『カルデアバレンタイン ~弟子と師匠の後日談~』
カルデアの廊下で、あまりすれ違うことのない少女が声をかけてきた。
「やあ、我が弟子」
彼女はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
時計台の中でも屈指の名門であるエルメロイ家の当主であり、魔術師。
その気品ある佇まいから「エルメロイの姫君」と呼ばれることもある。
「前に会ったのはいつだったかな。
なに? 覚えていない?
ふふっ、それはけっこうなことだ」
身長は150センチくらいの自称15歳。
いわゆる金髪碧眼の美少女。
カルデアの中でもトップクラスの美しさと呼ばれてもおかしくないのだが、彼女の口の悪さがすべてを台無しにしている。
「こいつは人が困っているところ、とりわけ道を踏み外しそうになっているところを見るのが好きだ」と、かつてエルメロイ二世から教えてもらったことがある。
そんな気高くも悪名高い少女がこちらを見て神妙な顔をしている。
「ふむ……」
なんとなくわかる。
頭の中で絶対に良くないことを考えている……
「ところで顔色が良さそうだが、どうした?
まさか私からのプレゼントを口にしていないなどということはないだろうね」
これはおそらく先週手渡された水銀チョコレートのことだろう。
口にしたところでそれほど体調が悪くなるようなものとは思えなかったが、この様子だとさらに何か仕掛けがしてあったに違いない。
とりあえず、もったいなくてまだ食べていませんと素直に告げる。
するとライネスはあからさまに顔をしかめた。
「困る。それは困るよ。
キミは私を不機嫌にさせるのが本当に上手な人だ」
ライネスはがっかりした様子で肩を落とす。
本当に困っているのだろうか。
これはこれでレアな光景だが、彼女の悲嘆は収まらない。
「なぜって、一年間もの時を費やした私のいたずらが全くの無意味じゃないか!」
恨めしそうにこちらを見る美少女の背に悪魔のしっぽらしきものが見え隠れしているのは気のせいか。
とにかく意地の悪そうな笑みを浮かべてから、何かを決意した表情で彼女が一歩近づいてきた。
「光栄に思いたまえ」
少し背伸びをするようにして腕を首に巻き付けるようにしながら抱きついてきた。
控えめな胸をピッタリとこちらへ押し付けてくる。
長い髪がふわりと浮いたあとで、ちょっといい匂いがした……
「不本意ではあるが仕方ない……
ちょうどここで我が弟子と出会ったのも必然なのだろう」
吐息が触れ合うほどの距離。
ほんのり伝わってくる彼女の体温。
抱きしめ返していいものか迷っていると、彼女の腕の力が強くなり、ますます引き寄せられて密着してしまった。
「まさか緊張しているのかい?」
眉根を潜めてこちらに問いかけてくるライネス。
でも心の底から心配しているという雰囲気ではない。
むしろこの状況を楽しんでいるようだ。
性格はともかく、文句なしの美少女の顔が目の前にあるわけで、自然とドキドキしてしまう。
そのツヤツヤした唇がニマッと開き、こう告げる。
「直接私が導いてあげよう。
幻想の多重励起が織りなす素敵な世界へ!」
首に絡みついていた彼女の腕の力が少しだけ緩む。
ライネスは静かに目をつむり、さらに背伸びをしてくる。
視線の高さが完全に一緒になることはなかったが、壁に向かって押し倒されるような体勢だったので身長差はほとんどなくなっていた。
チュッ……
可憐な唇が押し当てられた瞬間、心臓がドクンと大きく跳ね上がるのを感じた。
続いて頭の中に妖しげな映像が浮かび上がってくる。
これは、ライネスの……裸体?
