目の前にあるその大きな瞳は、まるで湖の水面のように静かで、深い青色に見えた。
 見つめているとグイグイ引き込まれるような気持ちになり、目を背けたくなる。
 でも視線を動かすことができなかった。
 この時、既に魅入られていたのかも知れない。
 放課後の、誰も居ない特別棟の一室で僕は美しい上級生と見つめ合っていた。

「こひなかクンの、目の前に居るのは魔女」
「まじょ……」
「今は可愛い女子高生の姿だけどね」
「かわいい」
「私、ブサイク? 少しは自信あるんだけどな」
「い、いいえ……可愛いです。とても」
「ありがと。ふふっ、素直なキミにご褒美あげたくなっちゃうね」

スッ……

 センパイの手が静かに僕の両手に重なり、包み込む。
 白くほっそりとした指先は少しひんやりと感じた。だが心地よい。
 思わずきれいに整えられた爪の先を見る。
 いつの間にか鼓動が大きくなっていた。

「あっ」
「どうしたの? 手を握られただけでしょう」

 じわり、と僕の両手を包む力が強くなった気がしたのだ。
 センパイは僕を見つめたまま、薄笑いを浮かべている。

「でも、あ、ああぁ……」
「ぎゅうううう~~~~♪」
「ひううっ!」

 僕の両手がはっきりと圧迫され、思わず声を漏らしてしまう。
 今までこんな距離で異性を感じたこともないし、見つめられながら手を握られたこともなかった。
 でもそれは不快なものではなく、まるで心をそのまま掴まれたような感覚だった。

「こひなかクンはね……たった今、私に奪われたのよ」
「えっ」
「私に手を動かす自由を奪われ、目をそらす権利も奪われたの」
「奪われる……」
「そう、でも貴方は今こう思ってるはずよ。『気持ちいい』って」
「きもちいい……」
「そう、きもちいい」

きゅ……

 センパイの指先が、爪が軽く僕の手の表面に食い込んでいるように感じる。
 その痛みとも言えない痛みが心地よくて、センパイと繋がっていることを意識させられてしまうのだ。
 見つめ合ったまま、少し声を潜めてセンパイは言葉を続ける。

「ねえ、こひなかクン……?」
「ああぁ……」
「私の名前、覚えてる」
「はい、うえのセンパイです」
「……まあいいわ。女の子に触られるのは、気持ちいいでしょう」
「はい……」
「もっと気持ちよくなりたいよね」

 陶酔感に似た曖昧な気分のまま、僕は素直に答える。
 初めて聞いたときから感じていたこと。センパイの声はとても透き通っている。
 魅力的で心地よい音色。
 それがずっと、先程から頭の中で鳴り響いているのだ。

「なりたいです、センパイ……」
「だいぶ深まってきたわね。こひなかクン、こっちへいらっしゃい」
「うぁ……」

 センパイが手招きすると、それに応じて体が勝手に動き出した。
 自分でも不思議な気分だった。
 やがて僕はたどり着く。
 机を幾つか並べてバスタオルを敷いたそれは簡易寝台のようだった。

「ほら、すっかり私の言いなりよ」
「言いなり……」
「こひなかクンはね、私の言葉に逆らえない。それどころか従うと気持ちよくなれるわ」
「は、い……」
「うふふ♪ だからもっと気持ちよくなるけど、絶対叫んじゃダメだよ?」

