『恵方巻き』
まだ肌寒い季節っていうか、今年は数十年に一度の寒波が来てるのでクソ寒い。
この数十年に一度とか千年に一度って形容詞は聞き飽きてるので禁止してくれていい。
さて……
「ねえおにいさん、今年の節分はもう終わってるんだよ? なんでこの店に来たの」
「ははは、そうッスね……」
入室早々、指名したギャルっぽい嬢にこんなことを言われた。
それを言うならこの店の名前のほうが問題だ。
一年中営業してるのに店名が『恵方巻き』って……おかしくない?
最近得た知識だけど、恵方巻きというのは関西の風俗街で、お金持ちのお客さんが自分のペニスの代わりに風俗嬢に太巻きを咥えさせた遊びが発祥だとか。
このあたりは諸説あるらしく定かではないけど。
「か、可愛いですね」
「ありがと♪ よく言われる」
「来てよかった……パネマジなしって最高だ」
ちゅ、うっ……レロ、じゅるるっ♪
「ぷはぁ、恥ずかしいから黙って。言う事聞かないとキスしちゃうぞ♪」
なんという不意打ちだ。思い切り奥まで舌を入れられてしまった……。
前述したとおり、最近は寒すぎる。故に人肌が恋しくなる。
可愛い女の子の口の中で温めて欲しい……などという不埒な理由からやってきたのがこのお店。
「ここって、本当にフェラだけなんです?」
「うん。もし本番を期待してるなら帰ったほうが良いよ」
「あ、それはないッス」
フェラチオ専門店『恵方巻き』という、風俗サイトで評判のいいお店だ。
特に今日指名した女の子、リオンちゃんという源氏名のギャルは最高評価なのだ。
例えば「咥えられてすぐに天国行き」とか「時間いっぱいまで搾り取られた」「リピートします!」など、辛辣な口コミ欄にすら悪いことがひとつも書かれていない。
「んで、マジでやるの?」
「はい」
「久しぶりだなぁ~。我慢比べコースでの指名」
「あんまり指定する人は居ないのですか」
その質問にリオンちゃんはクスッと笑った。
他愛ない会話をしながら、自分が少しずつ彼女に惹かれてゆくのがわかる。
「実はさぁ、このコースって評判よくないんだよね~」
「なんでですか?」
「まあ、始まればわかるよ」
ズボンを下ろされ、温かいおしぼりで股間を拭かれてからアルコール除菌された。
ただそれだけなのに妙に気持ちよくて、あっという間にペニスは天を仰いでしまった。
先程のキスといい、やはりこの子は評判通りのテクニシャンなのだろう。
そして準備が整った。
「じゃあタイマーのボタン押して」
目の前のデジタルタイマーが我慢比べ勝負の証人となるわけだ。
タイマーが鳴るまで一度も射精せずに我慢できれば料金は半額。先にイってしまえば料金は二割増し。
しかし救済措置として、タイマーがゼロになった時にペニスが萎えていなければ、勃起したままならば通常料金というルールもある。
しかも今回は発射無制限オプションまでつけてある。
一度大きく深呼吸をしてから、タイマーのボタンを押した。
「ふふ、いくよ?」
リオンちゃんは、舌先を見せつけるように口を開いた。
そして先端を軽く舐めてから、亀頭に軽くキスをする。
さらにゆっくりと唇を通過させるようにして、時間をかけてペニス飲み込んでゆく。
「うあぁっ!」
「んふ……♪」
カリ首が完全に彼女の口の中に入った時、一度目の喘ぎ声を上げてしまった。
まるで女陰に挿入したような感覚に襲われたのだ。
ヌルヌルしていて窮屈な唇は膣口のようで温かい。
そしてその中で舌先によって舐られていると、名器と呼ばれるミミズ千匹をイメージさせられてしまうのだ。
「くっ、あ、あああぁぁ! くそっ、う、ううぅぅ!」
自分でもわかるほど一秒ごとにペニスが充血していく。
舌先でしつこくカリをレロレロとなぞられ、我慢汁が搾り取られる。
このまま続けられれば透明な粘液は白濁に変わってしまうだろう。
ベッドの端を掴む手に力がこもる。
すると彼女は、それを待っていたかのように自分の手のひらをこちらに重ねてきた。
その暖かさに警戒心がほぐされ、全身に多幸感が広がっていく。
射精に備えて玉袋が上がり、肉棒の感度が急上昇していく。
しかもリオンちゃんはそれがわかっているかの如く、手のひらで睾丸を転がしてサポートしてくるのだ。
「んふっ……ちゅぷ、ねえ……まだ時間半分も経ってないけど、イキたいんでしょ。どうされたい?」
余裕の笑顔で見上げてくる彼女と目が合う。悔しい。でもまだイきたくない!
そんな気持ちが伝わったのか、彼女は再び亀頭を口に含んだ。
今度は更に深く、肉棒の中央まで飲み込んでから、卑猥な音を立てて顔を前後に振り立ててきた。
「イくっ、イっちまう! あっ、ああああぁぁぁ!」
ビュクッ、ビュルルル~~~~~~~~~~ッ!!
全身を震わせながら思い切り射精してしまった。
そして敗北の証は全て彼女に飲み込まれてゆく……。
だがそれだけでは終わらなかった。
じゅうっ、じゅるるるる~~~~っ!
射精直後のバキュームフェラ。
突然の激しい刺激に、思わず叫んでしまった。
しかも身体を「くの字」に折り曲げ、柔らかな彼女の髪と肩にすがるようにして、許しを請う。
それでも吸引は止まらない。
(そ、そうか……射精無制限の、オプションが……ああぁ、あっ、また出るうううぅぅ!)
ヒクンッ、ヒクッ……
あっという間の連続射精に心臓がありえないほどざわめく。
リオンちゃんは顔をペニスから離さないまま、更に深く咥え込んだ。
すると亀頭が、カリ首が何かにロックされた……ような気がした。
「うっ、あぁ……あっ、ああああぁぁ~~~~~~~~!!」
この未体験の感覚は、ディープスロートによる快感だと後で彼女に聞かされるのだが、その時は自分に何が起こったのかわからず、問答無用で三度目の精液を彼女に捧げてしまった。
それからタイマーが鳴るまでに、情けないけどさらに3回搾り取られてしまった……。
「わかったっしょ? 評判よくない理由」
ペニスはまるでサキュバス吸い尽くされたようにピクリとも動かなくなっていた。
そして、ぐったりとベッドに横たわったまま彼女の声をぼんやりと聞いていた。
「どんな男でも私にかかれば、こんな風に終わっちゃうから♪」
不意打ちのキスをしてきた時と同じ笑顔。
リオンちゃんは少しだけ申し訳なさそうに頭を下げたけど、評判が悪いなんてとんでもない。
たとえ料金割増でも、ここまで骨抜きにしてくれるなんて最高すぎるじゃないか。
また来週、いやできれば今週中にでも……
精力が回復したなら彼女にリベンジしたいと自分に誓うのだった。
(了)