『ビーチサイド・ゲーム』





 ちょっと大きめの台風が来ているみたいだけど、この地方に限ってはおおむね快晴。
 熱い空気が体中に絡みついてくるような、夏らしい海沿いの休日である。

 基本的に毎日職場と自宅の往復で、まとまった休みをほとんど取れない僕にとっては(嬉しい)不意打ちの夏季休暇命令だった。
 会社側も世間からブラック企業の烙印を押されたくないらしく、けっこう必死なのだろう。

 とはいえ、海外旅行などを思い立つには難しい日数である。

 そこで僕は少し離れた場所にある、この海へ行くことにした。
 学生時代はなんてことなかった「海に行く」という行為が、大人になった今では贅沢に感じてたまらない。

 何もすることはないのだ。もちろん会社のケータイは置いてきた。
 ひたすらビーチで寝る。聴こえるのは風と波の音。

 僕にはそれだけでいいのだ……熱い空気に身を任せるように、パラソルの下で眠気を楽しむ。
 その時、不意に日差しが遮られた。


「ねえ、キミ……ひま?」

 頭上から降り注いできた女性の声に顔を上げる。


「ふぇ?」

 突然の来客に、寝ぼけ交じりの間抜けな声をあげてしまう。
 その様子を見て女性はクスッと笑った。

 声の主は、逆光でよく見えないけど、おそらく目の前の美人さん……こちらを覗き込んでいるせいもあって、形のいいおっぱいが絶妙な角度で目に入る。
 けしからん、じつに目の毒だ。


(まさかこ、これは逆ナン……いや、ありえないだろう!?)

 動揺しつつ周囲を見回す。
 こういう時こそ落ち着かなきゃいけない。

 だが直径5メートルくらいは僕と彼女以外の誰もいない。

 恐る恐る彼女の眼を見ながら、僕は自分に向けて指をさしてみる。


「そう、キミに言ってるの! てかキミしかいないじゃん!」

 今度は少し前かがみになりながら、僕の指を握りしめて彼女が言った。
 指先をふわりと握られて思わずドキッとした。

 それに、近くに来てくれたおかげでサングラス越しでもわかる……間違いなく美形だ。
 褒めるところしか見当たらない、普段は触れ合うことのない人種。

 栗色の髪をポニテにして、貝殻みたいな首飾りを纏い、柄入りのワインレッドのビキニと、腰回りを隠しているパレオから覗いてる美脚、爪の先はターコイズのペディキュアが施されている……普段はおしゃれなOLさんといった印象だ。

「僕ですか? な、なんでッ!?」

 自虐でもなんでもなく、僕は異性から声をかけられるような容姿でもない。

 逆に彼女は、水着であることも含めて、複数の男性から声をかけられてもおかしくない。
 ただ、このビーチには僕たちを含めて20名程度の人影しか見えない。

 僕からの質問に対して、彼女は腰に手を当てて少し考え込む。

「理由? そうね、おとなしそうだったから?」

 取ってつけたような理由付けだ……そうか、従順な下僕をお求めでしたか。
 それとも海辺でキャッチセールスとか。
 なるほど、それなら戦争だ。こう見えても僕は、色仕掛けには負けないぞ。

「あ、ちがうちがう! 悪い意味じゃないよー!!」

 怪しい人を見るような目を向けられたのに気付いたのか、彼女が慌てて弁明し始めた。

 話を聞くところによると、彼女は女の子同士でここへ遊びに来たらしい。
 初日と二日目はそれでよかったが、三日目を迎えた今日になって、さすがに外部の刺激がほしいということで、同年代の僕をここで見つけたというわけ。

 本当に理由はそれだけらしい。誰でもよかったという部分は微妙だけど、言葉に嘘が無さそうなのでそれはそれで良い。
 僕はちょっとだけ自分の返しが意地悪だったかなと反省した。

「ほら、あそこに見えるコテージに滞在してるの。ちょっとだけお話し相手になってくれたらそれでいいから」

「うん、じゃあ……少しだけならいいですよ」

「よかった! じゃあ、あっちへ行こう?」

 僕が了承するのを見て、彼女は嬉しそうに微笑む。
 それから僕の手を握って立ち上がった。

 やばいぞ、この子の手がすごく柔らかくて逆らえない……。







 それからだいたい十分後。
 僕は彼女――吉野ユカさんと一緒にビーチを後にした。

 到着した建物、彼女が滞在しているコテージは、遠目で見るよりも豪華な作りだった。
 造りは古く重厚感があって、手入れが行き届いている。

 知り合いの(お金持ちの親を持つ)友達から借りて、一週間ほど滞在する予定だという。
 部屋の中に入ると、涼しいエアコンの風が僕の体を撫でた。


「おかえりなさい、ユカ」

 続いて響いてきたのは、エアコンと同じように涼しげな声だった。
 ソファに座って雑誌を読んでいた女性が僕たちを見る。
 驚いたことにその人は、僕の隣にいるユカさんとそっくりな顔立ちをしていた。

