『ホワイトデーにはご用心』





「いいっていいって! 大丈夫、気にしないでお兄ちゃん……」

僕の目の前で従姉妹の佳奈ちゃんが慌ててる。

彼女の家とは毎週のように行き来するくらい親しい付き合いをしている。
今日はたまたまあちらが僕のうちに来る番だった。

本当に慌てるべきは僕の方だ。
今日はホワイトデーの翌日。
実は佳奈ちゃんから先月頂いたチョコのお返しを全く忘れてて、何気なく探りを入れられて初めて思い出したんだ。

今からでは買いに行くのは難しい。
しかも売れ残りを入手しても、そんなのプレゼントされた相手の気持ちは微妙だろうし……


「だからそんな暗い顔しないでお兄ちゃん!」

本当に性格の明るい子だと思う。
でもちょっぴり寂しそうな表情は隠せないらしい。


(やっぱり期待してたんだろうな。申し訳ないな)

佳奈ちゃんは贔屓目なしで可愛らしい女の子だった。
今度の4月で進学らしいけど、僕に懐いてくれるところだけはずっと変わらずにいてくれた。

恋人のいない僕にとって、唯一身近に感じる異性でもある。

しかも今回は僕が彼女のところまで届けに行く約束をしていたのに……。

完全にこちらの手落ちだ。






「じゃ、じゃあさ! なにか好きな遊びしてあげる。今なら佳奈ちゃんの言うことなんでも聞くよ」

苦し紛れに口から出た言葉がこの程度のレベルとか、自分が本当に情けない。

でも彼女の反応はまんざらでもなかったようだ。


「ホント! ん~、そうだなぁ……」

顎に手を当てて真剣に考えてる。

軽い気持ちで言ったんだけど逆に不安になってきた。どんな要求をされるのだろうか。



「じゃあこうしよっか? えへへへへ」

ポンと手を打った佳奈ちゃんの目がキラリと光った。






そして僕の部屋――。

「今から5分だけでいいから動いちゃ駄目だよぉ? 佳奈がお兄ちゃんをくすぐるから、手を離したらお兄ちゃんの負け」

「う、うん……」

佳奈ちゃんにくすぐられる。
ただそれだけなのに、不覚にも下半身がじわりと甘く疼く。

(僕は何を期待してるんだ! ただのくすぐりごっこなのに、佳奈ちゃんに失礼だぞ)

自分を叱りつけてみても収まらない衝動。
僕のお腹の上に乗った佳奈ちゃんの体温や重みも、けしからんことを考えてしまう原因の一つだけど。

とにかく僕は彼女の指示通り、ベッドの上に転がっている。

そして両手をバンザイしたままでパイプベッドの一部をしっかり掴んでいる。


「ええと、僕が負けるとどうなるの?」

「負けたらもちろん罰ゲーム。最初からやり直しだからね」


「それはキツい!」

これは本音。
くすぐられることにそれほど強いほうじゃないから。

少しだけ怯えた僕の様子を見て、佳奈ちゃんが両手をわしゃわしゃ動かし始めた。

「ひっ……」

「お兄ちゃん、あんまり騒がないでね?」


そっと伸びてくる小さな手。

まるでそれは2つの触手が獲物を下調べするような動き。

「いくよ~~」


触手のような指先の蠢きが止まり、脇の下めがけて佳奈ちゃんの両手が舞い降りた。

それだけで全身の毛穴がきゅっと閉じた気持ちになる。


「ここはどう? ほら、こちょこちょこちょ~~」

「あはあああああっ! あは、はははははっ、きゅ、急に何をす……んぐぅ!?」


開いた口の中に素早く何かをつめ込まれた。しゃべれない!!


「うるさいなぁ……お母さんに聞こえちゃうでしょ?」

呼吸が苦しくなる。
突然つめ込まれた異物は柔らかで、舌先だけで弾き出すことは難しそうだった。


「どうしたの? お顔を真っ赤にして……」

(こ、これって佳奈ちゃんの……パンツ? いや、靴下……そんな……)

何だかわからないけど彼女の匂いがする。

そしてくすぐられるほどにパイプをつかむ両手に力がこもる。

手を離したいのに離せない。


「さすがお兄ちゃん、我慢強いなぁ~。でもこれは耐えられないと思うよ」

脇の下から肋骨を一本ずつ数えるように小さな指先が這い回る。

そして彼女は身体を横に向けて、僕の右足の……太ももの内側をさすり始めた。


(だ、駄目だ! エッチすぎるよ、あああ、こ、これえええええ~~~!!)

