『みかんさんは我慢できない』





 午後九時を回ったところで彼女は立ち上がった。

「おちんちん!」
「……」

 俺が借りているワンルームマンションは防音設備は悪くないほうだけど、こんなに元気よく卑猥な単語を叫ばれても困るわけで。

「さあ恵介クンも言って! おちんちん!」
「いやです!!!」

 俺の回答にムッとする彼女。

 ああ……その表情を見ればわかる。ずっと性欲を我慢していたのだろう。
 グリグリした大きな目の中に、欲望で燃え盛る炎がスポコン漫画みたいに揺らめいている。

 彼女は中野美柑(なかのみかん)さん。
 俺と同じ会社で働いている事務員なのだが、有能な彼女がこんなに性欲旺盛だとは会社の誰も想像できまい。

「恵介クン、言ったよね? 私の願いを叶えてあげるって」
「言いましたけど、意味が違います!」
「言い訳すんな~~! 早くおちんちんみせろ」

 会社では物静かでおとなしい事務員が目の前でジタバタしてる。
 交際開始一ヶ月も経たないうちに、プライベートでしか見せない彼女の秘密を俺は知ってしまったのだ。

「うりうりうり♪」
「おっぱいおしつけてくるのは卑怯です!」
「おちんちんぶらさげてるのだってズルイもん!」

 付き合い始めてわかったことだが、美柑さんはとても育ちの良い女性だった。
 上の会話を見る限り信じてもらえないだろうけど。

 付き合う前も今も、仕事についてはどんなことでも真面目で、わからないことがあっても調べ上げて補う努力家で、社員同士の付き合いもうまくこなして愛想も良い。

 将来自分がお嫁さんにするならこんな人がいいんだろうなと思いつつ、失礼がないように話しかけてみると、意外にも彼女は男性に対してウブな人だった。

 不思議に思った俺が質問してみると、今まで誰かと交際したことはない……と素直に答えてくれた。

 もしかして男性恐怖症なのかと思うほど照れ屋さんで、こちらから話しかけても最初はなかなか声を出して答えてくれなかった。
 でも黙って何度もコクコクと頷く姿が可愛らしくて、俺はだんだん彼女にのめり込んでいった。
 一言で言うなら自分の周りにはいないタイプの女性だった。
 それに結構ビジュアルも好みだ。いつもは一つに束ねている黒髪はツヤツヤしていて綺麗だし、肌も真っ白な陶器みたいだ。顔立ちだって悪くない。
 身長はそれほど高くないけど、スラリとした美人OLさんという印象は誰にでも与えられるだろう。
 そして本人は無自覚だけど、メガネを外すとぐっと可愛くなるタイプ。
 まあ、眼鏡の着脱に関しては賛否両論あると思うが、俺の中ではそういう事になっている。

 そんな、控えめでおとなしいはずの彼女に、俺は圧倒されているわけだが。

「あの、美柑さん……」
「おちんちんの時間だよッ! 大事なことだからもう一度言っとく?」

 ソファに座っている俺の目の前に立ち、フンスと鼻を鳴らしながら美柑さんは両手を腰に当てて見下ろしてる。

 やがて上半身を俺の方へと倒し、おでことおでこをくっつけてぐりぐりし始めた。

「じゃあこれならどーだ!」
「どうだと言われましても……」

 これが彼女流・求愛の仕草らしい。

「それに昨日もやりましたよ!?
 ちょっとこちらの体をいたわるとかそういう」
「イヤ! 定時になったら私におちんちんください!」
「もう本日は終業です」
「ちがうよ、始業だよ! 恵介クン、あきらめなさい」

 ペットの餌みたいな扱いじゃないか? これ……

ぽふっ……

 そして諦めて押し倒された俺はいつものように辱めを受けることになる。

「んふふふ、今日も恵介クンは私に気持ちよくされちゃえばいいのです!」
「くうっ、ほん、本気ですか」
「その答えを今からおちんちんに聞いてみるね」

 正直、最初は嫌だった。
 自分よりも細くてちっちゃい女性に押し倒されるとか恥ずかしいし、なんとなく屈辱的だ。
 でも何度も身を任せているうちに、俺の意識が少しずつ変化していった。

「あっ!」

 気づけば彼女の指が俺のトランクスを引っ張っていた。

ズルッ

「うううう、はずかしい!」
「はずかしくないよ! 今日もかっこいいよ、おちんちん!」

 おもちゃを与えられた子供みたいに目を輝かせ、彼女がペニスをやわやわと揉みはじめる。

(ううううっ、き、きもちいいけど、調子づかせちゃうようなことは言えないし!)

