『今日は何の日』



 猛暑、酷暑、残暑はまだか。今年の夏はとにかく暑い。
 この時期は土用の丑の日とか言って、鰻絶滅キャンペーンが国内全域で行われるわけだが、そのお金を僕は自分自身の魂の安寧に使うと決めた。
 食欲よりも性欲を優先させれば、うなぎの稚魚も多少増えるってもんだ。

 そんなわけで僕が訪れたのはこのお店「あんどろいど」だった。ケータイのお店ではない。
 念の為言っておくと、ロボット風俗でもない。相手をしてくれるのは生身の人間だ。
 とにかくお店に入る。涼しい……おそらく室温は23度。これなら生きていける。


「いらっしゃいませ。当店のシステムは理解されておりますよね?」

 待合室で数分間座っていると、指名した嬢が直接迎えに来てくれた。
 彼女の言葉に僕は頷きながら席を立つ。
 手を引かれながら嬢と一緒に通路を歩いてゆく。

「進化したVRシステムに頼らず、物理的な感覚操作……ここでは主に運動を司る神経と筋肉の操作ですが、ごく狭い界隈では、こういった嗜好を持つ方も居るようで、概ね評判は上々です」

 二人きりの通路で囁くように彼女は言う。
 この店は非常に通好みと言うか、マニアックなプレイが売りなのだ。
 僕はまだ二回目だが、リピーターは多いらしい。
 やがて彼女の部屋に通され、設置された両肘付きの椅子に座らされた。
 畳二畳程度の部屋だ。十分冷えている。

「従来のオナクラは、目の前にいる女性を見て果てるだけでした。これに対して当店は、お客様を操って快楽へと導くシステムとなっております」

 椅子に座らされ、説明を聞きながら僕は徐々に自由を奪われていく。
 両脚、足首と肩にゴムバンドが回され、軽く締め付けられる。

「効果に個人差のある催眠などによる従来の手法ではなく、両の手首と肘に取り付けた器具による感覚操作ですので安定感は抜群」

 その器具を、彼女は手際よく僕に装着してゆく。
 五本の指をすっぽり覆うVR手袋と、エルボーパッドのようなものだ。特に痛みや窮屈さはない。
 これらの内側には微小な電流で装着者の神経を刺激する針が多数取り付けられていた。
 針といっても、毛穴程度の細さなので痛みはないと嬢は言う。

「しかもお客様はオプションで椅子に足首と両肩を固定する権利を行使されました。これによって、プレイ時間の間は殆どの身動きが取れません」

 彼女の言うとおり、この段階で僕は既にほとんど動けなくされていた。
 その目の前で、彼女が自分の衣服をまくりあげた。
 綺麗なおへその筋と、腰のくびれ、そして下乳までが露出する。
 グレーのサマーニットの下で、真っ白な素肌が僕を誘惑しているようだ。

「そして指名されたのが私、というわけです……ここまでの説明はサービスです。言葉責めの一種だと感じる方もおりますわ。お客様みたいにね」

 くすっと笑いながら、嬢は右手の指先で膨張した僕の股間をさらりとなで上げた。
 既に興奮しきっている僕の体はそれだけで甘く蕩けてしまいそうだった。

「さて、まずはオーソドックスな技から披露しましょうね」

 彼女が自分の手袋をはめた。ギチュ、という音がした。
 これは送信機だ。以後、彼女の指の動きがそのまま僕の指先に伝わり、トレースする仕組みだった。

「お客様の両手の機械は一秒間におよそ7回程度、ミリ単位で調整されているので、寸分たがわず私の思うままに動いちゃいます」

 試すように彼女は指先を動かす。
 やはり同じように僕の指も動く。既に完全に操られている……。

「ここで大事なのが、お客様と私の肉付きの違いです。たとえばこうして」

 嬢は自らの体のラインをなぞるように、指先でバストをゆっくりと包み込む。
 はじめに左手、そして右手が不規則に柔らかな豊乳を揉み回した。

「私が、胸を揉んでも、はぁっ、お客様の身体に指は触れません……あ、ふぅ、はぁ、はぁ……」

 当然僕は彼女のようなバストはないので、指先は空を切る。
 だが目の前で、本気で感じているような息遣いに、自然と興奮させられてしまう。
 そしてこの興奮は視覚のせいだけではなく……、

