それは、いつもどおりの午前中の出来事だった。
「ナカミチ、なにいってんの?」
「そんなわけねーだろ!!」
親友である二人・大沢と小峰に俺は学園内の噂について相談していた。
そして午前中最後の休み時間に、二人から完全否定されたのだ。
「そりゃあ俺だってそう思うんだけどさ……」
「まあまあ、気持ちはわかるよ中道くん」
「え?」
「だって、次の生徒会選挙で彼女はキミにとって唯一のライバルになるんだからね」
大沢と小峰は不機嫌そうな俺を見ながらウンウンと頷いている。
今日のこいつら、気に入らない……
俺が二人に相談したのは、クラスメイトでもあり次の生徒会選挙で会長の座をかけて戦う相手の「ある噂」についてだった。
選挙戦で争う相手は時川美雨(ときかわ みう)と言って、いわゆる真面目な委員長タイプ……ちょうど教室内で俺と対角線上に座っている女子のことだった。
これは最近聞いた話なのだが、真面目そうな彼女が学園内の男子をたぶらかしてみだらな行為をしているという噂だった。
にわかに信じられない話ではあるが、その噂話が妙に生々しくて気になってしまう。
時川と関係した男は彼女の虜になってしまうので逆らえないとか、選ばれたものしか誘いを受けないとか。
ぼんやりそんな事を考えていたら、大沢が口を開いた。
「先に対抗馬を潰したい気持ちはわかるぞ、ナカミチ」
「違うよ。そもそも選挙とか関係ないし。俺だって別に、そんなつもりじゃ……」
「じゃあどんなつもりでそんなことをウチらに聴いてきたんだ?」
「うっ、それは……」
時川美雨は現在うちのクラスの女子側の委員だ。
俺は男子側のクラス委員なので一緒にいることも多い。
黒髪のおさげに太い縁のメガネ。
典型的な真面目っ子であり、風紀などに口うるさい彼女のことを悪く言うやつもいる。
だが俺はそれほど悪い印象を持ち合わせていない。
それどころか、むしろ――
「中道くん、今なにを考えてたのかなー?」
「ハッ!! へ、へんに勘ぐるなよ? 俺はただ時川さんと正々堂々と戦いたいんだ」
「ふぅ~ん、じゃあそういうことにしといてやるよ!」
楽しそうにニヤニヤしながら、親友コンビが自分たちの席へと戻っていく。
特に理由もないけど負けた気分だ。
「ちょっと待てお前ら! くそ、いっちまった……」
その時ちょうど始業のチャイムが鳴り響いた。
■
「時川さん、少しだけ話してもいいか?」
「なにかしら。中道くん」
「じつは来月の学園祭のことでさ、男女の役割分担とか打ち合わせしたくて」
午後の授業が始まる前に俺は時川さんに声をかけた。
俺が話す言葉に彼女はふむふむと頷いている。
真面目に聞き入ってくれる様子はとても好ましい。
集中するといつもより少しだけ目が寄るところも可愛く思える。
(やっぱりこいつ、真面目だし好きだなぁ……)
知らず知らずのうちに思わず見とれてしまうのだが、こうしたことは自分では気づきにくいものだ。
「んっ、どうしたの?」
「え……? い、いや……なんでもないよ!」
指摘されて慌てて取り繕う。
やはりこんなに真面目な彼女がみだらな行為なんて考えられない。
悪い噂を流したやつの妄想に過ぎないだろう。迷惑なことだ。
その後、二言三言の会話をしてから俺たちは明日の放課後にまた意見交換することに決めた。
■
次の日――。
時川美雨からの提案で、意見交換の続きは生徒会室で行うことになった。
入室と使用の許可は彼女の方で取ってくれたらしい。
そして予定の時間を少しだけ遅れて俺は待ち合わせの場所へと急いでいた。
しかし……、
「あれ、なんでこの教室……おかしいな?」
生徒会室へ行く途中にある資料室のドアが中途半端に開いていた。
入学してからこの部屋が開いているところを俺は見たことがなかった。
しかも何やら人の声が聞こえる。
興味本位で覗いてみると、一人の女子を挟むようにして男子が左右に陣取っていた。
男子も女子も見覚えのある顔だった。
「まさか、あ、あれは……大沢と小峰、それに時川さん!」
何が起こっているのか全く理解できない。
俺は軽いパニック状態なのだろう。
自分がすぐに動かなければならないという使命感だけがこみ上げてきた。
「助けに行かなきゃ!」
考えたくなかった。自分の親友である二人が時川美雨を襲っているだなんて!
