『学園祭の陰謀 ~快楽舞台の裏側で~』
ここ私立白鷺沼高校の朝は早い。
学業以上に遅刻は厳罰主義というのが同校の方針でもある。
そんな理由もあってか、まだ始業前……とは言え、開始五分前ではあるが、二年五組の教室は殆どのメンバーが揃っていた。
その中に男子生徒数名のグループがあった。
「なあ田中、お前も昨日の『テレビものまねモノマネ選手権』見ただろ?」
比較的明るい雰囲気のクラスの中、笑い声の中心にいる男子生徒がそう言った。
「ボクは前半だけ見たけど。カラオケバトルだったよね?」
「そうそう! でもあれなぁ、ちょっと納得いかねえんだよ」
「なにが?」
「だってさ、あの程度で賞金百万円もらえるとかありえないって。
芸能人ってだけであいつら評価甘くね?」
「べつにトラオが損したわけでもあるまいし。
あと芸能人になるってけっこう大変そうじゃね?」
「そりゃそうだけど悔しいじゃん!」
「だからなにが?」
苦笑する友人を見てトラオと呼ばれた彼も一緒に笑った。
芸能人をこき下ろしていた彼は筧井寅男(かけい とらお)と言う。
現代において些か古臭い名前だと本人も自覚している。
見た目は普通の男子学生だがトラオには少しばかり得意になれるものがある。
「俺があの番組に出た時なんてさ、マジひどかったよ!
打ち合わせにない曲を流されて、しかも最後まで歌わされたんだからな」
「げっ! またその話につながるのかよ」
「最近で一番悔しかったんだから仕方ねえだろ。語らせてくれや」
彼は幼少の頃から歌が得意だった。
トラオはそのテレビ番組の出演者として最年少記録を持っている。
しかも一般枠からの予選を勝ち抜いての出場なので、
そういう意味で彼は地元でもちょっとした有名人であった。
「人前で歌うのは緊張するけど気分いいんだよなぁ」
「だったらまた出てみりゃいいじゃん」
「そうだな。今度は自分で応募してみるわ」
こっそりと親が応募したせいで本人はいい迷惑だったと言いながらも、
オンエアーでは堂々とテレビカメラの前でヒット曲を歌い上げた。
惜しくも優勝は逃したようだが点数もそれなりに良かった。
芸能事務所からのスカウトは今のところない。
なおも続きそうな彼の話に飽きたのか、一人の女子生徒が立ち上がった。
「フン、武勇伝の再々放送そろそろ終わりにしてくれない?」
「なんだと!?」
「収録や放送が終わったあとならなんとでも言えるわよね!
直接私たちも見てたわけじゃないし」
「あっ!? ケンカ売ってんのか、ミサ!!」
「ええ、売ってるわよ。
トラオのくせに、アンタ最近いい気になり過ぎじゃないの!?」
正面から彼を睨み返す女子生徒は保瓦美沙(ほかわら みさ)という。
トラオとは幼馴染の関係であり、この学園では放送委員で合唱部。
ミサにとって聞き飽きたカラオケ自慢話など雑音に等しい。
とは言え、彼女自身はトラオの歌唱力を全く認めていないわけでもない。
「俺が授業前にテンション高めて悪いのかよ、ミサ!」
「アンタね……みんなの前で気安く名前で呼ばないでよっ」
