『新しい季節に』



 ここは会社にある一室。
 その中でも一番小さくて、わずか数名しか入れないサイズのD会議室だ。

 目の前にいるのは僕の上司である如月和香奈(きさらぎわかな)主任。
 営業開発2課で毎日顔を合わせる間柄だ。

 つやつやしたセミロングの髪が柔らかく揺れるたびに、どこからともなく甘い香りが漂ってくる。
 意志の強そうな瞳が僕をまっすぐに見つめている。

 和香奈主任は僕の2つ年上で、優秀な人材。
 ゆくゆくは課長に抜擢されるだろうと噂されている。
 対する僕は毎日残業を強いられる一般社員。
 先月の面談で来季の昇給額が、わずか数千円と知らされてやる気が消滅した。
 その結果、辞意を表明したのだ。

「本気なの?」
「はい、僕がもうこの会社でやりたいことはありません」
「それで次の就職先も決まってる、ってわけね」
「はい……」

 残業の合間を縫って自分の行き先を探すのだけが最近の楽しみだった。
 そんな僕を見つめながら、和香奈主任は小さくため息を吐いた。

「なるほど、意思は固そうね」

 パタン、とファイルを閉じながら主任が席を立つ。
 そしてくるりと背を向けてから両手を手の上で組んで、伸びをした。
 真っ直ぐに伸びた背筋と、細くくびれた腰のラインを目で追ってしまう。

「残念だけど仕方ないわ。キミに抜けられるのは痛手だけど」
「えっ、承諾してくれるんですか」
「引き止めてほしかったの?」

 振り向きながらクスッと笑う主任の笑顔は、どこか妖しげで魅力的だった。
 その横顔に見とれながらも、僕は慌てて首を横に振るのだった。


 その日の夕方。僕は主任の声をかけられた。
 やはり引き止められるのだろうかとドキドキしていたら、食事の誘いだった。
 今までも何度か仕事の延長みたいな理由で一緒に食事くらいはしたことはあるので、それほど不自然な申し出ではない。

 今夜は予定もなく、特に断る理由もないので僕は首を縦に振った。
 そして連れて行かれたのは駅の近くにある居酒屋だった。

「私と食事しようだなんて、意外と度胸あるのね」
「そんな……和香奈主任との食事は、嫌いじゃないですから」
「ふぅん? 好都合ね」
「え」
「ううん、なんでもないわ。ふふふふ♪」

 和香奈主任は微笑みながらグラスにビールを注いでくる。
 そういえば、ジョッキではなく中瓶を頼むと美味しく飲めて効率的だと僕に教えてくれたのも彼女だった。

「お酒、弱い人だったっけ?」
「そんなことないです」
「じゃあもう一杯……」

 その後も他愛ない話が続き、おつまみとお酒の追加注文が増えていく。
 予想していた仕事の話や、退職の引き止めに関する話はなかった。

 僕はそれほどお酒は強くない。
 なんとなく格好良くないと思ったから、和香奈主任の前で虚勢を張ったに過ぎない。
 もう少しだけ、彼女と一緒の時間を楽しみたいという一心だった。

 上司としてではなく女性としてみた場合、和香奈主任はかなり魅力的だった。
 あくまでも僕にとっての理想的なお姉さん……顔立ちも、大きめの胸も、ほっそりした体つきも好みだ。

(もう少し一緒に働きたかったな……)

 軽い後悔もないわけではない。それを塗りつぶすために酒を飲む。
 その結果、僕は久しぶりに酔いつぶれた。



「っ痛……なんか、ぐるぐるする……ん、ここ……どこ?」

 そして僕が目覚めたのは、見慣れない部屋。
 クリーム色の壁と、天井でゆっくり回るファン、そして目覚めた僕の顔を覗き込んでるのは――、

「あら、やっとお目覚め?」
「し、主任!?」」
「まだ自分の状況が把握できないみたいね」

 ぺたぺたと僕の頬を手のひらで撫でながら彼女は笑う。
 どこかくつろいでいる様子のせいか、いつも以上に魅力が増してるような……

「キミは私に酔い潰されて、お持ち帰りされちゃったの」
「えっ!? じゃあここはまさか」

 聞けば、和香奈主任の部屋というわけではないらしい。
 そうなるとここは居酒屋付近のラブホ、なのだろう……

「このあとキミはどうなるかわかる?」
「まさか、和香奈主任が僕と……いや、そんなことは決して……」
「ふふふふ♪ そうね、でもそれだけじゃないわ。全力で引き止めてあげる」

 すると彼女はするりとブラウスを脱ぎ始めた。

(うわぁ……)

