、いう事を聞いてくれたご主人様にはご褒美をあげないといけませんね」
「ご、ご褒美……それって、一体……?」
「うふふっ……私のお口で、ご主人様のおちんちんをイジめてあげます。少しだけ本気出しちゃいますから、頑張って耐えてくださいね」
(少しだけ本気を出すって……まさか、今までの責めは手加減してたって事か!?)
 あれだけよがり狂わされた責めの数々が、手加減されたものでしかなかったというのか。だとしたら、葉月の本気とは一体どれほどのものなのか……想像するだけでも、身震いしてしまいそうだった。
「それじゃ、お口でイジめてあげますね。あーん……はむっ♪」
「ちょっ、ちょっと待っ……! うっ、うあああああああっ!?」
「んっ……ちゅぱっ、れろっ、じゅぷっ、あむっ……♪」
 俺のモノが葉月の口に含まれた瞬間、俺は大きく身体を仰け反らせていた。葉月の口の中は温かく、唾液でぬるぬるとしている状態。そんな中で、恐らくは彼女の舌が縦横無尽にペニスの表面を舐め回してきたのだ。敏感なカリ首の辺りや鈴口、亀頭といった部分だけでなく、サオの部分も舌がれろれろと這い回り続ける。まるで葉月の口の中には無数の舌が存在するのではないかと思えるほど、ペニス全体がひっきりなしに責め立てられていた。
「うあっ、あああっ、あっ、ああああああああああ――――――っ!?」
 その感触に十秒と耐えられず、俺は本日何度目かの精を放っていた。堪えるという考えすら忘れさせるほど、葉月のフェラは気持ちよかったのだ。だが俺がイってもなお、葉月の口淫は止まる事がなかった。
「んっ、んんっ……じゅるっ、れろれろっ、じゅるるっ……♪」
「ふあっ、ふあああああああっ!? やっ、はあっ、はああああああああっ!?」
 射精直後のペニスを強く吸い上げられ、俺の口から大きな喘ぎ声が溢れ出す。葉月は俺が出した白濁液を吸い上げながら、敏感になっている肉棒に舌を這わせ続けていた。まるでどうすれば男が感じるかを知り尽くしているかのような動きで、葉月の舌は俺のモノを嬲り続ける。
「うあああっ、あっ、ああああああああああ――――――っ!? あひっ、ひぃゃああああああああっ!?」
「んんんっ……じゅぷっ、じゅるるっ、じゅぽっ、じゅぷぷっ……♪」
 そんな責めに屈するように、再び射精。だが、それでも葉月は責めを止めようとはしない。いやらしい音を部屋中に響かせながら、それ自体が生物のように蠢く舌で、きゅっとすぼめられた形のいい唇で、温かくぬめぬめとした感触の頬肉で、俺のペニスを一方的にイジめ続ける。それはまさに、葉月の口に犯されているとでも言うべき状態だった。
「あああっ、あふっ、あっ、あああああああああああ――――――っ!? ひぐっ、ふあああっ、あああああああああっ!?」
「んっ、んんっ……♪ じゅぷっ、じゅぷぷっ、れろれろれろっ、じゅるるっ……♪」
 三度、四度と射精しても、葉月のフェラは止まらない。口内に出された精液を美味しそうに飲み込みながら、あまりにも激しく淫らな口奉仕を続けるのだ。普通ならこれだけ立て続けに射精すれば、勃起を継続する事すら困難なはず。だが葉月の口に包まれているだけで、俺のモノはまるで萎える気配がなかった。射精前と同等かそれ以上に硬く張り詰めた肉棒を葉月の口に犯され、俺は最早拒絶の言葉一つ満足に口にできない。俺の頭の中は、既に葉月の口がもたらす快感で支配されてしまっていた。
「じゅるるっ、はむっ、ぺろっ、じゅぷぷっ……♪」
「あっ、あっ、ああああああああああっ!? ふっ、ふああああああああああ――――――っ!?」
 イってもイっても、葉月は口を離そうとはしない。際限なく吐き出される精をこくこくと喉を鳴らして飲み下し、同時に口の中全体でペニス全体を弄び続ける。葉月の口はまるで、精液だけを吸い取る為に存在する底なし沼のようだった。
「んっ、じゅぷっ、じゅぷぷっ……♪ ぺろっ、はむっ、れろれろっ、じゅるるるるっ……♪」
「あうっ、うああっ、あああっ、ああああああああああああ――――ー―っ!?」
 口だけでイかされた回数が二桁に達しても、葉月の口技はとどまる所を知らない。否、それどころか時間が経つにつれ、さらに激しいものへとなっていく。幾度も幾度も精子を搾り取られ、俺の意識は次第に遠のいていった。
「んぷっ、じゅぷぷっ、れろれろっ、んちゅっ……♪ じゅるっ、じゅるるるるっ……♪」
「んあっ、あああっ、あひっ、あっ、ああああああああああああ――――――――っ!?」
 十何度目かの射精の後、俺はそのまま意識を失った。



「んっ……すぅ、すぅ、すぅ……」
「うん……これでよし、っと」
 精液が飛び散ったシーツなどを片付け、彼女――霜村葉月はそう口にした。ベッドの上では彼女の主である黒川誠司が、静かな寝息を立てて眠っている。彼の身体に付いていた体液等は、既に葉月の手によってふき取られていた。風邪を引かないようにと毛布を被せた後、葉月はベッドの傍にあった椅子へと腰掛ける。
「えーと……最初はこのぐらいで大丈夫だった、よね? ちょっ、ちょっとペースが早かったかもだけど、これくらいじゃないと間に合わないかもしれないし……」
 他に聞く者がいるわけでもないのに、そんな言い訳めいた言葉を口にする葉月。
「それにしても……すっかりたくましくなっちゃったけど、寝顔は昔のままですね。ふふっ、ご主人様ってば可愛いなぁ……♪」
 にへら、と表情を弛ませながら、誠司の寝顔を見つめる葉月。その表情からは、紛れもない好意が窺える。
「っと、そろそろ寝ないと明日持たないかな……」
 そう言うと、葉月は身に付けたメイド服を脱いで下着姿になった。そして脱ぎ捨てた服を椅子にかけ、毛布をめくり上げて誠司の隣に体を滑り込ませる。
「ふふっ……おやすみなさい、ご主人様。いい夢、見てくださいね」
 誠司の体に両手を回し、ぎゅっと抱きついた体勢で目を閉じる葉月。そしてそのまま、しばらくの時間が過ぎた……の、だが。
(あ、あれ? どうしよう……何だかドキドキして、眠れないかも……うう、明日も朝から仕事なのに……)
 ぐっすりと眠っている誠司とは対照的に、中々寝付けない様子の葉月。そんな二人に構うことなく、夜は更けていくのだった。     (続く)




※2014.12.08 修正