そっと這いまわるような手つきが淫らで、ペニスが一気に硬くなるのを自覚した。

佳奈ちゃんはうんしょ、うんしょと言いながら体勢を少しずつずらして行く。


「むぐっ!?」

急に右足が動かなくなった。


「こうしておかないと足がバタバタしちゃうもんね?」

右手で僕の胸の辺りをくすぐり続けながら、お腹の上で時計回りと反対に佳奈ちゃんは90度身体をずらした。

さらにお尻の位置を加減して僕の右足をしっかりと押さえ込む。


(あ、ああ……それはあああああ!)

佳奈ちゃんが僕の方を向いてニマッと笑う。

その指先が狙っているのは僕の右足、足の裏……



「ほ~ら、じわじわ虐めちゃう~」

ベッドにころんと転がるように、彼女は僕の右膝とふくらはぎを圧迫する。

そして無防備に開いてる足の指の付け根を、小さな指先でくりくりと弄び始めた。

「んぐっ、んふううううううううううううう!!」

それが精一杯の抵抗だった。

小さな身体とはいえ、しっかりと押さえこまれているから振りほどけない。

左足で彼女を足蹴にすることも出来ず、このまま我慢するしか無い……無いけど、こんなの我慢できないいいいいい!!


(足の甲、こんなにくすぐったいなんて!)

足の裏はまだ触れられていない。でも次は絶対に触られる。

その前に足の裏じゃなくて表がこんなにくすぐったいなんて、これだけで狂ってしまう!


「次に何されるかわかるよね? そうすると我慢できないんだよ……お兄ちゃん♪」

そっと触れるような手つき、爪を立てるような刺激、弱いところを炙りだして何度もカリカリしてくる仕草……

いたずらっぽく微笑む佳奈ちゃんのくすぐりテクに僕は悶え狂うしか無かった。



「指と指の間も気持ちいいんだよ? ほらぁ」

人差し指が差し込まれる……そしてカギ状に変化した指先が、僕の弱い場所をめくり上げる。


「あはっ、かわいいんだー。もっとして欲しいの? こちょこちょ」

「っ! っ~~~~~~~~~~!!」


「我慢よ、我慢……うふふふふ」

うっとりした表情で彼女は僕を見つめる。

その仕草が色っぽくて油断したところを、魔性の指先が快楽を刻みつける……


「んがっ、ううう!」

「お兄ちゃん大丈夫? 大丈夫だよね」

思い切り首を横に振ってるつもりなのに、くすぐりの勢いが止まらない。



(も、もうらめええええええええ! くすぐったいのらめえええ、かなひゃ、もうやめえてえええええ!)

口の中がカラカラに乾いてく。声すら出せない状況。

まだ右足しかくすぐられてないのに、このあと左足も同じようにいたぶられてしまうのか? 嫌だ!

上半身はすっかり汗だくで、セットされた時計の音すら聞こえない。終わりまでの時間が見えない。




ピピピピッ……



「あー、もう五分経っちゃった! おしまい」

時計がなった途端、佳奈ちゃんは僕を解放してくれた。

そしてベッドを降りて、トタトタと階段を降りていった。




それから一時間ぐらい、僕は動けなかった。

ようやく下へ降りた頃には佳奈ちゃん一家は帰り支度の最中だった。

「おにいちゃんバイバイ!」

元気の良い彼女と対照的にボロボロの僕。

力なく手を振り返すのが精一杯だった。






無事に彼女たちを見送って自分の部屋に戻るとケータイが騒いでいた。

メールの着信音。

相手は佳奈ちゃんからだった。


『来年もくすぐらせてね、お兄ちゃん……もっと追い詰めてあげるから。今夜は思い出しエッチしちゃいそう。  佳奈より』

メールには添付ファイルがあった。

たった数秒間だけど、少女にくすぐられ悶えまくる自分の動画を見て、僕は戦慄した。



(了)












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