『リムカーラと6つの首輪 ~if 仲里夢香~』



 これは夢。夢なのに。
 わかっているけど覚める気配がしない、最近の僕がいつも見る夢。

 薄暗い洞窟内を照らすのは龍脈から魔力を吸って光る苔。
 断続的に響き渡る魔性の生き物たちの叫び声。
 身につけている兜も、鎧も、剣や盾もすべてが本物。
 そのファンタジックな世界で僕は勇者だった

 頼れる仲間と一緒にモンスターを倒し、敵がいる最深部へ向かう途中なのだ。
 雑魚キャラとは言えどもここにいる敵は簡単には倒せない。
 おそらくここは魔王の住処で、ラスボスの部屋も近いのだろう。
 励ましてくれる仲間たちの前に立って勇者の剣を振るう。

 苦難はあれども全ては順調だった。

 それなのに、突然目の前が真っ暗になった。

「くすくす……捕まえたぁ♪」

 耳にまとわりついてくる甘い声。
 柔らかな感触が僕の感覚を支配していた。
 近くにいるはずなのに遠くに聞こえる仲間たちの悲鳴。
 でも僕は動けない。
 甘やかされて身動きができなくされているんだ。

 これもいつものことだった。この先の展開もおそらくいつもどおり。

 両手、両足、首、腰回りがとろけるように熱くなり、僕は身悶えする。
 でも最後は僕を甘やかす誰かに抱きしめられて動けなくされてしまうんだ。

 抱きしめながら僕を堕落させる誰かには逆らえなくて、ひたすら気持ちよくされて……徹底的に快楽漬けにされた頃にいつも夢はそこで終わる。

 寝汗の不快感と、抱きしめられた余韻を味わいながら僕は目覚めた。

「またか……最近いつも同じのを見る。これには何か意味があるのだろうか」

 ぼんやりした頭で考えても答えは出ない。
 夢を見るたび、覚めるたびに、大切な部分がごまかされている気がした。

 抱きしめてくる誰かを思い出すと股間が痛くなるほど膨らんでしまう。
 無意識に自分があの夢の続きを求めていることに気づく。

 それは良くないことだと直感的にわかるのに……

 わずか数日後、僕はその答えを知ることになる。





 休み明け。学校にたどりついた。
 自分のクラスへ行くと、みんながざわめいていた。

 周りに聞いてみると転校生が来るのだという。
 しかも可愛い女の子だという噂までついて。

 浮足立った男子たちを見て女子は「サイテー」とか呟いているけど、それなら僕にも気持ちはわかる。ちょっと刺激的で興味ある話題だからね。


 そして、いつもより少しだけ遅れて担任の先生が来た。
 後ろについてきたのが話題の転校生なのだろう。

「今日からみんなとクラスメイトになる仲里夢香(なかざとゆめか)さんだ。
 帰国子女ということになる。
 わからないこともあるだろうから、みんな仲良くしてあげてほしい」

 担任から紹介された彼女はペコリと頭を下げる。

(かわいい……)

 真っ先に頭に浮かんだ言葉がそれだった。

 大きな瞳でにこやかな表情。真っ白な肌。
 金髪でもブラウンでもない明るくて、くるんと縦にロールしたきれいな髪。

 片側だけ結んでサイドテールみたいにしているのもポイント高い。
 お嬢様風と言えばそうだけど、近寄りがたい気高さよりも親しみやすさを感じる。
 胸がキュンと締め付けられるような一目惚れに近い衝動だった。

 それは僕に限ったことではなかったようで、クラス内にいる男子のほぼ全員が彼女を見つめていた。中には女子でさえも見惚れていた。

「では仲里さん、そこにいる田仲くんの隣に座ってくれるかな」

(ええええええっ!?)

 このクラスに田仲は一人しかいない。
 つまり僕だ。

 教師の言葉に頷いてから彼女が近づいてきた。
 じっとこちらの顔を見つめられペコリと頭を下げられる。

(か、かわいすぎる!!!!)

