残業。じつに嫌な響き。
 何年勤めようと、新人だろうと定時退社が望ましい。
 ただ今日はいつもより少しだけ気持ちが軽かった。その理由は――、

「高井くん、あとどれくらいで終わりそう?」
「は、はい! だいたい30分くらいでしょうか……」
「よろしい。じゃあ特別に私がコーヒーを入れてきてあげる」
「すみません、涼花主任……」

 彼女の名前は高井涼花(たかいすずか)。
 僕より4年早く入社した先輩だ。
 コーヒーメーカーへ向かうために、僕の脇を通り過ぎたあとに彼女の香りが残る。

(後ろ姿も、綺麗だな……)

 その後ろ姿を見送りながら、ぼんやりとそんなことを考えてしまう。
 肩より少し長い茶色に近い金色をした髪、いかにも仕事ができる女といった知性的な顔立ち。
 そして制服の下から強く主張するバストの膨らみは男性社員の注目の的だった。
 ウエストも引き締まっていて足も長い。
 週に何度かジムに通っているという話も耳にしたことがある。
 もしも制服のデザインが、腰をベルトで締めないものだったとしたらもう少し状況は違っていたかもしれないが。

 偶然名字が僕と同じだったので、業務中の紛らわしさを回避するために、その日から僕は彼女に高井くんと呼ばれるようになった。
 逆に僕はこの先輩女子社員のことを普通に名前で呼べる社内唯一の人間になった。

 そしてついに業務も終盤を迎え、残りは明日の午前中に仕上がる見込みをつけてからお互いにタイムカードを押した。

「涼花主任、ちょっといいですか?」
「何かしら?」
「シンデレラ体重ってご存じです?」
「なにそれ」
「ネットで話題らしくて……でも、涼花主任が知らないってことは誰かが話題作りのために作った言葉なんでしょうね」

 僕がそう言うとすぐに彼女はタブレットPCをバッグから取り出して検索し始めた。
 机に浅く腰を掛ける姿もさまになっているというか、格好いい。

「なになに……うわっ、細い! 細すぎで不健康な体の基準値ね」
「そうなのですか?」
「覗き込まないで。セクハラで訴えるわよ」
「すんません……こわい」
「ふふ、冗談よ。もう仕事も終わってるし。一緒に見よっか?」

 手招きする涼花主任の脇に、おどおどしながら座る。
 ごく短い時間で、幾つかの項目を読みながらだいたいのことを把握したようだ。

「涼花主任の目から見てどう思います?」
「んー、この数字と魅力は一致しないかもしれないよ」
「やはりそういうものですか。僕もなんとなく違和感を感じて……」
「たとえばこれね、私は身長164くらいだけど、適正体重よりも5キロくらい上だし」

 感心するふりをしながら僕は頭の中で素早く計算していた。
 計算式はなんとなく覚えている。涼花先輩、やっぱりスリムなんだ。

「仮に標準数値だとしても、別に問題ないと思うなぁ……」
「ですよね」
「あ、もしかして誘導尋問? こういう質問ってやっぱりセクハラ目的じゃないの」
「いえいえとんでもない!」
「ふーん……」

 訝しげな顔をしつつ、彼女はタブレットに視線を戻す。
 いつの間にかページが変わっている。どうやらファッション誌のようだ。

「それにしても最近のモデルさんってスタイル良いわねー」
「そうですかね? 涼花センパイだってスタイルいいし、全然負けてないというか」
「もう、やっぱセクハラだよー! でも褒めてくれたのは嬉しいから、3つまでなら願いを叶えてあげよう」
「いいんですか、3つも!?」
「あー、エッチなのは駄目ね。気が変わらないうちに言ったほうが良いと思うよ」

 ニヤニヤしながら彼女が僕を見つめてる。
 こうしてそばにいるだけでも自然と興奮してしまう。でも今は、かなり美味しい状況だ。
 何を尋ねようか……。

「早く」
「は、はいっ! では……」

 僕は少しだけ悩んでから質問した。途端に主任は顔を赤くする。

「……えー、それ私の口から言わせたいの?」
「これはエッチな気持ちからではありません。ファッション関係の質問ということで」
「ずるいなもうっ、Fだよ! 65のFですよ私のカップはッ」
「ということは……」
「こらぁ、妄想しちゃ駄目~~! とにかく願いは一つ叶えたからね!」

 ぷいっと横を向く涼花主任が可愛らしく見える。普段は見せない表情だった。
 調子に乗って、さらに僕はもう一つ質問した。

「あの、高井くん……これもファッション的な?」
「はい、雑誌ではよくウエストの数値は固定されているのですが実際はどうなのかという意味で」
「ほんっと、恨むわよ! ウエストは57です!」
「それは信じて良い数値ですか?」
「絶好調の時はそれくらいよ。あー、もうエンジニアむかつく!」

 プンプン怒り出す彼女の脇で、僕は顎に手を当てて考えていた。

(理想的なスタイルっていうのはこの人のことじゃないのか……!)

