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第四話





 ここはデモンズパレス。世界を乱す魔王の城……のはずなのだがどこかおかしい。
 何かが間違っている。
 整然としすぎている上に敵が全く居ない。
 そして俺もこんな危険な場所だというのに単身で乗り込んできている。
 なにより体が妙に疼く。

 無意識に俺は指先を唇に当てていた。
 熱い……この熱さの理由を思い出そうとした瞬間、

 ――目の前の世界が砕け散った。



「ふふ、こんばんは。勇者クン♪ 今日も夢で会えたね」

 そして目の前に現れた淫魔の姿を見て俺はすべてを思い出した。
 ここは夢の中、淫魔の支配する世界。
 じっと見つめられているだけだというのに魂を鷲掴みにされたみたいに動けない。
 震える俺に向かって、淫魔が指先を伸ばす。

ツツツ……

「首と両手、それに両足……魂を拘束する首輪をこんなにつけられちゃって」
「うううっ、リムカーラ……」

 彼女にそっと指先で首筋を撫でられただけで脱力してしまう。
 リムカーラに体中を撫で回された記憶が蘇り、瞬時にペニスが反応する。
 少しの時間差があってから、性感帯を直接触られたように全身に快感が駆け巡った。

「それでも表では勇者をしてないといけないんだからたいへんだよね」
「え……あ、ああ……」

 心の底から俺を憐れむリムカーラ。
 彼女の感情は直接伝わってくる。
 俺の体につけられた首輪を通じて。

「そんなキミにとっておきのリラックスタイムをプレゼントしてあげる」

 クスッと笑ったリムカーラの目が妖しく光った。

ドクン!

 金縛りにあったように指一本すら動かせない。
 彼女は俺に向かってゆっくりと指を鳴らした。

パチン♪

 最初の音で俺はその場に崩れ落ちる。

パチン♪

 次の音で俺の衣類が消え去り、情けない姿にされてしまった。

「うあああっ!?」
「ほら、パチン♪ 両手と両足が大きく広がっちゃうね?」

 さらに次の命令で、俺は大の字にさせられた。
 必然的に下からリムカーラを見上げるような体勢になるが、今度は彼女の方から覆いかぶさってきた。

 柔らかな手足が俺の四肢に絡みついてくる。
 極上の肌触りといえる淫魔の肌が惜しげなく擦りつけられる。

ふううぅぅぅ~~~~♪

 鼻先に甘い吐息を吹きかけられる。
 意識が遠のいて、視界が一瞬ピンク色に染まった。

「はぁ、はぁ、はぁ♪ はぁ、ああ……」
「それに首筋にも……チュウッ♪ すぐに頭の中が蕩けていっちゃうよ」

レロォ……ペロペロペロペロ……

 その言葉通り、リムカーラが俺の首筋に吸い付いてきた。
 どくんどくんと脈を打つ血管に直接キスをされると、それだけで目眩がしてくる。

(と、とける……ほんとうにとかされてるみたい、だああぁぁ!)

 抵抗しようにも身動きも許されず、しかも完璧に密着されている。
 その拘束力以上に厄介なのが惜しげなく注がれる俺への愛情……だった。

「うふふ、手も足も出ない状況で頭の中を蕩けさせられたら、それだけでもう快感の虜だよね」
「い……あ……ぁ……ッ!」
「でもキミは勇者だから、狂うこともできない……ありのままを受け入れることしかできない」

 ありのまま、たしかにそのとおりだ……だがこれは何だ?
 リムカーラは俺を支配しようとしているものの、害する気はないらしい。

 そしていま感じているのは紛れもなく愛情……
 首輪から流し込まれている暖かな思いを表現する言葉はそれしかなかった。

(く、くそっ、だからってなんだというんだ……
 相手は俺のことを餌としか思っていないような種族だぞ? 惑わされるな……)

 心の奥に憎しみの炎をともして対抗しようと考えたが、無駄だった。
 首筋だけでなく、リムカーラが唇にもキスをしてきたからだ。

 しかも何回も、何度も、彼女が飽きるまでキスは続いた。
 甘すぎる時間が俺の闘争力を根こそぎ奪い尽くしていく……

「今日は今までとはちょっと違うことしよっか。私のおなかをみて?」
「おなか……」
「可愛いマークが光ってるでしょう? これはね、インモン……淫らな紋章、淫魔の証」