「おっ、お前のほうが先に名前で呼んできたんじゃねえか!!」
まるで小学生の言い争いのような、いつもの夫婦喧嘩が始まったということで、
そろそろ始業時刻だと気づいたクラスメイトたちが自分の席へと戻ってゆく。
その動きに構わず言い争いを続けるトラオとミサの姿に、
(あいつら、いつも仲いいな……)
残ったクラスメイトたちは生暖かい目で二人を見つめていた。
そこに羨望の眼差しもいくらか混じっていた。
◆
やがて始業開始のベルが鳴り、一時間目も終わって僅かな休憩時間。
トラオは恨めしそうに隣に座るミサを見つめていた。
「あーぁ、誰かさんのおかげで
大切な一時間目のテンション下がりっぱなしだったわー」
「うっさいわね、負け犬の遠吠えってアタシ嫌いなの」
「んなっ、誰が負け犬だとコラアアア!」
隣同士の席で口喧嘩を始める二人。
周りのクラスメイトは特に気にも止めずに次の授業の支度をしている。
「いつまでも終わった話にキャンキャン言ってないで
次のステージで頑張ればいいじゃない」
「次ってなんだよ!」
「はい、これ」
トラオの目の前に一枚の紙が差し出された。
「あぁ? 個室で熱唱カラオケバトル……これ、来週の学園祭の出し物か。
おいふざけるな、俺はこんな――」
「ふーん、逃げるんだ? はぁ、アンタには本当にがっかりだわ~」
「ぬっ!?」
ミサはわざとらしく手のひらを上に向けて肩を落とし、アメリカンコメディーのような身振りで彼を挑発する。
「ステージの規模で歌うか歌わないか決めてる時点でザコよね。
先にできなかった時の言い訳考えてるザコ。
つまり本当は実力も自信もないザコキングってわけね!」
「……ッ!」
怒りを堪えて肩を揺らす彼の顔を覗き込みながらミサは続ける。
「ほらほらどうしたの?
さっきみたいにキャンキャン吠えればいいじゃない。
小物ザコの言い訳ぐらいは聞いてあげてもいいわよ~?」
「ってめえええええええええええええええ!!」
「何よ。悔しかったら歌ってみなさいよ。
アタシの前でカッコイイところを見せてみなさいってば」
「ああ歌ってやるさ!」
「言ったわね。みんな聞いてたよね?」
その言葉と彼女が振り向いた勢いに、周囲にいた数名がビクッとしてから首を縦に振った。
売り言葉に買い言葉から相手の言質を取るテクニック。
ミサは昔からトラオのプライドを逆手に取ることが得意だった。
「ミサ、ひとつ聞いてもいいか」
「なによ?」
「さっきの話、なんで俺がお前にいいとこ見せなきゃならねえんだ?」
「あっ、最後のそれは、間違いだから……なんでもなぃ」
いきなり顔を真赤に染めてミサがうつむいた。
どんどん声が小さくなっていく彼女を、トラオは不思議そうに眺める。
「と、とにかく! これはアタシとアンタの勝負だから。
もう逃げられないわよ。
今のやり取り聞いてたみんなが証人だからね」
「だからって、おまえ相変わらず強引だなぁ……」
「別にいいじゃん。アンタは自分の歌声に自信あるんでしょ?
