『アマチュアボクサーの悲劇』



 先ほどより少し熱が冷めた頭で考える。
 なぜこうなったのか。

「ねえ、どうしたの? まだ様子見のままなの?」

 笑顔を絶やさぬ美形の女と俺は対戦している。
 女は言う。ボクシングを自分でするのは初めてだと。

 相手の目線は俺とほぼ同じ。しかしリーチが違う。
 少なくとも俺より数センチ相手のほうが長い。

「チッ!」

 挑発に苛立ちながらジャブを放つ。
 もちろん顔に当てるつもりで、だ。

「きゃっ、こわーい!」

 しかし彼女はそれを見てから回避した。
 最小限の動きで、わずかに首をひねっただけで。

「じゃあこっちからいくね?」

シュッ……

「ッ!」

パンッ!

 風を切る音を感じた瞬間に、俺がガードする腕に衝撃が伝わり炸裂音に変わる。
 まただ。初心者がこれをできるはずがない。
 絶対に嘘だ。

 その時の俺はそう思っていた。





 俺はアマチュアボクシング選手権で地区予選準優勝をしたことがある。
 プロには及ばないとは思うが初心者ではないといっていいだろう。

 だがそんな俺にファンがつくはずもなく、ギャラリーは常に少なめだ。
 俺のビジュアルが特に評判いいわけではないし、強さもほどほどだから仕方ない。
 地味な試合展開をするのもその理由の一つなのかもしれないが。

「あの、試合いつも見ていました!」

 ある試合の後、その女性はそんな俺に声をかけてきたのだ。
 勝利後ということもあり嬉しさもひとしおだった。

 フサノマヤ、と女は名乗った。
 5つか6つ俺よりも年上なのだろう。
 笑顔が綺麗な人だと最初は思った。

 マヤはレースクイーンっぽい体形で、スラリとしていた。
 そして顔立ちも悪くないのだから自然とこちらはドキドキしてくる。

 聞けば今は時々ラウンドガールをしているらしい。
 一瞬で心を奪われたと言ってもよかった。

 あの言葉を聞くまでは。


「俺とスパーリング?」

 少し会話を重ねた後でマヤが俺に提案してきたのだ。
 自分はボクシングに興味がある、どうせなら男の人と対戦してみたいと。

「別に構わないけどアンタ、ボクシングの試合経験あるのかい?」
「いいえ、試合はないです」
「じゃあだめだ。女の人に怪我はさせたくない」

 精一杯優しく言ったつもりだった。
 興味があるのは結構だがこちらも嫌な思いはしたくない。

 だが彼女は俺の言葉を受けて、右手の指で口元を隠して笑ったのだ。

「クスッ、けっこう甘いことを言うんですね?」
「は!?」

 憤慨する俺を気にせず彼女は続ける。

「私、ジムではボクササイズをしたこともありますし
 お仕事でもラウンドガールを何度もしてますから、
 ある程度動きは読めると思うんです。
 それにアマチュアのボクサーさんが対戦相手なら
 大きな怪我をすることは絶対ないと思いますし」
「まじかよ……」

 絶句した。まさかこんなにボクシングを舐めた発言をしてくるなんて。
 相変わらず笑顔でさわやかな印象を与えてくるマヤを見ていると、俺の中でどす黒い感情が沸き上がってきた。

 この舐めた女をマットに這いつくばらせたい。

 ボクシングの痛みを教えてやりたい。

 この笑顔がパンチを受けて崩れるところが見てみたい。

 なにより俺はプロじゃないからライセンス停止など考えなくてもよい。

 怒りのあまり我を忘れていた。
 気が付けば俺はマヤの提案を承諾していたのだった。







 俺と彼女の対戦は、次の日の夜に彼女が指定する場所で行うことになった。
 都内のボクシングジムだ。空いてる時間を見つけたので時間借りするという。

 大した金額ではないが、その場所代の支払いを賭けませんか……と言われたので承諾した。
 少ないファイトマネーだが理由は必要だ。
 早々にマヤを打ち倒して支払わせてやろうと思った。

 そして当日になって俺が現地へ着くと、すでに彼女は身支度を終えた様子で俺を待ち構えていた。

 髪はポニーテールにしており、青いタンクトップに赤いグローブ、それにダークグレーのレギンス姿。そして白いシューズを履いている。
 まるでヨガやピラティスをやるような格好だ。
 この場合はボクササイズということになるのか。
 どちらにせよ俺はジャージ姿でいいだろう。