 言われるままに視線を落とすと、淫魔の紋章は淡く輝いていた。
 ぼんやりとその光を見つめている俺に向かって、リムカーラが恐るべきことを口にした。

「そして今からキミを淫魔にしてあげる♪」
「っ!?」
「自分のおなかを見てご覧なさい、薄っすらと浮かび上がってるでしょ」

 実は先程から気になっていた。
 臍のあたりが妙に熱くなっていることを。

 恐る恐る自分の腹を見る。
 そこには、リムカーラと同じ紋章が静かに輝きを放っていた。

「ううぅぅっ!」
「驚かなくてもいいじゃない。だって、アタリマエのことだもの」

 愕然とする俺に向かって彼女は続ける。

「淫魔の首輪を5つも装備してるんだよ? 首、右手、左手、右足、左足……」
「で、でもこれはっ!!」
「5つの呪いを線で結んだとき、交わる中心点はどこかな?」

 俺の思考を遮るようにリムカーラが強めの口調で問いかけてきた。
 その答えはすぐに俺の頭の中で弾けた。

「まさか……」
「ふふっ、正解♪ さすがにもう理解できたでしょ」

 5つの首輪の交点で輝いているのが淫紋。
 つまり俺の体の中で、一番淫魔の力が集約している場所……
 認めたくはないがそれしか考えられない。

「だから今からそれを定着させてあげる。勇者であるキミの肉体と魂に服従の印を刻んであげるの」
「や、やめろ! それはだめだ、そんなことされたら俺は……」
「私の魂と直接交わっちゃうんだよ……大声出しちゃうほど気持ちいいから覚悟してね」

 うっとりした様子でつぶやくリムカーラ。
 彼女に見つめられると、自分の中にある絶望が塗りつぶされていくのを感じていた。
 淫魔に支配される快感に、絶望がすり替えられていく。

「やりかたは、こうするの……お互いに正面から抱き合って」

 腰の位置を合わせて、リムカーラは淫紋同士を向かい合わせにした。

キイィィィン……

「んはあああああああっ!!」
「ふふふ、ちゃんとみてて? 照れてる場合じゃないと思うよ」

 別に照れているわけではなかった。
 ただ紋章が共鳴する音と同時に体の芯が快楽の炎で焼かれのだ。

 しかもお互いの距離が近づくほどに強さを増していく。
 それなのにリムカーラは気にした様子もなく、自ら腰を前に突き出した。

「おへそとおへそを合わせるように……ぴとっ♪」
「くひいいっ、も、燃える……あっ、あついいいいい!!」
「きゃはっ、ビクビク震えてる! じゃあ優しく麻痺させてあげるね」

 強すぎる快感にもがく俺を見て彼女は笑う。
 そして両手でしっかりと俺の顔を挟んでから、ねっとりとしたキスを唇に与えてきた!

「ンチュッ、チュル、プチュ……♪」
「んあ……ぁ……ぁ……」

 甘い唾液を飲まされると、焼け付くような感覚が引いてゆく。

(キスしながら、意識を溶かして……体も一緒に溶け合っちゃお? ふふふ)

 そして残ったのは彼女に対する純粋な愛情だけだった。
 トロリとした目でリムカーラを見つめると、ニッコリと笑ってくれた。

(かわいい……すきだ……リムカーラ……)

 胸の奥が熱くなり、思わずキスをねだる。
 嫌がる様子も見せずに彼女はもう一度口づけてくれた。

トロォ……

「淫魔の抱擁、ソウルメルティング……キミの心にしあわせを擦り込んであげる♪」

 向かい合う二人の唇の間に銀色の橋がかかる。
 淫らなキスはその後数回繰り返された。

キイィィィ……

「みて……私の淫紋がキミの体にプリントされてるよぉ」
「だ、め……これ、おかしくなるやつ……!」
「このままじわじわ染み込んで、魂にもプリントされちゃえば
 もうキミは、ぜったいに私に逆らえない……」

 ピンク色に染まったリムカーラの瞳と、お腹に浮かぶ淫紋が共鳴する。
 それは間違いなく俺と彼女が一つになるための合図。

「あああああぁぁぁ……!」
「いつでも、どんなときも夢の中へ呼び出されて
 私の思い通りに搾り取られちゃうの」

 言い聞かせるようにしながら、リムカーラは腰を突き出して淫紋を擦りつけてくる。

(きっ、きもちよすぎるううううぅぅぅ、とけて、おれがリムカーラの中に溶け出して!)

