『彼氏がいるのに普通に誘惑してくる悪い先輩に逆お持ち帰りされた話』





 暦の上ではもう秋。
 ようやく全員と顔合わせができた。
 入学から約半年経過して初めての合コン。

 僕が所属してるサークル「ミリタリー同好会」では、サークル内男女で行う飲み会をそう呼ぶらしい。
 したがって女子だけの場合はミリ女子会と呼ぶことになる。
 それは時々開催されていると耳にする。ランチ会とか。

 だが男子会はほとんど招集がかからない。
 仲が悪いわけでもなく、自分の好きなことに時間を使いたいというメンバーが多いように思える。

 僕は酒田シンジ。東北生まれ。
 一浪してから大学生となった。当然アパートでの一人暮らし。
 都内にある大学へ通うと親に言ったときはすごく反対されたけど、今は応援してくれてる。

 大学へ入ったら高校の時よりもアクティブな毎日にしたいと思っていた。
 運動は嫌いじゃないし、そういった部活やサークルに入るつもりだった。
 そこで願わくば彼女も作りたいなと思っていたのに、勧誘されたのはこのサークルだけだった。理由は今でもわからない。

 「ミリタリー同好会」はサバゲーだけでなくオンラインゲームやファッションなども扱う。
 自分が好きなミリタリー関係について理解を深めていくのが趣旨のサークルだ。
 ただそれだけの集まりなのに、毎月三千円の部費はけっこう痛い……

 ただ、一年も経たずに辞めるのも申し訳ないと思って今まで続けている。
 高い部費以外は特に不満もない。

 いいところを挙げるなら、何故か女子が結構多い。
 しかも結構美形揃いで……見ているだけで幸せっていうレベル。
 動機は不純だけどそれが僕をサークルに引き止めている大きな要因になっている。

 そして今日、僕の隣りに座ってくれたのは――、

「はじめましてだね! よろしく」

 小林紗那恵(こばやしさなえ)先輩だった。
 彼女こそがサークルに僕を勧誘してきた張本人。
 とにかく可愛い。
 ビジュアルが僕好みなのだ。
 いかにも都会の女性といった垢抜けた服装なのに、なぜかいつもミリタリージャケットを羽織ってる。
 それがまた意外に似合ってる。今日は頭の後ろで髪をまとめてハーフアップ(?)にしているけど、普段は髪を下ろしている。
 セミロング好きな自分には眩しすぎる存在。
 顔立ちも当然のごとく整っていて、某グループアイドルのメンバーみたいに魅力的で申し分ない。
 トロンとした大きな目に前髪が少しかかっているところもいい。とにかく全部いい。

 お酒を飲んで少し頬を赤くしているのも色っぽく感じる。
 今日はロンググラスでオレンジっぽいカクテルを飲んでいるようだ。

「キミ、こっちにきてから友達できた?」
「それがなかなかできなくて。自分はあまり喋るの得意じゃないですから」
「ふーん、そっかぁ。
 でもたった今、友達一人増えたから良かったじゃん!」

 とびきりの笑顔でそんな事を軽く言ってくるのだからたまらない。
 これがコミュ力の差というやつか。
 格が違いすぎる。
 紗那恵先輩は静かにグラスを置いてから、少しだけ僕に身を寄せてきた。

「お近づきの印に、本当にくっついちゃお。ぴとっ♪」
「せっ、センパイ!?」

 誰からも見えない角度を選んでそっと腕を回して組んできたのだ。
 きっとドキドキしてるのは僕一人だけ。
 そんな様子を楽しみながら彼女は会話を続ける。

「センパイって言っても同い年でしょ。もっと普通に話してよ~」
「そういわれましてもっ!」

 サークルとはいえ上下関係は絶対守るべきものだろう。
 高校の時、体育会系だった僕にはそのことが身に沁みてわかっている。

 すると紗那恵先輩がそっと顔を寄せて囁いてきた。
 あまりにも近すぎてさらにドキドキしてしまう。
 甘いコロンの香りがほのかに漂ってくる。

(じゃあ二人だけのときはセンパイをつけないで呼んでね♪)

 とどめにパチンとウィンクまで……至近距離から狙撃された。
 こうなるともう僕は小さくうなずくことしかできない。

「約束したからねっ!」

 最後に小さく笑ってから先輩は静かに離れていった。

(まいった……ずっと興奮させられたままだった……)

