「ま、待ってくれ!」
「いいからいいから♪」
楠梨奈に背中を押され、半ば強制的に足を踏み入れたのは、女子更衣室。
しかも、普段使われることが少ない第二体育館だ。
メインである現在の体育館の改修工事が終わってからは大き目の道具置き場として利用されているようだ。
さらにここは更衣室であり、この時間に着替えるものなどいない。
つまり俺たち以外、ここにいる生徒などいないのだ。
(あ、あの楠梨奈と……二人っきり! しかし……)
戸惑う俺の背中で、更衣室の鍵が閉まる音が聴こえた。
「さてと、ここなら話せるでしょ?」
「えっ」
振り向くと、既に彼女が目の前にいた。
距離にすれば30センチ以内だ。
更衣室の中は、多少のほこりっぽさと女子の汗が混じったような匂いがする。
しかし楠梨奈の周囲だけは花のような香りで満たされていた。
「か、髪が……」
「うん?」
うめくような俺の声に、彼女は首をかしげる。
そうだ、これは髪の匂いだ。
(いつも教室や廊下ですれ違うときに感じる、楠梨奈のニオイ……)
目の前にいるのは、こんな場所にふさわしくない甘美な存在。
廃墟に等しい第二体育館の中だと、その事をさらに意識してしまう。
「鼻、いいんだね? フフフ♪」
彼女が軽く髪をかきあげる。
ファサッ、という音と同時に柔らかそうに髪が揺れた。
(ああぁ、これだ……綺麗すぎる!)
真っ黒でクリクリした瞳が、じっと俺を見つめている。
その表情に怒りはなく、好奇心のせいか……少し笑っているようだった。
「見ているだけでヤバいって、どういう意味かなぁ」
「そ、それは……ッ!」
ほんの数センチだけ彼女が距離をつめてきた。
無意識に俺は後ずさる。
背中にひんやりとした壁を感じる。
「教えてくれないの? じゃあ私が当てちゃう」
言葉をつまらせる俺に、彼女はさらに身を寄せてきた。
細い右肩が、俺の左胸のあたりに押し付けられる。
更衣室の壁と、楠梨奈にサンドイッチされたような状態。
「う、ああぁ……」
すぐに鼻先に甘い香りがまとわりついてきた。
憧れの髪の匂いにクラクラする。
「こういうことじゃないかなぁ、って……」
クニュッ……
突然、股間に走った快感に俺の体全体がビクンと跳ね上がる。
「うはああ、あぁっ!」
興奮でおかしくなりかけていた俺に、彼女は追い討ちをかけてきた。
恐る恐る視線を下げる。
楠梨奈はズボンの上から、既に硬く張り詰めていた俺自身に手を添えていた。
「ねえ、このあと……どうなっちゃうの?」
くねりくねり、と白い指がズボンの上を這い回る。
そのイタズラな動きのおかげで、内部は既にドロドロにされかけていた。
「~~~~~~っ!」
俺はひたすら甘い疼きに耐える。
情けない声が口から溢れそうになるが、彼女には聞かれたくない!
だからといって彼女を振りほどく事も難しい。
こんな密室でお気に入りの女子と二人きり……普通なら男が女を犯す場面だ。
(それなのに、動けない……!)
彼女に身を任せてしまっている自分がいる。
頭の先から指先まで、股間を撫でられた快感の先を期待してしまっている。
不意打ちの気持ちよさに、体を縛り付けられてしまった。
悔しいが俺は――、
「男の子が感じてるのって可愛いよね」
「くっ、はぁ……やめ……」
ぴたりと心境を言い当てられ、俺は心まで彼女に縛られてしまった気がした。
「私、まだ何もしてないのに」
余裕たっぷりに彼女が笑う。
追い詰められ、身悶えする俺を見上げながら、指先でズボンのファスナーを引き下ろす。
真っ白な指先が内部に滑り込み、既にヌルヌルにされたペニスをそっとつまんだ。
じかで彼女の指で触られ、しびれるような感覚が突き抜ける。
同時に、敏感にされた部分が空気に触れる。
「大きいね」
楠梨奈は左手の中指と親指で輪を作り、亀頭を軽く挟み込む。
すべりを確かめるようにゆっくりと上下させながら、人差し指で裏筋を刺激する。
「そろそろ出ちゃいそうだね……んふ、いっぱい出して!」
彼女の手首がくるんと回って、亀頭をこね回す。
指先がつんつんとカリ首を弾いて、粘ついた我慢汁がさらに滲む。
(い、いくっ! あの手のひらに、思い切り出しちまう!!)
歯を食いしばってぎりぎりで堪えようとしても無駄だった。
すべすべの手のひらは容易に俺の我慢など無力化してしまう。
ツツ……
小さな爪が、裏筋をゆっくりなぞった瞬間、
ドピュウウッ、ピュルルルルル~~!
男のオナニーでは決して得られない絶妙な手コキに、俺は無言で絶頂した。
下半身が全部溶かされたように、俺は骨抜きにされてしまう。
(なんだよ、これぇ……彼女がこんな事、するなんて)
更衣室の壁に背中を預けたまま、ズルズルとその場に座り込んでしまった。
予想以上の倒錯感に、俺の心の中はグチャグチャにされていた。
決して処女だとは思っていなかったし、淫乱だとも思わない。
だが俺は彼女のことを、無意識に美化していたのだ。
「クスッ、簡単に堕ちちゃった♪」
指先についた精液をぺろりと舐め上げてから、楠梨奈は腰砕けになった俺に目線を合わせてきた。
男として、あまりの恥ずかしさに俺は視線を逸らす……はずだった。
「あっ……」
しかし彼女は、指先で俺の顎をクイッと持ち上げ、強制的に視線を合わせてきた。
楠梨奈の優しげな視線を、俺はうっとりと見つめてしまう。
「今日の事はナイショにしてあげる。その代わり……」
教室で見たのと変わらない、可愛らしい笑顔。
美しい髪と、理想的な体型……そこに妖艶さが加わったのだ。
俺は完全に魅了されてしまった。
「またその蕩けたお顔、見せてね? 明日の放課後、ここにきて」
彼女はそう言い放つと、くるりと背を向けた。
その後姿を見ながら、俺は無意識に股間へ手を伸ばした。
(了)
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