『研究室へようこそ』 第二話



 連日の猛暑が少しだけ息を潜めた頃、その人は突然現れた。
 来客を告げるチャイムにつられ、インターホンで画像を確認する。

「どちら様でしょうか」
「私っ! 暑いから早く開けなさい」

 それは聞き覚えのありすぎる声だった。
 モニター越しでもわかる、つやつやと輝く黒髪。
 水玉模様のカチューシャ、白いワンピースに素足。
 大きくて意思の強そうな瞳、そして勝ち気な表情……僕は解錠のボタンをそっと押した。


 不意の来訪者である彼女を迎え入れたあと、恐る恐る僕は尋ねる。

「あの、ノノ先輩……夏休みですよね」
「だから何? 源蔵としては文句あるわけ? ところでこのカルピス、薄くない?」
「いえ、買ってきたままですので僕は手を加えてませんが……」
「あっそ。じゃあ夏の暑さのせいね」

 不満げな声を漏らしつつ、ノノ先輩がグラスの中の液体を飲み干す。
 カラン、と氷がぶつかる音がした。

 そして彼女は椅子の背にもたれかかる。
 着ている服との対比もあって、健康的に日焼けしているのがわかる。
 あと一息で褐色美少女という称号を与えてもいいくらいだ。

「先輩であり部長でもある私の言うことに何処か問題があるのなら改めるわ」
「そうではなく、ここは僕の部屋なのですが」
「そう、ここはあなたの部屋。そして私はこひなかクンに用事があってきたの」
「急に呼称変更きた……そのですね、僕の部屋に居る理由というか、色々と聞かせてもらっても?」
「いいわよ」

 ノノ先輩はテーブルに両肘を付き、僕を見つめてきた。
 頬杖をついたまま瞳の奥を覗かれるこの圧迫感、学園の雰囲気そのままだ。

「あなたが口にした通り、夏休みなのよ。夏なのよ」
「はい」
「私は暑がりなの。とにかく最近暑いの。今年は特に暑いんだって」
「ええ、そのようです」

 そこまで話し終えて、先輩は視線を窓の外へと移す。

「この部屋、クーラーが効いてて素敵ね」

「まさか」

チリン……

 無言。
 暫くの間、僕は彼女の横顔を眺めていた。
 視線に気づいたのか、チラリと横目でノノ先輩が僕の顔を見る。

「悪い!? 涼しい部屋が目当てだとしても、こんな美少女があなたの部屋に来てくれたんだよ? もう少し喜ぶべきじゃないかしら」

 普段より少し早口になる辺り、自分でも多少の罪悪感はあるのだろうか。

「しかしですね、僕はまだ寝ていたのです。まだ午前中の早い時間帯ですし……」
「だから行儀良く呼び出してあげたでしょう。ドキドキしたんじゃないの?」
「はあ、それで今日は何をするのですか」
「ようやく観念したわね。ここまで長かったわ」

 ノノ先輩は軽く髪をかきあげ、得意げな表情をした。

「夏休みの自由課題を今日で終わりにしてしまおうと思って」
「嫌な予感しかしないのですが」
「こひなかクン、それは良くないわ。先入観は良くない」
「はあ」

 僕が席を立つと、それに合わせて彼女も立ち上がる。
 こういう時、先輩の近くにいるとヤバイ気がするので、とりあえず距離を取りたい。
 できれば2メートル以上は欲しい。
 それなのに、いつの間にか手が握られていた。しかも部屋の隅に追い込まれてる!?

「ただ、ちょっとね、協力してもらいたいなーって……」
「ごめんなさい無理ですノノ先輩、僕やっぱり――、」

ばん!

「ここで壁ドン!?」
「逃さないわよ……私の目を見なさい」

 至近距離で僕を見上げるノノ先輩の言葉に逆らえない。
 ぐりぐりとした大きな目を見る。
 見つめる。
 その中に意識が吸い込まれていく……。

「あ……」
「そう、いい子ね。今日のこひなかクンは、私の可愛いお人形さんよ」
「人形……」

 はっきりと頭の中に響く声。
 そして刷り込まれるようにもう一度同じことを言われる。
 僕はそのままズルズルと、壁に背を当てたまま脱力した。
 ノノ先輩の唇が、嬉しそうに少しずつ釣り上がってゆく。

