『サマータイムラブ』
遠くから見てもわかる。
ナンパしようとした男性が彼女の表情や雰囲気から何かを感じ取り、危険物を避けるようにして迂回していく。
その危険物が僕の姿を補足して、キッと睨みつけてきた。正直怖い。
「おっそーい! どんだけ待たせるのよっ!」
「ご、ごめん……って、あれ……まだ待ち合わせの時間前じゃ?」
「うっさい、言い訳すんな! アンタ、一時間遅刻よ!!」
時計の針はまだ四時。
だけど彼女は一時間の遅刻だと言ってブチギレてる。
僕の聴き間違えだったのか。
そんなはずないとおもうんだけどなぁ……
しかしどんなに理不尽でも、こうなると彼女を止めることは出来ない。
少なくとも僕には無理だ。
そんなわけですぐに僕は観念した。
彼女の名前は渡来夢香(わたらい ゆめか)という。
同じ会社の同期だ。
入社当初からきれいな人だとは思っていたけど……
「遅刻の罰として、今日は好きにさせてもらうからね!」
「う、うん……わかってるってば」
「よろしい!」
そう言ってから少し得意げに鼻を鳴らすと、彼女自慢の栗色の毛先がピンと跳ねたように感じた。
休日ということもあってコンタクトレンズにポニーテール、オフショルダーのワンピース姿の彼女がようやく小さく笑ってみせた。
(笑うと可愛いんだけどなぁ……まあ、今日も絶好調ってことか)
なんとなく付き合い始めて三年目。
最初はこんな気が強そうな人と付き合うなんて無理だと思ってた。
でも時々可愛い仕草や表情を見せられると憎めなくなるし、何より僕を引っ張っていく頼もしさがある。
時々怒られることもあるけど後で必ずフォローが入るし、思ったより相性がいいのかもしれない。
「じゃあいくわよ!」
夢香が僕の手首をガシッと掴む。
そして予め決めていたのであろう場所へ僕は引きずられていった。
「好きにさせてもらうってこういうことだったんだね」
「……なんか悪い?」
たどり着いた先は映画館だった。
すでにポップコーンと飲み物を抱えて僕らは並んで座っている。
しかも彼女が好きなアクション映画ではなく、恋愛モノだった。
ちょっと意外な選択だったけど結構楽しめた。
「いい話だったね」
「う、ううっ、こういうのずるい、あたし好き!」
「うわすごいことになってる……ほら、拭きなよ」
「ありがと、ひぐっ、あうううう、ズビー」
それから彼女はお腹が空いたといい出した。
話題になっているスイーツ店に連れて行かれて、激盛りのパフェを奢らされた。
泣き顔を見られたから責任を取れという。
別に大した金額じゃないからいいんだけど、これ食べきれるの?
「食べきれなかったらアンタが食べればいいじゃない」
「いや無理だよこれは」
目の前のバケツみたいな入れ物を見てため息をつく。
彼女はそんな僕を見つめて楽しそうにしていた。
その店を出たあと、二人で並んでにぎやかな通りを抜けて歩いていく。
夜が始まったばかりの時間帯だ。
ようやく遠くに駅が見えてきた。
「明日から仕事だから、じゃあ僕はこのへんで」
「待ちなさい」
彼女に手を振ろうとした時、さっきと同じように強く手首を掴まれる。
がっちり関節まで決められてるから、このまま投げられたらかなり痛いんだろうなーなんて考えていると、彼女はじっと僕を見つめてきた。
「……女に恥をかかせる気?」
いつになく真面目な口調だ。
「おっしゃる意味が今ひとつ理解できないといいますか……」
「あたしは女じゃないっていいたいの!?」
「そうじゃなくって」
「じゃあ何!?」
なんか責められてる!?
そう思いながらも僕はなんとなく状況を把握した。
暗がりだからわかりにくいけど、彼女の顔が赤い。
耳が特に赤い。
そしてここはいわゆるラブホだらけの通り。
休憩三時間で5000~9800円の世界。
「まだわかんないの?」
「うん」
「じゃあ、この建物の中で教えてあげる……」
後半、少しだけ照れたせいなのか彼女の声が小さく感じた。
エレベーターで三階まで登り、選んだ部屋のドアを開ける。
清潔感のあるダブルベッドが僕たちを待ち構えていた。
毎度のことながら部屋の中をキョロキョロと見回していると、いきなり彼女に押し倒された。
驚く声を上げるまもなく口づけされて頭の中が混乱する。
「くすっ……隙だらけじゃない?」
気が動転した僕を見つめながら彼女が笑う。
男としてちょっと悔しい気もするけど、こういった強気の彼女が僕は好きだ。
「ゆ、ゆめ……んああああっ! くぅ、ちょっ、いつもより激しくない?」
「そんなことないもん」
名前を呼ぼうとすればさらにキスされ、解放と同時に乳首をきゅっとつままれる。
同時に服を脱がされ、自分も髪を解く彼女。
ポニーテールが解けて、ふわっとした彼女の香りが周囲に立ち込める。
「いや、明らかに激しす……ぎひいいいっ!」
シュッシュッシュッシュ……
夢香はこちらを見つめたままで、手首を利かせてペニスをゆっくりしごき始めた。
(この手付き、ずるい……僕が好きな角度で、こんなのって! うあああっ)
散々研究しつくされているので僕は抵抗できない。
あっという間に下半身が快感で痺れきってしまうのだ。
「おちんちんこんなに大きくして、あたしを拒否ろうとしてんの?」
「ちがうけど、に、肉食獣じゃあるまいし……わわっ!!」
さらに数回しごかれて、すっかりペニスは天を仰いでしまった。
自慢の手技で僕は追い詰めた彼女が満足げに笑う。
その表情もさることながら、露出した彼女の美肌に僕は魅了されてしまう。
(きれいだ……夢香……)
真っ白な肌がほんのり赤みを帯びて、冷房の効いた部屋の中でも興奮していることがわかる。
時々不思議に思う。
こんなきれいな人がなぜ僕と付き合っているのか。
「ねえ、なんで僕を……あうううううっ!!」
尋ね終わる前に再び手コキ。
しかも射精に直結するようなエロい指使いだったので、おかげで少しだけ漏らしてしまった……」
「あのねえ、アタシがいつもどれだけ我慢してるかわからないの?」
「え」
「明日になれば会社が始まっちゃうでしょう。そうするとまたストレスな毎日なわけ」
何を言っているのか本当にわからないけど彼女は真面目な口調で続ける。
「しかも始業時刻が秋まで長いっていうか……夏休みだって一時間短いんだよね、ウチの会社」
「サマータイムってそういうものでは」
「おだまりなさい」
ピシッ
「うああっ!」
指先で軽く亀頭を弾かれて僕の背筋が伸びる。
「とにかく、時間が惜しいの。やるわよ」
そう告げた彼女は髪をかきあげてからクルリと背を向けた。
そしていきり立ったままのペニスに手を添えて、僕に背中を見せたままゆっくりと膣口にあてがう。
クプ……
「ああああああっ!」
「まだよ。少し触れただけじゃないの♪」
ニュチュ、クニュッ!
