『生徒会長にバトルファックでリベンジするために侵入した男』





 東京郊外。私立白鳥女学院高等学校は二十数年前この地に新設された。
 以前は都内にあった同校がまるごと地方に移設されたのだ。
 生徒個人へのきめ細やかな教育をモットーにしているこの学舎は、小学校から大学までの一貫教育で名高いお嬢様学校である。

 その中等部の生徒会長である静香は今日も生徒会室で黙々と業務をこなしていた。
 容姿端麗かつ学力も優秀。
 空手などの格闘技もそこそこ嗜んでいるという。
 同級生からも下級生からも慕われている学園のアイドル的な存在。

 休日に外を歩けば必ず男性に振り向かれるほどの美貌の持ち主だが、学園の慎ましい制服に身を包んでいてもその美しさが損なわれることはなかった。
 腰まで伸びた長い髪は絹糸のように柔らかく、見る者を魅了する。
 大きな瞳は優しげに相手を見つめ、口元は常に笑顔を絶やさない。
 スラリとしたスタイルに不似合いな大きめの胸は、校舎の内外で羨望の眼差しに晒されているが本人はいたって気にする様子もない。

 そんな彼女のもとへ一人の女子生徒が息を弾ませて駆けてきた。

「たっ、大変です会長!」
「あら晴香さんどうされたのですか?」

 静香の視線の先で呼吸を乱しているのは彼女の同級生・上杉晴香である。
 書記を務める彼女は優秀な静香の補佐役でもある。
 そんな晴香が困り顔で静香に打ち明ける。
 話を聞きながらうなずく静香の表情が次第に険しいものになってゆく。

「会長申し訳ありません。
 水際で食い止められなかったのは私のせいです!」
「侵入者ですか。この学園に再び賊が……」

 静香は表情を変えず忌々しげにつぶやく。頭に浮かぶのは数ヶ月前に撲滅したはずのロリコン集団の首領。当時の侵入者のほとんどは雑魚に等しかったが、一人だけここへたどり着いた猛者がいた。
 先程の晴香からの報告の中に今回の賊の特徴も含まれており、話を聞く限りその男に間違いない。

「すみません、すみません……」
「いいのですよ。晴香さんは彼に襲われ、
 逃げ出すことができたのですね。本当によかったですわ」

 怯える晴香の肩を抱きながら静香は思いを馳せる。
 足腰が立たなくなるほど叩きのめして、性的に蹂躙してから撃退したのだが、改心を期待して情けをかけたのが災いしてしまったのかもしれない。
 そうならば晴香は悪くない。全て自分のせいだと静香は考える。

 静香は瞬時に頭を働かせ、巡回中の妹に命じて学園内の警備を手薄にした。

 なぜ警戒を解くように指示を出したのか……
 不安そうに自分を見つめる晴香に対して静香は微笑む。

「大切なあなた達をこれ以上危険に晒すわけには参りません」
「ですが会長、このままでは……」
「侵入者を放置するのは危険とおっしゃりたいのでしょう?
 ですからここへおびき寄せ、直々に私が手打ちにしてあげるのです」

 今度こそ逃さない。二度と逆らえぬよう粛清する必要がある。
 静香は晴香に対して安全な出入り口から帰宅するように命じた。
 そして再び一人きりになった部屋の中で胸元をわずかに緩めた。

「ロリコン集団の生き残り……
 不埒な真似などできないようにしてあげますわ」

 穏やかな瞳のまま、静香はほんの少しだけ唇の端を歪めて肩を震わせた。

 このあとこの部屋は戦場になる。
 そして自分は生き残るだろうという武者震いだった。

 果たして、何も知らずに一人の男がこの部屋へと向かっていた。



(2020.06.12 更新部分ここまで)



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