『三倍返し』
「あ、あの! 小野さんッ」
バレンタインデーの昼休み、僕は勇気を振り絞って憧れの彼女に声をかけた。
「うん? なぁに手塚くん……」
「ちょ、ちょっと……いいかな? 渡したいものがあるんだ」
「え……」
僕の目の前で彼女が頬を赤く染める。
憧れの彼女というのは、このクライスメイト・小野ちさとさんのことだ。
彼女はクラスの中では地味というか控えめというか……あまり目立たない印象の子だ。
肩より少し長い黒髪と、真面目そうなメガネが、彼女をおとなしく見せるイメージ作りに一役買っている。
それでも僕は密かに彼女が好きだった。
いつも本を読みふけっている静かさも、女子たちと会話している時に時々浮かべる微笑みも。
卒業間近の今日、教室で偶然彼女とふたりきりになれたんだ。
このチャンスを活かさない手はない!
◆
「なんでこんな場所に?」
不思議そうに彼女が尋ねてきた。
ここは理科室。この時間は誰もいないことは下調べ済みだった。
大事な時間を誰にも邪魔されたくないから、思い切ってここに連れてきた。
「ここなら誰も居ないと思って……」
「ふーん、そう。たしかに誰も来ないよね」
小野さんも理科室の備品等を見ながら、キョロキョロしている。
「それで、私に渡したいものって……なに?」
当然やってくるであろう質問に応えるように、僕はポケットに隠し持っていたものを差し出す。
「こ、これっ! 受け取って下さい!!」
「えっ……ええっ!?」
それは赤い包装がされた小さな箱。
中身はチョコレートだ。
「あのね、手塚くん……」
しばらく唖然としていた小野さんが、小さなため息を吐く。
「普通、逆じゃない?」
「う、うん……」
「男子から女子にチョコを渡すとか、ちょっとびっくりしちゃうんだけど」
彼女の言うとおり、これは逆チョコ。もちろん僕だって承知の上だ。
「で、でもほら……男女平等な時代だし、逆でもいいんじゃないかなーって思うんだよね……」
取ってつけたような理屈を口にすると、意外にも小野さんは軽くうなづいてくれた。
「なるほど……」
そして少し考え事をするような表情を見せてから、ずいっと僕に近づいてきた!
「手塚くん、純情なフリして結構計算高い?」
「えっ」
言葉の意味を理解できていない僕に向かって、小野さんが続ける。
「だって、私がこれを受け取ったらどうなるのかな。一ヶ月後にキミに3倍返ししなきゃいけなくなっちゃうじゃない」
彼女は人差し指をピッと立ててから、僕のおでこを指さした。
「えっ、僕は別にそういう気持ちでは……」
言葉をつまらせる僕を見て彼女が笑う。
「ずる賢い手塚くんって、ちょっと好きかも♪」
「おおお、小野さんっ!?」
慌て続けてる僕に向かって彼女がさらに足を踏み出す。
距離にすると、もう30センチ以内……二人の距離がまた縮まった。
そこから先はまるでスローモーションみたいで――
「クスッ、ちさとでいいよ……」
小野さんがゆっくりと踏み込んできて、僕の首に腕を回して……ほんのり甘いリンゴみたいな香りに包まれた。
柔らかなものが僕の唇に触れた瞬間、口の中に甘い味が広がって――!
(キ、キス! 小野さん……と……ぉ)
めまいがするほど甘いキスに、僕の膝がカクっと折れた。
そのまま理科室の机に尻餅をついてしまう。
軽く脱力状態の僕を見て小野さんが口を開く。
「手塚くんのこと、じつはずっと見てたんだ」
「な、なんで……!!」
まるで小悪魔みたいな微笑みを浮かべる彼女を見ていると背筋が震えてくる。
いつもの彼女じゃないみたいだ。
「私のことを見つめてるなーって、ちゃんと気づいてたよ?」
「……」
そんな……彼女にバレてたなんて!