 センパイの言葉に頷きつつ、ふらふらと簡易寝台へと横になる。
 すると、すぐにシャツのボタンが幾つか外され、センパイの手がその隙間から滑り込んできた。

すりゅ、しゅ、しゅ、しゅっ……

「うあ、ああぁっ!」
「静かにして」
「でも、これええっ!」

 すべすべした細い指先に胸板をいじられ、くすぐったさと恥ずかしさが混じった感情に支配される。
 でも動けない。
 センパイからの命令があるから僕は動けないんだ。

「ああ、気持ちいい……気持ちいいよぉ……」
「すっかり夢見心地ね。こひなかクン、チョロすぎ♪」

 指先が乳首をかすめた時、脇の下をなぞった時、僕は目をつぶった。
 ゆっくりと体中に這い回るセンパイの手のぬくもりを感じつつ、僕は声を殺すことに集中した。

「ほら、さらさらさら~~」
「く、はあぁっ、あああ! センパイ、うえのセンパイいいぃぃ!!」
「ノノでいいわ。呼んでみて?」
「ふあ、ああ、ノノせんぱい、ノノせんぱいっ!」
「上出来♪」

きゅいいいっ♪

「くふうううぅぅ!」

 左胸の、乳首が軽くつねられた。
 今までで一番、すごく気持ちいい……でも声を出しちゃ駄目なんだ。
 歯を食いしばって快感を耐え忍ぶ。
 またそれが新たな気持ちよさを連れてきて、僕を包み込む。

「ふわふわしてるでしょう?」
「は、はひぃ……」
「こひなかクン、体中がふわふわにされちゃったね」
「ふわふわ……」
「そう、ふわふわ。心も体もふわふわで気持ちいい」
「ふわふわできもちいい……」

 その心地よい音色に抗うこともできず、すべてを受け入れる。
 ノノせんぱいの優しい声が直接心に染み込んでくるようで、僕は次の言葉を待ち望んでいた。

「ふわふわは、とても気持ちいいでしょう?」
「はい、きもちいです……」
「このまま続けられたらどうなるかな」
「しあ、わせです……ずっと、ずっと、ずっとぉ……」
「そうね。でも、それをね、ぎゅうううっ!」
「あああああああああああああああああっ!!」

 胸が締め付けられる思いというのはこういう事を言うのだろう。
 ノノせんぱいが僕を抱き寄せ、抱きしめ、体を擦り寄せてきた。
 ドキドキしながら僕はハッキリと、彼女の胸の柔らかさを感じた。
 同時に鼻先に甘い香りを感じ、遠慮がちな喘ぎも感じた。
 目と、耳と、鼻と、触覚を押さえられてしまった。

「んはああっ、ああああああ~~~~!!」
「ふわふわしたままの、こひなかクン……抱きしめちゃった♪」

 密着したままノノせんぱいが微笑んでる。

「私の腕の中で、もがいてるキミは可愛いね」
「うあ、ああぁ!」
「このまま潰してあげようか? 心まで抱きしめられたら、完全に私の虜になっちゃうけど」
「い、いやです……ノノせんぱい、それは駄目ですうううぅぅ!」
「じゃあ、体を起こして、と……」

 視界が90度回転する。
 いつの間にか僕はセンパイに正面から抱きしめられていた。
 センパイの小さな顔は僕の右肩に乗せられている。

「じゃあ、今からキミの可愛いところを見せてもらおうかな?」
「え……」

 肩に顎を乗せたままセンパイは魅力的な声でささやく。
 手のひらは絶え間なく背中をなでさすり、それもまた心地よい。
 声と同時に発せられるかすかな吐息が甘すぎて僕は身震いした。

「こひなかクンはもう動けないわ」
「動けない……」
「気持ちはふわふわ、手足にも力が入らない」
「あああぁ、動かない……ふわふわだから、手足が動かないよぉ……」

 不思議なことに声に出す度にそれら全てが現実のものとなっていく。
 肩や肘、膝などが全く言うことを聞いてくれない。
 僕はノノせんぱいに抱かれるだけの存在に成り下がっていた。
 これら全てが簡単な暗示だとわかっていても逆らえない。

「まだ触られてない、気持ちいいところがあるよね」

グチュ……ッ!