 体の中心から溶かされていくような感覚は、幸せ以外の何物でもなかった。
 いつしか俺も自分から腰を前に突き出していた。

「くすっ、幸せそうなお顔してる……それ、きっと本音だよね」
「はっ……ち、ちがう、ちがうんだあああ!」
「私に犯されて、経験値を搾られて、魂を捧げたいんだよね」

 自分でもわかっている。口先だけの拒絶であることを。
 もはや首輪で繋がれた俺の思考など、飼い主であるリムカーラには常に筒抜けなのだから。

 それでも俺は抵抗する。
 何故か彼女がそれを望んでいるような気がしたからだ。

「いいよ……いっぱい奪いとってあげる♪」

ぱちゅっ……!

「んひいいっ!?」
「私のことが大好きなキミからの捧げ物だもの、ありがたく全部使わせてもらうからね」

ぱちゅっ、ぱちゅっ!!

 腰のクビレから下だけを動かし、リムカーラはくねくねと官能的な踊りを繰り返す。
 ときに激しく、時に優しく……だがその結果、お互いの淫紋がぶつかりあって快感が上積みされていくのだ。

 そして蓄積された快感は、俺にプリントされた淫紋の色を濃くしていった……

「今から本契約しよっか? ふふふ、この体勢ならすぐにできちゃうよ」
「あ、あああ、こんなの嘘だ、勇者が淫魔に……ああああぁぁぁぁ…」
「そのかわり、いっぱい、い~~~っぱい気持ちよくしてあげる」

 そう言いながら彼女はそっとペニスの先をつまんでみせた。

「キミの大切なおちんちん、もうビクビクしてて大変……」
「ま、まって……おねがいだから、まっ……」
「これをね、サンドイッチしちゃうの♪
 もちろん、ふたりの淫紋の間に……ふふふ、どうなっちゃうんだろうね?」

 言うよりも早く、リムカーラはそれを実行した。
 我慢汁まみれの肉棒の先端がお互いの淫紋の隙間に滑り込む。

「だめ、おかされる……俺の、おちんちん……とける……」」
「想像しただけでも気持ちよくなっちゃうね。
 だって、キミの淫紋にすこし触れただけで……」

ちょんっ♪

(ああああああああああああああああああああああ!!!!!
 き、きもちいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーっ!!)

 声にならない叫びとともに、俺は全身をこわばらせる。
 淫魔の魔力が集中する場所に無理やり閉じ込められたペニスは、俺の意思に関係なく射精寸前まで追い込まれてしまう。


「あはああああああああああああああああああっ!!」
「んふ、いまのだけでイキかけた?
 こんなに気持ちいいのがずっと続くんだよ?」

 そして焦らすようにリムカーラがゆっくりと腰を回す。
 挟み込まれたペニスは、お互いの淫紋の間でもみくちゃにされ、ますます我慢汁を吐き出すことになる。

「むり、むりだよおおおぉぉぉ~~~~!!」
「性感帯が集合したみたいな場所におちんちんをこすりつけたら
 どんなに我慢強いキミでもイキまくっちゃう……」

 すでに射精確定の甘すぎる腰使いの前に、俺はどうすることもできない。
 まるで荒れた海の上で波に翻弄される小舟のように、最後の時を待つことしかできないのだ。

「だから今から吐き出させてあげる……
 私の淫紋にキミの精をたっぷりささげて? それが契約の条件よ」

 そこまで告げてから、リムカーラはしっかりと俺の腰を掴み直した。

「じゃあ、いくよ? おちんちんをこうして……ぴとっ♪
 このまま腰を掴んで~……ぱちゅんっ♪」
「んひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 掛け声とともに繰り出される淫魔の腰使いは、この上なく情けない声を俺の喉から引き出した。

「ふふっ、きもちいいねぇ? もっとつづけるよ~
 ゆっくり腰を回して、焦らしながらすりつぶしてあげる」

 ずいぶん気を良くした様子で、リムカーラが同じ動きを繰り返す。
 ペニスはすっかり彼女の与える刺激に対して従順になっていた。

「クニュクニュクニュクニュ♪ キミの顔、すっごく情けないよ?」

 振り子のように揺れる腰を見ているだけでも気持ちいい。

 腰が動いたあとにやってくる刺激はもっと気持ちいい。

 何よりもリムカーラになじられると、気持ちいい!