 まるで少しずつ選択肢を狭められていくような感覚。
 先輩の求める筋書きに沿って行動させられていたようだ。

 本当にこの人は小悪魔だなと思った。



 それから一時間ほどしてから飲み会がお開きになった。
 二次会に繰り出そうとする人達もいるみたいだけど僕は帰ることにした。
 ここでそんなにお金を使いたくないし。

(はぁぁ……紗那恵先輩、可愛かったなぁ……)

 ほんのりと記憶に残っている甘い香りと彼女の声を思い出す。
 最後の言葉は一体どんなつもりで囁いたのだろう。
 僕に呼び捨てにしてほしいのかな。
 出会ってまだ半年足らずでさすがにそれは難しい。
 馴れ馴れしいにもほどがある。

 そんな事を考えながら歩いていると、急に背後から軽快な足音が迫ってきた。

「待ってよー! 歩くの速いってば!!」
「え……えええええっ!? 紗那恵先輩ッ」
「はぁ、はぁ、ちょ、せんぱ、い、じゃないでしょっ!」

 息を切らせながら近づいてきたのは、つい先程まで僕の頭の中を占領していた小悪魔センパイだった。
 そんなに慌てて走ってこなくてもいいのに。

 だが歩きながら少し話を聞いてみるとこの通りは治安がそれほど良くないらしい。
 女性の独り歩きでの被害も月に数件以上あるという。
 お店からの帰り道で誰かサークルの人がいないかと探していたところに、僕の背中を見つけたというわけだ。

「紗那恵せ……小林さんがこちら方面にお住まいとは知りませんでした」
「うんうん偶然だねー。
 住んでるところも結構近いみたいだし。あと呼び方は紗那恵でいいよ」
「じゃあ紗那恵さんで」

 名前で呼ばせてもらえるなんて嬉しい。
 メチャメチャ仲良くなれたみたいで。

 それからも会話は続き、あれこれといろんな事を考えながらゆっくり歩きながら、紗那恵先輩の質問に答えていく。

「ねえ後輩クン、なんていうアパートに住んでるの?」
「ええっと、メゾンスーパーソレイユですかね」
「そこ知ってる!
 もしかしてコンビニの近くにある新築のところじゃない?」
「ええ、まあ」

 僕が借りているアパートは築年数が一年未満で少しだけ周りと比べて家賃が高い。
 だから切り詰められるところは切り詰めているんだけど、飲み会のお金がきついですなんて話もしてみた。
 紗那恵先輩はニコニコしながら話を聞いてくれる。やっぱりいい人だ。

 やがて彼女は両手を胸の前で合わせてきた。

「いいなーいいなー! 私にお部屋の中見せてほしいなー!」
「えっ、でも掃除してませんから」

 突然の申し出に焦る。
 断り文句としてはありきたりだけど、紗那恵先輩は退いてくれそうになかった。

「いいでしょ? ちょっとだけ。ね? シ・ン・ジ・くん♪」

 うう、これは思った以上に押しが強いぞ、しかもその顔可愛いし!
 それに名前で呼ばれたのも初めてだし。

「……本当にちょっとだけですよ」
「えへへ、やったぁ! じゃ、行こっか♪」

 すると飲み会の席と同じようにセンパイが腕を絡めてきた。
 今度は誰も見ている人がいないので、堂々と。まるで恋人みたいに。



 どんなことでも初めては緊張する。
 自分の部屋に女の子を招く日がこんなに早く来るなんて思っていなかった。

「新築の匂いがするー! いいよね、やっぱり!!」
「そ、そうですかね?」

 ほとんど家具のない僕の部屋の中で、くるくる回りながらセンパイがはしゃいでいる
 その様子を見ているうちに、何となく僕はホッと安心していた。
 センパイに対して失礼に当たることはなかったようだ。

 掃除をしていないというのは本当だ。
 しかし元々この部屋には必要最低限のものしか置いてないから汚れをごまかせるのかもしれない。

 下手すれば非常に殺風景な部屋ということになるのだけど、センパイは全くそんな事を気にしているようには見えない。

「シンジくんのお部屋はきれいに整頓されてるけど、同じ男の子でもこういうのはやっぱり性格がでるのかなぁ」
「性格、ですかね。んっ、同じ男の子?」
「あっ……!」

 センパイは自分の口に手のひらを当て、あからさまに失敗したという表情をした。
 なんとなく予想はできるけどここは意地悪く尋ねてみようかな。

「ううん、あのね……彼氏の部屋、汚いからついこのお部屋と比べちゃって。気を悪くしたらごめんね」
「せんぱ、紗那恵さんには彼氏さんがいるんですね」
「うん、いるよー。もしかしてキミ、そういうの気にするほうなの?」

