『連休明けに風俗に入ってみたら、思いがけず強がりを口にしちゃったお客さんの話』
俺の目の前で嬢が不思議そうに首を傾げた。
真っ黒な大きな目でこちらをじっと見つめながら、もう一度口を開いた。
「絶対イかない? 手コキされて耐えきるっていう意味ですか」
その言葉に俺はうなずく。
ここはハンドジョブのみの風俗店。いわゆるオナクラ。
1プレイ1万円以内で済むので財布に優しいかわりにプレイ時間は短めだ。
「おかしいかな?」
「いえ、たまにそう仰る方はいるんですけど、じゃあどうして風俗に来られたんですかぁ?」
面白がっていきなりちんこを握ってくる嬢が多いのだが、今回指名した嬢は、わりと知性的な子なのかもしれない。
至極まっとうな疑問だろう。
料理屋に入ってきた客が「俺は絶対に美味しいとは言わないぞ!」と宣言するのに等しい。まあちょっとニュアンスは違うか。
とにかくそれなりに通じるであろう理由を話す。
「我慢することで男を磨きたい……わかるようなわからないような」
「男なら誰でも一度は考えそうなことだと思うけど?」
「だって、気持ちいいほうがいいじゃないですか。風俗店って気持ちよくなるための場所ですよ」
筋は通ってる。彼女のほうが正しいな。
そしておそらく半分くらいは納得してもらえただろうか。
ゆっくりした動作で彼女が俺のズボンに手をかけはじめた。
ぶっちゃけ、刺激がほしいのだ。
相手はプロの風俗嬢であるから、煽るようなことを言えばすごいテクニックを使ってくれるかもしれない。
目の前の、どちらかといえば清純そうな地味系美少女だって本当はすごいテクニックの持ち主なのかもしれない。
残念なことに今までそんな経験はないのだが。
「でも、まあいいです。それがリクエストだというなら」
「うん。頼むよ」」
プロの意地を見せてほしいと伝えると、嬢は小さくうなずいてくれた。
「じゃあ30分コースでいいですか?」
「短くない? それともそんなに自信があるのかな」
「ええ、確実にイッちゃうと思いますし」
淡々とした様子で彼女は言った。
そして目の前に露出したペニスを見てから、指先でしたから上にゆっくりとなぞってみせる。
(うっ……!)
絶妙な力加減だった。
たったこれだけで、嬢のテクニックがそれなりに良いものだと感じられるほどに。
さらに指先が踊り、先端を軽く捏ね回すとすぐに我慢汁が滲み出した。
その透明な雫を少しずつ塗り拡げていく。
さらに我慢汁があふれる。
目の前にあるきれいに切りそろえられた嬢の爪を見つめてしまう。
「何よりここはそういう場所ですから。別に気にしなくていいと思いますよ」
「え……?」
「仮にですけど、さっきの言葉が嘘になっちゃっても内緒にしてあげますから」
不意に指先の数が増えて、カリ首にするりとまとわりついてきた。
細長い中指の先が裏筋から半周くらい亀頭を締め付け、人差指と親指がネチャネチャと音を立て始める。
「私の手の中でびゅーびゅーしちゃっても、それが普通ですから」
硬さを確かめるように三本の指が這い回り、時折俺自身を締め付けてくる。
数分後には目の前でなめらかに動き回る指先から目をそらせなくなっていた。
「じゃあ、始めましょうか」
「!?」
空いていた彼女のもう片方の手にタイマーが握られていた。
今までのはサービスタイムだったのか……それとも押し忘れていただけなのか。
そんな事を気にする間もなく、俺の下半身は快感に包み込まれてしまう。
(う、ううううう! この子、なんでこっちを……!)
大きな目がこちらをじっと見つめているのに気づいてから、俺は快感を受け流せなくなり始めていた。
普通の風俗嬢は手元を見る。しかし今回の嬢は違った。
間違いなく相手の反応に合わせて技巧を変えてくるタイプ……なかなかお目にかかれない手練だ。
「なかなか我慢強いですね。さすがです」
俺を褒め称えながらも、余裕を感じさせる言葉だった。
逆手に持ち替えたペニスを、人差し指が軽くなぶり始める。
「ふふっ、どうしました?」
チロチロと下から上に舐めあげられるような感覚。
カリの部分を指の先がめくっていくたびに声が漏れそうになる。
直接的な射精にはつながらないが、我慢する気持ちが剥がされていくようだった。
「まだ全然本気を出してませんけど、心の中を覗いてあげましょうか」
股間への刺激はそのままに、ゆらりと嬢が立ち上がった。
そして正面から俺に抱きついてくる。
俺はベッドに腰を掛けたままだ。
今まで膝立ちだった嬢の視線の高さが俺より上になったことで、女性上位であることを意識してしまう。
「なんで俺の感じる部分を責めてくるんだろう、気持ちいい……こんな刺激を続けられたら反応しちゃうって、おちんちんが叫んでますよ? ふふふふふ……」
その言葉の終わりに耳をはむっと甘噛みされた。流石に声を上げてしまう……まるで心をそのまま口づけされたようで、俺は小さく悶えた。
長い左腕を俺の首に巻き付けながら、嬢は右手だけでペニスを優しく刺激してくる。