「ねえ、指先に感じるでしょう? 私の胸の感触を……んっ、あはあぁぁ!」
「は、はいっ!」

 張りがあって、それでいて柔らかな彼女の胸を指先で感じている。
 この店は基本的におさわり禁止なので、これは予想外のプレイだった。

「クスッ、興奮しちゃいました? ではここからが本番です」

 自分の胸を淫らに刺激していた指先を、彼女はゆっくりと下ろす。
 呼吸を弾ませながら、僕の目をじっと見つめながら。

 そして……、

クニュ♪

「ぐああああっ!」
「当然、こうなりますよね。私の股間には、そんな立派なものはついておりませんから」

 左手の人差し指がなにもない空間をかきむしる。空想上の亀頭を軽く弾いたのだ。
 たったそれだけなのに腰全体が甘く痺れきってしまう。

「これをやさしく、そ~~~っと、そ~~~っと……」
「あ、あああっ! 待って!」
「んー、待ちません♪ どうせなら近くで観察しながら、擦ってあげますね」

しこしこしこしこ、くちゅくちゅくちゅ……

 自分では意図しない指先の動きが、丁寧に僕を追い込んでいく。
 触っているのは自分の手なのに、確実に僕は彼女に触られている。
 操られて、支配されているんだ……!

「指先でこねられてそんなに気持ちいいですかぁ? ほら、クチュクチュクチュクチュ」
「うあっ、だ、めえっ! それ弱いからああああ!!」
「じゃあ今度はこうして、ふわぁ……しゅっしゅっしゅ♪」
「くひっ、ひいい、あ、ああああああーーー!!」

 顔色を見ながら、完全に僕をコントロールする彼女の手腕には感心するしか無い。
 そんな余裕すら一瞬でかき消されてしまう密室の中で、僕は何度も支配され、隷従する。
 指先はすっかりグチョグチョになっているのに、たまに見かける彼女の顔は涼しげなまま。
 衣類に乱れていないし、我慢汁で指先が汚れているわけでもない。

 ただ妖しく、僕を見つめながら快感をコントロールするだけの女神……。

「腰がもうガクガクしてますね。イっちゃうのかしら?」
「な、なにを……」」
「ささやきながらしごいてあげましょうか」

 ゆっくりと彼女は立ち上がり、僕の背後へと回る。
 その間も指先は淫らで心地よい旋律を奏で、僕を魅了し続ける。

ふううぅぅ~~~~

「あああああああああああっ!!」
「びくびくしてる……ほら、もう出しちゃいなよ……私に操られて、恥ずかしい声を上げながら、どぴゅって……」
「やめ、やめてえええええ!」

クニュ、ニュルンッ♪

「んはああっ、い、今のは、ああああ!」
「頭の中を溶かされた今、人差し指で裏筋をクニュクニュかりかりされたら、当然気持ちいいはずですよね?」

 その動きを何度も彼女は繰り返す。
 左手で根本をしごきながら、右手の指先二本で先端をくすぐるような愛撫だった。

 十秒程度で完全に腰が砕け、僕は許しを乞うように顔を左右に振り始めてしまう。

「トドメ、さしてほしいですか? お・客・様♪」
「さして、イかせてくださいっ、こんなのおかしくなっ、い、いやああああああ!!」
「素直に言えましたね。いいこいいこ♪ ふふっ、あはははは!」

 彼女の指先が目の前で形を変える。
 まるで猫の手のように、四本の指を軽く折り曲げて、ゆるゆると円を描いた。

「い、いい、ひいいい! イっちゃう、イっちゃううううぅぅ!」

 叫ぶ僕を見ながら彼女が笑う。その視線が交差した瞬間、

ビュクウウウウッ! ビュ、ビュウウ!

 僕は果ててしまった。
 彼女は目を細める僕をしっかり見つめたまま、完全に射精が終わるまで指先での愛撫を止めなかった。

「ふわふわした指使いのまま、じれったい射精なんてはじめてです? 良かったですね。初体験できて」
「は、はい……はぁ、はぁ、はぁ……」
「ところで、お客様は一時間に何回イかされたことがありますか」
「えっ」

 突然の不意打ちに、僕は反射的に応えてしまう。
 その後の自分がどうなるかなどは考えずに。

「そうですか。では、記録更新しましょうね?」

 再び彼女の指先が僕を包み込んだ。
 今度はしっかりと四本の指を肉棒に巻きつけるようにして。

「ま、待っ――!」
「すぐに二回目、出させてあげますからね。まだまだ時間はたっぷりありますので」

 絶妙な力加減でまとわりついた指先の刺激に、僕は数秒間で屈してしまう。
 喘ぎまくる僕を見ながら、背後に居た嬢が前に回る。
 大きく開かれたまま固定された脚の間に座り、膝をつく。

「あ、あああぁ、それはあああああ!!」
「ふふふ、今から瞬殺してあげますね?」

 肉棒をしごきながら、彼女の口が大きく開き、ちらりとこちらを見る。
 暖かい吐息が僕を包もうとしていた。

「あ~~~~~~~むっ♪ ちゅ、うぅ……ピチュッ♪

 ヒクヒクとわななく肉棒の先端に、彼女の柔らかな唇が触れた瞬間、僕は二度目の昇天をした。





(了)











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