だったら受けて立てばいいだけじゃない。当日楽しみにしてるわよ」
そう言い放ってからミサは席を立ち、思い出したように振り返る。
「そう簡単に勝たせるつもり無いけど」
「……どういう意味だ」
「覚悟しときなさい。
言い忘れたけどアタシが運営側の代表だからね」
「おっ、おま、まさか俺のときだけ判定をマイナスするつもりか!」
「は? カラオケアプリの機械判定だしそんなことできるわけないじゃん。
それに会場のみんなだって見てるんだよ」
言われてみればたしかにそうだと彼も納得する。
仮にもカラオケ大会ならば大画面モニターに曲の音程や歌い手の評価点などの映像を流すはずである。
リアルタイムで運営側がそれをいじるのは難しい。
いくら勝負とは言えミサが危険な橋を渡ってまで卑怯な手を使うことはないだろう。
「あと当日はアタシも歌う予定だからさ」
「え……お前が歌うの?」
「そうよ?」
「そいつはヤバいな。会場のお客さんに俺から耳栓を配布しておかねば」
「なにそれ! 失礼ね!」
ぷんすか怒り出すミサだったが、そこで何かに気づいて顔色を変えた。
「あのさ、次の授業って特別棟じゃなかったっけ?」
「あ? 化学って……うわあああああああああああああああああああ!!」
結局、化学室への移動が間に合わず二人揃って教師に叱られてしまった。
◆
そして一週間が無事に過ぎて学園祭当日。
開場前にイベント「個室で熱唱カラオケバトル」参加者はステージ上に呼び出されていた。
呼び出された生徒の中、トラオはステージ上の物体を見て首を傾げていた。
「これさ……舞台の上に個室があるっておかしくね?」
「普通は歌う時に緊張するでしょ? そのための救済策よ」
「あんなハリボテが!?」
個室と言っても簡易的なもので、教師が使うような大きめの机を並べ、それを囲うように正面と左右をベニヤで塞いだものだ。
歌い手の顔が見える窓もついている。
観客側から見える部分はカラオケボックス風の装飾がされている。
出入り口である室内後方は黒いカーテンで覆われており、天井は開放されている。
確かにこれなら周囲の目を気にせず歌うことができるだろう。
「参加してくれるみんながトラオみたいに心臓に毛が生えてる肝っ玉ニンゲンばかりじゃないのよ」
「ぬ? もしかして俺はお前に褒められてるのか」
「……それはちょっと微妙ね」
軽くため息をつくミサを横目にトラオは室内を見回す。
観客に向かっている窓は透明なアクリル板であり、反射フィルムが貼られている。
いわゆるマジックミラー加工をしたものだ。
自分から窓の外は見えないけれど観客からは歌い手が熱唱している様子を見ることができる。
それとは別に歌詞が流れるモニターが机の上に設置されている。
モニター付近に小さなカメラがあり、歌い手を横から映し出していた。
胸から上を捉えた映像は個室の外にある客席用の大画面に映し出される。
こうしてみるとなかなか本格的な設備である。
「で、やっぱり俺もあの中で歌うのか」
「当然でしょ。条件は平等! 元気よく歌ってね」
得意げに胸を反らせてミサが言った。彼女の言動に不審な点はない。
ここまでのやりとりでトラオは彼女が自分を引っかけようとしているところを見つけ出せなかった。
◆
それからさらにいくつかの説明を受け、いよいよ予選が始まろうとしていた。
少しずつ観客も増え始め、座席も埋まってきた。
やがて定刻になりカラオケ大会がスタートする。
トラオはシード枠なので予選は関係ない。
そして予選の最後にはミサが登場した。
トラオは彼女の歌がそれほど上手でないことを知っていたため、悪い予感がしていたのだが――、
「~~~~~~~♪」
(おおおおっ! ミサ、声もかわいいし意外とうまい!)
画面上に映る彼女の姿は女子高生らしくとても可憐であり、観客の中にはカメラを構えている者も見受けられた。
同じ歌い手として彼女を眺めることで、トラオはミサのことを可愛らしいと感じ始めていた。
幼馴染という間柄、なかなか客観的に見る機会を持てなかった彼にとっては軽い衝撃である。
流れていた持ち歌が終わり、ミサが黒いカーテンの中へ戻ってきた。
「くっ! 百点取れなかったわ……いっぱい練習したのにチョー悔しい」
「ま、一般人にしてはよくできたほうじゃね?
見せ場作ってくれてありがとうよ。あとは俺に任せな」
上から目線の彼の言葉にミサはぷくっと頬を膨らませていた。
「えらそーに。さっさといきなさいよ!」
「はいはい」
憎まれ口をたたくいつもの彼女を感じて少し肩の力が抜けた。
そんな彼の背中を見ながらミサは妖しげに微笑んでいた。
決勝トーナメントは予選を勝ち抜いた7人とシード枠であるトラオとの対決だった。
そこでミサは自らマイクを取って笑顔で喋り始めた。
「今回特別シードの二年A組の筧井寅男くんは地上波の番組出演やカラオケの全国大会に出場した実績もあり……」
やたらに褒めまくられてトラオが赤面する。
(なんか前フリ長くないか?)