「えっ、あ、あれ……?」

「ねえ、ちゃんと私たちのことを彼に紹介した?」

 戸惑う僕を見ながら、ユカさんに向かってその女性は小さく笑う。
 その笑顔もビーチで初めて見た時のユカさんにそっくりだった。
 ゆるく巻いた髪型が微妙に違うことを除けば、同一人物と言って問題ないほどに。

「あー、そういえば、名前以外はしてなかったね。やっぱりしといたほうがいい?」

「当然でしょ。ごめんなさいね、気の利かない妹で」

「い、いえ……」

「あたしたち双子なんだ。ああ、そんなの見ればわかるって?」

 ゆったりした部屋の中で、二人の美人に挟まれながら僕はにわかに緊張してきた。
 ソファに座っている女性は、マキさんという名前らしい。

 しばらく談笑した後、僕は二人に向かって問いかけた。
 ここに招かれた本当の理由を。

 マキさんはその質問を待ってましたとばかりに、柔らかく微笑んだ。

「妹は本当に何も伝えてなかったのね」

「えっ」

 すると、ユカさんが小さく舌を出しながら申し訳なさそうに僕に向かって言った。

「んっとね、ちょっとしたゲームにお誘いしようかと思って」

「ゲーム?」


「うんっ、今日初めて出会ったキミが、私たちを見分けるゲームをね♪」

 エアコンの効いた涼しい部屋の中で、僕の背中が急にじっとりと汗がにじみだした。







 もちろん邪な、男ならだれでも抱くであろう下心がなかったわけじゃない。
 だけど話がうますぎる。

 腰を下ろしたままの僕の前で、二人がゆっくりと立ち上がる。

 すらりとした長い脚はどちらも美しく、見分けがつきそうにない。
 それに加えて二人とも長い髪をいったん下ろして、同じようにツインテールにしてしまった。

 普通なら警戒しなきゃいけない状況なのに、目の前で微笑む二人の美しさは簡単にそんな気持ちを吹き飛ばしてしまった。


 ベッドサイドにあったメモ帳に書き留めた、ユカさんとマキさんから言い渡された「ゲーム」の条件は次の通りだ。

・二人のうちのどちらかが、僕を誘惑してくる。方法は不明。

・誘惑に屈したら僕の負け。

・三回勝負で、二回先取したほうが勝ち。

・誘惑に屈することなく、問いかけに正解できたら僕の勝ち。

・僕が答えを誤ったら彼女たちの勝ち。僕には簡単な罰ゲーム。

・ユカさんは右足の裏に☆印をつけてある。マキさんはその逆。

 僕がルールの確認をしている間に彼女たちは同じ服を二着用意していた。

 水色の糸で刺繍が入った白いビキニと、黒いTシャツ。
 ベージュの編み上げサンダル。同じアクセサリー。

 こうなるとほとんど見分けがつかない。
 ほんの少しだけ、マキさんのほうが髪の色が黒い気もするが……正直なところ、それすら光の加減によるトラップかもしれない。

(それに「罰ゲーム」が気になるけど……命に係わることではないだろう)

 生命の危険に及ぶような事があればさすがに僕だって逃げるし、彼女たちもそれを気にしてくれているのか出入り口は開けっ放しにしてくれている。

 そしてゲームが始まった。

「お隣、失礼するわね」

 いったん出入り口付近に隠れた、彼女たちのうち一方が、僕の隣へ静かに腰を下ろした。

(なんか、いいニオイがする……)

