『二ヶ月前に入部してきた後輩に格闘技で負かされてしまう先輩男子の話』
これは年が明ける前に部活納めをした時の話。
学園にある二階建ての体育館の一階部分にある武道場での出来事だった。
ガシィッ!!
「ぐっ、が……ぁ……」
「ふふふ、やったぁ♪」
後輩女子が放った右ハイキックが僕の側頭部にヒットした。
視界が一瞬だけグニャリと歪み、痛みがスローモーションで襲いかかってくる。
僕の足が畳を踏ん張る力が急速に消え失せていく。
右膝に力が入らない。
このまま自分が崩れ落ちていくんだろうなという予感がする。
「あれあれ~、もう終わりですかセンパイ?」
「く、くそっ……」
「私に倒されたくないんですね。踏ん張ろうとしてる……でも」
ビシィッ!
「がああああああああっ!」
「待ってあげませんから」
ドサリ……
軸足にローキックを受けて、僕は倒れ込む。
彼女にしてみればほんの軽く落としただけのキックだが耐えきれない。
「これで私の一本勝ち……えっと、7勝目ですねセンパイ!」
倒れたまま動けない僕を見下ろしながら、後輩である涼見芳香(すずみ よしか)がその場でピョンと飛び跳ねた。
見た目は全然強そうに見えない普通の女子。
むしろ可愛らしい容姿で、汗臭い格闘技が似合わない雰囲気すらある。
身長だって僕より数センチ低くて、格闘技は未経験。
そんな後輩が入部して二ヶ月と経っていないのに、あっさり追い抜かれてしまった。
決して彼女が格闘センスに優れているというわけではなくて、僕が単純に弱いというだけの話なのだろう。
「センパイもしかして手加減してくれたんですか?」
「そんなわけ、ないだろ……」
「あはっ、知ってましたぁ♪」
笑いながら容赦なく僕の心を傷つけてくる後輩。
睨み返すことしか今の僕にはできない。
視線に気づいた涼見芳香の口元がニマッと開いた。
「セーンパイ♪ 悔しいですか? 情けないですか?」
「……ッ!」
情けないし悔しい。そんなの決まってる。
もはや今日から先輩としての威厳なんて保つことができない。
唯一の救いは彼女と僕しかこの場にいないということなのだが……
「いいわすれてましたけどぉ、はいこれ!」
「なっ」
そのたった一つの希望ですら、この後輩は握りつぶしにかかってきた。
「見てください。こっそり撮影していたんですよぉ? 後でじっくりセンパイの技を分析するために。でも必要なくなっちゃいましたね」
「け、消してくれ!」
「別にいいですけど。撮影と同時にクラウドに保存してますからここで消しても無意味ですね」
「なんで、そんな……」
「決まってるじゃないですかー。後で部活のみんなに自慢しようと思って♪」
まだズキズキ痛み続けている頭をなでながら僕は考える。
このまま後輩の好きにさせるか、なんとか思いとどまるようにお願いしてみるか。
「た、たのむ、それだけはやめてくれないか……」
僕は後者を選択した。穏やかな気持ちで新年を迎えたかったから。
しかし――、
「うふふふ、ちゃんと土下座してください」
「くっ……」
言われたとおりにやるしかない。屈辱的だ。今すぐ消えたい。
だがそんな気持ちが自然とにじみ出ていたのか、後輩がため息混じりに言った。
「下手くそですね、センパイ。全然気持ちがこもってないじゃないですか」
グニッ!
「土下座が浅いですよッ」
「……!?」
後頭部が不意に押しこまれる。
まさか僕の頭をこいつ、足で……ッ!!
「しっかりおでこを床につけないと」
(くそっ、いいかげんに! う、ううううううううう!!)
だが跳ね除けられない。
体力を消耗しすぎて後輩の足を弾くことができなかった。
しばらくそんな状態が続いてから、頭を押さえていた重みが消えた。
土下座をやめて顔を上げる。
すると目の前には微笑む後輩の顔があった。
「仕方ないなぁ、じゃあもうひと勝負しませんか」
「ま、またやるのか……」
「いえいえ、格闘技じゃもうセンパイに負ける気がしませんから他の勝負で」
「他って言うと」
「バトルファックしましょ、センパイ♪」
「!?」
後輩からの提案は僕の予想外のものだった。
セックスで勝負? 馬鹿げてる。
ここは学園で、部活の場所で、そして何より……
「センパイもしかして童貞クンですかぁ?」
「……」
「言い返さないってことはそうなんですね。
じゃあこれも勝負にならないかなぁ」
「ふざ、けるな……」
「あれっ、童貞クンじゃないんですか?