 その上品な笑顔と仕草に目が奪われた。
 他の男子たちの羨望の眼差しなど気にならないくらい僕はドキドキしてる。

 彼女が席につくと花のような香りがふわりと広がった。

(どうして僕の隣に……あまり近すぎるとジロジロ見れないじゃないか)

 幸せなのか不幸せなのか微妙な気持ちになる。
 せっかくだからじっくり見つめてみたいのに……うん、別にいいよね?

 そしてチラリと隣を見て僕はギョッとした。
 彼女がじっと僕の名札を見つめていたからだ。

「名前、同じ漢字」

 すっと伸びた指先が僕の名札をツン、と突いた。

「えっ……そう言われればそうだね! よろしくね」
「うん」

 たったそれだけのやり取りで僕はニヤけてしまう。
 彼女といきなり仲良くなれそうだなと感じてしまった。
 痛すぎる勘違いだとしても構わない。
 今の僕は幸せだ。
 我ながら単純すぎるけど嬉しい気持ちが隠せない。

 そんな僕の顔をじーっと見つめながら、彼女がもう一度花のように微笑んだ。


 幸せいっぱいな気持ちのまま帰宅して、ご飯を食べてお風呂に入った。
 明日の支度も宿題も終えて今夜は早寝することにした。

 僕は彼女の夢が見れたらいいなと思いつつ布団に入り、そして叶えた。





 今夜の夢は、最近いつも見ていた勇者モノじゃなかった。
 でも背景というか、僕が立っている場所はいつもどおりに思える。
 魔王の住処、ダンジョン、異世界……違和感がするけどそれでも目が覚めない。

 やはりこれは夢なのだろう。
 そんな事を考えていると、背後からコツコツと歩いてくる人の足音がした。

「田仲くん」

 振り返ると彼女がいた。
 転向してきた帰国子女である仲里さんだった。

 上品な笑みを浮かべた彼女は制服姿ではなく、柔らかそうな素材でできたタンクトップとショートパンツを着用していた。

「仲里さんどうしてここにいるの」

 僕の問いかけに答える代わりに学校で見せてくれた笑顔で彼女は見せてくれた。

「会えて嬉しいよ。でも仲里さんで間違いないよね?」
「そうね。その呼び方でも私は構わないけど……」

 そう言いながら彼女は僕の全身を舐め回すように見て小さく微笑む。
 右足を一歩前に出し、両手を伸ばして僕の手を握りしめてきた。

「えっ」
「また会えたね、勇者クン」

 その呼びかけとつるつるした手の感触にドキンと心臓が跳ねた。
 今夜の夢は妙にリアルさを感じる。

(勇者? 僕が見ていた夢とつながる……彼女は何を知っている?)

 夢の中で僕には数名の仲間がいたんだっけ。
 もしかしたら夢つながりで僕と彼女は――、

 気を取り直して一つこちらから尋ねてみることにした。

「そ、そう言えば僕と仲里さんは名字に同じ字を使ってる……
 もしかしたら僕たち夢の中で仲間なのかもね!」
「ナカマ?」
「あ、ううん、僕と仲里さんは仲良しって意味で……ごめん、変なこと言って!」

 自嘲気味にそう言いながら彼女の反応を窺うと、それは僕が予想したものと大きく違っていた。一笑に付されると思った。そして夢が終わると思った。それなのに、

「田仲くん」

 僕の手を握っていた指先が離れ、僕の頬に伸びてきた。
 確かめられるようにゆっくり撫でまわされ、頬を伝って首筋、そしてもう片方の手のひらを肩に添えてきた。

「うわ……」

 思わず声が出てしまったけどすぐに口を結んで刺激に耐える。
 背筋がゾクゾクするような快感が全身を駆け抜けていく。

「そうだね。私とキミはたぶん運命かもしれない。でも……」

 彼女はそこで言葉を切って、再び視線を合わせてきた。
 こころなしか瞳の奥で炎のようなものが揺れていた。

「あなたは咎人(とがびと)なのよ、勇者クン♪」

 言葉は相変わらず優しいのに僕は彼女に責められていた。
 それだけは明確に理解した。

(とがびと、って……よくないことだよね?)

