『早朝サービス ~小雪編~』
「よし、いくぞ!」
時刻はまだ朝の6時前。
だがすでに身支度を整えた俺は、玄関で静かに闘志を燃やしていた。
「あら、今日はずいぶん早いのね?」
「あ、ああ……今日は早朝会議があってね」
パジャマ姿の妻が、眠そうな目をこすりながら送り出してくれた。
チラリと目配せをしてから、俺は玄関のドアを閉めた。
こんなに朝早く会社に向かうなんて、どれだけ会社に飼い慣らされているのだろうと感じた読者諸君もいるだろう。
申し訳ないが、俺は会社に向かっていない。早朝会議は真っ赤な嘘だ。
なぜなら俺は今、ソープランドに向かっているのだから。
長引く不況の中、ソープランド最大手の「鶴姫グループ」は、ジワジワと経営規模の縮小に追い込まれていた。
かつては全国に200店舗をチェーン展開していたというのに、今ではたったの25店舗である。
そこで起死回生の策として、彼らが打ち出したのが早朝サービスだった。
午前6時から店を開け、毎日限定10組。お客が一度イくまで時間制限なし。
入浴料・指名料込みで5000円という破格だ。普段ならこの数倍以上は金がかかる。
早朝サービスだからといって、客を迎えるソープ嬢の人選には一点の手抜きもない。
各店舗でエース級の嬢が朝からスタンバイしているのだ。
これでお客が来ないはずがない。
ネットでの宣伝活動も功を奏して、ゴキブリホイホイにかかる獲物のごとく、俺を含めて通勤前のサラリーマンたちが毎日のようにやってくる。
そして今日もまた、俺はその幸運な限定10組に入ることが出来た。
「おはようございます。いらっしゃいませー。ささ、こちらへどうぞ!」
黒服の誘導に従い、10組の客は入店早々、店が用意したクジをひかされる。
俺が手にしたものには「201」と書かれていた。これは部屋番号だ。
どんな嬢がつくのかはお楽しみということだが、この店なら大丈夫だろう。
大きなハズレはないはずだ。
部屋についた俺は、心を落ち着けるために店が用意してくれたサービスドリンクを口に含んだ。
――ガチャッ
「!?」
突然、何の前触れもなくドアが開く。
「小雪です、よろしくおねがいしま~す!」
俺は入ってきた女性を見て、思わずドリンクを吹き出しそうになる。
(知ってる! 知ってるよ……名乗らなくても……!)
今日はかなりツイてるぞ。
俺がクジ引きで当てたのは楠見小雪(くすみこゆき)嬢だった。
十人一山の企画モノじゃなくて、彼女は現役の単体AVアイドル。
年齢は24歳、身長は170センチ近くで、スラリとした美形。
胸のサイズは非公式だが、EかFカップといったところだ。
しっとりとしたブラウンの髪はセミロングより少し長く、ツヤツヤで美しい。
パッチリとした大きな目はメイクによるものではなく、まつげが凄く長い。
画面で見るよりも数段可愛らしく、そして少し幼く見えた。
(まじかよ、綺麗すぎる……俺はこの娘と……!)
彼女の姿と声、そして花の蜜のような香りに包まれ、すでに股間が張り詰めてきた。
このままでは精子がいくらあっても足りない気がする。
「……さっそくはじめさせてもらってもいいですかー?」
見惚れている俺の目を覚ます彼女の一言に、コクコクと激しく首を振る。
「ふふふっ♪ じゃあ、一緒にシャワー……浴びよう?」
急にタメ口に……! このギャップがたまらない。
自然な様子で寄り添うと、彼女はやさしく俺の服を脱がせにかかった。
細い指先が俺のシャツのボタンを上手に外していく……。
――そして数分後。
「はぁっ、はぁ……こ、こんな……!」
フラフラの足取りでベッドに倒れ込んだ俺を、小雪嬢は仰向けに転がした。
そして枕の下に隠してあった何かを俺の手首に巻きつけた。
「こ、これ……!?」
「駄目だよぉ! 勝手にシャワーを先に出た罰ゲーム開始だよ」
強力なゴムみたいな手錠が俺の両手を拘束した。
小雪嬢は弱々しくもがく俺を見てニコニコしている。
「だ、だって小雪さんにあんなことをされたら……」
「じゃああのままイっちゃえば気持ちよかったのに~~!」
「そんな……!」
実はさっき、シャワーを浴びながら突然彼女にディープキスをされたのだ。
細くてニュルニュルの舌先が俺の口の中で暴れ、甘い唾液を流されて……それだけで気を失いそうになる俺の股間を、ボディソープたっぷりの彼女の指がグリュグリュとこね回してきた。
(イ、イクっ!! でもキスと手コキだけでイかされるわけには……!)