「ふあっ!」
「ここは今、こひなかクンの心に繋がってるんだよ」
「こ、ココロと……あっ、あっ、ああ!」

 不規則なリズムで下腹部をこね回され、僕はみっともなく喘ぐ。
 おそらくセンパイの右手が悪さをしているんだ……。
 でもセンパイの左腕が僕の首に回されているので下を向けない!
 抱かれたまま悶えることしかできない。

「あっ、あっ、ああ!」
「こんな風に心を優しく撫でられたら、気持ちいいよね」
「うあっ、ああ、こ、心……んううう!」
「気持ちいいでしょ?」
「はい、きもちいい……ですぅ……」
「もっとしてあげるぅ」

 カチャ、と何かが外れる音。
 その直後、僕の心が……ココロが、柔らかな手のひらで握りしめられた。

(うああああぁぁぁっ、センパイの手がああぁぁ……)

 下半身が熱い。蕩けるように熱くなる。
 ヌチャヌチャと音を立ててペニスがしごかれているのもわかる。
 わかってるけど確認できない。
 それはまるで、センパイが言う通り心を直接刺激されているようで、僕は異常に興奮してしまった。

「体が、よじれて、ん、あ、の、ノノせんぱ……」
「悶えても無駄よ。キミは私からは逃げられない」
「にに、逃げられないぃぃぃ!」
「ふわふわでとろとろのこひなかクンは、もうずっと私のいいなりよ?」
「あああぁぁ、いいなり、でも、これ気持ちいいよおぉぉぉ!」
「そう、いいなりは気持ちいいの。全てを受け入れると気持ちよくなれるのよ」

 僕を抱き寄せるノノせんぱいの力が強くなる。
 甘い香りも強くなる。
 僕はますます力が入らなくなる。

「……私の腕の中でドロドロになってもいいんだよ?」
「えっ……え、あ、ああああ!」

 反射的に体がビクッと跳ね上がろうとするのを、ノノセンパイが巧みに抑え込む。
 先回りされて動きをコントロールされている感覚。
 僕はもう完全に彼女の虜なんだ、と……この時はっきりと感じさせられた。

「どんな気分かしら?」
「う、あ、あったかい、ノノせんぱいに抱かれて、きもちいです……」
「じゃあこのまま終わりにしてあげる。」
「終わり……いやだ、いやです!」
「5つ数えたら、こひなかクンは最高に気持ちよくなるの」
「はう、そ、それは……」
「その苦しそうにしてるおちんちん、私の中で弄んで、いっぱいくすぐってあげる♪」
「な、なっ、な……!」
「想像して……私の中に入れて、柔らか~くこね回して、ヌルヌルのまま気持ちよくびゅーびゅーしちゃお?」
「んあああああっ!?」
「絶頂して、また絶頂して、絶頂して……でも解放してもらえなくてまた絶頂しちゃうのよ」
「そんなの、我慢、あっ、んあ、はあああぁ、まっ……」

「いくよ? 5……4……3……」

グリュッ!

「くはぁぁぁっ!」

 強めの刺激が下半身を中心に広がり、全身に染み渡っていく。

「や、やめて……ノノせんぱい、それヤバいです!」
「駄目よ。このままイきなさい……2……1……」
「あっ、ああ、あぁぁぁ!」

ビクビクビクッ!

 カウントダウンが気持ちよくて、体が勝手に反応しちゃう!
 それでもせんぱいは声のトーンを変えず、じっと僕を見つめて……ああ、見られてるうううう!?

「全部見ててあげる……」
「だめ、だめだからそれええええええええ!!」
「ふふふ、はい……ゼロ。イっちゃえ!」

どぴゅうううううううううっ!!

「ふあああああああああああああ~~~~~~~~っ!!」

 まるでその声に耳を犯され、脳をかき混ぜられたみたいに僕は射精してしまう。
 普段自分で触るのとはぜんぜん違うレベルで吸い出されていくみたいに。

「ゼロ。まだ出るよ?」
「や、やめ、あ、ああああっ!」

どぷっ、どぷぅっ!!!