 言葉に嘘はないとして、巨乳かつ標準的な体型、そして美形。
 非の打ち所がないのだ。

「じゃあ今度は私から質問ー!」
「えっ、まだもうひとつ僕からの願いを述べる権利が残ってますけど」
「そんなの、さっき私が答えた個人情報で消滅したわよ」
「はぁ……」

 強引な理論ですねとツッコミを入れようとした時、かぶせるように放たれた涼花主任からの一言に僕は凍りついた。

「ところで、こういうの知ってる? サイズフェチっていう言葉」
「……え?」

 まさに僕がそうだった。
 涼花主任が言ったのは厳密な意味では違う意味かもしれないけど、現状を鑑みるに僕自身の性癖を指している。

 サイズフェチというのはおそらく、二次元でも三次元でも、女性の身長やバストのサイズだけで色々と妄想してしまう性癖。
 そこにウエストやカップの大きさまで加われば、自然と該当するモデルや女優に当てはめてしまうのだ。

「ねえ、さっきの話を聞いてから熱心に私の体のことを妄想してたよね?」
「そんなことは、ないです……」
「嘘。事務所で私の後姿見てたじゃない? ひそかに備品の姿見の角度をずらしておいたから、それで気付いたんだよ」
「い、いつの間にそんなことを……あっ!」

 彼女の表情を見て、僕は言葉のトリックに自分が引っ掛けられたことに気付いた。

「ふふふ、ビンゴみたいだね♪」
「卑怯な! 僕は帰らせて頂きま……いてててっ!」

 逃げ出そうとする僕の腕を涼花主任がしっかりと掴んでいた。
 なにげに手を握られるのは初めてだけど、とにかく力が強くて痛い!

「ねえ、それいつからなの?」
「お、覚えてません。ずいぶん昔から、中学とか高校とか……」
「違うよ。私を見てそういう事を考えるようになった時期を聴いてるの!」
「ええええっ」

 手のひらがじっとりと汗ばむのを感じる。

「黙秘します!」
「言わないと今までの会話、どこかに放流するかも?」

 涼花主任は微笑みながら、今度はバッグからスマホを取り出してちらつかせた。
 おそらくボイスレコーダー機能をオンにしているのだろう。

「私からは簡単に逃げられないよ? ほぉら、素直に言っちゃいなさい」
「うううっ、それは……」

 結局僕は彼女の言葉に負けた。
 洗いざらい聞かれるままに答えを述べてゆく。
 とにかく恥ずかしい一心だった。
 次第に涼花主任の表情が緩んでいくことにも気づけないほどに。

「じゃあ、今夜は私で抜くんだ?」
「ええええええっ!!」
「Fカップのおっぱいや、引き締まったウエストを想像して……しごいちゃうんだ?」
「それは……いや、あ、ううぅ……」

 僕は何も言えなかった。
 まさに彼女の言う通りのことを考えていたからだ。
 涼花主任の声、顔、スペックが記憶にあるうちに抜いてしまおうと考えていた。

「くっ……」
「私は貴方にオナニーのネタを提供したことになるんじゃないかしら」

 黙っていることでますます彼女の推論の正しさを証明してしまうことになるというのに、やはり僕は石のように固まったまま何も言い返せないでいる。
 ふいに涼花主任の手のひらが僕の顎を持ち上げた。

「あっ……」
「自分だけいい思いをするなんて許せない。対価が必要だと思わない?」

 無理やり顔を持ち上げられた。
 大きな目が、涼花主任の瞳が僕を写している。
 まっすぐに見つめられ、僕の両腕がだらんとして力が抜けてしまう。まるでメデューサみたいだ。
 逃れるために金銭が必要かと思って腰から財布を取り出そうとすると、彼女は首を横に振って制止した。

「私のことを安く見ないで」
「じ、じゃあ僕はどうすれば許してもらえるのですか」

 半分泣き出しそうな声になっている僕を見て彼女は妖しく笑った。

「うん、ひとつだけ言うことを聞いてもらおうかな。悪いようにはしないわ」








 それから僕たちは、会社の最寄り駅から幾つか離れた駅で降りた。
 涼花主任の背中を見ながら僕は歩いている。

「高井くん、このあと予定とか入れてないよね?」
「はい。明日の朝まではフリーです」
「じゃあここにしましょうか」
「……え?」

 涼花主任が足を止めたのは、比較的豪華に見えるホテルの玄関だった。
 戸惑いながら付いていく僕には構わず、フロントで手続きをしてゆく。

「ここは?」
「普通のホテル。ダブルでいいよね」
「は、はい?」

 会話が成立しないまま僕は彼女に手を引かれ、最上階に近いフロアに到着した。
 聞けばよく残業などで遅くなったときや、プライベートでこのホテルを使うことが多いらしい。
 今日は貯めていたポイントを使っての宿泊ということに……宿泊?

