『三番艦と二番艦の秘密』



 横須賀鎮守府にて――。

「ちょっと、何をするつもりなんだい?」
「時雨、ごめんなさい……っぽい!」

 演習後、無理やり倉庫へ連れて行かれた時雨は夕立を睨みつける。

「ふぅ、まずは理由を聞きたいな」
「他の人には頼みづらくて、時雨ちゃんなら協力してくれると思ったぽい……」
「強引だな、夕立は……それでボクは何を協力すればいいのかな?」

 すると夕立はポケットから小さな振り子を取り出した。

「まさか催眠術……本気かい」
「もしかして時雨、そういうの嫌いっぽい?」
「呆れてるのは事実かな。だいたいボクが催眠なんて――、」
「かかるわけない、って言うんでしょ。それは夕立も予測してたっぽい」
「だったら何故! ぅん……」

 時雨の言葉を待たず、夕立は彼女の目の前でゆっくりと振り子を左右に揺らし始める。
「この振り子を見てると気持ちよくなれる……っぽい」
「んっ……」
「時雨は夕立のことが好き。好き好き大好き……これは本気の愛情、っぽい?」
「好き……愛情、ボ、ボクが……夕立を……」
「三つ数えると、時雨は現実世界に戻る……三、二、一……ぽい!」

 ぽん、と軽く手を叩いても、時雨はまだ虚ろな視線をさまよわせていた。
 夕立が心配そうにその様子を数秒間ほど眺めていると、突然時雨は背中をブルっと震わせた。

「はっ……」
「時雨、どんな気分? できれば教えて欲しいっぽい」
「気分? ははっ、ボクは普通だよ! いつもどおりさ」
「いつもどおり? 違うっぽい……」
「何も違わないさ、ボクはいつもどおり夕立がす、好きで……あ、あれ……」

 慌てて口を抑える時雨を見て、夕立は頬を赤く染める。

「時雨、今なんて言ったの? もう一度聞きたいっぽい!!」
「いや、ちが、これは……ボクは夕立のことなんて、大好き、ああ、好き好き! えっ、えっ、ええ!」

 戸惑う時雨を畳み掛けるように、夕立は両手を大きく広げてみせた。

「時雨……おいで♪ ぎゅーって抱いてあげるっぽい」
「あああぁぁ……」

 夕立の可愛らしい笑顔と誘惑に、時雨はわけもわからないまま吸い寄せられてしまう。
 そして、自分の腕の中で震えながら顔を赤くする時雨を、夕立は優しく抱きしめるのだった。


(了)










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