そしてミサの流暢な紹介が終わると、拍手が一段と大きくなった。
(急にプレッシャーが……念入りに俺の逃げ道を潰されてる気がする……)
まさにそれこそがミサの狙いであり、トラオを引くに引けない状況へと追いやる布石でもあった。
多少の居心地の悪さを覚えつつトラオは黒いカーテンをくぐってステージへと姿を表した。
「まあ、いつもどおり歌うだけだがな! って、なんだこれ」
事前説明の時にはなかったものがフロアに存在していた。
小さめの足の裏みたいな形をしたパネルが左右に分かれて貼り付けられている。
「トラオ、そのパネルを踏みながら歌うのが決勝ルールよ」
「これってなにか特別な意味あるのか?」
「さあね? 言っとくけど勝手にステージ歩き回ったりすると採点止まって反則負けだから」
ミサの言うとおりマイクスタンドの前へ立ち、左右の足を指定場所へ置いてみる。
肩幅より少し狭いくらいで特に問題はなさそうだ。
そこで試しにパネルから足を離してみると、カラオケの画面がフリーズして警告画面に切り替わる。
「なっ! パネルに足を戻さないと演奏停止って……どんなルールだよ!」
「しっかり踏ん張って気にせず歌ってね」
しぶしぶ足元のパネルに合わせて立ち位置を決めると再び画面が動き出した。
なかなか凝った仕掛けだとトラオも感心する。
「そりゃあ歌うけどさ……」
ブツブツ言いながらトラオは考える。
今ひとつミサの意図が見えてこないし、負けたらなにかペナルティでもあるのかと言えばそうでもない。
でも確実にミサは彼をはめようとしている。
それが何なのかわからないのが悔しくてたまらないのだ。
戸惑うトラオに関係なく曲の前奏部分が流れはじめる。
約10秒後には歌い始めなければならない。
トラオが精神統一を始めたその時だった。
「はぅあッ!?」
マイクはまだオンにしていなかったので音は拾われていない。
ただ驚いた様子の彼の顔だけは会場の大画面に映し出されていた。
不意に何者かがトラオの股間をモゾモゾと触りはじめたのだ。
(なんだ、これ……どこから、うわああ!)
ブブー!
左耳にモニター用のイヤホンをした彼だけに聞こえる警戒音。
下を見れば左足がパネルからズレていた。
慌てて位置を取り直す。
「あっ……」
同時に理解する。
自分のペニスの真上を白い手のひらが優しく撫で回していたことに。
(誰だよ、こんな……くそっ、動けねえ……!)
すでに曲が始まっていた。慌てて遅れを取り戻す。
ゆっくりとまとわりついてくる白い指は、彼の焦りや忍耐をあざ笑うかのように容赦なく心地よさをペニスに刻みつけてくる。
ズボンのベルトを外し、ファスナーを広げてペニスを直に触り始める。
ほっそりした人差し指の第一関節がカリ首を補足し、優しく締め上げた。
(集中だ! 下半身の感覚を切って、全て目の前の歌詞と発声に――)
本来なら歌を中断すべきところだが歌い手のプライドがそれを拒絶する。
下半身を刺激されてくらいで観客を裏切るような真似などできるはずもない。
足の位置を変えずに彼は腰を引こうとしたが、手のひらは容易に追従してくる。
その上で戒めるようにカリを弄び、裏筋をチョロチョロと引っ掻いてきた。
(う、あああぁぁっ!)
背筋がゾクゾクしてくるほどの心地よさだった。
じわじわ染み込んでくる快感にチクリとした刺激が混ざり合いトラオは悶絶する。
魔性の指は憎らしいほど同じ動きを繰り返し、彼を焦らし続けた。
歌に集中するために触覚を意図的に絶とうとするトラオだが、甘い刺激がそれを許してくれない。
優しく丁寧に肉棒を包み込まれるたびに指先の動きを意識してしまう。
(うううっ、な、なんだ……これ、気持ちよすぎる!)