 ノノせんぱいの可愛い声に犯される。
 全身が支配される。
 またイかされちゃううううう!

「ゼロ。ゼロ、ゼロ♪ どんどん出しちゃえ!」
「まって、ま、ああああ!」

びゅっ、びゅるる、びゅるるるる!!!!

 小刻みに何度も嫐られて、止まらない。
 言葉に抗えない、おちんちんが止められないいいいい!

「ふふふ、もう一回やろう? 4……3……2…」
「らめええ、さっきより短いの、反則で、ええええ!」
「却下……1……0……ほら、また来ちゃうね?」

ビクンッ!

「んあああああああああああっ!!」

びゅるるるるる~~~~~~~~!!!!!

 そして数回目、問答無用で搾り取られてしまった僕はビクビクと白目をむいたまま呼吸を荒くした。

「あ、ああぁぁ……」
「いい反応だったわ。これで決まりね!」

 気絶しそうな僕を抱きしめたまま、ノノせんぱいが顔を寄せてきた。
 甘い香りが今までで一番の強さとなり、僕の呼吸が奪われた……

「ん、ちゅ……」
「ん、う、んっ……んんん~~~~!?
「ほぉら、染み込む染み込む……」

 チュッチュッチュ、と何度も唇を刺激され、快楽に堕ちながら僕は刻みつけられる。
 ノノせんぱいの甘い香り、唇の柔らかさ、そしてココロに打ち込まれた楔を……

「3つ数えたら、こひなかクンは眠りにつくわ。深い深い眠りに……」
「い、やです、せんぱい、ノノせんぱ――」
「3……2……1……0……おやすみなさい」

 僕の意思にかかわらずまぶたが降りる感覚。
 強制的にもたらされた暗闇に、僕の意識は引きずり込まれた。











 それからどれくらいの時間が流れたのか。

 僕が意識を取り戻した時、窓の外に見える空はすっかり暗くなっていた。

「起きなさい、源蔵!」

 透き通る声の主が誰なのかすぐに分かった。
 そして、自分が彼女に何をされたのかも。

「うえ、のセンパイ……?」
「ノノでいいわよ」
「あっ」

 目の前に彼女が居る。
 すらりとした体型の、黒髪が美しい上級生。

「何があったか覚えているでしょう」
「はい、ノノせんぱいにいろんなことをされました……」
「よろしい。合格よ源蔵」
「えっ、あの」
「入部試験は合格よ。催眠耐性ゼロ。私はキミみたいな被検体を待っていた!」

 腰に手を当てて彼女が笑う。

「待って、今なんて」
「明日から昼休みと放課後はここで過ごしなさい」

 有無を言わさぬ態度を受け入れるしかなかった。

「研究対象にしてあげる。しっかり鎖もつけといたからね」

 センパイの指がそっと伸びてきて、僕の唇を右から左へツツゥ……となぞった。
 その途端僕は赤面する。

「あっ……」
「もう逃げられないよ。覚悟なさい♪」

 既に刷り込みは終わっていたのだ。
 耳に心地よく響く声に惑わされ、僕は小さく頷いてしまうのだった。




『研究会へようこそ』 (了)








【今更だけど登場人物紹介】

小日中源蔵(こひなか げんぞう)

・学園の一年生
・気弱な性格で自分から人に話しかけることは少ない
・運動神経は人並み以下だが、比較的素直な性格
・催眠耐性は殆ど無く、暗示にかかりやすい
・ゆくゆくは、ノノに童貞を奪われるが、それは別のお話


上野々宮ノノ(うえののみや のの)

・学園の二年生。身長は159センチ
・いわゆる美少女であるが変態度は学園随一なので友人は少ない
・艷やかな黒髪はショートボブが基本だが、最近伸びてきた
・自称魔女。催眠術師見習い
・催眠の誘導は得意だが解除が苦手
・何人か奴隷が居るらしいが、本人は冷淡に扱っている。なびく男に興味なし










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