 ふわりとした髪が鼻先をくすぐってきた。

「もしかして緊張してるの? ふふっ」

 三人掛けソファで、僕の右隣に座った彼女は、遠慮がちに甘えながら身を寄せてきた。
 細い肩が軽く触れただけなのに、とんでもなく緊張してしまう。

「突然のお誘いだもんね。固くなって当然よね」

 静かに手のひらが重ねられる。
 話しかけられる時、彼女の顔がこちらを向いているので、かすかに吐息が耳を撫でる。

「い、いいえ……」

 わずかに身震いしながら僕は考える。

 この丁寧な話し方は、お姉さんのほうなのかも。
 それとも妹であるユカさんの演技なのか。

 そんなことすらどうでも良くなるほど甘い雰囲気で彼女は言葉を続ける。

「ねえ、もしよかったら私の事……軽く抱きしめてみない?」

「えええっ!?」

 僕の右手に重ねていた彼女の左手は、いつの間にか滑るように僕の右頬に添えられていた。
 すべすべした感触を味わった僕は心が揺らされてしまう。

「ふふっ、わかりやすく誘惑してるの。負けちゃいなさい♪」

 彼女の左手は、そのままゆっくりと僕の首にまとわりついてきた。
 続いて右手も首の後ろに回された。

 僕が軽く右を向いて、細い腰を抱き寄せたら、二人の体は完全に密着する。

 絶対に気持ちいい……気持ちいいに決まってる。
 こんな細い体の美女で、しかも胸だけは大きいスタイル抜群だなんて!

 抱きしめただけで下手すればイってしまうかもしれない。
 この誘惑に身を任せても失うものなんて――、

(でもそうなったら僕の、負け!)

 単純に負けたくない。
 その一念だけで邪悪な欲望を封じ込める。


「目をつぶって抵抗してる……抱きしめてくれないんだ? ケチ」

「……ご、ごめんなさい!」

 絞り出すような僕の声を聴いて、首にまとわりついた彼女の腕の力が緩む。


「今までの男なんて皆これで落ちちゃったのに。思ったより意志が強いのね」

 目を開けて一度だけ彼女を見つめる。
 大きな瞳がフッと笑う。

「じゃあ質問。あたしはユカ、それともマキ、どっちだと思う?」

「マキさん!」

 僕の答えを聞いて、彼女は数秒間沈黙する。

 そして――、

「ふふ~ん、残念! ユカでした~。あははははっ!」

 高らかに笑うユカさんの声と同時に、マキさんも現れた。
 念のため、足の裏の印も確認させてもらって、僕の敗北が確定した。

「あの……わからないですよ。フツー」

「そうかしら?」

 少しすねたような僕の声を聞いてからマキさんが首をかしげる。
 彼女が言うには、しゃべりかたなど、ユカさんには何かしら癖があるという。

「じゃあ罰ゲームね。いくわよ……」

 納得がいかない様子の僕にかまわず、マキさんが近づいてきた。

「え、ちょ……! あっ」

「負けたんだからじっとしてなきゃダメ♪」

 いつの間にか背後に回っていたユカさんが僕の両手首を掴んでバンザイさせると、マキさんが素早くズボンを引きずりおろしてきた。

(下半身が、丸見えに……恥ずかしいッ!!)

 人魚のように美しい姉妹の眼前に晒されたペニスは、誘惑の余韻に震えているように反り返っている。

「最初はお姉ちゃんからどうぞ♪」

 ユカさんの声を聞いて、マキさんは無言でペニスを口に含んだ。

チュプッ……

 遠慮がちに始まるフェラだったが、すぐに舌先が器用にまとわりついてきた。
 緩やかに上下する美しい顔を見ているだけで、僕はすぐに達してしまいそうだった。

クチュ、レロ、チュルルル……

キュッ、キュッキュッキュ、ピチュ……

「んあああっ! そんな、コリコリされるとおおぉぉぉ!」

 亀頭が優しく、リズミカルに挟み込まれる。口の中で転がされ、もてあそばれ、蹂躙されてゆく。
 たっぷりと唾液で潤んだ美しい唇が、チュッチュとペニスにキスを重ねる。
 ゾクゾクするような甘い刺激に体をよじっても、背後のユカさんが押さえつけてくる。

「あうっ、あああう、これき、気持ちいいいぃぃぃっ!!」

「いい反応するなぁ。キスしよっか? ねっ……んちゅ♪」

 背中を抱きしめられ、脇の下から手を通して僕の顔を無理やり自分のほうへと向ける。
 ユカさんの顔が目の前に来たと思ったら、あっという間に唇を奪われてしまった。

「~~~~~~~~~っ!!」

ビュルルルッ、ドクッ、ビュクンッ!

 その途端、僕は爆ぜた。
 性的な我慢の限界を、彼女のキスがあっさりと粉砕したのだ。

「んっ……んっ、ん……」

 濁流のようにあふれる精液を、マキさんは苦しむ様子もなく、コクコクと喉を鳴らして飲み干してしまった。

チュッ、チュッ、チュウウウ……

「ふあああ、あ、吸わない、でええぇ~~~~~~~!」

 しかもペニスが落ち着きを見せ始めてからも、舌先の甘いうごめきが僕を開放してくれない!