「ようこそ。ちゃんときてくれたんですね」
「当たり前だろ」

 笑顔のマヤに、ぶっきらぼうな言葉を返す。

「ここで何度かボクササイズを、ミット打ちをしたことがあるんです。
 その時の手ごたえが気持ちよくて」
「ほう、それで自分を経験者だといったわけだな」
「ええ、もうこれだけで十分かなーって」
「どういう意味?」

 俺が眉根をひそめて尋ねると、彼女は軽く左ジャブを放って見せた。

「ラウンドガールをしていた時に見ていた風景っていうか、
 プロの男の人たちの動きと大体同じことが自分にもできるんだなーって」
「なんだと……!」

 再び俺の頭に血が上った。
 視界が怒りで真っ赤に染まる思いだ。

 プロボクサーの練習量をこいつは知らないのか?
 それになんと無礼な……

 やはり遊び半分の女なんかに手加減はいらないと再認識した。

「今すぐ始めよう」
「はい。でもいいんですか? ジャージ姿のままで」
「かまわない。すぐにおわらせる」
「ふふふ……じゃあ、熱くなったら私が優しく脱がせてあげますね」

 その一分後、マヤがセットしたデジタルタイマーが作動する。

カーン!

 どこかぎこちないデジタル音とともに、俺たちの戦いが幕を開けた。


 リング中央に向かって一直線に進む。
 このラウンドで終わらせてやる。
 出鼻をくじいてワンパンチで倒し、その顔から余裕の色を消し去ってやる。

 踏み込んだ左足を急停止して、踏ん張りながら重めの一撃を!

 俺の第一手は左のストレートだった。
 大ぶりのパンチだが相手は初心者同然。絶対当たる。

ドンッ

 確かに当たった。しかし、両手でがっちりとブロックされた。

(馬鹿な、かわすのではなくブロックだと!? ええい、くそっ!!)

 身長は俺とほぼ同じの相手だ。そういうこともあるだろう。
 俺は構わずステップを刻み、フェイントもかけずにラッシュする。

 ジャブ、ストレート、フック、ジャブ――

 全弾マヤの赤いグローブにヒットする。
 亀になったまま相手はじりじりと後退していく。
 やはりパワーで押しきれる……そう思った時だった。

「いきなりひどいです。でも、これくらいのほうが……」
「ああぁ!?」

 マヤの生意気な言葉が耳に入る。
 俺は考えるより先に右フックを放っていた。

(マットに沈め! オラアアアア!!)

カツッ……

 俺の拳が相手に届く直前に、顎の先に赤いものがかすめた。
 マヤのグローブだった。

 そしてすぐに衝撃が全身に伝わる。

「えへっ、あたっちゃいましたね~」

 にっこり微笑む端正な顔立ちが目に入ったと同時に、俺の視界が真っ暗に崩れ落ちた。


「だいじょぶですか~? カウント取りますか」
「うるせええ!」

 マヤの声を聞いて、俺は反射的に答えた。
 だが俺はそこで気づく。その声が俺の頭上から降り注いできたことに。

 そして左の拳がマットについていることと、片膝をついて彼女を見上げていることに。

「くそっ……」
「偶然いいのが入っちゃいましたね。よかった~」

 まだ頭がしびれてる。首から下への伝達が遅い。
 俺は自らカウントを数えながら、約七秒後に立ち上がった。

「アンタ相手に俺は本気を出していいんだな」
「そうですね。ぜひとも」
「後悔するなよ」
「ふふふ、では続けましょう」

 立ち上がって構える俺に向かってマヤは微笑み、そして俺と同じ構えをした。

「どういうつもりだ」
「あなたの真似をさせてもらいますね」

 そう言ってから、わずかに彼女の体が沈み込んだ。

(やばい、これは!!)

