『あたしが応援してあげるッ -LOVE TRIANGLE-』
~~~ 千夏の昼休み ~~~
昼下がりの生徒会室で私、須田千夏(すだちなつ)は重大な決断を迫られておりました……。
「どうしても引き受けてもらえないかしら?」
「それは……」
先程から何度もこの繰り返し。
目の前で眉根を寄せて、しかし優しげな瞳で私を見つめるのは現生徒会長である天川夏蜜(あまかわなつみ)先輩。
彼女は一ヶ月後、この学園から海外の姉妹校へと転籍するのです。交換留学生として。
頭脳明晰、容姿端麗……そして何より生徒会の仕事も熱心で、尊敬と憧れを一身に背負っている学園一の才女。彼女が学園代表なら誰も文句は言えないでしょう。
その夏蜜先輩から直々に大事な話があると言われ、半ば覚悟していた通りの展開に。しかし私は簡単に首を縦に振れないでいました。
「私ね、日本を発つ前に心配事がふたつもあるの。だから貴女に託したい。ひとつ目のお願いは、生徒会長を引き受けてほしいの」
夏蜜先輩の願いはそれでした。もう一つのお願いはまだ聞いておりません。
副会長という立場でなら彼女を補佐する仕事をまっとうする自信はあるけれど、自分自身が生徒会のトップだなんておこがましいと考えております。
だって私には……そんな資格はないですから。
「とにかくよく考えてちょうだい?」
夏蜜先輩は少し困ったような笑顔で私に優しく言葉をかけてくれました。
「はい……それはそうと、天川先輩からの頼まれごとは先ほど終わりましたわ!」
「素早いのね! 助かるわ。千夏さんお疲れ様」
ああ、この言葉に癒やされる。でも、もうすぐお別れなのですね。
他の生徒と同じく、私にとっても彼女は憧れの存在。少しでもお近づきになれたことだけでも嬉しいのに、優しい言葉を掛けてもらえるなんて。
「私、ちょっと席を外すわね……いいかしら?」
「いってらっしゃいませ」
「うふふ、千夏さんに送り出されると嬉しいわ。私は経験無いけど『メイド喫茶』のメイドさんに送り出されるお客さんって、こんな気持になるのかしら?」
「へっ? ひゃ、ひゃああっ!?」
先輩の口から出た意外な言葉に思わず机の上の書類を崩してしまいそうになる。
「ど、どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんわ……」
笑顔でその場を取り繕うと、夏蜜先輩は小さく笑って生徒会室から外へ出て行った。
メイド喫茶なんて言葉、夏蜜先輩はどこで覚えたのかしら?
◆
ひとりきりになった部屋の窓から外を眺めてみると、制服姿の男子や女子がパラパラを歩いているのが見えます。
特になんでもない光景ですけど、私はこの時間が好きなのです。
「あら? あれは……花鈴さんかしら」
校庭の隅の方でポニーテールの女子生徒が目につきました。後ろ姿にも華やかさは現れるものです。
彼女は木村花鈴(きむらかりん)。
私と同じ学年で、テニス部に所属しています。
男子生徒に非常に人気があり、先日は彼女に対する盗撮が問題になったほどです。
私は本人と面識がないわけでないので彼女の性格を把握しておりますけど、夏蜜先輩とは別の意味で女性的な花鈴さんは、自分に自信がないと言ってました。
話を聞いてみると、主に容姿についてのことらしいけど、私にはよく理解できませんでした。
あれ以上、何を望むのでしょうか。
女性の目から見ても欠点は見当たらないというのに。
なにより彼女は私にとって――、
「えっ、嘘でしょう!?」
その時、突然彼女が駈け出しました。思わず視線で追うと、校庭の隅でのんびり歩いていた男子の隣へ並びました。
花鈴さんは歩調を合わせるようにして彼と語りだします。もちろん会話は聞こえませんけど。
「花鈴さんがあんな嬉しそうな笑顔で接するなんて。隣の男子は何者かしら」
人気者の彼女には男子との下品な噂話はありません。
それがまた彼女の清純さを演出している要因にもなっているようです。
風紀委員としても活動している私はそういった情報には鋭い方なのです。
それにしても彼女の方から駆け寄るほどの男子。正直とても気になりますね。
残念ながらその相手の顔は見えません。
仕方ないのでその後姿だけ記憶しておきましょう。
しばらくして視線を元の位置に戻すと、陸上部が練習を始める準備をしていました。
「あっ……♪」
その中で私は意中の人を見つけました。
他の誰よりも輝いている彼女は、今日も入念に柔軟体操をしています。
ジャージを脱いで身軽になってから、短く結んだ髪を揺らして軽快に走り始める姿を見ているだけで……もうダメ、眩しすぎる。
「柚子様 走る姿も 麗しい ……フッ、一句できましたわ」
本日の一句、終了。
彼女の名は大島柚子(おおしまゆうこ)さん、いいえ柚子様。
一度もまともに話したことは無いけど、廊下で私が書類をばらまいてしまった時に助けてくれた優しい人。
笑った時に見え隠れする小さな八重歯に惹かれ、彼女のことを必死で調べました。
その結果、さらに素晴らしさへの理解が深まります。
学年は私と同じ。
陸上部に所属していて、かなりの俊足。
地区大会のベスト4に数えられるほど。
それにどうやらお兄様がいるみたい。
彼女と仲良くなりたい――それがこの夏の、私の目標。
「ああ、柚子様……柚子さ……」
ガララッ
「副会長ー! おつかい業務、終わりましたッ」
「ひゃあああああああああ! ノックなしでの入室は認めませんよ、りんごちゃん?」
「はううぅ、ごめんなさいです副会長」
私の妄想タイムを強制終了させた罪なこの子はりんごちゃん。
ほっぺがいつも赤いからそう呼んでいるんだけど、照れ屋さんなのかしら?