気づけば指の数が増えていた。
美しい手の持ち主が両手でペニスを刺激し始めたのだ。
そして彼はあることに気づいた。気づいてしまった。
◆
(この手、なんだか見たことあるぞ……
すべすべしてて、真っ白で、いつも隣で見ているような……隣?
あ、あああぁぁっ! まさかこれって!?)
全体的につやつやしたコーティングが施されている爪。
その中で唯一、控えめに装飾されている小指のネイルアートに見覚えがあった。
さらに右手の甲にある小さなほくろの位置も。
(こ、これ、ミサの手、だ! 俺の隣の席にいるあいつの手に間違いない!)
見慣れた手、知り合いの指だと気づいた瞬間から鼓動が高なり興奮の危険度が増す。
普通の幼馴染だと思っていた相手がこんなタイミングで、自分の感じやすい場所を的確に愛撫している……!
(ミサ、嘘だろ!?
観客からは見えない位置から俺を嫐ってくるなんて!!)
かき乱される意識の中で曲に集中すれば、サビがくる手前だった。
何度も歌った曲だから目をつぶってでも歌い切ることはできるだろう。
だが得点については……すでにいつもの彼ではなかった。
(こ、これは……やばいいいいいっ!)
もう点数については諦めた。それよりも、いかに何事もなかったかのようにこの場を乗り切るかを彼は考えていた。
トラオは恥ずかしい声を出さずにいるので精一杯だった。
今後の学園生活のためにも、今の状況を会場の人間に知られることだけは避けたい。
(でも……これ、すげえ興奮する……)
黒いカーテン越しに自分にまとわりつく白い指。
背後からミサに抱きしめられ、観客から見えない位置から伸びる手にペニスをもてあそばれている。
そのシチュエーションに感じてしまっている自分が許せなかった。
快感をこらえるのに必死な顔をカメラで映されているのだ。
恥ずかしくないわけがなかった。
(ミサのやつ、俺の弱いところを完全に把握してやが……
ああっ、だめだ! そこばかり責められたらっ、出る……!)
快感に流されてガクガク震えだすトラオの腰を、ミサが後ろから押すようにして姿勢を保たせる。
ニュルニュルとした指の表面でカリと裏筋を何度もこすりつけ、我慢汁を薄く伸ばしながら硬さを確かめるように愛撫を続ける。
興奮と恥辱で顔を真赤にしながらなんとか歌い続けるトラオ。
だがもはや絶え間なく流し込まれる快感に思考を支配され尽くしていた。
(腰が、全身がしびれて、何だよこれ……集中できない!)
ミサの指使いによって全身が骨抜きにされかけている。
その時、背中越しに彼女の声が聞こえてきた。
(フフ、気持ちよくなっちゃった?)
チラリと視線を右下に落とすと、黒いカーテンから顔を出して、目一杯イタズラな表情をしたミサと目があった。
彼女も興奮しているようで少し瞳をうるませている。
(くそ、こいつ可愛い……のに、なんてことを……ッ!)
悔しさと恥ずかしさと、ミサへの愛しさが混じったような感情。
でも今は周りの目がある。
歌が終わるまで集中しなければならない。
(ずいぶん可愛いお顔になっちゃってましゅね~、トラオくん♪)
(ミサ、や、やめろ、見るな!)
その必死のアイコンタクトを受け取ったのか、ミサの目がさらに細くなる。
ゆるく握りしめたペニスを先端だけむき出しにするように持ち直し、ミサはもう片方の手のひらを亀頭に被せた。
(そろそろ我慢するのも大変そうね。
でも見守っててあげるわ。アンタがこの手に屈服する瞬間まで)
むき出しになった先端部分を柔らかな手のひらで揉み込んでいくと、トラオの表情はますます切ないものへと変わっていく。
皮をしっかりと根本まで引っ張り、ミサは白い指先で優しく彼自身を下から上へとなぞりあげた。
(はうううううぅぅぅっ!!)