 貪欲にしゃぶられ続けた僕はすっかり骨抜きにされてしまった。
 マキさんのフェラだけで数回分の射精を経験してしまったかのように。

「んふっ、いっぱい出てる」

「お姉ちゃんのテクニックにかかったら、みんなそうなっちゃうよね~」

 ふたりの美女を見上げながら、僕は数秒間気絶してしまった。



 その数分後、休憩をはさんでもう一度僕はゲームに挑戦した。
 今度こそリベンジしてやる……という気持ちで臨んだ僕だったが――、


「じゃあ、質問タイム。パート2! 私はどっち?」

 誘惑に耐えきっても、やっぱりわからない!

 見た目に差はないのだ。
 違う部分、例えばホクロや腕の傷などがあれば助かるのに。

 困り果てた僕を見ながら、目の前の彼女がニヤリと微笑んだ。


「ヒントあげるね。私はマキだよ? うん、たぶんマキだと思うの。信じる?」

 こうなると完全に疑心暗鬼だ。

 疑うことを止めた僕は、彼女の言う通り「マキさん」と答えた。
 騙されたとしても悔いはない。
 相手を疑って勝利しても気持ちよくないからだ。



「あはっ、簡単に信じちゃうんだね~♪」

「えっ、じゃあ……」


「残念ながらユカでした。罰ゲーム……次はあたしがしてあげる♪」

 失意の僕をベッド上へ誘い、簡単に押し倒したユカさんが、おもむろに僕の両肩を押さえつけてきた。

「あっ……」

 ベッドにはりつけにされた状態で彼女を見上げると、心なしか頬が赤くなっているように感じた。

 サラサラの髪が僕の顔を撫で、少しずつ彼女が近づいてくる。


「ゲームは負けちゃったけど、私の言葉を信じてくれてありがとう。嬉しかったよ……ちゅっ♪」

 そしてまた、さっき僕を射精に導いたキス。
 ねっとりと口の中を舐めまわしつつ、唇での刺激も忘れない。

(ああああぁ、ユカさん……ユカさん、ユカ、ユカアアさァァ……!)

 ちゅぷちゅぷと口の中を荒らされ、頭の中も彼女一色に塗り替えられる。

 手足に全く力が入らない……


「おちんちんすご~い♪ こっちもいただいちゃうね……えいっ」

きゅぷうううううっ!

「ふあっ、あ、あああああああっ!?」

 あまりにも甘美な刺激が、僕の下半身全体を包み込む。
 驚いた僕の目に入っってきたのは、水着を少しずらしたままペニスを秘所に挿入する彼女の姿だった。


「ちょっとユカ! 抜け駆けはずるいわよ!!」

「いいじゃん。だって彼、すごく童貞っぽくて可愛いんだもん。もしかしてヤキモチ?」

「はっ? そういう問題じゃないでしょ!」

 不機嫌そうにマキさんが言った直後、ペニスがビクンと震えた。

「ふああああっ!」

「ひゃううっ、お、おねえちゃ……」

 なんとマキさんは、僕のペニスとユカさんの秘所の結合部を巧みな舌技で責め立ててきた。

 針の先で性感帯を刺激されたような感覚。
 淫らなフェラと同時に、マキさんは玉袋や蟻の門渡りも責めてくる。


「だ、だめです、これ! で、出ちゃうううううぅぅっ!!」

「あ、あぁんっ! もう出ちゃう? 出ちゃうのッ!?」

 悲鳴を上げるユカさんの太ももを強く握るようにしながら、腰を突き上げた瞬間に僕は達してしまう。

 ビュクッ、ビュクビュクウ……

 具合のいい膣内に包まれたまま、外部からも刺激を受けた僕は、為すすべもなく精液を捧げてしまうしかなかった。


「こうなったら負けないんだから……このおちんちん、萎えさせないから覚悟して?」

 その言葉が姉妹のどちらからのものであったのかを考える間もなく、そのあと数回連続で僕は無様に射精を繰り返した。





 ――次の日。

 まだ誰もいないビーチで僕は、うとうとしていた。
 昨日と同じように波音に身を任せ、時間の麻痺した感覚を楽しんでいる。

 しばらく時間が過ぎて、ちょうど顔のあたりに影ができたことに気づく。

「ねえ、キミ……今日もひまなの?」

「ゆ、ユカさん?」

 僕の言葉にニッコリと微笑む彼女。今日も変わらぬ美しさにドキッとしてしまう。

 でもまだわからない。
 目の前にいるのは、お姉さんであるマキさんかもしれないのだ。

(彼女はユカさん、いやどっちなんだろうか……)

 白い指先が、すっと僕のほうへ差し出される。
 僕は導かれるままに、今日も彼女たちのコテージへと向かうことにした。

 ひと夏の「ゲーム」は今日も続くのだ。




(了)










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