「ほら見て」

 座り込んだ僕を見下ろしながら彼女が言う。
 その左手にあるのは、この部屋のテレビの脇においてあった人形。

「このふわふわしたクマちゃんみたいに、手足には柔らかい綿がいっぱい……」
「僕が、ふわふわ……」
「そう、だからもう動けないわ。関節もふわふわして、ほら……押されたら踏ん張れない」
「あっ……!」

 ノノ先輩がそっと僕の右肩を押す。
 全然踏ん張りがきかずに、僕は横倒しになる。
 彼女に支えられながら、そのまま仰向けにされた。

「横にされたら起き上がれない」
「う、動けないよおぉぉ……」
「大丈夫、動かしてあげる♪」

 突然ギュッと抱きつかれて、僕の心臓がドクンドクンと音を打つ。
 正面から年上の女性に抱き起こされ、そのまま膝の上に乗られた。
 眼の前にはノノ先輩の顔がある。
 しっとりと汗ばむ手のひらが僕の顔を挟み込んでいる状態だ。

「座らされた……ノノ先輩、こわいです……」
「怖がらなくていいの。抱いてあげるから」

ぎゅっ……♪

「いいにおいがします……」
「そうよ。あなたの好きな私の匂いをたっぷり吸い込みなさい」

 言われた通りに深呼吸する。
 いい匂いの正体は、ノノ先輩の髪の香りと甘い吐息。
 そしてほんのりと感じる体温と、肌の感触。

「今度は吐いて、もう一度吸って~~」
「はい……」

 先輩は両腕を僕の脇の下に通して、さらに体を密着させてきた。
 抱きしめられて先輩の匂いが強くなるのと同時に、柔らかな胸の膨らみがしっかりと感じられた。

「体の中にたっぷり、私の匂いが入り込んだよね。今度はこっち……」

 左耳にそっと囁かれ、背筋にゾクゾクとした刺激が走る。

ちゅ、うぅ……

「あひゃあああぁぁ!」

 耳の外周をカプカプと甘噛みされながら、舌先で弄ばれる。
 さらに耳の穴に吐息を吹き込まれてからの吸引。
 そんなのを繰り返されたら、情けない声が出るのを我慢できない。

「吸い出してあげる。そしてまた戻すの……」

ふううぅぅぅ~~~~♪

 息を吹きかけられるたび、ビクビクと震えだす僕の体を彼女は逃さない。
 むしろリズムを作って強く抱きしめにかかってくる。

 何度か繰り返される内に、すっかり僕の呼吸は荒くなっていた。
 しかも手足に力が全く入らない。
 本当に人形にされてしまったように、体の自由が利かないのだ。

 それもぬいぐるみのようなフワフワしたものではなく、陶器製の人形のような不自由さで……

「さて、もうそろそろいい頃合いね」
「え」

 ノノ先輩が、すっと体を引く。
 そして器用に僕のズボンをずりおろし、下半身を露出させてきた。
 今まで妖しい刺激を与え続けられていたせいで、股間はすっかり固くなっていた。
 それどころか、嬉し涙を流すように我慢汁がにじみ始めている。

ニュリッ……

「くあああぁっ!」

 細い指先でその我慢汁をすくい取られ、甘い刺激に僕は悶絶した。
 ニヤニヤしながらノノ先輩が言う。

「こひなかクン、手のひらだけで気持ちよくなって貰おうかな」
「手のひら……」
「動けないまま快感を与え続けたらどうなるか、そんな研究よ」

 ノノ先輩は右手を軽く握って筒のようにした。
 そこにとろりとした唾液を落としてから、ゆっくりと亀頭に被せてきた。

「あ、あああぁぁぁ……!」

 まるでオナホールに包み込まれるように、先端が濡れているペニスが彼女の小指と薬指の間に隠されてゆく。

 キュ、ニュ、クチュリ……

「あ、ああああーーーーーーーーーっ!」
「気持ちよさそうね」

 そのままゆっくりと中指、人差し指まで亀頭が到達した。
 四本の指で軽く握り込まれ、ゆっくりと上下にこすられる。

シュ、シュッシュッシュッシュ……♪

「くひっ、あ、ああ、せんぱ、ひいいいいいいい!!」

 先輩の手が往復するたびに体中がバラバラにされていくほど気持ちいい。
 でも動けない。
 肩や膝がビクビク動くだけで、そこから先に力が入らないのでどうしようもない。