「まずいですよ、涼花主任!」
「何が? 私独身、キミも独身。それとも隠し子とか愛人でも居るの?」
「いませんよ! いませんけど、こんな急展開……わわっ!」

 暫くは黙っていた涼花主任だったが、突然僕の肩を強く押した。
 踏ん張りきれず、ふかふかのベッドに尻餅をついた格好になる。
 それから目線を落として照れたままの僕の顔を、またさっきと同じように無理やり自分の方へと向けさせた。

「あのね、キミに拒否権はないのよ。サイズフェチの変態くんに、私は頭の中でどれくらい犯されたんだっけ?」
「うううぅ……」
「やっと自分の状況がわかった? じゃあズボン脱いじゃおうか」
「えっ」
「あとパンツもね。着替えもないし、濡らしたくないでしょ?」

 言われてみるとその通りなのだが、ただ素直に従うのにも抵抗があった。

「涼花主任は脱がないんですか」
「私はこのままでいいの。あとキミの方から勝手に襲い掛かってくるのも駄目よ。その場合、明日がキミの最終出社日になるわ」
「それはあまりにもひどいですっ!」
「なんとでも言いなさい。ほんと、ボイスレコーダーって便利ね~」

 服を脱ぐ僕を見てケラケラと笑いながら主任は言った。
 そして恥ずかしそうに裸になると、ベッドに腰を掛けて前を手で隠している僕の前に彼女が立った。

(ううぅぅ、見られてるよぉ……涼花主任が、僕の体を……)



 すると身動きできないままの僕の膝の上に、彼女が正面から跨ってきた。

「な、なっ……!」
「じっとしててよね」

 涼花主任はそのまま僕の首に腕を回すようにして、少し距離を開けたまま抱きついてきた。
 目の前には彼女の美しい顔があり、膝の上には柔らかなお尻の感触と体重……そして後頭部には手のひらの感触。
 あっという間に下半身に血液が集中してゆく。

「ほらほら、手が遊んでるよ? 私の腰の後ろに回して」
「はい……」
「ちゃんと支えてね」

 命令されたとおりに僕は両手で彼女の背中を支えた。ブラウス越しだが体温を感じる。

(主任の腰回り、こんなに細いんだ……それに軽い!)

 ウエストが57と言っていたが、もっと細く感じる。
 しかもどこか筋肉質でもあり、背筋がまっすぐに伸びているのだ。
 おそらく腰のクビレも、魅了されるくらい美しいはずだ……と妄想してしまう。

「近いです……涼花主任」
「そうね。ドキドキしちゃう距離? あと主任はやめて。涼花でいいわ」
「そんな呼び捨てなんて」
「これは命令よ」

 こういう時だけ上下関係を持ち出してくるなんて卑怯だと思いつつ、命令なら従わなければならない。
 サラリーマンの悲しい性だ。

「ちょっと、お、重……」
「失礼ね」

くにっ!

「うっ、動かないで! 涼花……さん」
「ふふふ、上出来よ」

 突然彼女が腰を捻ったことで慌ててしまった。微妙にブラウスの裾が亀頭を掠めたのだった。

 それに実を言うと、それほど重くは感じなかった。
 むしろ心地よい重量感。無意識に僕は涼花さんが言っていた体重を思い出していた。

 さらにウエストと身長、バストのサイズも……出来ることならこのままシコりたいところだが、両手は塞がっている。

「ねえ、今何を考えていたのかな?」
「ひっ、な、なにも……」
「んん~~? そんなに鼻の下を伸ばして、期待していますって表情なのにヘンだねぇ」

 見抜かれている……はじめからこの人に叶うはずはないとわかっているけど、それでも隠したい気持ちはある。


「先に行っておくけど、今日は本番はないから」
「本番……え、ええっ!?」
「期待しちゃ駄目。それから私に触れて良いのは背中だけよ」

 はじめから本番、セックスなんて考えてなかった。僕が驚いたのは、涼花さんの口からその言葉が出たことについてだった。
 おそらく彼女は勘違いしているだろうけど、僕に全く不満はない。

