――全ての色と欲を満たす迷宮が、そこにはある。
 この言葉に導かれ、この地に足を運んだ人々は一体どれくらいいるのだろう。
 僕もその一人であることに違いはないのだけれど、僕の目的は性欲でも名誉でもない。
 迷宮に眠るランクAの秘宝「万能薬」が欲しいんだ。
 それさえあれば、こんな血なまぐさい剣や鎧なんて次の日には脱ぎ捨てているというのに……。
「お前さん、新顔だね?」
「はい、おじさん」
 道具屋で旅支度をしようとしていたら、店主らしい年配の男性に声をかけられた。
「おじさんではない! ボッタクルじゃ!!」
「は、はぁ……でもここは『フンダルク商店』では?」
「フンダルクはわしの弟じゃ!!」
 言葉遣いは荒っぽいけど、親切そうなボッタクルさんと会話しながら装備を整えた。
 そしていよいよ迷宮の入り口へ到着。
(このカエルの象はなんだろ?)
 軽い疑問を抱きつつ、ひんやりとした空気が流れる階段を降りていく。
――それから1時間後。
「あ、あれ……こんな筈はないんだけどな……」
 冒険者としては駆け出しである僕がこんな場所までノーダメージで来られるわけがない。
 でも全く敵の姿は見当たらない。
 僕は警戒しながらこの「欲望の迷宮」のさらに奥深くへと進んでいく。
「本当に静かだ……」
 敵の影が全く見えないわけではない。
 死闘を繰り広げたような跡もあるし、気持ち良さそうに倒れている人もいっぱいいる。
 しかし下級魔族であるフェアリーすら出てこない。
 フロアを守っているガーディアンなどの気配もなく、第一階層に続いて第二階層までもすんなりと通過してしまった。
 そして第三階層。今までと少し違った空気の流れを感じる。
(ここには敵がいる……!)
 僕の直感に響く何かが近づいてくる。もっとも、ここまで無傷でこれた事自体が奇跡なのだ。
 でもここまで来たからには、秘宝を手に入れるまで……
「ん? なんだこれは」
 僕の目の前に、白くてフワフワしたものが漂っている。
 空気に揺らめきながら、ゆっくりと床に落ちたそれを手に取る。
「羽……?」
 それは鳥の羽よりも重みがあって、しっかりとした手触りだった。
「もしかして天使の羽とかだったりして……」
 手にとった羽を左右に振ってみる。
 すると……摘んだ指先に何らかの力が伝わって、僕の手首が浮き上がりそうになった。
 本当に天使の羽かもしれないな。
「どうされたのですか?」
「うわああああああああああああ!」
 いきなり耳元で女性の声がした。
「そんなに慌てなくても……」

 ドキドキしながら振り返ると、そこには白く輝く衣装をまとった美女がこちらを見て微笑んでいた。
 流れるような金色のストレートヘアと、同じく金色の瞳。
 透き通るような肌の色と、見ているものを和ませる穏やかで魅力的な表情。
 そして背中には大きな白い翼……
「もしかして天使……様?」
「はい、そう呼ばれております」
 あっさり自分が天使だと認めちゃった!
 いや、本当に天使なのだろう……じゃあこの僕が手にしている羽も、あなたの物ですか?
「あら、はずかしいです……」
 彼女は少し頬を染めながら、僕の手の中にある自分の体の一部を見つめている。
「せっかくですから差し上げますわ」
「ありがとうございます!」
 天使の羽なんてめったに手にはいらないぞ。
 これをお守りにすれば、この先の旅もきっといいことがあるはず。
 少し嬉しそうな表情をする僕を見て、天使はいささか不安そうに尋ねてきた。
「ところで、こんな深くまで迷い込んでしまったのですか? もしよろしければ地上へ転送して差し上げましょうか」
「いいえ、お気遣い無用です。僕はこう見えても冒険者なので、この先に進みます」
「あなたが冒険者? まさか秘宝を求めてこの奥に進もうとしているのですか」
 天使は驚いている。そんなに僕って頼りなく見えるのかな……。
「はい、欲しい物がこの迷宮にあると聞いて……」
「見かけによらず勇敢なのですね。もっともここまで進んで来きたのなら、その実力も確かなのでしょうが」
「いいえ、それほどでも」
 まさかここまで一度もモンスターに遭遇してないなんて言えない。
 しかし天使の次の言葉に、僕は激しく戦慄した。
「この先に進むには私を倒していく必要がありますね。あなたに出来ますか?」
「あなたを……倒す!?」
 戸惑う僕の姿をじっくりと見つめながら天使は言う。
「その武器……性的な攻撃力が高そうです。そして防具は魔力を弾く効果がありそうですね」
「!!」
 正しい分析だ。ボッタクルさんおすすめの装備をひと目で見抜くとは。
「でもあなた自身はどうかしら? クスッ♪」
「バ、バカにしないでくださいっ!」
 天使の挑発に思わず僕は剣を抜いた。
 しかし特に怖がる様子もなく、彼女は背中の翼をフワリと広げただけだった。
「男の子が必死になる表情はたまらないものがありますね。私も全力でお相手いたしましょう」
「怪我をしてもおおおっ!」
 掛け声とともに僕は剣を振るう。
「知りませんからねっ!!」
 天使は微笑みながら、その切っ先をひらりと交わす。
「くそっ、うおおおおおおおおおお!」
 振りぬいた剣をそのままなぎ払い、天使の首を狙う。
 だが当たらない。
 まるで動きを先読みしているかのように、天使は僕を見つめたまま攻撃をかわし続ける。
 数十回空振りを繰り返したところで、僕は攻撃を止めた。
「あら、もう息切れですか?」
「ハァッ、ハァッ……まだまだ……これからです!」
「なかなか当たらないものですね……うふふふふふ」
 ストン、と天使が床に足をつく。
 そして僕の顔色を覗きこむようにこちらをじっと見つめている。
 疲労の色が隠せない。早く回復しないと……!