 以前それでひどい目にあったことがあるのだ。
 気持ちいいの一言を口からこぼしたおかげで、朝までたっぷり搾り尽くされた。

 手コキで5回、口で2回、そしてアソコで4回……
 決して俺が絶倫というわけではなく、彼女のテクニックがすごすぎるのだ。

 言い換えるならペニスへの愛。
 自分には付いていない男性固有の器官に対するフェチズムのなせる技。

 俺のペニスはすでに小さな手のひらに包まれ、細い指先がクリクリと亀頭を弄ぶ様子を見せつけられる。

「えへへへ、結婚って幸せ……毎日好きなだけおちんちんを触れるんだもん」
「まだしてませんけど!?」
「しようよ結婚! おちんちん!」
「!? 俺と結婚じゃないんですか!!」
「同じことだよっ」

 彼女にとっておちんちん=俺というわけだ。
 そしてその興味や愛情は今夜も一点に注がれている。

 いつの間には取り出した小さなボトルの中から彼女はとろりとした液体を手のひらに落とし、指になじませる。

 ヌチュヌチュヌチュヌチュ……ローション特有の淫らな音。

 やばい、これだけで興奮してきちまう……

「うぁ、さ、触っちゃダメとは言わないけど、もう少し落ち着いてもらいたいんですが」

 彼女の指先に見とれながら俺が言うと、すっかりヌルヌルになった指先が突然俺を握りしめてきた!

ヌリュンッ!

「ひぎいいいいいっ!?」
「……嘘つき」

 カリ首に巻き付いた指がそのまま半分ひねりを加えながら、根本と睾丸に絡みつく。
 下から上に指先がしゃくりあげる動きをして玉袋がコチョコチョとくすぐられた。

「あああああああああああああっ!!」
「おちんちんこんなに嬉しそうにしてるよ? 本体の恵介クンも嬉しいに決まってるし」
「本体扱い!?」
「おまけ扱いよりはいいでしょっ!」

 悶える俺を見つめながら彼女の指先が加速していく。
 美柑さんの両手はすっかりローションと俺の我慢汁でドロドロになっていた。

 とろけた指先が蠢いて俺を優しく撫でる。
 ヒクヒク震えながらペニスがその刺激を待ちわびている。
 彼女はその期待に応えるように、一枚また一枚と心の襞を捲りあげていくのだ。

「ああ、エッチすぎるよぉ……!」
「ふふふ、ありがと♪」

 その指でどこを触られてもペニスは気持ちよくされてしまう状況だった。
 魅惑の触手に包まれた俺自身が降参するところを今日も見せつけられてしまう……悔しい気持ちと快楽に屈したい欲望が混じり合っておかしくなりそうだ。

「私、恵介クンから突き合ってくださいって言われたもん!!」
「ちが、お、お付き合いです!!」
「じゃあ今は私のおててマンコとおちんちんがデートしてるんだね?」

 ヌルヌルの人差し指が持ち上がり、鈴口をトントンしてから数秒間押し当てられた。

チュッ♪

「ああああーーーーーーーーーっ!!」

 彼女の指先が、カリっと裏筋をえぐる。
 小さな爪がコチョコチョと前後にスライドしながら俺を追い詰める。
 じわりと熱く腰がしびれて射精が近づいたことを思い知らされる。

 ニヤニヤしながら彼女は続ける。

「おちんちんさわってるとね、オマンコもいい感じに柔らか~くなっていくんだよ」
「!!」
「そのやわらかオマンコで恵介クンを包み込んであげたいな?」

 この状況でそんなエッチなことを囁かれたら、もろに股間に影響が……

「んふ、固くなったね」
「うぅ……!」

 自分でもわかる。包み込まれた手のひらの中でペニスが膨張したことが。
 彼女はそれを大切そうにやさしく磨き始める。
 しゅっしゅっしゅ、と指先でワイパーのように左右にこすられるととんでもなく気持ちいい。

