休み明けの月曜日、昼頃にみかんさんからメッセージが来た。
 仕事の伝達じゃなくてプライベートの方で。

『お昼休みに給湯室まで来て』

 たったそれだけしか書かれてなかった。
 ちなみに俺は今、たまりまくった伝票を処理するために事務所の中にいる。
 そして彼女とはお互いに背を向ける形で数メートルも離れていない。
 つまりそういうことだ。声に出して言えない何かを企んでいるのだろう。

 とりあえず他の誰にも気づかれないように短く返信した。



 そして昼休み。
 業務改善の一環で、事務所は一時的に不在ということになる。
 先月からこの時間帯は留守番電話対応になったので、留守番を一人だけ残してランチタイムはみんな遠慮なく外へ出ていく。
 みかんさんが今日の当番だった。そして予定通り、俺も残っているわけで……

(一体何が起きるんだろう……)

 ドキドキしながら待っていると、突然背中を抱きしめられた。

「恵介クン、好き」

 たしかに感じる背中の体温。ほんのりしたぬくもりの正体がわかっていても、俺はますます緊張してしまう。誰かに見られていたらどうしようという気持ちもあっていつもより鼓動がうるさい。

「み、みかんさ……んうううぅぅ!?」

 振り向きざまに唇を奪われた。
 みかんさんは俺が反応するのを待ち構えて、少し背伸びをしていた。

 その細い腰を抱きしめる。
 地味な制服を着ている彼女のほうが裸よりもエロくかんじてしまう。

(それにこのキス、気持ちいい……なんでだ……?)

 ねっとりと口内を舐め回され、舌先がツンツンと俺に探りを入れてくる。
 慌てて押し戻そうとすれば彼女の舌は引っ込み、逆襲してくる。

「う、ううぅぅぅっ!」
「えへへ、効いちゃうでしょ……ただのキスじゃないからね!」

 開始十秒後に恍惚感たっぷりにされてしまった俺の耳元で彼女は言った。
 着衣のままでの対面座位。
 圧迫されたペニスが彼女のお尻の下でビクビク反応していた。

「最近わかっちゃったんだ~、恵介クンの弱点」
「……俺の!?」
「そうだよ。おちんちん触ってるうちに気づいちゃったの」
「!?」

 両手を首に回し、俺の背中を給湯室の壁に押し付けながらみかんさんが微笑む。
 一時的に脱力したせいで給湯室にあった小さな腰掛けに俺は無意識に座り込んでいた。
 そこへさらに彼女が座り込んできたおかげで、目線の高さが同じくらいになっていた。
(はずかしい……)

 正面から見つめられている。
 会社のみんなには内緒の恋人が職場で俺を誘惑しているのだ。

 しばらく無言だった彼女の手が動き出す。

「たとえばこうやって優しく頭をなでたり」

 小さな手が俺の顔を挟み込み、サワサワと撫で回してきた。
 ずっとドキドキしているだけだった心がほぐされて穏やかになっていくみたいで気持ちいい……

 そして正面で微笑む大好きな彼女に見とれていると、ゆっくりお互いの距離が近くなっていって――、

「特にお口を塞ぐときはゆっくりと」
「え、えっ!? みか……」

 俺の言葉が遮られる。
 再び呼吸も乱され、彼女と一つになっ……た」

(熱い、いつもより彼女の思いが、流れこんでくるみたいだ)

 ぼんやりとそんな事を考えてしまう。
 給湯室の中ですっかり俺は彼女に夢中になっていた。

「んちゅ……んふっ、気持ちいいね?」

 黙って頷くと、もう一度彼女はキスをしてくれた。
 名前をつぶやくとまたさらにキスを。

 短い時間で濃厚なキスを十回以上されたせいで、すっかり頭の中が彼女だけになっていた。
 そんな俺を優しく見つめながら、みかんさんは次の行動に移る。

「あとはここかな?」

 ネクタイを外され、シャツのボタンをいくつか外し、小さな手のひらを滑り込ませてくる。つるつるした指先が俺の体を妖しく這い回る。

「あああぁぁぁ……ッ!」
「恵介クンって体の表面も弱いよね」

 這い回る指先が遠慮なく俺を悶えさせる。
 与えられた刺激はペニスへと向かい、ますます俺自身を固くさせる。

 みかんさんは腰を軽く揺らし、その感触を味わっているようだ。
 悩ましげに目を半分つぶってスカートごしに俺を押しつぶす。
 彼女の心地よい重みを受け止め、俺も高ぶっていく……