 彼女の手はゆっくり僕の顔を撫で続ける。こちらの戸惑いさえあざ笑うように、首筋をツツーっとなぞって弄び、僕をからかってくる。

 いつの間にか二人の距離は30センチ以内になっていた。さきほどからずっと触れられている感覚のせいで頭がぼんやりして、こんなに近づかれていたのに気づけなかった。

(なか、ざとさん……本当にきれいな顔だ……
 それに肌も、声も全部鮮明で……これは、夢なのか?)

 リアルすぎる存在感に夢であることを疑う。
 正面から彼女を見つめ返すとそれだけでやばいくらい心臓が高鳴る。

 視線を落とせば、いつまでも見惚れていたくなるような美脚が視界に入る。
 慌てて今度は上を見ると、柔らかそうな胸の谷間や余裕たっぷりに僕を見つめる表情などが飛び込んでくる。
 まったくもって、目のやり場がない。

「う、うう! な、なかざとさ……!」
「苦労してやっと見つけたんだヨ♪ もう離さない」

ぎゅううううっ!!

 その言葉通り、彼女は僕に抱きついてきた。
 二人の距離がゼロになる。

「キミと会うために私はここへ来たの」
「!?」
「もしかして私のこと覚えてない? ふぅん」

 僕の肌に当たる小さなため息。でもそれほど残念な感じでもない。

「寂しいけどそれもいいかもね♪
 また最初から積み上げていけばいいだけだから」

 彼女の目が妖しく光る。
 ダンジョン風だった背景が消えた。

「ここは……?」
「ゆっくり思い出させてあげる」

 彼女にじっと見つめられて意識がピンク色に染まる。
 気づけば薄暗い部屋のベッドの上で、僕は彼女に押し倒されていた。





 決して不快な空間ではなかった。
 ふかふかのベッドと彼女の柔らかさ、それに女の子らしいと重みを感じる。
 でも体が動かせない。
 正確に言うなら動かす気力が消え失せている。

 彼女が次に起こす行動を僕は無意識に待ちわびていた。
 危うげな興奮と期待感……やはりどこかおかしい。

「二人きりだよ。嬉しい?」
「……ッ!」
「キミが興味を持ってくれそうな話、してあげる」

 四つん這いの姿勢で僕にのしかかったまま彼女が語りだす。

「遠い昔、今とは違う世界のこと……
 平和だったニンゲンの世界へ魔族が攻めてきました」

 淡々と語りだす仲里さん。
 その声には不思議な説得力がある。

「豊富な資源が目当てで魔王はニンゲンたちを蹂躙していきますが、
 半年も経たないうちに神の加護を得た勇者が現れました」
「ゆう、しゃ……?」
「勇者は強くて、彼によって仲魔を失う日々に悩み果てた魔王は、
 配下である一人のサキュバスに勇者を堕落させる密命を与えます」

 サキュバス、勇者、聞き慣れないはずの言葉を並べられているのに不思議と否定する気持ちになれない。彼女の話はまだ続く。

「勇者をたぶらかす悪~いサキュバスの名前はリムカーラ」
「ッ!!」

 思わず息を呑む。
 いたずらっぽく微笑む彼女の表情が魅力的だったからというのもあるが、僕の中で引っかかる名前、なぜか仲里さんを連想させられる響き。

「どうしたの? クスクス♪」
「いや、なんでもない……」
「じゃあ続けるね。
 そして彼女は勇者の仲間になりきって、ある洞窟の中で彼を襲います」
「え……」
「リムカーラは魅了魔法で他の仲間を操って、勇者が身に着けていた忌々しい装備を剥ぎ取り、代わりにサキュバスしか扱えない従属の首輪を彼に与えました」