 突っ込んでくるとわかっているのに反応が遅れてしまう。
 まだ先ほどの顎にかすった一撃が抜け切れてないのだ。

「えいっ!」

ドンッ

「ぐううっ!」

 それはとても重い一撃に感じた。
 マヤの左ストレートが俺のガードに突き刺さる。

 何とか防いだが彼女はお構いなしに、拳の弾幕を俺にお見舞いしてくる。
 ジャブ、ジャブ、ストレート、フック、不規則に赤いグローブが揺らめき俺を幻惑する。
 直撃は避けているものの、俺はじりじりと後退してしまう。先ほどと真逆の展開だ。

「女の子のパンチで下がっちゃうなんて、これだからアマチュアは」
「なっ……ウガアアアアアッ!!!」

ゴッ……

 動揺したせいでわずかにガードが甘くなる。そこへマヤは縦のアッパーを差し込んできた。

「はい、隙ありです」
「あ、あああぁぁ……」

 時間にすれば二秒足らずだが、俺は足を止めてしまう。
 試合中の二秒は長い。

「チャンスは逃しませんから」

 ガッ、ゴボッ、ドムッ、パチンッ!

「んおっ、あ、がああっ、んぶううう!!」
「それそれそれそれ♪」

 ドフッ、ゴスッ、ズムッ!

 リズムよく俺の体にパンチを突き刺してくるマヤ。
 数発のボディと、往復ビンタのような左右のフックのせいで俺の全身から防御力が急激に失われていく。

 顔を弾かれ意識を飛ばされかけながらのボディ攻撃は凶悪だ。

 ズンッ!

「がはっ、く、そおぉ、こ、こうなったら!」

 わざと一撃を深いところで受け切って、苦し紛れに彼女との距離を詰める。
 屈辱的だがパンチのリズム自体をつぶすしかない。しかし……

「クリンチですか? いいですよ。ぎゅうううう~~~~~~~~~~~~」

 クニュッ……

「ああああああああああああああああっ!!!」

 密着するときに彼女は自分の方足を一歩出して、俺の股間に押し当ててきたのだ。
 さらに両腕を俺の背中に回して……これはホールド、反則じゃないのか。

 だがジャッジがいない!
 マヤはそのまま小刻みに膝を動かし始めた。

(ああああぁぁぁ~~~~~~!!!!!!!)

 背筋が自然とびくびく震えだす。
 だがマヤの腕はますます俺を抱き寄せ、片足立ちのような姿勢で追い込みをかけてくる。

 気づけば俺はロープに背中を預けていた。
 力で女に押し切られていたのだ。

 この上ない屈辱なのに、気持ちいいなんて……でも抗えない。
 引き締まった女性のふとももが股間に押し当てられたまま蠕動することによって、甘い刺激が断続的に送り込まれてくる。

(こんなの、あってはいけないことなのに……女に、なぶられるなんて!)

 くすぐったさと心地よさが全身に広がると、試合中だというのに欲情している自分がますます卑しく感じてしまう。

 抱きしめられて甘い気分にさせられたまま、数秒後に俺は無理やり体をはがされた。

「はぁ、はぁ……」
「気持ちよさそう。ふふふふ、でもおしまい。レバーいただきです」

 そこからはスローモーションのようだった。
 マヤの膝が沈みこみ、下から上に突き上げるような左のブローが俺の腹筋をえぐり取る。

 いや、腹筋の継ぎ目にある急所を……肝臓の真上をしたたかに撃ち抜かれた。

 ズンッ

「あ……ゥブッ!」
「ふふっ♪」
「ご、おああああああああああああっ!!」

 内臓をかき回されて思わずマウスピースを吐き出しそうになる。
 呼吸が止まり、全身が脱力する。

カーン!

 そこで電子音が鳴り響き、1ラウンド目が終了した。





「はぁはぁはぁはぁ……!」
「少しは休めましたか? ふふふふふ」

 三分間のインターバルはすぐ終わり、無機質な電子音が再び狭いジムに鳴り響いた。

(こいつにボコボコにされたのは事実だ……でも……)

 先ほどより少し熱が冷めた頭で考える。
 なぜこうなったのか。

「ねえ、どうしたの? まだ様子見のままなの?」
「……」

 ガードを固めたままの俺を見てマヤは怪訝な顔をする。

 笑顔を絶やさぬ美形の女と俺は対戦している。
 この女は言った。ボクシングを自分でするのは初めてだと。

 相手の目線は俺とほぼ同じ。しかしリーチが違う。
 少なくとも俺より数センチ相手のほうが長い。

「近づいちゃおうっと」

 何の警戒心も持たずに俺の間合いに足を踏み込んできた。

「チッ!」

 挑発に苛立ちながらジャブを放つ。
 もちろん顔に当てるつもりで、だ。

「きゃっ、こわーい!」

 しかし彼女はそれを見てから回避した。俺の拳が空を切る。
 最小限の動きで、わずかに首をひねっただけで回避されたのだ。

「じゃあこっちからいくね?」

シュッ……

「ッ!」

パンッ!