「ひっ、あ、ああああ! 入るううううぅぅ!!」
「ダメ~。まだ入れてあげない」
僕を焦らすように彼女はグラインドを繰り返す。
後ろで悶える僕を横目で見ながら、ゆっくりと前後に腰をずらし、粘液を肉棒になじませていく。
「挿入したら三回は覚悟してよね」
「あっ、あの! 僕にも体力的な都合というものがありまして」
自分でも場違いな言葉だとわかりつつ保身に走ると、彼女の目つきが険しくなった。
「明日のことなんて考えなきゃいいじゃない!」
ズチュウウウウウウウウウウ!!
「んはああああああああっ!!」
ビュクビュクビュクッ!!
そして答える代わりに一気に奥まで挿入されてしまい、思わずイってしまった。
(こ、これっ、きもちいいいいいーーーーーーっ!!)
全身にほとばしる快感で僕は動けない。
相手もすっかり準備万端だったようで、膣内が優しく僕を迎え入れてくれた。
その感触は非常に繊細で、肉棒に絡みついてそのまま何度もキスをまぶされた。
少々乱暴な口調の彼女とは対照的で僕を甘く喜ばせる。
ヌチュ、ヌチュッ、ヌチッ!
射精したというのに彼女は変わらず腰を振ってくる。
それがまた、困ったことに心地よくてますます身動きできなくなる……
「悪いけど、連続でイかせるわ」
「えっ」
そして今度は腰を捻りながら、後ろ手で乳首をクリクリといじり始める。
手足の長い彼女だからできる芸当であり、僕は一方的に責めなぶられてしまう。
「これ我慢できない……あ、あっ、やばい!」
「じゃあ小さくしてみれば?」
「そ、それも無理っ、ああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」
ビュルルルルルルルル!!!!
全身が脱力すると同時に広がる幸福感に僕は声も出せずに震えた。
「はい、二発目~~♪」
にっこり微笑む彼女を見ているだけでペニスが萎えることを忘れてしまう。
敏感さを増した肉棒を慈しむように、彼女はゆっくりと上下に腰を動かしてきた。
今度の刺激は優しい分だけ拒絶することも出来ず、僕はうっとりと彼女の美しい体を見つめていることしか出来なかい。
「明日遅刻したら、許さないからね」
「そんな……」
「一時間長く会えるんだよ? 夏の間だけ、あたしと毎日」
不意に彼女は正面を向いて、体を倒してきた。
僕と向かい合いそっと口づけを重ねてくる。
(かわいい……)
このキスは反則だろう。
急に恋人感を出してくるなんて。
でも拒めない、彼女の呼吸も心音も、香りも全部好きだから。
全身は脱力しているというのに、この甘いキスのおかげでペニスだけは最初と変わらず硬さを保っていた。
それを確かめるように、密着したまま彼女は腰を上下に打ち付けてきた。
パンパンパンパンッ!
「うあっ、あっ、これ、いいいいいい!」
「ほら、イっちゃえ♪」
パンパンパンパン♪
小気味よくリズムを刻まれ、愛の言葉を囁かれたらどうしようもなかった。
そして……、
クイッ♪
「あっ」
彼女が腟内を締め上げ、軽く腰を捻ってみせた。
出る、また出る……上がってくるううううう!
「んあっ、ああああっ、いい、いっ、イくうううううううう!!!!」
ビュッ、ク……
量は大したことなかったけど、僕は三度目の精を放った。
呼吸を激しく乱す僕を、彼女がじっと見つめている。
腰の動きは今のところ止まっている。
「お、おわった……!」
「ううん、まだだよ?」
「え」
ニヤッと笑ってから彼女が自分の腕時計を僕に見せつける。
頭がうまく働かないけど、入室時刻より前のような気が……
「この時計の針、おかしくない!?」
「おかしくないよ。だって、まだサマータイムだもん♪」
そういいながら彼女がチロッと舌を出す。
サマータイムって、そうか……今夜のエッチは、一時間だけ長いんだ。
今日は彼女にとっての夏の終り、最後の週末。
その大切な節目に僕にいたずらすることを決めたのか。
「もしかして始めからこのつもりで……」
僕の質問には答えず、黙って微笑んだままの彼女。
その嬉しそうな表情を見た僕は、この日二度目の観念をするのだった。
(了)