必死で声を殺すトラオ。
(ぷぷっ、一生懸命我慢してる。無駄なのに)
指先でなぞられただけで、再びトラオは膝が折れそうになった。
だがミサはそこから指を増やし、人差し指と中指の間に亀頭を挟み込んでひねりを加えてきた。
(今からこの弱~いおちんちんをますます敏感にしてあげまーす!)
クチュクチュと音を立てながら手首を利かせて彼を犯してゆく。
この責めを「亀頭磨き」とミサは呼んでいる。
カギ状に折り曲げた指先で亀頭をフックしてから、表面を痛くしない程度に擦りつけたり、ドアノブを回すようにひねると男は悶絶する。
トラオも例外ではなかった。
(やめろっ、やめろやめろやめろおおおお!)
祈るように首を振る動作は不思議とカラオケの曲にマッチしていた。
(音程外れてるよ? みんなの前で恥をかかないようにしてね)
言葉で彼を縛りつつ、指先のテクで彼を追い詰める。
ミサに腰を抱かれながらトラオはひたすら曲が終わることだけを祈った。
そしてもうすぐ最後のリフレイン。
(アタシも応援してあげる。しこしこチュッチュ♪ カリ首ぺろ~ん)
ミサの指はその言葉をなぞるようにうごめく。
カリ首を何度か舐めるように弾いて快感を与えてくるのだが、指の動きが優しすぎてトラオはそのたびに射精を覚悟する。
まるでフェラチオのように柔らかく、男の感じるところを知り尽くした憎らしい指の動きだった。
(あああああああああああーーーーーーっ!!)
(んふ、ペロペロされてる想像しちゃうよねぇ。
じゃあそろそろ気持ちよくなろっか?)
もはや射精寸前まで追い詰められたペニスを、ミサの手のひらが握りしめた。
先端を三本の指覆いかぶされた上でクチュクチュと甘く刺激され続けている。
(最後は曲に合わせて……そ~れっ!)
演奏の終わりに合わせてミサは指先で輪を作り、亀頭をキュッと揉み込んできた。
くにゅううッ!
(ひああああああああああっ!!)
ビュクビュクビュクビュクウウウウウーーー!!
射精の瞬間、あまりの刺激に膝から崩れ落ちたトラオだったが、観客には歌い終わった彼が背後のカーテンに引っ込んでいく演出に見えた。
拍手の中、ミサに抱かれてカーテンの後ろでへたり込むトラオ。
散々な点数だろうと思われたが、それでもカラオケの評価は80点だった。
そして出し物が終わり、楽屋裏でトラオがミサに詰め寄っていた。
「どういうつもりだよミサ!」
「ま、アンタにしては上出来じゃない? 点数はアタシに及ばなかったけど」
「うるせえ! あんな汚い手を使いやが……ううっ!!」
言葉を遮って、ミサは見せつけるように自分の手のひらを彼の前でヒラヒラさせた。
「汚い手? ど・れ・の・こ・と?」
「い、いや……そ……」
「ふふっ、アタシの手でヒイヒイ言わされてたのは誰だったかなぁ」
ミサはそのまま手を前に出してトラオの頬に触れる。
彼が身動きできないのを確認してから両手で顔を包み込む。
「素直になったほうがいいんじゃないのぉ?」
「う、ううううっ!」
悔しそうに睨めつける彼に向かって首を傾げながら、手のひらで顔を撫で回す。
細い指先を耳穴に入れたり、唇を撫でたりして意識をそらす。
「アンタの可愛いおちんちんもこうやって可愛がったんだよ~」
「ふああぁ、ぁ、あ!」
ミサは指先をフルに使って彼の顔だけでなく首筋、肩、そして胸も撫で回し、ゆっくりと手のひらを下腹部へとおろしてゆく。
それらすべてが終わるころ、トラオはすっかり蕩けた表情になっていた。
「そろそろ欲しいんでしょ?」
「んあ、あ、はぁぁぁぁ……」
「すっかり可愛くなっちゃって。いいよ、イかせてあ・げ・る♪」
手のひらを逆手に変えて、ミサは膨らみきった部分を包むように指を這わせた。
次の瞬間、トラオの体は今までで一番激しく波打ち、無意識に彼女の両肩に手をおいてしまった。
「うああああああああああああああーーーー!!」
ビュクビュクビュクウウウウッ!!
