『姉と弟の密やかな特訓』




 ある日の午後。
 学校帰り、ユウの足取りは重かった。

「ただいまぁ……」

 玄関のドアを開けると、きれいに揃えてある革靴が目に入った。
 5歳年上の姉のものだ。年上なのに自分より帰りが早いなんておかしい。
 ちゃんと学校に行ってるんだろうか。
 そんなことを考えながら姉の居るであろうリビングへと向かう。

「おかえり。元気ないね?」

 リビングへ入ると姉は笑顔で迎えてくれた。
 ユウよりも頭一つ分くらい身長が高い。
 すでに制服から部屋着に着替えており、赤いタンクトップと白いハーフパンツである。

 普段ならユウも笑顔を返すところだが、今日は違った。

「ねえちゃんのせいだ……」
「えっ!」
「学校でいじめられた!」

 ソファで寛いでいた姉のレイはテレビを消して弟を見つめた。
 自分の方を向いて軽く拳を握りしめているユウの表情は悔しさがにじみ出ているように感じる。
 レイは弟が憤っている理由をじっくりと聞くことにした。



 それから十分後。
 レイはとうとう我慢の限界を迎えたのか、腹を抱えて笑いだした。

「あーはっはっはっは! おっかしー!!」
「ぜんぜん笑うところじゃない!」

 ユウはそんな姉を見て歯ぎしりをする。
 自分は一生懸命話したのに、悔しい気持ちを抑えながら話したのに!

 そんな気持ちを察したのか、レイはユウの頭をポンポンと軽く撫でた。
 笑いも少し落ち着いてきたようだ。

「つまり、おねえちゃんのおっぱいを触ってこないと仲間はずれにされちゃうんだ? でもなんでよ」
「それは……ボクが女みたいな名前だから」
「はぁ? 関係ないじゃん。それ言ったら私だって男みたいな名前じゃん」

 ユウと同じくレイも名前について聞かれたことはある。
 それについては両親がすでにレイに話しており、男でも女でも対応できるようにいくつか名前を考えたのだという。
 レイは特に気にしたことはないが、ユウのほうではそれが問題になったようだ。

「じゃ、じゃあ父ちゃんと母ちゃんのせいだ!!」
「ねえユウ、人のせいにするのは見苦しい……てか、良くないよ」

 地団駄を踏む弟をたしなめるように、姉はその小ぶりな頭をギュッと抱きしめた。

「あっ!」

 一瞬、何が起きたのかユウには理解できなかった。
 ただ柔らかくてフニフニした何かに呼吸を奪われた。率直に言って苦しいのだが、離れる気持ちにはならない。
 どこかいい匂いがする。それがシャワーを浴びたあとの姉の体臭だと気づき、ユウは慌てて状況を理解した。

「わああああああああああああっ!!」
「なによ、もう……じっとしてれば?」

 ますます強く抱きしめられ、今度こそユウはパニックになる。
 自分が顔を埋めているのが何なのか、完全に理解したからだ。

「ねえちゃん、ねえちゃんっ! もういいから、もういいからあああぁぁ!」

 ジタバタと暴れる弟を見てレイは焦らすように体を左右に振った。
 当然密着感が増して、可愛い弟が乱れるのを予想しながら。

 そして数十秒後、姉から解放されたユウは顔を真赤にして視線を泳がせていた。

「はい、これでいい? いじめ回避の条件は満たしたと思うけど」
「うん、ねえちゃん……ごめんなさい……」

 ユウはそのままへなへなと膝をついてしまう。
 姉に抱擁されたことによって玄関をくぐったときの怒りはどこかへ消え去っていた。

 その後にやってきた感情、後ろめたさや羞恥心とは違う何かによって、ユウは泣き出してしまった。

「ボクが、弱いせいで……う、ううぅぅ……」
「泣かないの! 男の子でしょう?」
「でも、でもっ……!」

 こうなるとユウは自虐的になり、収集がつかない。
 将来、めんどくさい男になりそうだとレイは思う。

 では逆に、少しいたずらしてやったらどうだろうという気持ちが沸き上がってきた。


「そうね。アンタが弱いのよ」
「え……」

 突然頭上から冷たい言葉を投げかけられ、ユウは泣き止む。
 見上げれば涼し気な表情をした姉と目が合った。

「あ……」

 直感的にユウは自分の置かれた状況を悟る。
 姉がこうした目付きをした時、確実に良くないことが起こる。
 ユウにとっては災難で、姉が一方的に得をする展開だ。

 彼が身を引くよりも早く、レイはユウの両方の手首を掴んでその場に押し倒した。

「アンタのことを強くしてあげる。いじめなんかに負けないように」
「あ、あの……ねえちゃん?」

 抵抗しようとしても力が入らず、ユウは焦った。
 そうしている間にレイの顔が鼻先まで近づいてきた。
 長い髪が頬をかすめ、くすぐったいのだが今はそれどころではない。