僕は急に恥ずかしくなった。
穴があったら入りたいという言葉はこういう時に使うのだろう。
「ねえ、教えて? 私のどこがいいの?」
ネコがネズミをいたぶるように、小野さんは楽しそうにいじわるな質問を投げかけてくる。
しかし僕は彼女に自分の視線に気づかれていたことの驚きから立ち直れない……。
「え……」
そして信じられない展開が僕の頭を混乱させる。
金縛りにあったみたいに動けない僕のブレザーを、彼女が優しく脱がせはじめた。
「答えてくれないなら、無理やり言わせちゃおうかな?」
さらに彼女の指が僕のネクタイをゆるめ、シャツのボタンにかかる。
「あ……だ、駄目だよ小野さん……誰かきちゃう……」
「ふふっ、誰も来ないよ」
僕の言葉を彼女が簡単に打ち消した。
「ま、まさか小野さんもここに人が来ないって知ってたの……?」
その問いかけには答えず、小野さんは静かに微笑んだ。
いつもの読書している時と同じ、穏やかな表情で。
「しばらくは私と二人っきり。誰も手塚くんを助けに来てくれないよ」
僕を助けにこない……という言葉を聞いた瞬間、彼女の唇の端が少し上がった。
そして小野さんは無言で僕の右手を握りしめてきた。
「指……ちょっといいかしら?」
「え、それって……う、ああぁっ!」
力が入らない人差し指に彼女の唇が近づいてきた。
「んっ……チュプ……ちゅっ♪」
小さくてツヤツヤに唇が僕の指先を、第二関節まで!
舌先がチロチロと指と爪の間を舐める。
上品な小野さんの口の中で、僕が舐め取られていく……指だけじゃなくて彼女に対する気持ちまで溶かされていくみたいで……
「クスクス、どんどんいくよ~?」
しばらくして人差し指が彼女の口から抜き取られる。
うっすらとふやけた指に、空気が触れて冷たい……
「んっ……今度は……チュプ…♪」
「あああぁぁ!」
中指、薬指、小指……全ての指が彼女にしゃぶられていく。
そして魅惑の口元から開放されても、ずっと舐められ続けているような錯覚が僕を悩ませる。
「ふふ、良い感じに堕ちてきたね?」
「えっ……」
「今の手塚くん、他の男子と同じ顔してるもん」
小野さんの言葉に、二重の意味でドキッとした。
僕が彼女に堕ちている……それに他の男子と同じ……?
「たっぷり魅了されて、夢見心地になってる。頭の中が私でいっぱいになって、フワフワしてる……そうでしょう? フフフ」
ゆっくりと染みこませるように、言葉を僕に投げかける。
その途中でまだ舐めていない指をゆっくりと口の中で弄ぶ。
小野さんの誘惑に、ジワジワと心と体が溶かされていく。
「ほら、全部の指を舐められちゃったね。足の指もしてあげようか?」
「そんなっ……うあぁぁっ……」
彼女の言うとおり、長い時間をかけて両手の指が全部しゃぶられてしまった。
ただ指先を舐められているだけだというのに、まるで彼女にペニスを弄ばれたみたいに股間が疼く。
「もっと支配してあげようか? クスクスッ♪」
「そんなこと……」
支配という言葉にペニスがビクンと反応した。
「手塚くん、脱がさなくても判るよ。もうここ……大変だよね?」
ほっそりとした小野さんの足が伸びてきた。
右膝でズボン越しにペニスをなぶられる。
クチュッ、クチュウウウ!
「くはああぁぁっ!」
その刺激に思わず身体が折れる。
「トロトロの涙を流して、暴れだしてる。私に鎮めて欲しいって、おちんちんが泣いてる」
「お、小野さ……ん……!」
視線を上げると彼女目があった。
「だから……シテあげる」
僕に向かって微笑みながら、彼女の細い指先がズボン越しにもくっきりとわかるほど腫れ上がったペニスを優しく撫で回す。
「ふあああぁぁ!」
「でも今日は手だけだよ……?」
静かな声で彼女は言う。
そして指先で輪っかを作ると、僕に見せつけるように前後にスライドさせてみせた。
「これに一分間我慢できたら、次はお口でしてあげる。でもきっと無理だと思うよ」
小野さんの作った指の輪が、既に唾液まみれにされた僕の指を二本まとめて締め付けた。
「これが手塚くんのおちんちんね。かわいい……フフフ、私に見つめられながら弄ばれて、耐え切った男の子なんていないんだから」
「くっ、ううう、はぁ、はぁ、はぁ……」
知らぬ間に僕はイかされていた。
実際に射精はしていないけど、既に心の中で彼女の指の動きに支配されていた。
締め付けられた指がペニスに直結してるみたいで、下半身に力が入らない。
思わず目をギュッと瞑ってしまう。
「手塚くんはね……普段真面目で、クラスでもあまり目立たない私に犯されちゃうの……」
「っ!」
ささやくような彼女の声が死に体の僕に追い打ちをかける。
慌てて目を開くと、目の前に彼女の顔が――!