AV女優を独占できるチャンスだというのに、あまりにももったいなさすぎる。
あっという間に射精直前に高められた俺は、蜂蜜のように甘い誘惑を振りきって彼女の体を引き剥がした。
だが体を捻った俺に合わせて、彼女も体をくねらせてまとわりつくようなキスを浴びせ続けた。
「~~~!!!」
思い切り呼吸とペースを乱された俺は、やっとの思いで彼女の愛撫から逃れ、先にシャワールームから飛び出したのだ。
この店のルールの一つに「プレイルーム内では担当した女の子の指示に従う」という項目がある。
先ほどの行為は、このルールを犯したことになる。
その罰ゲームとして、俺はベッドの上で大の字にされ、両手の自由を奪われてしまった。
クチュウウウゥゥ!
「はあっ、ああああぁぁぁ~~~!!」
「あはっ、一生懸命我慢してる男の子って……私、好きかも」
クニュル……チュクッ、ニチャッ……
彼女の柔らかな手のひらには、トロトロのローションがタップリとまぶされている。
その指先は蛇のように俺の胸板を這いまわり、性感帯である乳首をコリコリと撫で回す。
シャワーの時のキスと、全身愛撫を思い出させる指使いに自然と喘がされてしまう。
「うあああぁ、ま、まって! 小雪ちゃん、まってえええぇぇ!!」
俺が声を上げて制止すると、若干その動きが緩やかになる。
だが両手を上げた状態で、すでに上半身はローション漬けでヌルヌルにされてしまった。
「どうしたのぉ? もっと楽しもうよー」
「ハァッ、ハァハァ……!」
「くすくすっ♪ できるだけ長く楽しみたいもんね? 一度出しちゃったらそれでおしまいだもんね……」
それはこちらの考えを的確に見抜いている発言だった。
俺に馬乗りになったまま、小雪嬢は妖しく微笑んでいる。
「くすっ、でもね……私もプロだから、きっちりイかせてあげる」
すると、彼女はゆっくりと上半身を倒してきた。
柔らかなバストが俺の胸で潰れ、硬くなった乳首同士がこすれ合う。
コリュッ……
「う、ううう、ふあああぁぁ!」
「……これだけでも気持ちいいよネ?」
「乳首、こすれ……」
「もっとクニュクニュしよう? ね?……んふ……」
長い腕を俺の首に回し、胸板の上にバストを滑らせる。
局部は全く触れずに、長い足をタコのように俺に絡め、体全体を上下に揺さぶってくる。
(こ、これは……小雪オクトパスホールド!!)
それは男優の体をペニスに見立て、自らのしなやかな肢体をもって手コキのように扱き上げる極上のテクニックだった。
たしかDVDの中では、股間に触れないままに男優が焦らされすぎて射精してしまったはずだ。
そんな激しい技が今、現実に自分がかけられている……。
「あっ、ああああぁぁ~~~!!」
「体中がおちんちんになっちゃったみたいでしょ?」
「これダメ、ダメだよ! すご……きもちいいよ……ぉ……」
「そ~~~っとおちんちんに触れたら、すぐにドピュッてしちゃいそうでしょ? うふふふふ」
ヌルヌルと蠢きながら、彼女は上品に微笑む。
たしかにこれでペニスを手コキされたら、一瞬ではじけてしまうだろう……。
そして彼女が後ろ手でそっとペニスを抑えこんできた。
(い、いやだ……このままトドメをさされちゃう……!!)