「ユウさぁ、私の胸を触ったんだからね。罰金だよ、罰金。これは安くはないよ」
「でもボクお金持ってない……今月はお小遣い使っちゃったから」
「じゃあお姉ちゃんの言うことを聞いてもらおうかな。いいよね?」

 もはや絶体絶命。有無を言わせない姉の勢いの前に、ユウの心は簡単に屈してしまう。
 コクリとうなずいた弟を見て、姉は両手を静かに解放した。

「脱いで。裸になりなさい」
「っ!!」
「聞こえなかったの? 脱ぎなさい」

 腕に自由が戻った変わり、姉から無茶な命令がくだされた。
 幸いなことに、今は家に両親が居ない。
 ユウはしぶしぶ言うとおりにする。
 これで許してもらえるなら……という甘い期待を抱きながら。

「はい……」

 姉が見つめる前で着ているものを自分から脱いでゆく感覚は、ユウの心を激しく揺さぶった。
 なんとか裸になった瞬間、レイはナイロンの紐を取り出して彼の両手を縛り上げた。

「う、は、恥ずかしいよ……」
「そうね。ちっちゃくて可愛いおちんちんだもんね?」
「~~~~~~~~~~~っ!!」

 後ろ手に縛られてしまったユウは、恥ずかしさに顔を隠すことも出来ず、ただ黙り続けた。
 そんな彼の股間に、レイはそっと左手を差し込む。

「ああああっ!」

 ユウの上半身がビクンと震えた。
 姉の指先が何を掴み、弄んでいるのか瞬時に判断がつく。
 それを怒りに変換するよりも早く、恥ずかしさを塗りつぶす快感が背筋を駆け上がっていた。

「女の子のおっぱいはね、これと同じくらい気持ちいいんだよ」

 くちゅくちゅと指先から淫らな音を奏でながらレイが微笑む。
 僅かに緩んだ姉の表情を見て、ユウも気持ちを緩ませる。

 すると、拒んでいたはずの快感が素直に全身に染み渡っていく。

「気持ちいい?」
「う、うんっ、ねえちゃん……ボク、おかしくなる……ぁ!」
「おっぱいだって触られたらおかしくなるんだよ?」
「ごめん、なさい……でも……ぎうううっ!」

 ピシッと指先でペニスを弾かれ、ユウが呻く。
 レイは震える弟を抱きしめながらささやく。

「女の子のおっぱいを触っちゃったんだから、どうなるかわかるよね?」
「わわ、わからないよぉ……!」
「じゃあ教えてあげる。私ね、今とってもエッチな気分なの!」

 ユウの耳元で衣擦れの音がした。

「大サービス。じっくり見ていいよ……」

 タンクトップで隠されていた部分を目の前に突きつけられ、ユウは無意識に口を小さく開いた。
 その行為に応えるように、レイはピンク色の蕾をゆっくりと含ませてやる。

 ユウはまぶたをギュッと閉じて、ぷっくりとした何かを懸命に吸い続けた。

・・・・・

・・・・

・・・

・・



 その翌日。

「よお、お前の姉ちゃんの胸どうだった? 思いっきり触ってきたんだろ。聞かせろよ」

 学校について最初に声をかけてきたのはクラスで一番力が強いと言われてるケンタだった。
 恥ずかしい質問を大声で投げかけられると、普段のユウならそれだけで萎縮してしまう。

 でも今日のユウにはケンタの威嚇は通じなかった。

「どうもこうもないよ! そんな事できるわけ無いだろっ」
「な、なんだよ大声出して……友達に向かってそんな口の聞き方していいと思ってんのかよ!」
「友達じゃないだろ! 単なるいじめっ子のくせに偉そうなこと言うな」

 いつもは噛み付いてこない穏やかな犬に突然手を噛まれたようなもので、ケンタは慌てふためいた。
 同時にチャイムが鳴って、担任の先生が教室へ入ってきた。

 ユウはケンタに背を向けてそれっきり話を続けなかった。
 黙りこくったまま、昨日の姉の言葉を思い出す。



「いじめっ子に対して弱みを見せちゃ駄目だからね」
「で、でも怖いよ……」
「ユウ、私のおっぱいでいじめられるのとどっちが怖い?」
「ひいいいいっ!! もうやめてええええええ!!」
「弱みを握られて、おちんちんヒイヒイ言わされるよりはマシだと思うよ。
 それにだいじょうぶ、何かあった時は私が何とかしてあげるから」

 姉の言葉を信じて、ユウは精一杯の勇気を振り絞ったのだ。

 その日からユウがいじめられることはなくなった。
 ケンタも彼をからかうことを止めたようだ。

「はぁ、うまく言えてよかった……ありがと、ねえちゃん……!」

 ユウは密かにレイに感謝した。
 帰宅したら、肩でも揉んであげようと思う。
 あのなんとも言えない、甘い香りを思い出しながら。





(了)










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