「この約束は守ってね」
「はい」

 素直に返事をした。だって、こんなにも近くで彼女を感じることが出来るのだから。
 明日以降、この状況を思い出すだけでとんでもなく興奮するオナネタになるだろう。

「ふふ、じゃあ色々お話しようか。まずキミは、私のことをどう思ってる?」
「それは、す、素敵な先輩だと……」

 僕に跨ったまま、彼女が背筋を伸ばす。
 両手にかかる重みが増すけど、僕もしっかりと彼女を支えている。
 ちょうどベッドに腰掛けたまま、膝の上に乗った涼花さんと見つめ合う体勢。
 少しだけ彼女の目線のほうが高い。

「ふ~ん、それだけ?」
「それだけじゃないですけど……」
「意外だね。素直に好きだって言ってくれると思っていたのに。
 私はキミのこと好きよ。そうでなきゃこんなエッチな遊びに付き合わせたりしないって」

 どうやら最低限、僕は彼女に信頼されているらしい。
 ただしそれは秘密を共有できるという一点のみ……だろうけど。

「ちょっと暑くなってきたよね」
「そうですか?」
「うん。ブラウス、少し脱ぐわ。ちゃんと支えててね」
「えっ、あ、はい……って、ここで!?」
「そうだよ」

ふるんっ

「あっ……!」
「見えた? 胸が露出しちゃうね。これだけでも興奮しちゃうかな」

 その言葉通り、形の良いバストが半分だけ姿を現した。
 しかも柔らかそうに揺れながら。
 ブラウスを中途半端に脱いで、僕の腕の中で涼花さんは気持ちよさそうに伸びをした。

「い、いえ、き、器用に脱ぎますね……しかも半分だけ」
「ふふふ、触れなくて残念ねー?」

 またバストが揺れる。
 でも自分からは触れない。
 まるでおあずけされた犬のように僕は小さく唸る。

(すごい、谷間があんなに……乳首もきれいなピンク色なのかな)

 彼女はまた勘違いしているのだろう。
 実を言えば直接触らずとも、僕は既に満足していた。
 またオカズが増えたのだ。喜ばずにはいられない。
 薄いグリーンのブラから覗く光景はまさに絶景で、男なら誰でも情欲をそそられるに違いないと思えた。

「ふふっ、素直だなぁ」
「えっ、なにがです?」
「おちんちん、反応してるよね」
「あっ……」

 思わず下を向く。既にそれは、誰が見ても興奮していることが一目瞭然であった。

「触ってほしいんだ? えっち」
「そんなことは!」
「我慢しないで素直に言えば~?」

 小悪魔的な笑みを浮かべながら涼花さんは僕を見つめているけど、やはり勘違いしてる。
 リアルタイムで刺激されるのも嬉しいけど、僕はどちらかと言えばVTR派なのだ。
 あとで記憶を改変して、もっとエッチなことだって出来るんだ――、そう思っていると不意に彼女がとんでもないことを仕掛けてきた。

「ほ~ら、こちょこちょこちょ~」
「う、ひいっ、あああぁぁ!」
「私の背中、ちゃんと支えてないさいよ?」

 首に回していた手を解放して、突然彼女の両手が僕の耳の下から鎖骨辺りまでをくすぐり始めた。
 手を離すわけにはいかないので僕は全く抵抗できない。
 最初はくすぐったいだけの悪戯だと思っていたが、だんだん妙な気持ちになってきた。
 涼花さんは指の先で首筋をくすぐるようにしつつ、軽く爪を立ててきた。
 左右バラバラに首筋を引っかかれ、くすぐられているうちに、まるでその手つきがペニスをくすぐっているかのような錯覚を生み出してきたのだ。

(ヤバ、これ……感じるッ、まずいぞ……お、あっ、ああああ!)

 戸惑いながら悶え始めた僕に、彼女が囁いてきた。

「クスッ、射精しちゃってもいいんだよ?」
「えっ、ええええ!?」
「この遊びはキミが初めてというわけじゃないから。
 こうやって身を寄せて触りっこしているうちに暴発しちゃう男の人だって結構いるんだよ」

 それは甘い誘惑だった。
 許されたのだ。
 射精する自由を与えられたのだ。

 眼の前に居る涼花さんは半裸のままだけど、僕のことを悪くは思っていないわけで、それがまた魅力的だった。
 その彼女の体温、呼吸、感触を味わいながら果てることが出来たら……そしてまた、その痴態を涼花さんに見てもらえるのは幸せなのかもしれない。