クラスメイト同士の不埒な現場なんて見たくもない……
それに彼奴等とも絶交しなきゃならない状況じゃないか。
一気に吹き出してきた複雑な感情に思考が乱れる。
だが、それらの熱を一気に冷ますほどの違和感が俺を包みこんだ。
「ん……なんか様子がヘンだぞ……逆に男のほうが助けを求めてる……?」
時川美雨を挟んでいたうちの一人、小峰がめまいを起こしたように後ろに倒れた。
その直後、大沢のほうも同じように倒れようとしたのだが、彼女がそれを阻止した。
「うふ♪」
時川美雨が自分より大柄な男子をとギュッと引き寄せ、体を密着させたまま耳元で何かを囁いている。
それと同時に抱き寄せられている大沢がガクガク震えだし、間抜けな声を上げながら背筋をのけぞらせた。
(な、なんだこれは……!)
気づけば俺は、隠れることを忘れて身を乗り出していた。
時川美雨の腕の中で悶える親友の声は、苦痛というよりも快感の色を帯びていたのだ。
男の喘ぎなんて聞けたものではないが、それ以上に彼女の表情が艶めかしかった。
自分の腕の中でビクビクと体を震わせていた男が動かなくなってから、視線を変えずに彼女は言った。
「ねえ……こっちにおいで? 中道くんでしょ」
それはとても良く通る声だった。
大声を出したわけではないのに的確に俺の耳に届いた。
(な、これは、ば、バレてる……のか……?)
のぞき見をしていたという事実が胸を締め付ける。
決して悪意があったことではないのだが、その思いが思考を遮る。
俺は諦めたように立ち上がり、フラフラと彼女の元へと向かう。
「時川……」
「んふふ、やっぱりキミだったんだね」
微笑みながらこちらを見つめてきたのは間違いなく彼女だった。
しかし机の上に座り、脚を組んでこちらをじっと眺めている姿はいつもの真面目っ子ではなかった。
「やっぱりって……なぜ俺だとわかったんだ?
「ニオイ、かなぁ……なんとなく、ね?」
人差し指で自分の鼻先をもてあそびながら彼女は笑う。
「おお、お前! 一体こんなところで何をして……ッ」」
「そんなことより、大変そうだね。キミのアソコ」
「え……」
鼻の先に置かれていた指先が、俺の股間を指し示す。
その意味を知って俺は赤面した。
見なくてもわかる。
ペニスが痛いほどに膨張しているのだ。
「興奮したんだ? みんなが犯されてるのを見て」
「ち、ちがっ……!」
「中道くんも私に犯されてるところを想像したんでしょう? ううん、私に犯されたいって思ったんじゃないの」
犯される? 俺が?
時川に犯されるって意味か……男子が女子に犯されるなんて……
ありえない妄想が頭の中をぐるぐる回る。
でも否定できない。
彼女の足元で伸びている男子二人が目に入る。
(大沢、こ、小峰……あんな顔をするなんて……)
知り合いだけに衝撃が大きすぎた。
先程よりもパニックになって動けない俺に向かって彼女が近づいてくる。
一歩、二歩、ほほ笑みを浮かべながら……
ある意味で恐怖を覚え、体が全く動かせない!