 そのあとも仲里さんから淡々と説明が続いた。

 従属の首輪には命令を強制するために「楔」という機能がついていること。

 形状もいくつか種類があって、手首につけるものや足首や喉につけるもの、そして敏感なペニスへつけるものなどがあり……」

 勇者のそばにいる間に、リムカーラは彼のことを気に入ってしまったこと……

 精力を吸い尽くすことをせずに首輪をつけて虜にする手段を選んだこと。

 ゆっくりと優しく僕に言い聞かせるような口調で彼女は最後にこう告げた。

「ちょうど今、キミの喉元についているものと同じ首輪をね♪」

 仲里さんは自分の両手の親指と人差し指で輪っかを作ってみせた。
 その形はどこか歪んだハート型に見える……なぜか見覚えのある形だった。





 彼女の話に耳を傾けた結果なのかどうかはわからない。
 僕の首にネックレスがついていた。
 少し太めの、ツルッとした手触りの素材でできているそれは、周囲の闇を吸ったように黒かった。

(ちがう、これは首輪だ……)

 夢の世界で認識してしまうと、ネックレスだと思っていたそれが完全に首輪になってしまった。僕は彼女に首輪をつけられたんだ。

「ふぅん、私の話を受け入れてくれたんだ?」
「な、なんで!? なにこれ! どうして僕が……」
「あんなに無防備に聞き入ってくれるなんて意外だったかも。
 自分が勇者だったなんて信じられないよね。普通なら」

 引きちぎれると思った首輪はかなり丈夫で、少なくとも素手でどうにかなるようなものではなかった。
 おそらくこれは金属製だし継ぎ目もわからない。

「素直な勇者様っていうことよね♪」

 にっこり微笑みながら、彼女は四つん這いの姿勢から顔をぐっと近づけて、僕のおでこに自分のおでこをピタッとくっつけてきた。
 サラサラの前髪越しに彼女と密着している……そう考えてまた興奮してしまう。

「キミは知ってるはずだよ。
 勇者は前世を忘れる代わりに自らの力で淫魔の呪いを封印したの」
「前世って……僕の……?」
「リムカーラの支配、邪悪な呪縛から逃れるため、
 今まで築いてきたすべてを失うという代償を受け入れて」

 おかしな話だと言うのに、なんとなくでも理解できてしまう。
 彼女の話は荒唐無稽だし今の僕が受け入れれて良いものではないはずなのに!

「でも結局、それだけじゃ釣り合わなかったの」
「な……」
「彼が力を手放した代わりに手に入れたのは、希望じゃなくて呪いだったの」

 淡々と語っていた彼女の声色が僅かに変化した。
 僕をじっと見つめている表情にも、にわかに笑みが浮かんだ。

「やっぱり彼にも未練があったんじゃないかな。
 その残滓をたどって私に追跡されてしまった。
 だからこんなに遠く離れた次元でも、キミを探し出すことができたんだよ」

 彼女と触れ合っている部分から記憶を流し込まれ、洗脳されているようだった。
 疑問を持っても一瞬で溶けて消え去り、かわりに何かを植え付けられていく。

「僕を探していた……?」
「うん、そうだよ。そしてキミへの確認作業も終わり」

 不意に彼女がそっと顔を遠ざけた。
 ちょっと寂しい気持ちになるけど、何故か安心もしていた。
 あのまま密着していたら興奮しすぎておかしくなるところだった。

「あっ」

 衣装が変わっていた。
 彼女が今まで来ていたラフな服が消え、明るい紫色の水着のような格好に……

「つ、翼!?」
「しっぽだってあるヨ?」

 それがサキュバスだと言わんばかりに誇らしげに彼女は微笑む。

「リム、カーラ……」
「そうだよ。もっと認識して」

 直感的にわかる。
 さっきまでの彼女じゃない!

 正面から見つめられていることに変わりはないが、彼女は僕の両肩を真上から押さえつけている。しかも力が強くて振りほどけそうにない。
 こんなに細い体なのに!

「逃さないよ」
「うううっ、離……」
「もう諦めて私の目を見なさい」

ドクンッ!