「ああぁ……!」
「私の指に犯されて……白くて熱いおつゆをズボンに染み込ませちゃうんだよ?」
まるで催眠術みたいに、小野さんの声が身体に染みこんでくる。
あっさりと彼女の術にはまり、心を縛られてしまったみたいに……。
「もう手足に力が入らないでしょう? そうなるように時間をかけて、手塚くんの体力を奪ってきたんだから当然よね」
「!?」
戸惑う僕に彼女は続ける。
「気づかなかった? さっきキスをした時、何か飲まされたでしょう」
「あっ……!」
そういえば口の中が妙に甘くなって……不自然な甘さはキスのせいだと思っていたけどあれは!!
狼狽する僕を見ながら、彼女が密やかに笑う。
「女の子はね、いつでも罠を張ってるんだよ? 手塚くんは私が仕掛けた罠にかかった可愛い獲物……今からもっと可愛がってあげる」
小野さんは手のひらのくぼみでペニスの先を刺激し始めた。
ズボン越しにそっとあてがわれた手のひらが、ゆるい8の字を描く。
「うっ、ああ、そんな……」
気持ちいいけどじれったい。その生殺しみたいな感覚に、身悶えしてしまう。
「ふふっ、もっとしっかりと直接刺激して欲しい?」
思わず僕が頷くと、彼女の手のひらがそっと離れた。
「じゃあ人差し指で……ふふふふ♪ ファスナーの隙間から、一本指でいじめてあげる」
小さな音を立てて、僕のズボンの隙間が広げられた。
そこから忍び込んだ彼女の指先がトランクスをすり抜けて、直接亀頭を愛撫し始めた。
チュク……ヌチュ、グチュ……
「すごいね? こんなにヌルヌルにしちゃってる……恥ずかしくておうちに帰れないね」
必死で声を押し殺す僕をからかうように、小野さんは楽しげな口調で続ける。
しっかり歯を食いしばってないと、すぐにでも快感の虜になってしまいそうだ……!
だが彼女の責めは止まらない。
「クスッ、ほらここよ……手塚くんが気持ちよくなっちゃう弱点、見つけちゃった」
クリュンッ!
「んあはああぁっ!」
ズボンの中で彼女の指が翻った瞬間、思わず声を上げてしまった。
「どうかな? 指先でクリクリされてるだけでたまらないでしょう」
クニュクニュクニュ……♪
「な、なんで!?……そこばっかり、ダメ! ダメだよ小野さんッ、んあ、あああぁぁ!」
悶絶する僕の身体に自分の腕と足を絡ませ、小野さんはそっと耳元で囁いてきた。
「このまま出していいんだよ……みんなにはナイショにしてあげるから」
「ひっ、いいいぃぃ!」
「私の指使いで踊って? 手塚くん……」
身体を引こうとしても彼女が引き寄せてくる。逆に押し返そうとしても力が入らない!
「私の指がまとわりついて、手塚くんを気持よくしてるだけで……私も感じてきちゃう……」
「お、小野さんも……?」
息も絶え絶えに尋ねると、彼女が小さく頷いた。
「だからね……一緒にイこう? ほら……」
甘ったるいその声を聴いた途端、僕の中で何かが弾けた……そして身体中が震え出す。
「あああぁ、ああっ、ああ!」
「ほら、私の指でイっちゃお? お願い、思い切りイって、イって! イって~~~~!!」
「あ……があぁぁっ! イクゥッ!!」
ビュルッ、ドピュドピュドピュウウウウ~~~!!