 興味深そうに紗那恵さんは僕を見つめているけど、僕は複雑な気持ちになった。

「そう、ですね……気にします。
 本当にここにいていいんですか? 紗那恵さん」

 正直、少し怒っていたと思う。
 自分も軽率だったかもしれないけど、半分はセンパイが悪い。
 不用意に、後輩とはいえ、異性の家に上がりこんでしまうなんて。

「僕と二人きりですよ?」
「そうだね」

 悪びれた様子もなく彼女は言った。
 また少し怒りがこみ上げてきた。
 なによりも好きな気持ちを抱いた相手をビッチだと思いたくなかった。
 ただセンパイは少しだけ考え事をするような仕草を見せてからこういった。

「人それぞれ考え方はあると思うけど、一線を越えなきゃいいんじゃないかな」
「それってどういう――」
「一線は一線だよ!」

 僕を見つめる大きな瞳は真剣そのものだった。自己弁護でもなく、言い訳でもなく、怒りながら悩んでいる僕をじっと思いやるような視線。

「でも紗那恵さんがここにいることを彼氏が知ったら僕は――!」
「じゃあ聞かせて。
 キミにとってはどこまでがオッケーなのかな?」
「っ!」
「初めてしゃべったサークルのセンパイ女子を部屋に上げるのはとりあえずオッケーってことだよね」
「それは、最初に話した通りちょっとだけですから。今日は……」

 責められているわけではないのに僕は視線をそらしてしまう。
 責任逃れをしたいわけではない。
 自分の中でセンパイとの一線を決めるのはけっこう難しかった。

(しゃべるのはいいかもしれないけど部屋へあげたのはまずかったな……
 でもあちらから言い出したことだし僕は悪くない。
 そうさ、このあと何もなければいいだけの話じゃないか!)

 自分でもどうかと思う曖昧なライン引き。
 すると今度はセンパイの方から切り込んできた。

「セックスはもちろん駄目だとして、体に触れるのも駄目?」
「だめですよ!」

 それなのに、紗那恵さんは僕に近づいてきた。
 無意識に後退する。
 狭い部屋だからすぐに壁が背中にあたってしまった。

「これは駄目?」
「だ、だめ……」

 すっと伸びてきた白い指先に頬を撫でられた。
 たったそれだけなのに緊張してしまう!

「じゃあキスも駄目なんだね」
「キス……」
「外国なら挨拶代わりにキスすることだってあるんじゃない?」
「で、でもそれはっ! う、うううぅぅ……」

 思わずセンパイの唇を見つめてしまう。
 それに気づいたのか、彼女の口元が僅かに緩んだ。
 目の前にある瑞々しい唇は薄い桃色のリップが引いてあるらしく、いつまでも見とれてしまいそうな美しさだった。

(触れてみたい……)

 指先で、それよりも自分の唇で、その感触を確かめてみたい衝動。

 不意に彼女の口元がニマッと大きく開いた。

「隙あり。ずいぶん迷ってるからそこがギリギリってことだよね」
「え、えっ、あ、あの、せんぱ――」

 先輩の両手が僕の肩に置かれる。
 軽く食い込む指先。
 さらに体を預けられ、その柔らかい体を正面から受け止める。

 スゥーっと閉じた瞳と、長いまつげに惹かれてしまう。

 壁際でほんの少しだけ背伸びをした彼女が、ゆっくりと僕の呼吸を奪ってゆく……。



 時間にすればほんの数秒だったのかもしれないけど、僕はずっと呼吸を止めていた。
 それは早くこの時が終わればいいという思いではなく、ずっとこの時間が続いてほしいという願いからの行為だった。

(なんだよ、これ、こんなキスされたら僕はああああああ!)