それなら少しは我慢できるかも知れませんね」
後輩は生意気そうな表情でそう言い放ったけど、じつは図星だった。
僕は女性との性交経験がない。
せいぜいネットで拾った美少女の画像を見て自分を慰める程度だった。
「見るからに童貞っぽいからラッキーだなーって思っていたんですけどね」
「うるさいっ」
「おおー、こわいこわい♪」
「……」
それ以上何も言い返せないのが自分でも悔しい。
よく見ればこの後輩はとても可愛らしい顔をしているし、スタイルだって悪くない。
きっと男子からもモテるんだろうな……と容易に推測できる。
でも逆に、なぜそんな彼女が僕に向かってこんな提案をしてくるのか理解できない。
「じゃあ勝負の形式ですけど、我慢比べと本番勝負のどちらがいいですか」
「形式って……え、えっと……」
「我慢比べにしましょうか。十分間だけ気持ちいいのを我慢できたらセンパイの勝ちでいいですよ」
どうやら僕に拒否権はなさそうだ。
童貞の自分が後輩とは言え、おそらく性交経験者である彼女にセックスで勝てる気がしない。
これから起きる屈辱に耐えきる選択肢しか僕には残されていない。
「耐えきってやる……」
「さすがセンパイ、そうこなくっちゃ♪」
そう、たった十分。
人生の中で、今年最後の屈辱としての十分だ。
年が明ければ簡単に忘れることができるだろう。
その時の僕は本気でそう思っていた。
「じゃあ始めましょうか。その前に」
ふるんっ
「な、なっ!」
「少しくらいムードを出してあげますよ」
「それ以上は脱ぐなよ!」
「もちろんですよ。センパイなんてスポブラとスパッツ姿で十分です」
「お、お前の体なんかで、僕は……」
「えー、けっこう興奮しませんか?」
そういいながら目の前で胸を抱えるようにしてポーズを決める。
目の前で揺れるそれは予想以上に大きくて柔らかそうだった。
見つめる視線がそらせない。
これはまだ素肌ではないというのに。
スポーツブラというのは凶悪だ。
女性の肌を、曲線を実物以上にきれいに魅せてくれる。
「ふっふーん、しっかり見とれてるじゃないですか」
「そんなことは!」
「ん~? そんなことは?」
決して見とれてなんていない、と言い返せなかった。
実際に彼女の体はとても美しいラインで、つい先程まで感じられなかった色香が僕を悩ませる。
「意地悪しちゃいましたね。ごめんなさい」
「え……」
「これから肌を合わせるんだから、センパイに優しくしてあげます」
ふにゅううぅぅ……
「あ、あっ!」
「抱きしめてもいいですか? センパイ……」
軽くギュッと抱きしめられると緊張の糸が緩んだ。
警戒心が心の奥へ溶けていく。
女の子の髪って、こんなにいい匂いがするんだ……
「うっとりしてる。かわいい♪」
「そ、そんな、ぼく、は……」
「童貞クンじゃないんですよね? じゃあほら、ふううぅ~~~~」
ゾクゾクゾクゾクッ!
「んはああああああああああっ!!」
「お耳、弱いんですね。責めやすいところを一つ発見しちゃった」
抱擁をやめて後輩は正面から僕の目を覗き込む。
ほんの少しだけ目線が高い。
「いい? もっと弱いところを私に教えて」
「う、うううっ!」
「センパイ、もっと可愛くしてあげますからね」
「うあっ!」
「さあ、横になりましょう?」
まるで主従関係を刷り込むように彼女は言う。
後輩に軽く肩をこづかれてそのままゆっくり大の字に転がってしまった。
「女の子に見下されてるのって悔しいですか?」
「あ、あたりまえだ!」
「そーなんだ? じゃあもっと悔しくなっちゃうかも知れませんねぇ」
彼女の顔の脇に見える時計を見るとまだ一分も経っていない。
それなのに僕はすでに何度も負けた自分を感じている。
格闘技で負けて、抱きしめられて心がほどかれて、後輩に弱みを握られたことが悔しいはずなのに何故かドキドキしてしまって……
「センパイって素直じゃないですよね」
「何を急に……」
「こんなにお顔を真っ赤にしてるのに強がるなんて」
「別に強がってなんか……」
「悔しくて恥ずかしい。違いますか?」
じっと見つめてくる大きな瞳。
流石に僕は小さく呻く。
「ちゃんと言えましたね。ご褒美です」
すると彼女の顔が近づいてきて、軽く額にキスをしてきた。
さらに両手を開いて僕に見せつけながら指先を動かし始める。
「私の手のひらで調べてあげますね」
スッ……
細い指先が同時に左右の乳首に振れた瞬間、僕は小さく喘いだ。
弱い電流を流されたみたいに体も跳ね上がる。
(きもちいい、こんなのっ、きもちいいはずが、ないのに……!)