 風を切る音を感じた瞬間に、俺がガードする腕に衝撃が伝わり炸裂音に変わる。
 まただ。初心者がこれをできるはずがない。

シュシュッ!

「んがっ、うぶううっ!!」

 次の二連打は見切れなかった。
 一発目でガードをつぶされ、二発目はクリーンヒットを許してしまう。

「もっと本気を出してくれていいんですよ?」

パンパンパンパン!!!!

「あがっ、あっ、んうっ、あああ!
「全部当たった♪ これじゃあサンドバッグみたいじゃないですか~」

 小刻みに鋭いジャブで顔面を揺らされる。
 クスクス笑いながらマヤは左だけで俺を追い詰めていた。

パシッ、パパンッ!

「なんでこんなに当たるか不思議ですか~?」
「く、くぉっ、こんなはずは……!」
「あなたの試合は結構見てましたから、対策を立てやすかったんですよ。癖がいっぱいありますから」

スッ……

 不意にマヤが大きく右腕を後ろに引いた。
 まずい、ストレートが来る!

 だがこれはチャンスだ。
 俺は気力を振り絞って左手に力を集中させる。

「くらえっ!!」

 がら空きの綺麗な顔、右頬めがけてパンチを放つ。
 だがその攻撃はあっさりかわされてしまう。

「ああっ!」
「ほらね、たとえばこうすると~」

 左の耳にささやかれる。
 かわされた拳の外側へマヤは体を滑り込ませていた。

ズブッ!

「ングウウウオオオオオオオオオ!!」
「はい、カウンター成立です」

 みぞおちと心臓に杭を突き刺されたような衝撃が全身に染み渡る。
 全体重を乗せた左ボディブローが俺を貫いたのだ。

 マヤはそのまま左手をグイっと前に突き出して、俺の体をコーナーポストにたたきつけた。

「ここからはサンドバッグにしてあげますね~」

パシッ……ドムンッ!!

「が、はっ……」

 女の左アッパーが俺の顎を跳ね上げ、さらにボディを右ストレートが打ちぬいた。
 だが俺の体は崩れ落ちない。

「ふふふふふ、根性ありますねぇ~」

 運悪く両手がロープに絡んでいる!!
 いっそ抜け出してしまえればいいのに、これではダウンできない。

「あ、あ……あ……!」

 ゆっくりと距離を詰めてくるマヤの笑顔に俺は恐怖する。

グニュッ……

「あぐっ」
「気持ちいいのと痛いの、交互にしましょうか」
「え……」

 コーナーポストにくぎ付けになった獲物が崩れ落ちないように、マヤは片方の膝を俺の股間に差し込んできたのだ。
 そしてわずかに突き上げるように振動させながら、俺の体を浮かび上がらせる。

トントントントン♪

「うあっ、あああぁ……」

 睾丸が刺激され、ペニスが硬くなる。

「こっちを見てください」

 真っ赤なグローブをまとった彼女の両手が俺の顔をグイっと自分のほうへと向けた。
 その笑顔は相変わらず魅力的で、俺は思わず見とれてしまう。

 コーナーで両腕を動けなくされたまま、女性らしさのある太ももに性的に刺激されては堪えようがない。
 膝の先だけでクニクニとペニスを弄びながら彼女が言う。

「負けるはずないと思ってた女の子に負けてしまう気分はどうですか?」
「く、くそおおぉぉ……」

 悔しげに歪む俺の顔を眺めながら満足そうにマヤが続ける。

「本当にボクシングは初めてなんです。普段は私、キックボクシングですから」
「なっ」
「言い忘れましたけど、世界ランキングに入ってるんですよ? ふふふふ」

 それでこんな、片足立ちでも安定して男を責められるのか……愕然としつつも俺は納得してしまった。
 マヤは両手を俺の肩まで下ろして、グローブ越しにギュッギュッと二の腕や背中の筋肉をマッサージしてくる。

「こんなのだから駄目なんですよ~」

 抱き着かれたままささやかれてドキドキしてしまう。
 屈辱的なことを言われているというのに!