 ゆっくりと唇を小刻みに震わせ、味わう角度を変えながら紗那恵さんは顔を動かし続けている。
 いつの間にか肩に置かれていた指先は僕の後頭部と頬に添えられており……

チュ、ポ……

「残念。離れちゃったね」
「うあ、あぁ……!」
「ギリギリの関係でのキスのお味はいかが?」

 クスッと微笑む彼女の表情に背筋がゾクゾクしてしまう。
 僕は今、大人のキスを初めて知った。
 同い年のはずなのに紗那恵さんに圧倒されてしまった。

(お、おかしくなる……)

 ドキドキが止まらない。
 目の前に大好きな紗那恵さんがいて、しかも自分からキスをしてきた現実を受け止めきれない。

「せっかくだからもう一回しよっか?」

ちゅっ……

(あああぁぁーーーーーっ!!)

 再び軽く合わされただけの口付けに、僕は頭の中で声を上げてしまった。

 柔らかい感触が肉体を通過して、心に直接キスをされたみたいで衝撃的だ。
 意識を溶かすような最初のキスと違って刺激を与えるのに特化した凶悪な唇。
 抗えない魅力でいっぱいの紗那恵さんのキスに僕は夢中になっていた。

「どうする?
 今ならまだ挨拶ってことで流せると思うけど。ふふふ……」

 僕を惑わせるようなことを言いながらもまた顔を寄せて――、

ちゅ、ううぅぅ……

 今度はまた違うキス。
 背中まで腕を回され、ギュッと抱きつかれながら、呼吸をコントロールされるような激しくて甘い口づけだった。

 そして気づけば僕も彼女を抱きしめていた。
 想像以上に細い体を感じながら、背中とお尻の感触を味わう。

 指先が敏感になって紗那恵さんの体のラインを探るようにトレースする。
 特に腰のクビレが素晴らしい。

(さ、紗那恵、さん……駄目です、これ以上は……)

 引き返せなくなる。自分でもそう思った。
 それ以上に引き返したくないという気持ちが膨らんでくる。

 二人きりで自分の部屋で、ずっと憧れていた存在と触れ合っている現実。
 ただそれだけというには刺激が強すぎる。

「もっと強く抱いていいのに」
「でも……」
「うふ♪ 我慢強いんだね。そういう男の子は好きだよ」

 数センチの距離にある唇が妖しく笑う。
 そして僕の下唇をついばむようにしながら、

レロォ……チュプ……

「ひうっ、んっ、ううううぅぅ……ッ!」

 し、舌先を突き刺された!
 ヌルリとした彼女の舌が僕の口内を荒らす。
 舐め上げながら支配してくるような情熱的なキスに、今度こそ股間が熱くなって制御できなくなってしまう。

(やば、大きくしちゃ、だめ、なのに……いいぃぃ!)

 無意識に腰を引く。
 それでも彼女は逃してくれなかった。

「どこまで理性が持つかなぁ?」

 紗那恵さんが片方の足を前に出す。
 僕の両脚の間に膝を割り込ませてきた。
 さらにピッタリと腰を押し付け、ふとももや膝でペニスを刺激してくる。

(ああああああーーー! そんなにグリグリしないでえええ!!)

 もう我慢の限界だった。
 こんなにたっぷりと誘惑をされたこともなかった。

 その数秒後、僕は自分から彼女を押し倒していた。

「あんっ、大胆なのね」
「だ、だって! 紗那恵さんが、こんなに綺麗だから!!」
「あはっ♪ ついに自分から一線を越えちゃったね!」

 特に慌てた様子もなく小悪魔風な笑みを浮かべながら彼女が言う。
 その一言に僕は打ちのめされた。

 自分の言葉を自分で否定してしまうことになるなんて。
 恋人がいる相手を押し倒してしまったという事実が重くのしかかる。

(もう、ここからはどうしたらいいかわからない……ッ)

 真下にいる紗那恵さんの顔をまっすぐ見れずにいた。
 自責の念に押しつぶされている僕の顔を彼女がぐいっと引き寄せてきた。

チュッ♪

「落ち着いて。私がリードしてあげるから」

 たった一度のそのキスが僕にまた興奮を思いださせる。
 落ち込んでいた気持ちが嘘みたいに軽くなって、目の前の美女に目が釘付けになる。

 ふわふわのきれいな髪、自然と漂ってくる甘い香り、耳に残る心地よい声……
 そして僕を魅了したいたずらな唇。

「さ、紗那恵さん!」
「キミはじっとしてるだけでいいよ。いっぱい、できるだけ我慢して……」

 そっと僕の体を押しのけ、彼女が上になる。
 髪留めとペンダントを外すと、また一段と女性らしさが増した。

(僕は今から、あこがれのセンパイと……!)