「んふっ、いい顔してるぅ♪」
彼女にそっと触れられただけで射精してしまい、情けなく緩んだ表情までもしっかりと見られてしまった。
「く、くそっ! 覚えてやがれ」
「ふふふ……いいよ。ずっと覚えててあげる♪」
トラオはその先も何度かミサにリベンジを試みる。
しかしそのたびに射精させられた時のことを思い出してしまい、彼女にカラオケで勝つことはできなかった。
◆
【エピローグ】
一ヶ月後、トラオはミサの部屋へと招かれていた。
白と緑色を基調とした落ち着いた内装の部屋で、彼らは体を重ねている。
正確に言うならば、トラオの背中に覆いかぶさるようにしてミサが動きを封じていた。
「はぁ、はぁ、ミサ……お前の手、やっぱりズルすぎ……」
「虜になっちゃうよね。アンタはきっとこうなると思っていたわ」
余裕たっぷりの声で囁かれたせいでペニスの先端から我慢汁が爆ぜた。
耳元で彼女の声を感じながらの手コキはトラオにとって定番の責められメニューとなっていた。
トラオはミサに刻みつけられた快感が、白く美しい指の感触が忘れられなくなっていたのだ。
「ミサ、それっ! 気持ちよすぎて……ぅ、あああ、ま、また出――、」
「普段はイキってる割に、じつは純情だもんね。トラオ」
んちゅ……
ミサは彼の顎に指を添えて、クイッと自分の方へ向けさせてから唇を奪った。
もちろん手コキは継続したままだ。
指先には決して力を込めず、割れやすい電球を磨くように丁寧に彼の敏感な部分を撫で回してゆく。
同時に唇を与え、舌先を断続的に彼の口内へ突き刺して蹂躙してゆく。
抱きしめているトラオの体がますます緩んでいくのをミサは感じていた。
「この間と同じようにたっぷりかわいがってあげるよぉ……
クラスのみんなにバラしちゃ駄目だからね?」
恍惚とした様子の彼を見ながら優しく微笑む。
今日もたっぷりと焦らしてから射精させるつもりだった。
すっかり脱力した彼を抱き支えるようにしながら、ミサは再び顔を近づける。
昔から知っている間柄の相手が自分の目の前で恥ずかしそうに息を荒くしている。
(かわいい……)
ミサは体の芯が熱く蕩けていく感覚に身を任せ、もう一度口づけをした。
ちゅっ……
「トラオも今日が、アタシとのキスが初めてだったんでしょ?」
「あ……ああ……」
「ふふっ、じゃあアタシと一緒だね♪」
その言葉にハッとしたように我に返るトラオ。
「えっ」
「はじめてキスした相手は、うんと大切にしないと駄目なんだよ」
熱い目で自分を見つめるミサを感じて、トラオの胸が急に高鳴りだした。
「お前まさか、俺のことを……んぐぅっ!?」
その言葉を遮るために、ミサはもう一度キスをした。
照れ隠しにしては少しばかりやりすぎだったかなと反省しながら。
『学園祭の陰謀 ~快楽舞台の裏側で~』(了)