歯を食いしばって、来るべき快感に備える。
だが、股間にじんわりと広がってきた快感が静かに引いてゆく。
「どうせならもっと恥ずかしくイかされてみない?」
「えっ……」
彼女は股間に触れていた手を離して、再び乳首を愛撫し始めた、
寸止めされたビクビクとペニスが宙を泳ぐ。
「くううぅぅぅ……!」
「君が我慢して、我慢して、すごく力が入ってるところを、私が今から崩してあげる」
クチュクチュと体をぬめらせながら、俺の手首の枷を外してから小雪嬢は体を起こした。
そして180度体を回転させ、軽く振り返って俺の顔を見つめた。
「ふふっ、いい眺めでしょう? このまま後ろから私を責めてみてもいいんだよ~」
「ぐっ……」
目の前には彼女の可愛い横顔と、スベスベの背中と、腰のくびれがあった。
俺は手を伸ばして、その見事な美尻を鷲掴みしようとしたが、手で触れるのがやっとだった。
「動けないんだよね。わかってる♪ たっぷりとスタミナを奪ってあげたから」
彼女はこちらの状況を的確に見抜いている。
拘束されたままの全身愛撫で悶絶させられたおかげで指先に力が入らない。
「じゃあいくわよ」
クニュッ……
「うっ!」
挿入はされていないし、彼女は俺の顔を見つめたままだ。
それなのに股間が凄く熱くなって、じっとしてられない。
「小雪ちゃん……今、一体なにを……」
「うっふっふ~♪ つながったままで、なにされてるんだろうねー?」
クニュン、クチュ……クチュ……
「あ、ああぁぁ……なんで……体が……」
「フワフワしてきたでしょう?」
小雪嬢の言ううとおりだった。
下半身だけが宙に浮いているような、暖かさを伴う快感がどんどん広がってゆく……。
「くっ、ふああぁ、あああぁっ!」
「う~ん? 気持ち良すぎてプルプルしてきたんじゃなぁい?」
思い切り肉棒をしごかれるような激しさではなく、真綿でペニスをくるまれてジンワリと快感だけを与えられていくような……逃れることができない刺激に捕まってしまった。
「い、いいいいぃぃ……!」
「腰が跳ね上がりそうになってるし、足の指もぎゅってしてるもん。もうすぐイっちゃうね」
「!!」
何をされてるのかわからないが、もうイク直前だ。
玉袋の奥がきゅうううぅぅぅっとして、我慢する力が抜け落ちていくようだった。
「こ、これはどんな技……!?」
「あはっ、これね……指先で左右のタマタマをゆっくり転がしてあげてるの」
俺が途切れ途切れの言葉で尋ねると、小雪嬢は嬉しそうに目を細めた。
「そ、それだけ!? こんなに気持ちいいはずが……」
「男の子をイかせるのに、力なんて全然必要ないんだよ。ただ優しく何度も同じ所を責めてあげるだけ……」
一瞬だけ自分の右手を俺に見せつけてから、彼女は再び股間へと手のひらを忍ばせる。
すると先ほどの怪しげな感覚が蘇った。
「片方の手のひら全部を使ってタマタマを転がしながら、もう片方で亀さんを優しく揉んであげるの」
「うううぅっ、んああぁぁ……!!」
「ね? 我慢出来ないでしょう?」
じわじわと高みへ導かれ、後戻りは許されない優しげな手つきだった。
このままだと、あと一分以内に俺は……!
「私ね、その人の体に触れて3分以内にだいたいの感じるツボがわかっちゃうんだ」
「!?」
「さっきあなたの洋服を脱がせた時も、そっと脇の下に触れたし……脚を開いてあげる時も指先で内側をなぞってみたり」
「そんなことだけで……!」
「お客さんってすごく敏感な体してるよね? ふふふ……もっといじめてあげたいけど」
「えっ……あ、あひいっ!?」
くちゅくちゅくちゅくちゅ♪
急に彼女の手つきが変わった。
下半身全体を包み込むような刺激が、カリ首付近に集中してきた。
「両手の指全部を使って、亀さんをイイコイイコしてあげる……これでもうおしまいだよ?」
しなやかな指先が鈴口、裏筋、カリ首の順にまとわりついて、亀頭を揉みくちゃにしている!
五本の指がイソギンチャクのようにカリ首から先端までを縦横無尽に這いまわり、亀頭全体を両方の手のひらで圧迫してくる。
こらえようのない刺激が大きな波となって、俺の体を包み込んだ。
「ひっ、ああぁ、も、もうこれ、いっ…………!」
「そろそろイっちゃお? 体中が痺れてきて、もう苦しいよね?」
そして少しだけ強めに彼女の指が亀頭を弾いた瞬間、俺はわけのわからない叫び声を上げつつ果ててしまった……。
「凄く良かったよ」
シャワーを浴びて着替えたあと、彼女に声をかける。
「ふふ、ありがとう」
「今度は指名してもいいかな?」
「うーん……朝の指名は無理だけど、夜ならOKだよ。今度はもっといっぱい悶えさせてあげる」
小雪嬢は微笑みながら名刺と割引券をくれた。
この名刺にはナンバリングがされており、それを渡されたお客の性癖などがきっちりとWEBで公開される仕組みになっている。
個人の特定はできず、店側としては純粋にプレイ内容を次回の嬢に引き継げる。
このシステムを導入してから、朝だけにかぎらず夜の部で2回戦を楽しみたい顧客が増えたということだ。
「また私のところへ来てね? ふふふふ♪」
店の入口まで見送ってくれた小雪嬢に手を振って、俺はすっきりした表情で会社へと向かうのだった。
『早朝サービス ~小雪編~』 (了)