「でも、おちんちんに触れてないのに絶頂しちゃうのは恥ずかしいかもね」
「っ!!」
「ふふふ、悔しそう。男の顔になってる」

 僕の顔を撫で回しながら彼女は続ける。

「それでもね、キミはきっと出しちゃうから。直接的な刺激よりも、頭の中を先にイかされちゃえば、
頭が壊れたみたいに気持ちよくなっちゃうんだよ」

 壊れるという言葉を聞いて、何故か僕の体がビクンと波打った。
 それを涼花さんは見逃さなかった。

「キミも壊れちゃうのかな。それとも……私に壊されたいのかな」

 涼花さんの言葉一つ一つに妖しい艶があり、思わず息を呑んでしまった。

 だが僕は逆に、我慢することを決意した。
 まだ何もしていない、一方的に与えられるばかりじゃ男が廃るという気持ちもあった。

「我慢してやるって顔になったね。じゃあ次の誘惑、いっちゃう?」
「つ、次の……?」
「そう、私の目を見てて。ずっとね」

 言われたままに見つめる。恥ずかしい気持ちが快感を後押ししてくる。
 すると彼女は少し伸びをするようにしてから、両手を降ろした。
 だが僕は目をそらせない!

「しっかり支えててね。手を離したら、このエッチは終わりにしちゃうから」
「は、はい……」

 強い口調で言われた直後、突然下半身が痺れた。

くちゅううっ!

「あああっ!」
「見ちゃ駄目よ。固さを確かめているだけだから」
「まさか……」
「うん、まだ余裕がありそうね」

 間違いなくペニスが指で押されていた。
 本当に軽く、ツンツンされただけなのに余韻がすごすぎて腰が砕けそうになる。
 さらに涼花さんは再び手のひらで僕の鎖骨から首筋までを丁寧に撫で始めた。

「さっきは首筋をこんな風に撫でたでしょう。私の指がおちんちんにちょっと触れた時、何を考えてたの?」
「それは――!」
「当ててあげる。おちんちんを、こうやってコネコネされたくなっちゃったんだよね」
「なっ……ちち、違います!」

 体をペニスに見立てたまま、涼花さんは妖しげな手つきで僕を愛撫し続けている。

「隠しても無駄だよ。キミの目、すごくトロトロになってたもん。
 私の手で、おちんちんを優しく引っかかれたり、揉まれたり、いっぱい気持ちよくされたいよね?」
「う、ぐうう……」

 一秒ごとに追い詰められていく。でもこれを認めてしまうと、本当に丸裸にされてしまう気がした。

「ふふふ我慢するのも大変ね。ここからは手だけじゃなくて、言葉で犯してあげる」

 突然彼女は声を低くした。

「ふと~くなったおちんちんをね、両手でギュッと握っちゃうの」

 その言葉の後、脇の下を撫でた彼女の手がゆっくりと降りてゆく。
 ぎゅっぎゅっと脇腹を擦られ、同時にペニスもビクビクと反応してしまう。

「こうやってゆっくり圧迫してあげると、どんな男の人でも我慢汁がドクドクになっちゃうのよ」
「うあ、あああぁぁ!」

 彼女の言葉につられて下を向こうとしてみたものの、阻止されてしまう。
 手のひらの上に顎を乗せられ再び見つめ合うことを強いられる。

「想像してごらんなさい。私の指で、キミのねっとりした我慢汁を絡めてから、敏感になったおちんちんの筋をいじめちゃうの」

 涼花さんは見つめ合ったまま、ゆっくりと口を開けてみせた。
 そして唾液をトロリと一滴真下に落とす。

ぴちゃっ……

「ああっ!」
「大袈裟すぎだよ。でもキスしちゃったね」
「う、あ、キス……ッ」
「キミのおちんちんの先から裏筋まで私の唾液が溶けていくわ」

 彼女の言い回しがエロすぎて、さらに我慢汁が滲み出すのを僕は感じていた。

「エッチなキミとひとつになれて嬉しい……その熱いおちんちんの先っぽ、これで包んであげる」

 涼花さんはブラウスを脱ぐ時にベッドに置いたスカーフを指先で摘んだ。
 そして柔らかなシルクで出来たそれを、ふわりとペニスの先へと導く。

シュルルル……

「う、あ、これ……!」
「被せるだけじゃなくて、軽く拭いてあげないとね」

 なめらかなその刺激はとても甘く、僕の我慢する心を崩していく。

「気持ちいい……いいよぉ……」
「このまま少し強くしたらイっちゃいそうね」

 涼花さんの読み通り、僕は今すぐにでも果ててしまいそうだった。
 それなのに彼女はスカーフを左右から両手で挟むようにしてから、上下にゆっくりと擦り始めた。

「じゅうぶんヌルヌルになったみたい。もうどんなに抵抗しても無駄だと思うわ」
「すっ、涼花、さんっ! 駄目、それ駄目えええ!」
「心も体も犯されて、いつでも私にイかされちゃう状況になっちゃったね」