怒りとか情けなさがかき消されて、ひたすら恥ずかしい。
それ以上に、一方的に裸にさせられた状態で女の子に体を触られることがこんなに気持ちいいなんて、認めたくなかった。
「セーンパイ、女の子みたいです」
「うあ、あ、え、ええ?」
「かわいいです♪」
「や、やめ……」
「また赤くなった。かわいいかわいいかわいいかわいい……」
「ああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」
ギュッと抱きつかれるようにしながら僕は叫ぶ。叫ぶしかなかった。
声を出していないと気が狂ってしまいそうなほど気持ちよかったから。
「好きですよセンパイ。すきすきすきすき……」
「や、やめっ、ほんとに、だめっ、だ……」
「この手のひらのも好きになってくださいね」
妖しく囁かれるとまた心が緩む。
悔しさを覚えていたはずなのに他の気持ちにすり替えられてしまう。
しかも肌の感触が直接伝わってきて、彼女との距離もどんどん近くなって。
「ピアノを弾くみたいに体中を触ってあげますから」
指先だけの接触だけで、僕は射精しかけてしまう。
ビクビクと震えだす体はすぐに彼女に抱きしめられ、ますます密着度が高まる。
「脇腹もこちょこちょしてあげますね」
「んひゃっ、あ、あああ!」
「くすぐったいって言い訳できるの便利ですよね? 本当は気持ちいいのに」
クニュクニュクニュクニュ♪
「ふああああああああああっ!!」
「あはっ、ここがそんなに気持ちいいでちゅか~?」
年下扱いされて頭の中がカーっと熱くなる。
だがそれだけだった。
「ほ~ら、いいこいいこ……センパイの体はもう私の虜です~」
「あ、あああぁ……」
「もっと沈んで、溺れて、私のものになっちゃいましょうね」
その後、すべすべの手で全身を撫でられ、時々耳元で甘い言葉を流し込まれると抵抗する気持ちが起きてこなくなった。
次に彼女が何をしてくれるのかを待ちわびてる自分に気づく。
これじゃまるで本当に……!
「すっかり素直になったね」
「んっ、あぁ……」
「奴隷クン♪」
耳に流し込まれたその一言が脳内へ溶け込んでいく。
歪んだ主従関係みたいだ、と思っていても体が奮起してくれない。
後輩の奏でる甘い快楽の調べに包まれているうちに何もできなくされてしまう。
確実に恐怖心を感じているのに逃れられない。
「ずっと狙っていたんですよ、センパイ」
「え……」
「この期間、自主練しかありませんからね。他の誰にも私がセンパイより強いってことを知られなくてすみますし」
まさか始めからそのつもりで?