「キミは勇者で、私は淫魔」
「ああ、あああぁぁぁーーーーっ!」
「ここまで話せばそろそろキミにも勇者の記憶が戻ってくる頃でしょうね」

 見つめる瞳の奥に模様が浮かんでいた。彼女の目を見ているだけで引き込まれるような、胸の中を焼かれるような……

 あれは桃色のハートだ。
 間違いなくそのせいで僕の気持ちがモヤモヤしている!

「その肉体と精神に強力な封印の力を感じるわ。
 強い刺激で起こせば強い勇者として、相手にふさわしいレベルで瞬時に覚醒をしてしまうのでしょうね。でもそれは私の想定内」

 そう告げてから彼女は四つん這いをやめて、僕のお腹の上にペタンと座り込んだ。
 そしてもう一度前かがみになって、上半身を僕に預けてきた。

ふよんっ……

 彼女のバストが僕の胸に押し付けられて潰れた。
 予想以上のボリューム感と柔らかさ。
 だけどそんなことを気にする間もなく、ひんやりした手が僕の顔を挟み込んできた。

「……シテあげる」
「え、あ、あっ……!?」

 吸い付いてくるような肌の感触にうっとりしてしまいそうになる。
 整った顔立ちがゆっくり近づいてくる!

「一番よわ~い刺激でキミを勇者として起こしてあげる。
 そうすれば、弱い勇者として覚醒してしまうのだから……ね?」

 長くてふわふわの髪が僕の頬をくすぐってきた。
 いい匂いがすると思ったら、今度は彼女のため息が鼻先を包んでくる。

「ふうぅぅぅ……♪」

 吐息も甘い香りで、頭がくらくらしてくる。
 僕の全身から力が抜け落ちたところで彼女はもう一度ほほえみ、
 腕を僕の首に回してきた。それから――

ちゅっ♪

 呼吸を、奪われた……胸が大きくドクンと波打って、声も出せなくなる。僕の顔をくすぐっていた髪を細い指でかきあげ、お構いなしに味わうようなキスを繰り返してくる。

ちゅっちゅ、ちゅう、ちゅ……

 何度も触れ合う唇。
 夢の中なのにひたすらドキドキする。

 甘くて、切なくて、ずっと離れたくなくなるような彼女とのファーストキス……

 そんな彼女の口づけによって、僕の体の奥で何かが砕け散った。

「おっ……」
「う~ん?」

ちゅっ♪

「お、思い出したぞ、リムカーラ! 離れるんだ!!」
「あら、おはよう。勇者くん」

 不敵に笑うこいつは間違いなく宿敵のリムカーラ!
 過去を思い出せば一瞬だった。

 膨大な量の自分の記憶がどんどん流れ込んでくる。

「もう、そんなに怖い顔しちゃイヤ」
「うるさい! 僕はサキュバスなんかに負けない! 今度こそお前を滅してやる」

 至近距離でふざけやがって……僕の手の中に勇者の剣がないのがもどかしい。

 ギラつく瞳でリムカーラを睨む。
 だが彼女は全く意に介さずに言い返してきた。

「果たして今のキミにそれができるかしら。
 首輪の魔力は絶対よ。
 特にこんな近くにいたら抗うことなんてできやしない」

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【敏感】の楔。今のキミには効くかしら?」

 リムカーラが軽く指を鳴らす。
 それだけで体の芯がうずいてきた。

「うあ、あああぁぁ!」

 自分ではどうにもならない疼きに導かれ、僕はゆっくり立ち上がろうとする。
 リムカーラは膝立ちになって僕に命令してきた。

「さあ、手足を広げてみせなさい」
「ッ!!」

 その言葉は僕にすんなり染み込んできた。
 もう一度自分から大の字に横になり、彼女を見上げる体勢をとってしまう。

「いい子ね」

ツゥゥ……

 リムカーラは自分のお腹を指先でなぞっていた。
 淫紋をそっとなぞった刺激がそのまま僕の体に転写される。

「クッ、馬鹿な! くそおおおおっ!」
「うふふふふ……思った通りの強さ、いいえ弱さね♪」

 リムカーラによって簡単に主導権奪われ、快楽を与えられる。
 それが今の僕たちの上下関係を表していた。

「全盛期の勇者くんなら、この程度の束縛には屈しなかったはずだよ」
「なぜ僕が、こんな……ッ」

 ろくに抵抗できずに言いなりにされてしまうのが悔しい。
 それでも抗いつつ自分のステータスを確認すると……
 レベル3!? 初級冒険者クラスじゃないか!