「そろそろ反撃に移るとしましょうか」
「えっ!」
 それは本当に一瞬だった。
 翼で羽ばたいたわけでもないのに、一瞬で彼女は僕の身体を抱きしめてきた。
「ぐうううっ!」
 特に苦しさはないけど、急すぎて身体が反応できない。
フワリ……
 彼女の翼が柔らかく僕の背中を包み、ぼんやりと白く光った。
「どうしました? あなたの間合いですよ」
「一体何を……!」
「徐々にですが体力も回復していきますね。じっとしてれば全快しますよ」
 その言葉通り、身体の疲れが引いてゆく。
(なぜこんな……敵を回復させるような真似を!?)
 少しの間だけ気が動転していたが、僕はひとつの結論に達した。
 天使はきっと、僕の力を見て嘲笑っているんだ。
 そう考えれば納得いくし、それに闘志も湧いてくる。
「うわああああああああああ!」
 僕が暴れだそうとするのを察して、天使は再び距離をとった。
「勇ましいのですね」
「僕を回復したことを後悔させてあげます!」
 しっかりと両手で剣を握ると、僕はさっきよりもコンパクトな動きで攻撃を繰り出した。
 これなら当たるはずだ。
「どうしました? また同じ攻撃を繰り返すのですか?」
 ……当たるはずなのに!
 3回、4回と空振りの回数が増えてゆく。
 決して遠いわけではないのに、ギリギリのところで剣の間合いを避けられている。
「こ、このおおおお!」
「クスクスッ♪」
 焦った大ぶりになったところを、天使が一気に間合いを詰めてきた。
 そして振り上げた僕の手首に、そっと自分の手を重ねた。
「ああぁっ!」
「うふふ、掴まれちゃいましたね。太刀筋が単純なので、つい私も手を出してしまいました」
 軽く手を添えられているだけなのに、剣が振り下ろせない!
 いや、それどころか身体の事由が奪われたみたいに全身が……動かせない。
「これが今のあなたと私の力量の差だと思いませんか?」
「だ、だまれ……!!」
「失礼しました。さて、また反撃させてもらいましょうか」
「!?」
 柔らかな翼が僕を包み込む。
 そしてまたぼんやりと白い輝きを放ちつつ、体力が回復させられていく。
 僕を抱きしめながら、天使が尋ねてくる。
「なぜこの天使は攻撃してこないのだろう……そんなことを考えていませんか?」
「ぐうっ……!」
「それはきっと、私の攻撃が見えていないからです」
 攻撃? これが……? 彼女の言葉の真意が読み取れない。
 敵の間合いに入って、敵を回復させることしかしていないというのに。
「私の目には、あなたはどんどん敗北に近づいているようにしか見えませんが?」
「な、なんだとっ! は、離せっ!! 離してくださいっ」
「ふふっ、残念」
 僕が喚き散らすと、あっさりと天使は距離をとった。
「そろそろ本気でかかって来て下さい。私もあなたにとどめを刺してあげますから」
 明らかに僕を格下に見てる……許せない!
「じゃあお見せします。はあああああぁぁぁぁぁっ!」
 ありったけの力を開放して、剣に込める。
 僕が出せる最高の剣技・烈虹剣を彼女に叩きこむ。
「今、剣先が光りました! それがあなたの必殺技なのですね」
「うわああああああああああああああ!!」
 気合とともに斬りかかる。
 これは一撃必殺の剣技だから、防御など考えなくていい。
 かすれば倒れるはず……!
シュパッ!