 あまりの気持ちよさに全身が硬直し始めた。それでも彼女は続ける。

「私の言葉と、キミが質問してきたことを思い出してみて」
「しゅ、涼花さんの……あ、ああああぁ!」

 促されて僕は思い出す。
 彼女の身長は164センチ、体重は49キロ、バストはFカップ、ウエストは57……。
 スペックだけでも妄想できるのに、僕は彼女の声も、体温も、肌の感触も刷り込まれている。

「私って、そんなにキミの好みに合っているのかしら?」
「それは、涼花、さんは、り、理想形……です……」

 絞り出した僕の言葉に彼女は小さく笑った。

「体は本当に正直ね。すぐに反応してくれるし、さっきのスカーフだってもうびしょ濡れよ?」
「ごめんなさい……」
「駄目よ。もっと想像してごらんなさい。心だけじゃなくて、そろそろ体も気持ちよくしてあげるから」

 涼花さんは息も絶え絶えの僕に首に手を回し、わずかに腰を突き出した。
 そして両脚のふくらはぎで脇腹をきゅっと押さえつけてきた。

「ほら、もう少しでおちんちんに触っちゃいそうだよ」
「えっ」

 彼女は僕の脇を締め付けながら、少し内股になっている。
 そのせいでペニスが太腿の内側に触れそうになっているのだ。あと3センチ以内の距離だ。

「あ、あっ!」
「私も少し我慢しなきゃいけないみたいね」

(我慢なんて、しないでいいのに!!)

 本気でそう思った。あの真っ白な太ももで擦られたい。
 その時はそれしか考えられなくなっていた。
 涼花さんの美脚は、間違いなく最上の肌触りであろう。
 触れただけでも射精できそうな気がした。

 自分自身と魅惑の太ももを交互に見ている最中に顎を持ち上げられた。

「あっ……」
「こっちを見て。今から抱いてあげる」

 抱いてあげる、という言葉にドキッとした。
 涼花さんのほうが自分より上位にいることを思い知らされた。
 でもそれ以上に僕は彼女に見とれていた。

「目をそらさないで。ここからは、イくまでずっとこのままよ」
「は、い……」
「そのおちんちん、硬くなったままで私に入れたらどうなると思う?」
「えっ、い、いっぱい焦らされたから……瞬殺されちゃうかもしれないです……」
「ふふっ、でもね、焦らさなくてもキミはすぐに暴発しちゃうと思うわ」

 微笑みながら彼女は言い切った。

「私、名器って言われてるの。男の人はこの中に包まれると我慢できなくなっちゃうみたい」
「っ!!」
「どんな男の人でも二分と持たなかったわ。入口が狭いの……だから挿入する時は私も感じちゃうけど」

 ジムで体を鍛えているのだから膣内もきっと……涼花さんの言葉には自信が満ち溢れている。

「でも挿入後は男の人が大変。奥のほうが狭くて、敏感なところをきゅうきゅうに締め付けられちゃうんですって」
「そ、それなら抜いてもう一度試して――、
「抜こうとしても駄目。抜いたらその時に擦れる刺激でイっちゃうから」

 入れた瞬間に引き抜いても、男は彼女にイかされてしまう。
 思わず自分もそうなるのかと妄想してしまう。

「無理に抜こうとせずにじっとしててくれれば私の方も高まってくるんだけど、私が感じるより先に男の人に限界が来ちゃうの」
「そんなに……で、でも僕は!」
「ううん、きっとキミもその一人よ……ジュプって入れてから私がじっとしてるだけで、自分から腰を振り始めてすぐにドピュってしちゃうの」

くにゅっ……

「ふああっ!」
「だってほら、もう限界でしょう? それでも試してみる勇気はあるかしら」

 ほんの少しだけ、ペニスの側面に柔らかいものが触れた。
 おそらく太ももの内側で軽く擦られただけなのだ。

「い、入れて下さい……涼花さんの膣内に」
「ふふふ、駄目よ」
「そんなっ」
「じゃあテストしてみる? この太ももで」

 視線を促され、真上から太ももを見る。
 ほんのり上気した白い肌と、めくれたスカートから覗き見える薄緑のショーツがとても色っぽかった。

「いい? 挟まれたら10数えてね」
「うっ、あぁ、わかりました」

 見とれているうちに白い太ももの隙間が狭くなってきて、

くちゅ……

「はうううっ!」

 一気に挟み込まれるのではなく、じわりとペニスに圧力が加えられていく。

(ああああ、気持ちいい! きもちい、いいいい!)