「とろとろクニュウウ~~~って、エッチじゃない? ふふふ……」

 さらに指の形を変化させ俺に想像を促す。
 両手の指を絡ませたまま、その隙間にペニスを滑り込ませてきた。

クチュ、ウウウウゥゥゥゥ……

「あああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ほら、お待ちかねのクニュクニュタイムだよ……えいっ!」

 掛け声とともに彼女の指先が絞まる。
 窮屈にされたペニスへもたらされる快感は、視覚効果も相まってそれだけで射精してもおかしくないほどだった。

クプゥ……クニュ……

 ゆっくり上下するたびに起こる卑猥な音。
 必死で歯を食いしばることしかできない俺。

 彼女の手のひらで形成された女陰。
 それは一切の反撃を俺に許さず、ひたすら快感だけを与え続ける魔性の肉穴だ。

「少し速くするよ」
「うあ、あ、だめ……」

ニュップニュップニュップニュップ!

「あはああぁぁっ! 好きっ、これ好きいいいぃぃぃ!!」
「うふふふふ、もっとかわいく狂っちゃえ」

 なめらかに上下する彼女の手によって心が溶け出す。
 体の自由がきかなくなって彼女に身を任せるしかなくなってしまうのだ。

「いく、イっちゃう、こんなのすぐ、イッちまう!」
「いいよー、今夜もいっぱい出して?」
「くはあああああああああっ!!」

 ペニスがこね回される動きにつられて悶える俺を見て彼女が目を細める。
 彼女はゆらりと身を起こしてから、先程のようにおでことおでこを合わせながら妖しくつぶやいてきた。

「おちんちん固くて、熱くて、私の手も溶けちゃいそう!!」
「み、みかんさ、ああああーーーーー!」
「くすっ、かわい♪」

 彼女に制圧されている。
 蕩けきった情けない顔を正面から見られてる。
 そのことを思い知らされて、俺の中のドキドキが一気に倍増した。

「あん♪ 恵介クン見てるだけで私もイっちゃいそうだよ」
「えっ、み、みかんさんも? うああああっ!」

 勝手に想像してしまう。
 彼女が俺のペニスを突き入れられて悶えている姿を。
 白くて細い手足が俺の体を抱きしめ、快感に咽び泣く美柑さん……

「恵介クン、興奮してきた? してくれるの? 私で」
「はぁ、はぁ、はぁ、み、みかん、さ……」
「イかせて、おねがい……私のこと好き?」
「すきっ、すきです! あああああっ!!」

 その瞬間、胸が大きくうずいた。
 同時に射精感が一気に引き寄せられる。

「ふふっ、私より先におちんちんがイっちゃいそうだね?」
「そんな、あっ、ずるい……ッ!」
「気づくの遅いよ恵介クン♪」

チュッ……

 そしてトドメとなる口づけ。
 好きという言葉を言わされたせいで心が無防備になっているところへ、かわいい彼女に魂を優しくねぶられた気分だった。

ビュル、ビュクビュクビュク!!

 包み込まれた手の中で俺が爆ぜる。
 何度も脈打ちをしながら、腰をガクガクさせながら。

「恵介クン♪」

ピチャピチャピチャ……

 舌先で口の中をかき混ぜられ、同時に指先でも先端を同じようになぞられると天国だった。
 知らぬ間に俺はソファの端を思い切り掴んでいた。
 一切の抵抗を許されるまま、もう一度彼女の手の中に精を放つ。

 口づけをしたままの彼女にも確実にそれが伝わってしまう。

「クスクスッ……何度でも召し上がれ?」

 時計を見れば、さっきからまだ二十分も経っていなかった。

パサ……

 彼女のショーツが床へ落ちる音。
 そしてうっすらとした茂みに目を奪われ、俺は息を呑む。

「今夜もちょうだい? 私にも食べさせて……」

 ちょうど目の前にピンク色の蕾がさらされている。
 巨乳ではないが美乳だ。
 何も考えずに手で触れようとして、彼女に遮られる。

「触るのは私、触られるのはあなたでしょ?」

 甘ったるい声と眼の前の白い肌に幻惑されながら、俺は黙って頷いてしまうのだった。




みかんさんは我慢できない (了)










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