 紗那恵さんはまだ着衣のままだ。
 ピンク色のトップスの隙間から見える肌が白すぎて艶めかしい。

「あんまり見ないで。さすがに私もはずかしいよ?」

 そう言いながらペロリと舌を出してウインク。
 見とれているうちにスルスルと衣服が脱がされて、僕の上半身がむき出しになる。
 恥ずかしさを感じる間もなく彼女の指先はズボンへと向かい、

「ここもたいへん。苦しそう。私が解放してあげる」
「あ、あっ! 駄目です!!」
「いまさら何が駄目なのかなぁ? ふふふふ」

 上半身と同じように下半身もむき出しにされてしまった。
 隠しようもないくらい膨らんだペニスを指先でクリクリともてあそばれる。

「はうううううっ!」
「かわいい。えいっ、えいっ」
「あああああーーーーーーーーーーーっ!!」

ビクビクビクッ!

「感じやすいんだね」
「こんな、女の子にされたこと、ないです……」
「うふふふふ……でもここを大きくしてるってことは、
 少なからず私を見て興奮してくれてるのかな?」

 両手を僕の顔の脇について、正面からクスッと微笑まれると、一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。

「い、言えません!」
「えー、ちゃんと言わせたいなぁ。
 ねえ、聞かせて。キミは私のどこが好き? うふふ」

 肘を曲げたセンパイが顔を近づけてくる。
 コツンとおでこをぶつけられ、鼻先がツンツンと触れ合う。

 思考がとろけて頭の中が真っ白になる。
 紗那恵さんのことしか考えられなくなってしまう!

(こんなの、絶対おかしくなるううううぅぅぅ!!)

 キスなしの接触は、この上なく効果的な精神攻撃だった。
 大好きな相手だからこそ効きすぎる甘い囁きや軽い接触。
 それらを巧みに使い分けてセンパイは僕を籠絡してくる。

「ねえ、ねえってば……教えて? 私のこと、嫌いじゃないよね?」
「う、ああぁぁっ!」
「どうして黙ってるの? 本当は嫌いなんでしょ」
「ち、ちが……」
「じゃあ教えて~~♪ うん? もう一度キスすればいーい?」

 しかもこんな至近距離で何度も同じことを尋ねられて、さすがに我慢できずに僕は洗いざらい喋ってしまう。

 初めて会った時から一目惚れでした、

 紗那恵さんの可愛い顔が好きです、

 声も、胸が大きいところも、スタイルが良いところも、

 飲み会で隣りにいてくれたことも、

 こうやって僕に喋ってくれるところも、全部好きです、

 紗那恵センパイに彼氏がいてもいなくてもずっと好きです……

 今まで押し留めていたものが一気にあふれ出す。
 不思議なことに気持ちが軽くなって、すらすらと紗那恵さんへの思いが溢れ出す。
 それらの告白を紗那恵さんは満足そうに聞きながらウンウンと頷いていた。

「ちゃんと言えたね。えらいぞ、シンジくん♪」
「う、うううぅぅぅ……はずか、しいよぉ……」
「よしよし」

 彼女に組み敷かれたまま僕は手のひらで顔を覆った。
 その顔の脇に肘をついて、紗那恵さんが僕を抱きしめてきた。

(あっ……)

 目の前に彼女の顔があった。
 それは今までで一番近く、じっと僕の目を見つめてくる。

「キミにご褒美あげる」

んちゅ、ううぅぅ……

(うあああああああっ!!)

 顔を抱きしめられ、強引に唇を奪われる。
 同時にビンビンになったペニスが彼女の太ももの間でギュッと抱きしめられた。

「いっぱい感じていいよ……」

 すりすりとペニスが太ももにいじめられる。
 同時に耳元で甘い声を流し込まれる。完璧な連携技だった。

(あ、あっ、ああああ、この太ももが、紗那恵さんが気持ちよすぎるッ! それにこのキス、頭の中が溶け……ぅ)

 不規則にキスをされながら、無意識にミニスカートから伸びた彼女の脚を思い浮かべてしまう。
 たまらなく魅力的で、理想的なその楽園にペニスが囚われている。

 それだけで僕の興奮は最高潮に達した。

(で、出ちゃう……我慢しなきゃいけないのに!)