ふっくらしたバストをギュッと押し付けながらの囁きと耳舐めは強烈な誘惑だった。
「ヌルヌルの人差し指だけでおちんちんの先っぽをカリカリしてあげるとぉ……」
「うあっ、あああ、あっ!!」
「もう我慢できないですよね? 声が自然と口から溢れてきちゃう」
手元が見えないのが厄介だった。
耳に流し込まれる情報を鵜呑みにしてしまう。
先ほど見せつけられた指先に翻弄されている。
細くて長い彼女の人差し指が、防御力を剥がされたカリ首から尿道までをツンツン刺激してくるのだ。
「や、やば……ッ」
「そうなりかけたら、こうです」
ギチュッ、という音が聞こえそうになるほど強烈に亀頭が締め付けられた。
「ぐあああああああああああっ!!!」
「出口を塞がれちゃうと切ないですね。おまんこの奥で、ギュウウウッておあずけされちゃうのと同じですよね」
淡々と卑猥な言葉を紡ぎ続ける美少女の声に、俺はすっかり心を奪われてしまった。
無意識に彼女の細い腰に手を回してしまう。
おさわりは禁止だというのに、嬢は何も言わなかった。
代わりに小さな笑い声が彼女の口元からこぼれた。
「もうメロメロですよね。ここからは優しくしてあげます……」
その言葉通り、右手が与えてくる快感の質が変化した。
ギュッと締め付けていた感覚が消え去って、上から下へゆっくりと同じ場所をなぞるような刺激が続く。
「こういうのもありますよ」
すっと右手を上げて指を俺に見せつけてから、嬢は中指と親指で輪を作ってみせる。
そのままゆっくり輪の中にペニスの先端をくぐらせてきた。
「あ……!」
指先はギリギリペニスに触れていない。
それなのに触られてるような感覚がこみ上げてくる!
「コツは無理やりしごかないこと。まわりをそ~~~~っと包むように撫でるだけで」
そういいながら、裏筋から根本までゆっくりと上下に指の輪を移動させる。
少しだけ指とペニスが触れ合う時、強烈な刺激が俺の背筋を駆け抜ける。
「ほらこの通り。さっきよりも元気良くなっちゃいましたね」
ビクビク震えている俺の体を自分の方へと引き寄せる嬢。
そして正面から俺の目を覗き込んで、軽く唇を重ねてきた。
(うっ、ああああ、き、きもち、いいいいいぃぃぃ!!)
本当に触れ合うだけのキスなのに、恋人同士のキスよりも心地よくて背徳的だった。
自分から負けないと宣言した相手に感覚を支配される快感とでもいうべきか。
とにかく興奮させられてしまう。
こんな地味で清楚な印象の美少女に……!
彼女の作った指の輪を押し上げるほどペニスがどんどん膨れ上がっていく。
「相手が焦らされて気持ちよくなったら、優しく微笑んであげるだけでいいんです」
小さな声で彼女が言う。
そして指を押し返すペニスを見つめてから、いたずらっぽく裏筋とカリ首を何度か締め付けてきた。
「うあっ、だめだ、それっ、あ、あっ!!」
「ふふふ、絶対に射精しないんでしょ?」
「で、でもっ、こんなに気持ちいいなんて思ってなかったからあああ!」
「いいんですよ。私の前ではみんな可愛い男の子になっちゃうんですから♪」
そのまま再び唇を重ねて、嬢は俺の我慢する力を完全にゼロにしてしまう。
これでほんの少し強く握られたら確実に射精してしまうというところで、彼女がするりと下着を脱ぎ去った。
「さて、そろそろいい頃合いかな」
「な、なにを……?」
「私も楽しませてもらおうと思って。こういうのが好きなの」
「ちょっ、それは……!」
俺が拒む様子を見せるとお店には内緒にしておいて、と彼女は言った。
本番禁止なのだから当たり前だろう。
しかし嬢の側からいい出したことなら話は別だ。
「お手てでイかなかったからお客さんの勝ちですよね」
「そ、そうかもしれないけど……」
「だからこれはご褒美です」
目の前にはうっすらとした彼女の茂みがある。
ペニスまでの距離は15センチ程度。
このまま位置を調整したら、確実に挿入できる。
「お手てよりも気持ちいいステージで勝負しませんか?」
「えっ、まさか……」
「もちろん、ここに入れてあげますよ」
嬢の指先がクリトリス付近を示す。
信じがたい光景に見とれていると、そっと手のひらで亀頭だけを包み込まれた。
「もう射精寸前のおちんちんをね、おまんこの中でキュウウウウウって」
「っ!?」
「ふふっ、想像しちゃったね。すごい反応」
彼女はニッコリ微笑んでから、タイマーのスイッチを押す。
コース終了までまだ半分以上の時間が残っていた。
「このまま膣内にお迎えしたら、何秒くらいもつかなぁ」
「お、俺は絶対にイかない!」
「ふふふ♪ まだ強がりを言えるんだ……じゃあいくよ? できるだけ我慢して見せてよね……」
なけなしのプライドでようやく口にすることが出来た俺の強がりがゆっくりと飲み込まれていく。
生暖かくて、男を駄目にする柔らかな感触が広がっていく。
しっかり口を閉じていたはずなのに、勝手に歓喜の声をあげさせられてしまう。
俺の挑戦は、彼女が腰を下ろしてから十秒後に失敗という形で幕を閉じた。
(了)