「だ、だめって……」
「筋肉はあっても引き締まってない、ふわふわしてるから弱いんです」

 鎖骨や脇腹、大胸筋なども撫でまわしてから彼女は俺を解放した。
 鍛え上げた筋肉にダメ出しをされたというのに、なぜか俺は興奮してしまう。

 マヤはじっと俺を見つめてから、顔を寄せてきた。
 息がかかる距離で、低い声を出して俺に告げる。

「だから女の子にも負けちゃうんですよ」
「ひっ……!」

 さらに近づいてきた彼女がニヤリと笑いながら舌先をペトリと俺の首筋につけてきた!

レロォ……ッ……

 媚薬まみれのピンクのナメクジが俺の首筋から毒液を注入してきた。
 この瞬間、俺は彼女に支配された。

 そういって差し支えないほど甘く、危険な舌づかいだった。

「はひゃあああああっ、で、でるううううう!」

ビクッ、ビクッ!!

 頸動脈の上を舐められた俺は、ドライで絶頂してしまう。

「ふふふ、気持ちよかったですかぁ?」

 気持ちいい、あんまりだ……

 直接ペニスをしごかれたわけではなかったので、中途半端にイかされた。
 余韻が全身を駆け巡り、もやもやした気持ちだけが膨らんでいく。

「なんでこんな真似を……」
「でも、いつもまじめな試合ばかりじゃつまらなく感じてて……たまにいたずらしたくなったんです」

 無邪気に彼女は言うが、これは性的な略奪だ。
 こんなことをされた男は生半可な刺激では満足できなくなってしまうだろう。

 マヤの香り、美しい体と顔、そして甘すぎる愛撫……すべてが凶悪すぎる。

「じゃ、じゃあなぜ、俺を狙ったんだ……」
「適当な弱さの男子をボコボコにするの楽しいです♪」

 彼女の言葉、適当な弱さというところが屈辱的だった。
 俺は強くないのだと再認識させられてしまう。

(そうだ、こんなあっさりと女に負けてしまう俺なんて……強いはずがないんだ……)

 どんどん胸の中に弱気が広がってくる。
 もう一度戦っても、勝てる気がしないのだ。

 落胆する俺に向かって彼女は優しく言った。

「それと、エッチなことも好きなんで」
「え……」

 相変わらず全身が脱力したままなのに、彼女の顔がゆっくり近づいてくる。
 逃げられない、ドキドキだけが膨らみ続ける!

レロォ……プチュ……!

 そしてすぐに呼吸が奪われ、た……ピチャピチャと口の中を侵略され、蹂躙されてしまう。

(んはああああああ!!)

 全身がびくびく震えながら訴えかけてくる。
 この気持ち良さには抗えない、早く射精したい……と。

(い、いくっイく! さわられてないのに、イくううううううううううううう!!!!)

 しかし彼女は、見えない角度からペニスに刺激を与えてきた。

ぴしっ!

「あがっ!!」

ビュルルルルルル----------ッ!!

 おそらく亀頭の先を軽く弾かれたのだ。
 それだけで十分だった。

 脱力した俺の体に彼女がクリンチしてくる。

「まだまだよ?」
「うあ、ああぁぁ……」
「おちんちん、何度でも立たせてあげますから。お耳にも……ふううぅぅ~~~~」

ビクンビクンッ!

 唇や耳たぶにキスを重ねながら彼女はささやく。
 その行為にまたドライでイかされてしまう。

「はい、また絶頂」
「やだ、こんなのやだ……ぁ……」
「最後には完全にノックアウトしちゃうんですけど♪」

 コーナーポストにくぎ付けにされたまま、俺は何度も射精した。
 気持ちいいのが止まらない。気絶しそうになると軽いジャブで脳を揺らされ、無理やり起こされる。

 そしてペニスは固さを保ったまま、何度も彼女に精をささげてしまう。

 無機質なタイマーが6ラウンド目を告げるころには、すっかり彼女に骨抜きにされてしまうのだった。





(了)










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