「状況は把握できたみたいね。
 ゆっくり時間をかけて絶望させてあげる」

 リムカーラは振り向き、こちらに背を向けながらゆっくり腰を下ろしてきた。
 柔らかくて大きなお尻で僕のお腹を抑え込む。
 じわりと体重をかけながらクスッと笑いかけてきた。

「私の手のひらが今からキミの下半身を犯しちゃうけど、快楽に耐えきれずに精神が屈したら首輪を一つずつ増やしてあげるわ」

 振り向きながらニヤリと笑うその表情はすでに愉悦がにじみ出ていた。

「いい気になるなよ! お前なんかに屈しないぞ」
「私に覚醒させられた弱い勇者の力でどれくらい我慢できるのか楽しみね」

 両方のつま先を僕の肩に引っ掛けるような体勢、シックスナイン……
 リムカーラによる一方的な責めが展開されようとしていた。





 前かがみになったリムカーラが微笑んでいる。
 目の前で揺れているペニスにそっと顔を寄せ、このまま咥えこんでしまえば間違いなく瞬殺されてしまうだろう。
 しかし彼女はそうしなかった。

「かわいいおちんちん……ふううぅぅぅ~~~♪」
「んあ、ああっ、あああああああーーーーーーーーー!!」

 遠回しだが確実に染み込んでくる快感。
 生暖かい空気が腰回りに滞留して、まとわりついて離れない。

(やばい、たったこれだけで……!)

 しかも催淫効果を持つ微粒子がジワジワと粘膜から染み込んでくる。
 淫魔の吐息は立派な武器だ。
 ニンゲンの理性を溶かし、惑わす効果がある。


 このまま全身を愛撫されたら何の抵抗もできずに精を捧げることになる。
 無防備なペニスを射精させることなど彼女にしてみれば呼吸をするより容易いはずなのにあえてそれをしてこない。

(こいつは何を考えているんだ、わからない……!)

 どう考えても手加減されている。
 それもまた屈辱だった。
 まさか覚醒したばかりの勇者の心を弄ぶことだけを考えているのだろうか。

(負けないぞ、絶対に!)

 歯を食いしばり、快感に耐える。
 すでに彼女の手のひらが下半身を這い回っていた。

「弱いくせにけっこう我慢強いじゃない」
「んくっ、ん、うううぅぅ!」

 淫魔相手に声を出したら負けだ。調子づかせてはならない。

(でも、き、きもちよすぎるうううううぅぅぅ!!)

 つい先程まで覚醒していなかった肉体は敏感すぎた。
 防具なしでリムカーラの手練手管をしのぎ切るには未熟すぎた。

「効いてる効いてる♪」

 両手をフルに使ってリムカーラが腰回りや太ももを愛撫してくる。
 指先は隅々まで、膝の裏や足の甲、さらには指先の一本一本まで丹念に這い回る。

 時々尻尾が蠢き、生暖かい乳液のようなものを吐出していく。
 それが非常に厄介だった。

(淫魔の、ローション……!)