「なっ……」
「強力な技みたいですが、これは無効です。私と同じ属性の技ですから」
 僕の必殺技が空を斬った。
 天使は距離をとってかわそうともせずに、僕の攻撃を受けた。
 その結果、僕は彼女の羽一枚も落とすことができなかったのだ。
「さて……予告通り、とどめを刺してあげます」
 金色だった彼女の瞳が真っ赤に染まっている。
「ひいっ!」
 この時になって僕は初めて彼女の怖さを思い知った。
 天使は初めから知っていたんだ……僕が自分にとっての脅威でないことを。
(僕はなんて愚かなんだ……)
 天使という至高の存在に剣を向けたことへの後悔と、今の自分では全く太刀打ち出来ないレベルの敵に挑んだ自分への怒り……いろんな思いが交差する。
 天使の腕が持ち上がり、すっと僕を指さした。
「こちらへおいでなさい?」
「……あっ!」
 彼女に命令された瞬間、僕の身体……首から下の感覚がなくなった。
「どうですか。知らぬ間に身体を支配されていたなんて、思いもよらなかったでしょう」
 天使の妖しいほほ笑みに導かれるように、僕の身体はゆっくりと歩き出す。
 そこには僕の意思は存在していない。
「う、うそだ……こんなの……!」
「そのまま膝をついて……そう、よくできました」
 まるで絶対服従を誓うように、僕は膝をついて天使を見上げている。
 そして彼女は自らの背中から数枚の羽を取り出して、僕に見せつけた。
「この羽の先が鋭くなっているのがわかりますか? これを今からあなたの身体に刺してあげます」
 彼女が羽の先端を、そっと口に含んでペロペロと舐め回す。
 ピンク色の舌先が丁寧に羽を舐める仕草は非常にエロティックだ。
「ん……ふふっ、あなた自身が舐められているみたいでしょう?」
「……!」
「たっぷりと魔力を乗せた羽が、あなたの身体の上で星形を描いた時、極上の罰と共にあなたは地上に転送されてしまうのです」
トンッ
「あ……うわああっ!」
 全く力の入らない状態で、僕は彼女に押し倒された。
「まずはここを……」
 天使の羽が僕の右腕の付け根に突き立てられた。
「ぐああぁっ!」
「次は反対側……ふふふっ、痛くないですよね?」
 確かに痛みはない。痛みはないのだが、突き刺さった羽から力を吸い取られていくのが判る。
 彼女はゆっくりと、僕の両手を両足の付け根に羽を刺してゆく。
「これで最後……」
 最後に体の中心に羽が突き刺さった。
 だがそれだけだ。激しい痛みもなければ、地上に転送される様子もない。
「不思議ですね? まだここにいるなんて。ですが、最後の一手をまだ私は打っておりません」
「な、なんだって……!?」
 彼女は僕の顔の前で手のひらを開いてみせた。
「すっかり膨らみきってしまったあなたの股間を、天使の名において鎮めて差し上げます」
 そして見せつけるように手のひらをゆっくりと下ろしていく。
「や、やめ……あっ、あああああああああああ!」
 しっとりとした感触がペニスを優しく包み込んだ。
「私の手の感触はいかがですか」
 まるでさっきまでの羽とは逆に、僕の感じやすい部分が徐々に鮮明になっていく。
 彼女の指先に触れられた場所が最高に気持ちよくて、もっともっと触って欲しくなってくる。
「このまま昇天……してしまっても悔いはないですか?」
 その問いかけに静かに頷く。
 美しい彼女の顔を見ながら、ゆっくり重ねられる愛撫に意識が溶かされていく。
 真っ白な肌や、つるつるした指先だけではなく、ほっそりとした首筋や、柔らかそうなバストも魅力的だ。
 このまま彼女に身を委ねたい……。
 際限なく高められた欲求が捌け口を求めてさまよっている。
「そろそろ終わりですね。この可愛らしい性器から漏れだす精力が、私に更なる力を与えてくれることでしょう」
クニュッ、チュクッ、クチュクチュクチュ…………♪
「あっ、あっ、ああぁ!」
「かわいい鳴き声ですね?」
 亀頭を三本の指で弄ばれると、ついに僕は我慢できなくなってしまった。
「ふあああぁぁっ、出るッ! このまま出ちゃうううう!!」
「安心してお出しなさい。あなたの生命のかけらを」
ふにゅううっ!
 柔らかなバストが僕に押し当てられ、天使様の唇が僕に触れた瞬間――
ドッピュウウウウウウウウウウウ!!
「んふうううううぅぅ!」
 目をつむって必死に射精を堪えても無駄だった。
 身体中から力が抜けて、彼女に抱きしめられる。
「いい子ですね……もっともっと捧げて下さい……」
 そして射精後もゆっくりと愛撫は続けられて、時間をかけて身体中の精液が抜き取られてしまった。
「こんなにたくさん吐き出すなんて……素敵です」
 すっかり快感で骨抜きにされた僕の見ながら彼女は言う。
「あなたにはたくましくなってから、また私のもとに来てほしいものです」
「あっ……」
「天使の祝福を……」
 そしてまた僕の唇が天使様に塞がれる。
 呼吸も、身体も、意識も……すべてが彼女に吸い取られる。
(これがエナジー……ドレイン……)
 気持よすぎる。身体中の全てを彼女に捧げてもいいという気持ちが僕を満たしてる。
 こんなことをされたら、僕はまたここに来てしまうだろう。
 彼女が与えてくれた快楽を、再び味わうために……。
(了)
デザイアダンジョン エンジェル担当:みかみ沙更さん