目の前が真っ白になって、身体中が浮かんだみたいになって……僕は誘惑に負けた。
自分で支えきれなくなった身体を、小野さんが優しく机に横たえてくれた。
ビクンビクンと震えている僕の脇で、彼女はポケットからハンカチを取り出してこういった。
「クスッ、やっぱり一分もたなかったね」
彼女がゆらりと立ち上がる。
そして突然僕のズボンに手をかけて、一気に引き下ろした!
「お、おのさ……!」
「綺麗にしてあげる……」
彼女の眼の前にむき出しになったペニスは、淫らな匂いをまき散らしながら苦しげに震え続けている。
「うふっ、このお部屋がエッチな匂いでいっぱいになっちゃうね」
「うううぅぅ、もうやめて……」
こみ上げる恥ずかしさで、言葉が詰まってしまう僕を見つめながら彼女は言う。
「できるだけそ~~~っと舐めてあげる」
「えっ……ちょ、ちょっと!」
小野さんがスッとしゃがみこんだ。
そして軽く髪を掻き上げてから、ペニスに顔を近づけてきた!
「ふぅ~~~」
生暖かい吐息を吹きかけられ、下半身がむず痒くなる。
「んあああぁっ!」
小さく僕が悶えた瞬間、彼女の口が大きく開いた……。
「あん……んむ、チュル……♪」
小野さんの口の中に、たっぷりと唾液がため込まれているのが見えた。
そしてその中に僕のペニスが閉じ込められてしまう!
クジュッ、ジュプジュプジュプッ!!
「あっ、ふああぁ……優しい……あったかくて、すごい…………!」
「フフフ……」
顔を小刻みに動かしながら、彼女は小さく微笑む。
さっき指先を舐められただけで虜になった舌使いが、僕の一番敏感な部分を丁寧にしゃぶりあげる……数秒も経たないうちに体中の力が抜けて、快感だけが頭の中に広がっていく。
「小野……さん……僕、また……!」
「クスッ、大きくなっちゃう?」
「!!」
自分の考えを先回りされ、また僕は恥ずかしくなる。
「エッチなんだね、手塚くん。私のお口の中でそんなに暴れないでほしいな? クスクスッ」
「だ、だって、無理だよ……気持よすぎて、もう……あ、あああぁぁっ!!」
彼女の舌先が、クルクルと亀頭をいじめるように動き出す。
その小さな動きに合わせるように、僕の腰が揺らされてしまう。
(いいいい、イっちゃう! これじゃあまたすぐにイっちゃうよおおぉぉ!!)
自然に身体が硬直してゆく。
次の射精に備えて、僕の身体が全力で彼女を求めている……!
「んふふ……はじめてだから優しくしてあげるね」
急に彼女の舌使いが穏やかになった。
「えっ……」
「このまま綺麗に舐めとって、またカチカチにしてから開放してあげる」
「っ! そんな……」
「休み時間終わっちゃうもん。楽しみはお預けだよ?」
彼女の口から出たのは残酷な寸止め予告だった。
そしてすっかりビンビンにされたペニスを満足気に眺めながら、小野さんは顔をゆっくりと上げた。
「……つづきは、自分のお部屋でしてね? 私にしゃぶられた指でシコシコシコって……」
普段はおとなしい美少女の、とびきり淫らな表情を見ているだけでイきそうになる。
できることならこの場でオナニーしたい……でも彼女の目がそれを許してくれそうもない。
僕は悶々とした気持ちのまま、ズボンを履き直した……。
◆
しばらくして僕が身体を起こすと、彼女は優しく微笑みかけてくれた。
「ふふっ、ご馳走様。凄くネバネバでエッチだったよ、手塚くん」
僕を降参させた指先を見せつけながら小野さんは言う。
真面目そうで、きっとエッチのことなんて知らないと思っていた彼女に主導権を握られてしまうなんて……。
「随分頑張ったね。予想外だったよ。それとこれ、ありがとう。手塚くんの気持ち、受け取っておくね」
彼女は少し恥ずかしそうに、僕が渡そうとしていた箱を手のひらに乗せた。
そして――
「さっきも言ったけど、来月は三倍返しするからね」
「えっ!?」
どういう意味か理解できない僕を見て、小野さんがいつも以上に上品に微笑んだ。
「つまり、私に三倍抜き取られちゃうってことよ? フフッ、フフフフフ♪」
(了)