ギュムッ……

「んはあああああああああああっ!!」
「さすがにもう限界、だよね? ふふっ」
「だ、だああ、出る、出るっ、出るううううう!」
「いいよー。私の脚でいっぱい気持ちよくなっちゃえー!」

 ぴっちりと閉じられた美脚の中へペニスが閉じ込められた。
 すでにビクビクしはじめていた場所へ引導が渡された。

(も、もう我慢できないッ!!)

 挟み込まれた太ももの中で何度も揉みくちゃにされた僕は、繰り返される熱いキスのせいで叫ぶこともできずのそのまま達してしまう

ビュクビュクビュクビュクウウウッ!!

 きゅんきゅん締め付けられながら何度も射精した。
 そのたびに紗那恵さんが好きになる。
 頭の中で広がっては溶けて、僕の心を埋め尽くしてくる。

 大好きな人に抱きしめられながらの連続射精は、今まで僕が味わったことのない壮絶なものだった。
 オナニーでは到底得られない満足感でセンパイは僕を飽きるまで蹂躙した。

 ほっそりしているのにムチムチの美脚のおかげで、その体勢のまま僕は二回射精して、さらに角度を変えながら四回射精してしまう。
 滑りが増したこともあって、最後の一滴まで絞り尽くされるまでそれほど時間がかからなかった……



「ずいぶん溜め込んでいたのね。
 大好きだった私にこんなことされちゃうなんて幸せだね♪」

 すっかり動けなくなってしまった僕の脇でセンパイが鈴のように笑っている。
 これはもう完全に浮気確定だろうな……僕は落ち込みながらそんな事を考えていた。

 それに比べてメンタルが猛烈に強いな。紗那恵さんは。

「もー、そんなに深刻そうにしないでよ」
「……」

 さすがに察してくれたようだ。
 僕自身は他に彼氏がいる人から寝取るような真似はしたくないのだ。
 いつか自分にその罪が跳ね返ってくるのだから。

「悩ませちゃったお詫びにいいことひとつ教えてあげるから。ねっ?」
「……なんですか?」

 複雑な思いを顔に浮かべた僕の前で、紗那恵さんは咳払いをした。

「私ね、今はフリーだよ。元カレとは一ヶ月前に別れたもん」
「は?」

 一瞬何を言っているのかわからなかった。

(わ、別れた? ここでそんな事を言い出すなんて!)

 それはとんでもない爆弾発言だった。
 でも彼女の言葉がまた嘘じゃなさそうで、僕は困惑した。

「そんな……センパイ、だってさっき彼氏がいるって言ってたじゃないですか!!」
「うっ、まー、あ、あれはさー、いわゆる女の見栄だよ!
 可愛い後輩に、コイツ彼氏もいないのかーってバカにされたくないじゃん!!」
「しかしですね」
「シンジくん、私の言うことが信じられないの!?」

 逆ギレかよ。でも不覚にもクスッと笑ってしまった。
 そんな僕を見て彼女も笑う。
 紗那恵さんの子供っぽいところを見ることができて、僕は晴れやかな気持ちになっていた。ずっと大人だと思いこんでいたのに、やはり同い年だったということだろう。
 大好きな人を身近に感じることができて嬉しかった。

 さらに紗那恵さんが言葉を続ける。

「だからさ、これでおあいこってことにしようよ」
「まあいいですけど」
「あ、あとね! これは私からの提案だけど、
 入学した年にちょっとずるい女と付き合ってみるのも、悪くないかもよー?」
「付き合う!? だ、誰と」
「キミと私」
「ええええ~~~~~!?」

 紗那恵さんの言葉に、本日何度目かわからないけどドキドキさせられた。

 少し落ち着きを取り戻してからもう一度問いただす。

 元カレとは、相手の嘘が原因で本当にお別れしたらしい。

 疑っても仕方ないのでそこは信じることにした。

 それよりも今僕は決断を迫られている。
 どうしようか。
 でも迷うよりも試してみたほうがいいと思った。

「あの、紗那恵さん……とりあえず嘘だけはつかないでくださいね」
「うん、いいよー。約束する!」

 軽い。とても不安だ。
 そのうち僕も愛想を尽かされて元カレみたいに捨てられてしまうのだろうか。

 紗那恵さんを恋人にしたら楽しい毎日と引き換えにそんな不安を抱くことになる。

 だからほんの半年くらい続いてくれればいいというつもりだった。

 それがまさか大学を卒業してからも彼女が僕の隣りにいてくれるなんて……当時の若かった僕にはそんな未来を予想することはできなかった。





(了)


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