手袋以外を脱ぎ捨てた美少女の体が惜しげなく自分に絡みつき、彼女が恥じらいながら、何度もこちらへキスをしてくる映像が溢れ出す。
「最初の口づけで扉が開く……」
頭の中に浮かび上がった映像があまりにも生々しかった。
全裸になったライネスは、まるで妖精のようにまとわりつきながら色んな場所へキスをする。
唇だけでなく、頬や耳、それに背中や胸、おへそとだんだん下の方へと向かってゆく……
そこへさらに現実のキスが重ねられる。
チュ、ウウゥゥ……
「これで二度目の口づけ。キミは耐えられるかな?」
頭の中のライネスがもうひとり増えた。
少し頬を赤くしながらも強気な視線のままで、ペニスをそっと握りながらしごいてくる。
可愛らしい目でこちらを見つめながらゆっくりと陰茎を上下に揺らされるとため息が出た。
あまりにも心地よい焦らされかたをされている。
すべすべした彼女の肌は密着しているだけでも心地よくて、さらにそれが二体増える……分身の術でも使っているかのように。
「ふふふ、頭の中では大変なことになっているかも知れないね」
毒に対する異常な耐性があったとしても関係ない、と彼女は言った。
自分が施したのは魔術による幻覚であると。
「密かに仕込んでおいたのさ。それをチョコを口にすることで思い出すようにしていたのだが、我が弟子は天才的な嗅覚で危機を乗り越えたというわけだ」
バレンタインのチョコに仕込んでいたスイッチが不発に終わったことでライネスはご機嫌斜めになったという。
しかし今、直接彼女が口づけをすることでその効果を発揮している。
「過去の何度もキスをしながら我が弟子を犯して、そのたびに記憶を消すのは私としても少し手間だった。しかしすっかり忘れていただろう? 私と唇を合わせるまでは」
チュッ
「ふふふ……そぉら、思い出したまえ!」
キスが終わるともうひとりライネスが増えていた。
これはまた違う時に犯された記憶の残像……
ペニスを掴んでいたライネスが手を離すと、入れ替わりでもう一体が跪く。
そして恥ずかしそうな表情を浮かべた後でゆっくりと優雅に亀頭をくわえ始めた。
「我ながらいじらしい表情をしている。
師匠をこれほどまでに奉仕させるなんて罪な弟子だ」
背中にいる彼女が囁いてくる。
ピチャピチャという音が頭に響いてますます興奮させられてしまう。
彼女の唇はペニスだけでなく、同時に左手の指先や右耳、それに腰や乳首までも愛撫し始めていた。ゆっくりと増え続ける彼女の分身に翻弄される。
もがこうとしてもその腕を押さえつけられ、また正面に回り込まれてしまうのだ。そしてゆっくり近づいてくるきれいな顔立ちに見とれてしまう。
チュッ、チュッ……
全身が硬直した。
なんとなくわかる。
分身ではない、本体からの口づけだった。
今度は連続で呼吸を奪われ、体中の力も抜き取られる。
「もう頭の中はドロドロだろう?
そのまま快楽に身を委ねるといい」
言われるまでもなく全身に毒が回ったように動けない。
肌は敏感なのに筋肉が動かせないような状態。
たまらず小さな彼女の体に自分の身を預けた。
「次のキスで今日は終わりにしよう」
チュウウッ♪
ライネスに抱かれながらキスをされると、今度は頭の中が甘くしびれ始めた。
全身を大きく広げられたまま抑え込まれ、ペニスに手を添えた彼女がゆっくり腰を落としてくる。
クチュリという音がして、秘所に肉棒が包み込まれていく。
真っ白な肌に薄い陰毛。
神々しささえ感じるライネスの膣口にズプズプと自分が埋め込まれていく様子は見ているだけで射精してしまってもおかしくないほどだった。
「私の膣内の感触はいかがかな?」
ニヤリといつもの笑顔を見せながら腰を揺らめかせるライネス。
円を描くような腰使いと強気な表情に魅せられ、視線がそらせない。
答えるまでのなく最高だった。
蕩けるような少女の膣肉に自分が一体化していくのを感じる。
「そろそろ限界だろう? イきたまえ」
ぐちゅうううううううううっ!!
腟内が淫らにうねり始める。
ペニスを甘噛され、思わず声を上げそうになった途端に唇を塞がれた。
幻影とわかっていても興奮してしまう。
声を上げることすら封じられ、全身をもてあそばれている感覚だけが強まっていく。
すでに無数のライネスに抱かれながらキスされている幻覚を味わい、美少女に全身を抱かれながらゆっくりと意識が闇に落ちていく……
夢から覚めるようにゆっくりと目を開く。
「おや、やっとお目覚めかな」
そこにはライネスの相変わらずの強気顔と、見慣れた天井があった。
いつのまにか自分の部屋に運ばれていたらしい。
「キミの記憶の中の私は天使だったろう? クククク……」
きっと彼女は夢の中で自分がどんな行いをしたのかわかっているのだろう。
何も言わずに視線をそらす。
さすがに恥ずかしくて目を合わせられない。
しかしライネスは、こちらの事情にお構いなく手を握りしめてきた。
「ふむ、たいしたものだね。
すでに動けるようになっているじゃないか」
脈を測るように手首に触れられているだけでも興奮が蘇ってくる。
幻影にたっぷり犯されたであろう弟子を見て、満足そうにライネスは笑う。
「さて、もう一度私とキスしておくかい?」
悪戯な顔で覗き込んでくる師匠。
そのありがたい申し出を、弟子は丁重に断るのだった。
カルデアバレンタイン ~弟子と師匠の後日談~ (了)