「あれ、射精しないんだ。ふふっ、そんなに挿入したいの?」
「くっ、ふ、うううぅぅ!」
「じゃあ、数えて」

 歯を食いしばって、ゆっくりと10秒数える。
 その間も、意地悪に太ももが蠢いて僕を射精させようとしてくる。

 それでもなんとか耐えきって、顔をあげると……

「すごーい! じゃあこんどは20数えてね」
「ええええええっ」

 そしてまた再びペニスは白い脚に閉じ込められた。
 しかも今度はヌルついている上に、ショーツ付近のポジションが与えられた。

「あっ、あああああああああ!」
「テストが10秒で終わるなんて、一言も言ってないわ」
「で、でもこれはあああああっ!」
「気持ちいいでしょ。今のキミには絶対に我慢できない」
「うあああっ、くそっ! あああああああああ!」

 あまりの心地よさに下半身全体が疼き出す。
 目をつぶり、雑念を追い払おうとした時だった。

「目をそらしちゃ駄目」
「ひ、うっ、うぅ」
「最後は膣内でイきたいんでしょ?」
「は、はい……」
「男の人だもんね。オマンコの奥でキュウキュウにされて、悶えるほど気持ちよくなって腰を振りたいよね」

くいっくいっ!

「あっ、ああああ! 動かないで!!」
「それとも女性上位の、騎乗位のほうがいい?」
「き、じょ……ううっ!」
「あっ、反応してるー! 犯されたいんだ? 私にのしかかられて、腰をクイクイ振られたいんだ?」
「ち、ちが、うっ、違いま、ああああぁ!」

ちゅっく、ちゅっく、ちゅっく!

「じゃあ上下の動きよりも、前後のほうがお好みかしら」
「あああああああああああああああああ、それはあああ!」

 涼花さんは太ももでペニスを締め上げたまま、ゆっくりと上下させたり、小刻みに太ももをこすり合わせて振動させたりしてきた。
 どの刺激も今の僕には危険で、そして甘い誘惑だった。

「はいストップ。効くでしょ……寸止め。このままじゃすぐイっちゃうもんね?」
「うあっ、ああああぁぁ!」
「落ち着いてきたらまたしごいてあげる」

 やっとの思いで20秒チャレンジが終わったが、まだテストは続くようだ。

「今度はローリングよ。さっき触れなかったところが擦れあって気持ちいいよね?」
「ひぎっ、いいいいいい! イくっ、イっちゃいますうううう!」
「はい、ストーップ! 我慢我慢♪ 全然持たないじゃない、あはははははっ!」

 そして今度は腰を8の字にくねらせながら、上下にトントンと揺さぶってきた。

「ふあああああっ、あ、そ、それえええ、イ、いくっ! もうイっ、あ、あああああ!」
「ううん、イっちゃだ~~め!」

 数回も寸止めをされると、体中がペニスになったように感じてきて意識が朦朧としてきた。

「でも、可愛い顔になってきたからご褒美よ……」
「すず、かさ……もうイ、イかせ……」
「イっちゃう? いいのかな。私に全部見られちゃうよ」
「……え」
「キミのイキ顔、真正面から見られちゃうけど構わないの?」

 ほんの少しだけ戸惑ったが、その違和感すらすぐに霧散した。
 問いかけられたものの、今の僕にはもうその恥辱すら快感に置き換えられてしまうのだった。

「それでも、いいです、見て、ください……」
「ふふふ、いいわよ。今の一言が最高に可愛かったからお手伝いしてあげる」

 すると彼女は太ももの圧迫を緩め、両手の指先で僕の乳首を弄び始めた。

「ううっ、くすぐったい……」

 始めは確かにそう感じた。だがすぐに自分の体に異変が起きたと気がつく。

「はぁ、はぁ、はぁ……なん、で……僕は、こんなっ!」
「乳首でも感じちゃうんだ。もうすっかりヘンタイくんだね~」
「ちがう、違うんです! でも、その手つきが……ううあ、ああ!」

 なんとも思っていなかった乳首責めに感じ始めると、それが涼花さんの指先に寄る巧みな愛撫だと理解するのにそれほど時間はかからなかった。
 見つめ合ったまま全身を愛撫されるのがこんなに気持ちいいことだったなんて!