 ゆっくりとボタンが外され、その隙間から見えた薄い紫色のレースの下着に僕は目を奪われる。
 胸の谷間や柔らかさ、それに主任の肌の白さに幻惑される。

「キミの意志の強さを確かめさせてもらうわ」

ふよんっ……

 あらわになった真っ白で大きな球体が、そっと僕の顔に押し付けられる。
 暖かくて、全く抵抗できなくされてしまうような感触に頭の中がパニックになる。

「……うああああぁぁあぁ!」
「快楽に我慢できたらキミの勝ち。このまま解放してあげる」

 首を横に振る僕の後頭部をやんわりと押さえつけながら彼女が続ける。

「できなかったら私の勝ち。これからも部下としてコキつかってやるわ」
「ッ!!」
「まあ、今からキミはコキコキされちゃうんだけどね……くすくすっ」

 視界を奪われたまま、心臓の音だけがどんどん大きくなっていく。
 あの和香奈主任に抱きしめられてるんだ……
 おっぱいを押し付けられて、ふにゅふにゅ擦り付けられて……

くちゅうう♪

「んううううっ、ううううううううう!?」

 さらに、急に股間がじわりと痺れだす。
 しかもそれは不快なものではなくて、思わず腰を引いてしまいたくなるほど甘美な……

「もう準備オッケーってかんじ? さあ、可愛がってあげる」
「うあ、ああああ、しゅ、しゅひ……んぶううう!」
「お酒が入ってるのにビンビンだね」

 和香奈主任の指先が僕自身を操るように、同じ場所を何度も弄んでくる。
 顔を胸に埋め込まれたまま、一方的に僕はその快感をこらえることしかできない。

(きもちい、きもち、いい、ひいいいっ!)

 呼吸を弾ませながら顔を動かすと、少しだけ隙間ができて下を向くことができた。
 そして目に入ってきたのは……主任の綺麗な手のひらと、それに愛撫されているペニスだった。

 勝手に踊りだす僕の腰にまとわりつくようにして、和香奈主任の手のひらがどんどん快感を注ぎ込んでくる。
 ねっとりと逆手で亀頭を撫で回しながら、カリカリと指先で尿道をつついてくる!

(み、みなきゃよかった……あんなのみたら、我慢できなくなっちゃうよおおぉぉぉ!)

 僕の意思にかかわらず、甘い刺激のせいでペニスは硬さを増してゆく。

「たっぷり搾り取ってあげる……最近溜まってるの?」
「んあっ、そんな、こと……!」
「へぇ、そうなんだ?」

くちゅくちゅくちゅくちゅ♪

「んひっ、ふあああああああああああ!!」
「もしかして私のことを考えながら……シテたりして?」
「っ!!」

 一番聞かれたくないことだった。
 でもそのせいで、僕の鼓動はさらに早鐘を打つことになる。

「あはっ、素直ね♪」
「ち、ちが……あふうううう!」
「ほらぁ、夢にまで見た指先の感触……どうかしら?」

 ぐいぐいと胸を押し付けられながらの手コキに、僕は逆らうことができない。
 主任の指先はカウパーでビショビショになっているのだろう。
 さっきよりも気持ちいい……

(わ、和香奈主任をオナペットにしてましたなんて、言えるわけが、あ、あああああぁぁぁ!)

 可愛くて、綺麗で、仕事もできる先輩に憧れない男なんているはずがない。
 でもそれを本人に探り当てられたとなると、恥ずかしくて顔向けできない。

 そんな気持ちを察してなのか、和香奈主任の手コキが緩やかになった。
 やがて正面から僕をじっと見つめながら、口を大きくあけてみせた。

「まとわりついて、エッチでしょ? ここに唾液を少し……」

トロ~リ……♪

「あ……あっ、あああああああああああああ!!」

 生暖かくて透明な、天然の媚薬が投入された。
 ゆっくりと滴る様子はとても淫らで、それだけで僕は射精してしまいそうになる。

クチュ……

「ふふっ、我慢できなくなっちゃうね?」

 ペニスに落ちた自分の唾液を、指先で彼女が塗り伸ばす。
 その優しい手の動きが、加速度的に僕を狂わせる。

「あ、あああああっ、しゅ、しゅに……」
「感じやすい部分、増やしてあげるね」

しゅるしゅるしゅる♪

「んひっ、あああ、きき、きもちいいいい!」
「この周りとか……」

 指先で性感帯を削られていくような感覚。
 敏感な場所を唾液まみれの彼女の手が、優しく包み込んでいく。
 逃げ場を失った快感はそのまま手のひらの中で増幅され、さらに僕を蝕んでいく。

「ここのクビレも、しこしこしこ♪」
「んあっ、ああ、だめえええ! こんなの絶対……」

 勝手に腰を前に突き出しながら、僕は口をパクパクさせて目をつむる。

 イく!