 催淫効果を持つ彼女たち特性の毒。
 それを手のひらになじませ、リムカーラは凄絶に笑う。無抵抗な下半身が淫魔のローションでヌルヌルにされ尽くす頃には、思考力が半減していた。

「もうひとつキミが喜びそうなことを教えてあげちゃおうかな~」

 自らの責めが効いていることを確認しつつ、リムカーラが指先を開いた。
 クチュウウ、という音が耳に響く。そして湯気が立ちそうなその指先で、ペニスを柔らかく握り込んで上下にしごき始めた。

くちゅくちゅくちゅくちゅ♪ しこしこしこしこ♪

「うあっ、あーーーーーーーーーーっ!!」
「もっと鳴いて~?」

ちゅくちゅくちゅくちゅ♪ しこしこしこしこ♪

くちゅくちゅくちゅ♪ しこしこしこしこっ♪

くちゅくちゅ♪ しこしこ♪ くちゅくちゅ♪ しこしこ♪

ぬちゅぬちゅぬちゅ……♪

 不規則に刻まれる快感に悶絶する。
 身をよじろうとしても叶わず、ただひたすら与えられた。

 男の弱みを知り尽くしたサキュバスの指技は、甘い刺激とともに容赦なく肉棒に絡み、しごき、包み込んでくる。

 やがて彼女は太ももにペニスを挟み込んで体を倒してきた。
 大の字になったままの僕に背中を預けるようにして密着してきた。

「勇者くんの左のお耳も責めてあげる」

 リムカーラは右腕を僕の首に絡ませ、左耳にキスをしてきた。

レロォ~♪

「んあッ!」
「ふふふふふふふ♪ もっと気持ちよくなろ?」

 さらに左手で太ももの間から飛び出している亀頭を撫で始めた!

「なでなでシュッシュ♪ ふふふ、きもちいいね~?」
「がっ、あああ、ああああ!」

 ヌルついた指先だけで僕を悶えさせるリムカーラ。
 人差し指と中指の先で左右に亀頭が弾かれ、その心地よさに身悶えする。

ヌリュッ、シュルッ、クニュンッ……

 彼女の腕に抱かれながら、甘い声で囁かれ、太ももと指先でペニスを愛撫され続けている。並の人間ならすでに屈服していてもおかしくない状況だ。

 それでもなんとか耐えきる。僕が勇者であるために!

「すごいねぇ~! さすがにもうギブアップするかなって思ってたけど」
「ハァ、ハァ、だ、だれが、おまえなんか、に!」
「じゃあご褒美あげないとね」

 リムカーラは僕の首に回していた右腕をほどき、体を反転させた。
 同時にペニスも太ももから解放された。

(これで少し、落ち着ける、か……)

 だがそれが甘い判断だとすぐ気がついた。

「じゃあ今度は上半身を撫で回しちゃうね」
「えっ」

ちゅくちゅくちゅくちゅ♪ ヌチュヌチュヌチュ♪

くちゅくちゅくちゅ♪ にゅるんっ♪

くちゅくちゅ♪ ヌチュチュチュ♪ くちゅくちゅ♪

クリクリぬちゅぬちゅぬちゅ……♪

「ああああああああああああああああーーーーーーーーーっ!!」

 思いがけない刺激に先程までより大きな声で喘いでしまう。
 リムカーラの指愛撫が胸板や乳首、脇の下や脇腹などにも及んだのだ。

「見て? 魔力を通した私の手のひらが、キミの魂を性感帯に作り変えて直接気持ちよくしてるの。だから我慢なんてできなくて当然なんだよ」
「な、なんだと……!」
「私がシコシコしてるのはおちんちんだけじゃないんだよ。
 ここって夢の世界でしょ? ということは……うふふふふ♪」

 悶える僕を全身で抱きしめながら彼女が言う。
 すでにお互いにローションまみれで、彼女の息も荒い。
 興奮している証拠だが、それでもこちらのほうが分が悪すぎた。

「私に優しくされて気持ちよくなっちゃうおちんちん……これもキミの魂、それだけじゃなくてスリスリされてる体も、キスされた唇も、私が触れたところは全部キミの弱点になっちゃうの」

 その言葉を聞いて愕然とした。
 リムカーラの言うことが真実なら、こちらに勝ち目なんてほとんどない!