「それでも勇者クンなのぉ? ふふふふふふ♪」

 蔑んだような瞳の奥からも愛情を感じる。
 たとえそれが淫魔の罠だとしても、今の俺には縋るしかなかった。

(あああああ、もうイくっ、イかせてリムカーラアアアアア!!)

 狂ったように俺は祈る。
 体の自由を完全に奪われた俺にできることといえばそれだけだった。

 そんな俺を見つめながら、リムカーラがつぶやく。

「いい忘れたけど、淫魔に精を捧げるとキミはもう勇者じゃなくなっちゃうんだよ」
「えっ……!」
「堕落した勇者、闇の勇者……どう呼ばれたい?」

 それは俺を正気に引き戻すのに十分な一言だった。
 完全に存在意義が消えてしまう……そうなったら俺は――!

「い、いやあああああ。はなして、はなしてえええええ!」
「いまさら逃げられないよ、だってもう射精寸前でしょ?」

くいっ♪

 軽く腰をひねられるだけでどうしようもなかった。
 暴れようとしていた気持ちごとリムカーラに抑え込まれてしまう。

「くふ……ぅっ!」
「ほぉら、きもちいい♪ きもちいい♪ きもちいい♪ きもちいい♪」
「やめて、ささやきだめ、いわないで、いわないでええええ!!」

 ガクガクと体を震わせながら俺は懇願する。
 だがそれで状況が変わるわけでもない。

(ひゃべれな、もう、しゃべれなひ、はああああ!!)

 全身が性感帯のようにされたまま、ついに俺は言葉を紡ぐことすら封じられてしまった。

「カウントダウンも必要ないよね。このままイっちゃえ~~~~~~~~♪♪♪」

 リムカーラの手が俺の腰を思い切り強く引き寄せた。


どぴゅううううううううううううううううううう~~~~~~~~~~~っ!!!

 弾けるような音がして、俺は盛大に射精してしまった。

 熱い精液が飛び散って、その大半がお互いの淫紋に直撃した。

「はい、キミの勇者としての人生はおしまい♪」

 楽しげな様子で彼女が言う。
 その直後、俺の体の中にピンク色の何かが忍び込んできた!!

「そろそろ自覚したほうがいいんじゃないかな? 奴隷クン♪」
「え……」
「毎晩私に犯されたいと思ってるんでしょう。別に隠さなくてもいいよ」
「そ、そんなことっ! ぜったい、ある、もんか……」
「首輪が私に教えてくれるの。
 もっとイかせて、ボクをもっときもちよくして~~~って」

 誘惑するようにリムカーラはささやいてくる。
 その甘い声に導かれるように、俺の心の中で異物がどんどん膨れ上がっていく。

「あ、あああぁぁぁ……そまってく、まっくろ……体の中に、リムカーラが……はいってくる……」

 彼女の存在が大きくなり、勇者という今までの自分がどんどん小さくなっていく。

「そんな……俺はゆう……」
「だから私はキミに与えるの。底なしの快感と、隷従する心地よさを」

ちゅ、ううぅぅぅ……♪

 このキス、気持ちよすぎる……
 意識がどんどん黒く染まっていく心に、ピンク色の淡い光を灯してくれる。

 俺に光を与えてくれる存在、それが――

「あ、ああぁぁ……リムカーラ……ァ……」

 想いを込めて彼女の名を口にすると、ニッコリと微笑み返してくれた。

「キミは私の大切なおもちゃ……それもとびきりのお気に入りよ」

 おもちゃだなんていわれて嬉しいはずがない。
 これはもう屈辱だ。怒りをあらわにすべきなのだ。
 それなのに……
 俺の胸の中に湧き上がる感情は、喜びだった。

 リムカーラに抱かれる、弄ばれる、笑われる……
 その全てが辿り着く場所が喜悦であり、快楽なのだから。
 こんなの絶対に我慢できない。

 俺が男である限り、首輪の呪いがある限り永遠に彼女のおもちゃなのだ。
 永遠に隷属するなんてありえない……はずなのに……

(すきだ……リムカーラ……もっと、おれを……)

 その気持はすぐに首輪を通じて彼女に伝わり、彼女の気持ちも俺にフィードバックされる。
 リムカーラの本心は紛れもなく愛情だった。

 嘘ならどれだけマシだっただろう。
 これではもう離れられない。

 離れる理由すら甘美な真実で塗りつぶされた。

 心の底から彼女を求めてしまった俺を、リムカーラは長い時間抱きしめてくれた。





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