そして時川美雨は俺との距離が20センチ程度にまで近づくと足を止めた。
「あの噂、知ってるんでしょう」
「う……」
上目遣いで見上げられる。
甘い髪の香りがした。
動けないままの俺に向かって彼女の指が伸びる。
顎の先を、ツツ……と撫でられた。
「はあああああっ!」
それだけで背筋がゾワゾワとざわめいた。
腰が砕けそうになるのを必死でこらえるが、力は入らない。
必死でこらえているうちに、俺の顎に触れた指先はゆっくりと体を滑り、股間にピタリと添えられた。
「だからここに来たんだよね? そして今、男の子の大切なところを触られてる……」
ク、ニュ……
「んあっ、ああああ、やめ……ッ! と、時川……」
未知の快感に抗うことに集中していた俺をニヤニヤと見ながら、彼女は空いている手を静かに自分の耳のあたりに持っていく。
細い指先がメガネの弦をつまんだ。
「暑いね。外しちゃおっと」
そのまま軽く首を横に振るようにして、時川美雨がメガネを外した。
「あ……」
「くすっ、どうしたの?」
普段メガネをかけている姿しか見ていない俺にとって、それは新鮮な感動だった。
隠されていた美しさが目の前で溢れ出したような、何か見てはいけないものを見ている気持ちに近い。
それでも彼女は美しい、と感じてしまう。
まっすぐこちらを射抜く大きな瞳。
自身に満ちた口元と、小さく整った鼻。
それにすべすべした肌も、目元のほくろも……
「ボクがメガネ外すと皆今のキミと同じ顔をするんだよね」
「!!」
「それからこう言ってくれるの……時川さんの顔、すごくきれいだって」
ニコっと笑いながら自分のことをボクと呼ぶ彼女にドキドキしてしまう。
メガネを外すだけでこんなにも人格が変わってしまうのか……
「えへへ……続きはあっちでしようね?」
彼女の細い腕が、いつの間にか俺の腰へと回されていた。
■
操られるようにして俺は彼女とともに生徒会室へと入った。
そこにあった幅70センチ程度の簡易ベッドの前に連れて行かれる。
保健室から借りてきたものなのだろうか。清潔感のある白いシーツが敷かれていた。
「続き、しよっか?」
「と、時川……」
「うん? もしかしてボクとふたりっきりで緊張してるの? 可愛いんだね」
時川美雨は誘惑するように片目を軽く瞑ってみせた。
そのウインクのせいで、俺の気持ちの中で彼女の美しさが跳ね上がってきた。
いつも真面目なクラスメイトの代わりに現れたのが、男子を手玉に取る淫らで悪戯なボクっ娘だなんて。
無意識に何かを期待してしまう。
正体不明のなにかのせいで胸が急に苦しくなって、何も言い出せない!
「くすっ、考えを先回りされちゃった? それともボクのこと、嫌いなのかな……」
「い、いや……そうじゃなくて、あの……」
俺がやっとの思いで言葉を紡ぎ出すと、ニィっと彼女の唇が吊り上がった。
そして、ゆっくり距離が近づいて――
ちゅううぅぅ……♪
瞬間的に、無意識に息を止めた。
突然与えられた極上の柔らかさが俺に静寂を強いる。
ちゅ、ちゅ……
さらに味わうようにゆっくりと、目を細めながら彼女は顔を小刻みに動かす。
柔らかい感触、唇を奪われ続ける感覚が俺の中に広がってゆく……
やがてたっぷりキスをまぶした後で、彼女の方から顔を引いた。
「ここからは言葉なんていらないよね?」
「き、き、キス……!」
「ふふっ、けっこうピュアなんだね。中道くん」
二人の間に掛かる唾液の橋が、快感の余韻を長引かせる。
人生最初のキスが、こんなに淫らで甘いものだなんて……
あの噂は嘘じゃなかったと感じるのに充分な先制攻撃。
こんなのを繰り返されたら俺は……
「えいっ」
とんっ……
「う……ああっ!」
すっかり力が抜けてしまった俺の体を、彼女が小突いて押し倒す。
さらにベッドに倒れた俺に馬乗りになってから、小悪魔は淫らに微笑んだ。
「無防備過ぎない? キスより凄いこと、今からボクにされちゃうんだよ……」
「ッ!?」
「教えてあげる」
すると彼女は、上半身をすばやく倒してから自分の胸を俺の胸へとピッタリ押し当ててきた。
(や、やわらか……ッ)
絶対的な大きさなど関係ないと思えるほど、憧れの真面目女子の体は魅力的だった。
胸だけでなく全身で柔らかさを感じさせられてしまう。
ギュッと抱きつくようにしながら、耳元で彼女は言う。
「噂通りの、ううん……噂以上にエッチな子なんだよ、ボクは」
「うあっ、ああああああああああ!!!」
声を出していなければおかしくなってしまう!