「どうしてこんなに、上手に、ぅあああっ!」
「おちんちんは男の子の分身なんだよ? むしろ気持ちいい方面では、本音を教えてくれるんだから」

 顔を赤くしながら彼女は腰を小さく揺らし続ける。
 その小刻みな振動が心地よく、俺はギュッと歯を食いしばる。

 みかんさんもきっと、敏感なクリトリスで俺自身の硬さを味わっているのだろうか。
 質問する前に彼女のほうが先に動いた。

ちゅ、ううぅぅ……

「恵介クンの場合はとにかく優しく、じっくりしてあげると効いちゃうんだよね」

 ねっとりと重ねられる唇と、彼女の可愛らしい顔に魅了される。
 上半身を撫でていた手が背中に回され、俺と彼女はますます密着する。

「ほぉら、大好きなスリスリだよぉ~」

 手のひらの愛撫だけではなく、唇も悩ましげに軽く押し当てられている。
 耳元に響くキスの音がたまらない。

「だ、だめっ、これ逆らえない……逃げられないっ、気持ちよすぎるうううぅぅ!!」
「でしょでしょ? うふふふふ」

 開始から数分で俺は彼女にメロメロにされていた。
 もしもこのあとキスだけで終わろうものなら、間違いなくトイレに駆け込んでしまうだろう。

「ねえ、恵介クン……これから自分でシちゃうのかな?」
「いっ!?」

 見抜かれていた。
 しかし荒ぶった性欲を午後の仕事に持ち越すことは出来ない。

 すると彼女は膝の先でズボンの上からペニスをグリグリと刺激してきたのだ。

「ああああああっ!!!」
「気持ちいい? 勝手に出すのは駄目だよ」
「ひどいよ、みかんさん……」
「その代わり、お仕事が終わったら今夜も私に抱かれていっぱい悶えてね」

 そう言いながら再びキスをされる。
 さっきよりも簡単に股間へ刺激が伝わっていく。

(射精したい!!!!)

 でもそれは禁じられている。
 その先にある餌をぶら下げられているという状況だ。

 キスも最高だけど、それ以外もみかんさんの体は極上で……今の俺にとってこの上なく馴染む。抱きたい、抱かれたい存在なのだった。

 昼休みという短い時間でここまで男を虜にするテクニックを用いる彼女は、魔性と呼んでよいだろう。

「あのね、本当はキスだけでもいいの……私それだけで満足できちゃう人だから」
「えっ」
「そのかわり、いっぱい気持ちよくしてもらうし。恵介クンがとろけていくところを見るの大好きだし」

 そこで俺は気づく。
 男が気持ちよくなることが彼女にとっての快感に繋がっているのだ。
 もしもそうだとしたら、これはもう勝ち目がない。
 自分が感じるよりも相手が感じる姿を見るほうが好きなのだから。

「わかった? 恵介クンに逃げ場はないの」
「う、うううう、そんな……!」
「私に優しくされて狂っちゃいなさい」

チュ……

 みかんさんが施してくれた控えめなキス。

 それがたまらなく心地よい焦らしとなって、俺に快感を流し込む。

 でも夜まで射精禁止という残酷な寸止め。

チュッ、チュッ、チュ……

「あああぁぁぁ……ッ!!」

 彼女に抱きつかれながら、そのあと数回キスをされた俺は、泣き出しそうな目で彼女を見つめるしかなかった。




(了)



※「その夜」につづく










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