「見て、もう太ももにも挟んでないよ。キミのおちんちんは私に触れられないままイかされちゃうのよ」
「い、いやだ……触って、おちんちん触ってぇ……」
「駄目よ。乳首でイかせてあげる。手のひらや指先でシコシコされたら思い切りイけるのに、全部は出せないの」
「うあっ、ああああ……!」
「太ももで挟まれたままキュッキュされたらスッキリ出来たのに、出来ないんだよ。すぐそばに私の脚があるのにね」
「くやしい、そんなの嫌だああああぁぁ!」

 甘い指先の愛撫とは真逆の、彼女の意地悪な言葉責めに容赦なく心が折られてゆく。

「まだあるわ。私の胸、見てご覧なさい」
「む、胸……きれい、ああ、触りたいよぉ……
「ふふっ、この隙間におちんちんを入れたら、もっと気持ちよくなれるのにね?」
「っ!!」
「やわらか~いおっぱいに挟まれて、すべすべのお肌で擦られて、きっと数秒で暴発しちゃうと思うけど」
「うあっ、あああああ! 入れて! おっぱいの中、入れてよおおぉぉぉ!」

 彼女の背中から手を離すことが出来ず、焦らされて悶える僕の顔を涼花さんは楽しげに見つめていた。

「んふ、苦しそう……私の言葉責めに耐えきれたら、おっぱいの中に入れてあげる」
「ほっ、本当に!?」
「うん。でも絶対無理だけどね。だって今から、オマンコで絞られちゃうんですもの」

 涼花さんが少しだけ腰を浮かせてからお尻の位置を元に戻す。
 ほんの少しだけ腰を前に突き出してから、太ももで僕の脇腹を押さえつけてきた。
 さっきよりも体が密着した。彼女の呼吸が顔に当たる距離だ。

「ほ~ら、暖かいでしょう? 体中が敏感になってるから、何をされても感じちゃうよね」

くにゅくにゅくにゅっ!

 汗だくになった体の表面を、彼女の手のひらがゆっくりと撫で回してゆく。
 時々指先が乳首を掠めたり、首筋を悩ましげに這っていく度に僕は声を出して喜んでしまう。

「うあっ、ああああ、気持ちいいよおおぉぉ!」
「まだオマンコに、おちんちん触ってないよ?」
「いっ、いやだ! まだイきたくないっ」

 いつしか僕は、涼花さんの名器を味わうまでは射精しないと心に決めていた。
 それが彼女による誘導だと気づかずに。

「私の中は今の何倍も気持ちいいはずよ。
 熱いおちんちんを入れると、ニュルニュルくちゅくちゅ、襞が絡みついて男の人を喜ばせるの。
 そこで私がゆっくり腰を振ればぁ……色んな所を刺激されて、私と交わった人はもう病みつきよ?」
「入れたいっ、入れたいですっ! 早く、涼花さん、早くうううう!!」」
「ほ~ら、入れたくなってきた……私の中で、きゅうううう~~~」

 その言葉に合わせて、涼花さんは太ももを締め付ける。
 僕の全身に這わせた手のひらで圧迫する。

「あっ、あああああああああ!」
「抱きしめてほしいでしょ? ほら想像しなさい。私に抱かれて、爆ぜる自分を!」
「あっ、駄目だ、イっちゃ、イっちゃうよおおおお! あっ、あ、ああああああ!!」
「おしまいね。さあ、思い切りイっちゃいなさい!」

 無慈悲な快感。
 求めているけど、求めていない終末に無理やりたどり着かされる屈辱に僕は泣いた。

 そして思い切り腰を突き上げながら、彼女の名を呼びながら限界が訪れる。



どぴゅうううううううううううううう!!



 真っ白な飛沫が僕と彼女の間にほとばしり、何度も何度も吹き上がる。
 直接手を触れないで射精させられた僕を待っていたのは永遠にも感じる絶頂時間だった。

「キミ、可愛いなぁ♪」
「あが、あ、あああぁ……」
「いいわよ。もっと吸い取ってあげるわ。まだ足りないでしょ」

 気絶しかけた僕を優しく介抱するように、涼花さんが膝枕をしてくれた。
 そして白く長い腕を伸ばして、すっかりおとなしくなったペニスの先端を指で弄ぶ。

クニュ、クチュ、クニュッ……

「おちんちんから、ゆっくりゆっくり搾り取ってあげる。時間はいっぱいあるからね」
「ひっ、あ、あああぁ……!」

 待ち焦がれた手淫に全身の毛穴が開く思いだった。
 数分も経たぬうちにペニスが再び天を仰ぐ。

「そう言えば、私の願いを言ってなかったよね」

 優しい手つきでカリクビを撫でながら彼女は呟いた。

「私の願いは、可哀想で情けないくらい感じちゃってる男性を見ることよ。
 今夜のキミの顔、一生オカズにしてあげるわ」

 その言葉が気絶しかけた僕に届くことはなかったが、その日から僕は休みの度に彼女の寵愛を受けることになった。






(了)










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