そう思えるほど時川美雨の抱きつきは危険に思えた。
しっかりと押し倒され、犯されている感覚。
まだペニスはいじられていないのに、支配され尽くしていく甘い恐怖。
「ほ、他の男子、あいつらは……」
苦し紛れの問いかけだった。
親友たちのことを思い出すことで彼女からの誘惑を解除できると考えたのだが……、
「ああ、あの子達はもう帰ったはずだよ。今日の分をあげたからね」
「なにそれ……今日、の?」
「今日の分っていうのは、ボクから奴隷クンたちへのご褒美のこと♪」
冷静に言葉を返され、ますますパニックになる。
(ほうび、褒美ってなんだよ? じゃあこれは、さっきのは当然の流れ? な、なんだよ……)
あいつらが隣の部屋に居たのは必然で、俺がそれを覗くのも計算のうち?
混乱から抜け出せない俺に彼女が続ける。
「最初に謝っておくね。中道くんは、次の選挙で絶対にボクに勝てないよ」
「な、なんでだよ!」
「だってボクはほとんどの男の子を買収してるからね」
そこで彼女はペロリと舌を出してみせた。
俺はすべてを悟った。
時川美雨は、俺のことをライバル視していたんだ。
そして周到に準備を重ねて今の状況を作り出した。
俺の耳に届くように噂を流して親友にも否定させる。場合によっては奴らじゃなくても良かったのかもしれないけど、知り合いのほうが俺に与えるダメージが大きい。
今更気づいても遅いのだが、思わず不満がこぼれてしまう。
「ず、ずるい……」
「ひどいなぁ。じゃあ、ずるいかどうかをキミが証明して見せてよ」
微笑み続けたまま、彼女が体を少しずらした。
横になったまま俺と顔の位置を合わせながら……これは添い寝だ。
「今からキミの大切なところをゆっくり刺激してあげる。それに我慢できたらキミの勝ち」
「な……」
「キミが我慢できなかったらボクの勝ち。言うことを一つだけ聞いてもらうよ?」
「ッ!? 言うことって……」
「くすくすっ、まだ秘密だよ。でもキミ、な~んかエッチなこと想像してなぁい?」
再び俺は赤面した。
心の奥底を見透かされたような気がして反射的に首を横に振った。
「じゃあ始めようね」
その言葉が終わると、彼女の膝がスッと持ち上がった。
ゆっくりとした動作で太ももが俺のへそ辺りをこすり始める。
スリスリスリスリ……
(うあ、ああああ、なんだよこれええええ!?)
俺にとっては未知の快感だった。歯を食いしばることしかできない!
「女の子に押し倒されて添い寝されるなんて屈辱的かな?」
ギュッと目をつむる俺に向かって挑発的な言葉を投げかけてくる。
同時に彼女の膝先が亀頭に触れた。
「はうううっ!」
ビクビクビクッ!!
自転車こぎをするように、ゆっくりと形の良い彼女の膝が上下運動を繰り返す。
「なかなか我慢強いんだ? 尊敬しちゃうなぁ」
適度な重みによる凶悪な刺激が規則正しく刻まれていく。
(じ、自分でするよりっ、きもちい、きもちいいいいい!!)
直接触られてるわけでもないのに、指でしごかれてるわけでもないのに、ましてや膣内に挿入されたわけでもないのに!!
目の前で繰り広げられている俺への責めは、確実にペニスを射精へと導き始めていた。
「つぎは、こうかな?」
ニッチュニッチュニッチュ!
「んあ、あああああああ!!!」
自転車こぎの動きが回転運動から上下の圧力に変化した。
ギュッギュッギュ、とペニスが優しく押しつぶされる。
そのまま中に詰まったものが搾り出されてしまいそうな、甘美な繰り返し……
「またもどすねー?」
「ま、待っ……うああああああああああああああ!!!」」
すりすりシュッシュ……
ヌチュヌチュヌチュヌチュ……
慣れないうちに刺激を変化させられ続けて俺は鳴く。
か弱い女の子である選挙戦のライバルに負けじと抗うも、全身が快楽に染まっていく……
小一時間ほどそれらを繰り返してから、時川美雨は小さくため息を吐いた。
「ふぅ、なかなかやるねぇ……でも、そろそろその我慢を全部きれいに溶かしてあげようか?」
「え……」
添い寝と膝コキのコンボが中断された。
そのかわり、彼女は最初と同じように俺にのしかかってきた。
両膝で腰を挟むようにして固定する。
ゆっくりと体を前に倒して、おでことおでこを軽くコツンとぶつける。
(な、なんだ……)
胸がまたドキドキしてきた。
そして彼女の目が潤んでいることにも気がつく。
性的な刺激の渇望ではなく、これはまるで……!