そんなはずはない、格闘技は未経験だと言っていたし――、
「はじめにここでセンパイを見かけた時、あっこの人弱いなーって感じたんです」
「っ!!」
「ふふっ、悔しいですか? 睨まれても怖くないですよ。
だってはじめから私のほうが強かったんですから」
「き、キミは……」
「全国格闘技大会45キロ以下中学生の部優勝って表彰状が私の部屋にありますよ」
「どうして……」
「不思議ですよね。私、自分より弱い男の子をなぶるのが趣味なんです。
しかも年上のサンドバッグ奴隷クンが欲しかったから……センパイを自分のものにしようと思っていたんですよ」
僕は何も考えられなくなった。
信じられない。彼女はずっと僕を見ていたんだ。
そして年末で誰もいなくなるこのタイミングで僕を誘い出し、自分の計画通りに勝利を収めた。
「でも何人か壊して気づいたんですけど、痛いだけじゃだめなんですよね」
いつの間にか勃起させられてしまったペニスへ、そっと手が置かれた途端に僕は喘いでしまう。
(きもち、いい……なんで、さっきよりも彼女の手が優しく感じるんだろう……)
戸惑う僕を見つめながら後輩が笑っている。
それは今まで蓄積された甘い刺激をさらに倍増させるためのトリガー。
整った顔立ちの年下の美少女に見つめられながらの手コキに抗うことはできない。
むき出しになったペニスをいたわるように指先が絡み、我慢汁を搾り取っていく。
裏筋をカリカリと引っかかれるたびに背筋が震えた。
(そ、それえっ! あ、き、気持ちいい……もう彼女に勝てない、勝てなくされちゃう……こんな、きもちいい手コキを続けられたらおかしくなる……)
不意に彼女の手がリズミカルに動き出す。
指先を折り曲げて亀頭をつまんでクルクルと回してくる。
「優しく優しく、気持ちいいのを織り交ぜて……」
上ずった声を出し始めた僕を抱きしめ、自分の胸へといざなう。
押し付けられた彼女の胸はスポーツブラの感触と相まって最高だった。
恍惚となっている間もずっと彼女はペニスを掴み、先端を包み込むように指先を全てかぶせてきた。
猫の手のような形で包み込まれたペニスを弄ぶように、手のひらを回転させて僕を喜ばせにかかってくる!
「うぐっ、ううううう!!」
抱きしめられ、刺激され、囁かれ、ねぶられる。
快感のループと呼ぶには激しすぎる甘美な刺激が数分間繰り返されたあとで、僕はすっかり抵抗する気力をそがれていた。
「ゆっくり壊していってから、もう一度固めてあげるとぉ……」
「あ、あああっ、ああ……」
「私の指マンコにセンパイをご招待しちゃいますね」
ヌチュウウウウウッ……
ねっとりとした感触の指先が再びペニス全体を包み込んだ。
気持ちいい、また僕は溶ける……溶かされちゃう!
ああ、これが女の子の膣内の感触……なのかな……
冷静な思考が彼女の手のひらの中でドロドロにすり潰されていく。
快感の旋律が絶え間なく僕を狂わせる。
クチュクチュと音を立てて踊るように動く指先が、一秒ごとに僕に新たな性癖を植え付けていくようだった。
年下の女の子、それも自分よりずっと強い女の子……
格闘でもセックスでも勝てそうにない……
でも僕を気持ちよくしてくれる大切な存在……
自分では到底生み出せない手コキによる快感は、僕の心に後輩への絶対服従というくさびを打ち込んだ。
「そろそろ仕上げかな、センパイ……」
「うあっ、あああ、イくっ、イくうううう!」
「いいよ、いっぱい出しちゃえ♪」
のけぞる僕を抱きしめながら、彼女の手首がクイッと翻った瞬間――、
ビュクウウッ、ビュクンビュクンッ!!
抱きしめられたまま手のひらの中へ大量の精液を吐き出してしまった。
一度、二度、三度……連続で大量の精を捧げながら僕の中で彼女という存在が変わっていくみたいだった。
「どうだった? 気持ちよかった? センパイ
「すき、これ、すきぃ……」
もうそれしか頭に浮かんでこない。
この日、僕は人生で初めて快楽によって壊された。
うわ言のように同じ言葉を繰り返す様子を眺めながら、後輩の目が嬉しそうに細くなっていく。
「うふふふふ……はい、できあがり。年上の奴隷クン♪」
そんな屈辱的な言葉を至近距離で聞かされても、僕にはもうどうすることもできなかった。
これほどまでに甘いご褒美付きの契約なんて断れるはずがない。
「もういちどピュッピュしよ? ね?」
「い、いや、だめだから、あ、あっ、ああああ!!」
「ほ~ら、ぴゅっぴゅっぴゅ♪ ぴゅっぴゅっぴゅ♪」
無防備な下半身にやってくる津波のような快感。
言葉に導かれるように、勝手に射精感がこみ上げてくる。
微笑む彼女のきれいな顔を見ながら、僕はあっけなく二度目の精を柔らかな手のひらに捧げてしまうのだった。
(後編に続く)