 そんな僕の様子をノノ先輩は楽しそうに眺めている。
 手のひらでペニスをしっかりと喜ばせながら、膝立ちになって少し上から僕を見下ろしている。

「暗示にかかったままの人の体を何処まで縛り付けられるか」
「せんぱ、センパイイイ! 駄目です、こんなの我慢できないいいいいいぃぃぃ!!」
「動けないよね? 気持ちいいけど、最初の言葉が残ってるから」

とろり……

「あああぁっ!」
「くすっ♪ もっと気持ちよくなっちゃうね」

 シュッシュッシュッシュ、クチュクチュクチュウウウ♪

 ペニスを握り込んだ自分の手のひらに、ノノ先輩は唾液を落とし、もう一度ふんわりと包み込む。
 その潤滑液の威力は凶暴で、淫らなビジュアルを僕の脳内に送り込むと同時に甘美な刺激を生み出した。

「うああ、ああああああーーーーーーーーーっ!!」
「体中がふわふわだから力が入らないの。それが気持ちいいんだよね?」

 先輩の言葉は少しだけ違う。
 確かに力は入らない。でも体中がふわふわにされたのではなく、ふわふわにされた体を硬い殻で覆われているような感覚。
 先輩の言葉が呪縛となって、硬い殻を生み出して束縛している。
 その中に手を突っ込まれて我慢できない快感を与え続けられているのだ。

 でもそんな事を知らないノノ先輩は、さらに危険な呪縛を重ねがけしようとしていた。

「ふわふわは気持ちいい……言ってみて?」
「きもちい、きもちいです! ふわふわは、ああ、きもちいいい!!」
「そうよ。もう一度言って。もっと言い続けて」

 自分の意志とは違うことを言わされ、肯定させられる。
 硬い殻に覆われたままの僕がその中でさらにグズグズに溶かされていく。

「あ、あひっ、あああ、せんぱ、んひいい!」
「いいよ、こひなかクン……その声、その反応、最高♪」

 先輩の左手がすっと上がり、僕の顎を持ち上げた。
 強制的に視線の高さを合わされた。
 その間もずっと、右手はペニスをいたぶり続けている。不思議なことに射精感が遠い。
 こんなに甘く刺激され、心はイく寸前なのに体はもう一段階下で焦らされ続けているような……。

すっ……

「え」
「今日はここでおしまい」

 無情にも、ノノ先輩が立ち上がった。
 まさかここまで高めておいて寸止め? 嘘だろ……そんなのされたら、おかしくなっちゃう!

 しかも相変わらず手足が動かせない。暗示がきつすぎて、緩む気配がないのだ。
 でも声だけは出せる。それが情けない声だとしても、だ。

「おねがいします、もっと続けて……」
「だめよ。でも、気持ちいい感覚はずっと続くはずよ。だからそのまま悶えてなさい」
「そんなああああああ!!」
「む、反抗的ね。生意気な後輩にはお仕置きよ」

 真っ白な右足がゆっくりと持ち上がり、震えるペニスの真上で照準を定めてきた。

「潰してあげる。えいっ!」

ぐちゅううううううう!

 腰に手を当てて、左足でバランスを取ったまま先輩の足の指が亀頭をグニュっと踏み潰す。

「ああああああああああああああっ~~~~~~~~~!!」

 その刺激に僕は悶える。足の指の間で亀頭をもみつぶされ、電気あんまのように軽く振動させられたのだ。
 これはノノ先輩にしてみればお仕置き。
 だがそれは痛みを圧倒的に凌ぐ快感だった。
 僕は我慢できずに果ててしまう。

ビュクビュクビュクウウウウッ!!

 きれいに整えられたノノ先輩の足の指に、熱い精液がせき止められる。
 それを潤滑油にして、二度三度とさらに亀頭が踏み潰された。

「ご褒美になっちゃったね」
「あああぁ、せんぱい、せんぱいいい……」

 膝を左右にスイングさせながら、数十秒間ほど彼女の責めは続いた。
 その淫らな後技にさんざんスタミナを搾り取られた僕は、すっかり彼女の足の虜になってしまった。

「初日終了。まあまあね」
「あ、ひ……ぃ……」
「催眠強度を上げて、あと四日間は付き合ってもらうわね」
「せんぱ、い、体が動かせな……」
「また明日も来るわよ、ばいばい!」

ぱたん……!

 ノノ先輩は満足げに出ていった。僕への暗示をそのままにして。



(了)











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