今季に入って生徒会で欠員が出た時、ちょうど入れ替わりで志願してきた従順な子ですの。
与えられた任務は一生懸命こなしてくれるからほんとうに助かってるし、先週から正式に書記を任せることに決めました。
本人もとても喜んでくれたみたい。
「謝ってもダメよ。今日はもうご褒美なし!」
「うえええええええぇぇ! ひどいです副会長~~~」
急に泣き出しそうになるりんごちゃんを眺めているだけで、サディスティックな感情をじわじわと味えます。
もっと苛めたくなっちゃうけど、今は柚子様を見つめていたい。
「りんごちゃん」
「はいっ!」
「悪いけど女子テニス部の部長・木村花鈴さんのところへこの手紙を届けてくれないかしら? 中身は部活動の予算について」
「わかりました!」
予め用意していたテニス部への通達書を渡すと、りんごちゃんは忠犬のようにダッシュで部屋から消えていきました。
あの子、結構足が速いのかも。別にどうでもいいけれど。
ガララッ
ふいに何の前触れもなくドアが開きました。
席を外していた夏蜜先輩が戻ってきたと思い振り返るとそこには……
「千夏、誰を見つめていたのかしら……」
「ひっ、ひいいいいいい!? か、花鈴さん!」
窓の外で謎の男と一緒に視界から消えたはずの木村花鈴さんが立っていました。
しかもなんだか、目つきが険しいというかとにかく怒ってるみたい!?
コツコツコツ……
ゆっくりとこちらに歩いてくる彼女を見ながら、無意識に私は後ずさりしてしまいます。
(あああぁぁ、このままじゃ私……花鈴さんに――)
ガクガク震えそうになりながらその場で固まっているのが精一杯です。
そっと伸ばされた彼女の指先が私の頬に触れると、顎を無理やりクイッと持ち上げられ、目と目が合う……合わされてしまいます。
瞳の中に吸い込まれたみたいで身動きがとれません。
そして少し笑みを浮かべた彼女の唇が私のそれに重なっ――
チュル……チュ、ウウウゥゥゥ…………
誰もいない生徒会室で、私は彼女に心を犯されました。
これでもう何度目かはわからないけど、彼女は私にとって逆らえない存在。
かねてから淫らな行為に興味があった私に、知識と快感を与えてくれる女性……木村花鈴さん。
誰も居ないはずの図書室で、こっそりエッチな本を読んでいたところを発見されて以来、私は彼女のしもべ。
弱みを握った彼女は、誰にも口外しないと約束してくれました。
その代わり、花鈴さんは私を使って快楽実験を行います。
私が堕ちる姿を見て興奮しつつ、自分のテクニックを磨いているようです。
彼女とはお互いを支え合う関係。そこに愛情はないけれど快感はある。しかし逆らえない……。
そんな彼女が静かに口を開きます。
「さっきね、背中に視線を感じたの。あれって貴女でしょう?」
にっこり笑いながらこちらを睨みつける花鈴さんに思わず戦慄する私。
なんなのですこの人、なぜわかったの?
窓の外から彼女の板場所まで100メートル以上離れているというのに!!
「ふあああぁ、申し訳ありませんわ……」
蕩けそうなキスの余韻に浸りながら、いつしか私は彼女を見つめる目に涙を浮かべていました。
「彼と二人きりの時間は自由にしてほしいの。だからこれは久しぶりにお仕置きだよ?」
花鈴さんの手が胸元にリボンをほどいて、私の制服を優しく脱がせ始めます。
柚子様のことを思いながら、私は花鈴さんからの制裁を……
~~~ 千夏の昼休み ~~~ (了)
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