「好き……中道くん、好きだよ。ボクはキミのことずっと見てた」
「え!!!」
「キミもボクのこと好きだよね? だって、昼休みの打ち合わせの時、熱心に見つめてくれたんだから」
いつもの声、いつもの彼女の醸し出す雰囲気に包まれる。
口調こそ違うものの目の前にいるのは俺が憧れているクラスメイトそのものだった。
「ボクとキミだけの秘密を作っちゃお? このまま優しくしてあげるから」
やばい、心が溶ける……絆されてく……
我慢し続けないと彼女の不正を証明できないのに、
抗うことができなくなってしまうというのに!
ピュル……
「あっ」
「おちんちんビクビクしてるぅ! あはっ」
固く閉ざしていたはずの心の砦が、彼女の甘い言葉にあっさり崩されかけていた。
少しずつ漏れ出していく自分の本音、隠しておきたい部分がむき出しにされていく思いだった。
「優しくされるとおちんちん気持ちいいでしょ……キミのお耳は声でくすぐってあげる。目の中には、ずっとボクをいさせてね?」
「うあ、ああああああっ!」
正面から抱きつかれ、優しくプライドを砕かれていく。
生き地獄のような状況なのに心地よく感じてしまう自分がいる。
「今からキミの鼻先にボクが息を吹きかけてあげる。甘い香りをたっぷり吸い込んだら……思い切りイってね?」
このイってね、というのは……
イく、射精する、彼女に、誘惑に負けるっていうこと!
それなのに、負けることが、そんなに苦しくなくなって、むしろ……
負ける、負けちゃう……負けたら、きっと気持ちいい……
俺の葛藤のさなか、彼女は口笛を吹くように優しく空気を吐き出した。
はあああぁぁぁぁ~~~~~♪
「あ……」
「ほら、イって♪」
「え、だ、だめなのに、で、出るっ、出、い、イクうううううううう!!!」
ビュクビュクビュクウウウウ!!!
オナニーの数十倍の快感が背中を突き抜けて、戻ってきて、もう一度俺を貫いた!
「あがっ、あがああああああ!!」
何度も何度も射精する、しかも断続的に少量で。
ペニスへの刺激を伴わない緩慢な射精が、脳内を先に何度も絶頂させてから時間差で肉体を屈服させる。
「いぎっ、ま、またい、イくうううう! だめ、とまんな、い、これえええ!」
ビクビクビクビクウウウ!!
全身が震える。脳内射精で彼女に犯される。
だらしない顔をしっかり見られてるというのに我慢できない。
「ふふっ、この勝負はボクの勝ちでいいよね?」
完全に俺を見下すような口調で時川美雨は笑う。
そして枕元からスマホを取り出してカメラを起動した。
「はい、ちーず♪」
まるで記念撮影でもするように俺と自分を画面の中に映しながら、女性上位で可愛らしくポーズを決めるのだった。
それから一時間後。
「キミには約束通り、ボクの言うことをひとつだけ聞いてもらうよ」
やっと落ち着いた俺の隣で彼女がいった。
すでにメガネを掛け直しているというのに口調はそのままだった。
「俺に何をさせようっていうんだ?」
「ボクが生徒会長になったら、副会長をしてもらうから」
「な、なんだって」
それは意外な要求だった。
てっきり立候補を取りやめにしろと言われるのかと思っていたからだ。
俺はその真意を問いただした。
「理由? そんなの……ふふふっ」
すると彼女は少し頬を赤くして顔を背けた。
不思議そうに見つめていると、ひとつ咳払いをしてからこちらを向いた。
「だって、自分のお気に入りは近くにおいておきたいから♪」
それっきり彼女は視線をそらして黙り込んだ。
恥ずかしそうに語尾を濁す横顔を見ながら、数秒後に俺はまた赤面してしまうのだった。
『手のひらの上』(了)