 だめだ、もうイく!

 射精させられちゃうううううううううう!!

 さらにとどめを刺すように、和香奈主任が低い声で囁いてきた。

「あとで膣内に入れてあげようか?」
「え……あ、ああ、あま、まっ……」

 耳の穴に直接流し込まれた悪魔の囁き。
 それは一瞬にして僕の理性を粉々にする。

(和香奈主任の、膣内……あああ、あ、あ、あきっと、あったかくて、やわらかくて、狂っちゃうほど気持ちよくて!)

 隣りにある魅力的な太ももを見ながら、妄想が膨らんでいく。

 和香奈主任はまだ着衣だ。それもやばい……タイトスカートの奥を、見せてほしい。

 見たらイく、きっとそれだけで我慢できなくなる。

 これは勝負なのに、負けたら一生奴隷みたいにコキ使われちゃうかもしれないのに!

「ほら、想像しちゃった……さっきより太くなってるわ」
「やや、やめ、もう、やめ、て、しゅ……」
「しこしこシュッシュ、気持ちいいねぇ? くすっ♪」
「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!」

 もう限界だった。
 精液が駆け上ってくる。
 止められない、本当にイく……イっちゃう!!!!

ピピピピピピ……

「あら、時間……残念」
「いっ、イきますううううううううう!!!!」

ビュルルルルッル、ビュル~~~~~~~ッ!!

 圧倒的な快感をこらえることなどできず、僕は変な声を上げながら全身を痙攣させる。
 気づけば和香奈主任が僕の体を抱きしめていた。

「全部出しなさい」
「あ、うぅぅ……」

 そっと優しく手のひらがかぶさってきて、再び僕は導かれる。
 遠くに聞こえる電子音をよそに、僕は盛大に二度目の射精をしてしまった。
 ペニスがビクビク震えながら断続的に精液を放出する様子を、和香奈主任は黙って見つめていた。


 そして数分後。

「盛大に射精しちゃってるけど、キミの勝ちでいいわ」
「えっ、いいんですか……」
「時間いっぱい凌ぎきったことだし、認めない訳にはいかないもの」

 和香奈主任はそう言いながら僕の体をタオルで拭いてくれた。

「これで自由の身だね。意地悪してゴメンね?」
「いいえ、そんなこと……今までありがとうございました!」

 何を言えば良いかわからず、僕は思ったままの言葉を口に出す。
 そして衣類を整え、所持品を確認してから部屋をあとにした。

「また、会えるといいね……」

 最後に僕の背中にかけられた彼女の言葉は、聞こえないふりをした。



 それから約二ヶ月後。
 有給消化も終えて、晴れて新天地で働き始める日が来た。
 気力も十分だ。頑張るぞ。

 そして再就職先の会社へ向かい、事務所のドアを開けた途端……

「ちょっと! ボヤけてないで自分の席につきなさい」
「えっ!? 和香奈、しゅ……どうして!?」

 そこには見慣れた顔があった。
 制服こそ違えど、かつての上司だった和香奈主任がそこにいる!

「細かい話はあとにして。キミの席はそこ!」

 言われた通りの場所へ行くと、和香奈主任がみんなに僕を紹介してくれた。
 しかもまるで随分前からこの会社にいたような、全く違和感がない振る舞いで……

「キミの再就職、つまりこの会社とはつながりがあってね、全部教えてもらっちゃった」
「それは、個人情報保護法に触れるのでは!?」
「なんのことかしら? とにかく今日から私があなたの直属の上司よ」

 全く悪びれる様子もなく彼女は笑う。

「実を言うとね、私もあのあと辞めたくなっちゃって……キミを追いかけてきちゃった!」
「そんな馬鹿な! じゃああっちの仕事は」
「残った人がなんとかするでしょ。そんなの考えても意味ないし私の代わりはたくさんいるもの」
「そういうものですか……」

 肩を落とす僕の前に、和香奈しゅ……いや、この会社では課長待遇らしい彼女が缶コーヒーを置いた。
 どうやらおごってくれるらしい。

「というわけで、これからもよろしくね。うふふふ♪」

 見慣れたその笑顔は以前と全く変わらないもので、僕をなごませてくれた。
 しばらくは彼女のために働こう。
 そしてこの場所から、幸先のいいスタートが切れそうだ。





(了)











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