ちゅっ……

「ほら、また弱くされちゃったね?」
「ああぁぁ……ッ」
「私はキスだけでキミのお口から精力を抜き取れちゃうのよ。
 耐えきれずに抜け落ちた力は全部私が吸い取ってあげるからね♪」

 そう言いながら彼女がペニスをそっと握りしめてきた。

「クスッ、どれくらい持つかな」
「んッ!ぐ、ううぅぅぅ!」
「まあ、我慢したほうが気持ちよくなれると思うよ?
 キミの大切な力が私にぜ~んぶ奪われちゃうと困るでしょ」

 さっきの太ももコキよりも絶妙な力加減だ。
 心地よさに思わずペニスが跳ねてしまう。

「ほらほら、一生懸命耐えないと負けちゃうよ~?」

しゅっしゅっしゅっしゅ♪

「うあっ、あああ! や、やめろおおおおっ!」
「ダメ~♪ 手コキでシュッシュして気持ちよさに負けちゃうと、
 おちんちんの先っぽからどんどん力が抜けてくでしょ」

 クルクルと手首を返しながら先端をかすめるようなテクニックがたまらない。
 こちらの弱みを完全に把握している動きだ。
 だがこの快感に身を任せてはいけない。

 快感に身を晒しながら、かつて師匠に教わったことを思い出す。
 窮地であっても冷静であれ。

(心を無にすれば遠ざけられる煩悩はある……!)

 密かに深呼吸をして気持ちを押し殺そうとするが、

「我慢しちゃだめぇ~」

しこしこしこしこしこしこしこしこっ!

 弱点をえぐるような指先の動きが思考を揺さぶってくる。

「ぐああああああああああああああああああああああっ!!」

 わずか数秒、僕の集中力は完全に途切れてしまった。

 リムカーラはそれを許してくれない。
 絶妙なタイミングでこちらの邪魔をしてくる。

「今日は初日だから優しくしてあげるよぉ~?」

 ペニスをしごきながら乳首にキスをされ、全身をなめらかな手付きで撫で回され、時折キスまで混ぜてくる性技。

(こ、これで、優しく……!?)

 苛烈な愛撫を散々与えておきながら彼女はこれを序の口だという。

「あらら、なんだか抵抗できなくなってきたみたい?」
「はぁ、ひぃっ……!」
「じゃあそろそろイかせちゃおうかな」

 にっこり微笑みながら、リムカーラは両手でペニスを包み込んだ。

「ほら、みて? クネクネさせてあげる」
「あ、ああああ……ッ!」
「このままおててマンコにドッピュンしようね?」

 性感帯をとろかす魔力を指先に込め、優しく語りかけてくる。
 同時にペニス全体をクニュクニュ揉みほぐしながら僕を終わりへといざなう。

(駄目だ、もう出るっ! イったらだめなのに、こいつに力を与えちゃ駄目なのにいいいいいい!!)

 どうなるかわかっているのに我慢できない。
 我慢しようとすればそれがすぐに快感にすり替えられてしまう。

「勇者くん、イって?」
「ああああああああああああああ!!!」
「嫌がっても無駄だって。もうイきはじめてるよ、おちんちん」
「え……」

 気が抜けた瞬間、今までで一番優しくペニスがクチュ、っと握り込まれる。
 それはギリギリで我慢できない刺激だった。

「はい、おしまい♪」

ビュルルルルッ!

「んはああああああああああああーーーーーっ!!」

 油断させた瞬間に最後のとどめを刺された。
 サキュバスらしい狡猾な手口。

 手のひらいっぱいに溢れた精液はすぐに彼女の手から吸収された。
 全身から淡い輝きを放ちながら彼女は笑う。

「おかわりする?」

 心配そうに僕を覗き込みながらも、その手は愛撫をやめない。
 今度は乳首と睾丸を指先で弄びこちらの様子を見ている。

「も、もうイかないからな!」
「ふふふふ♪ ま、いいけど。日が昇るまでは私のターンね」
「ッ!!」

 ペロッと舌を出す彼女と正面から抱き合う形になる。
 リムカーラは両腕で僕の顔抱きしめ、太ももの間にペニスを閉じ込めた。

(はやく、朝になってくれ……うあああああ、腰があああああ!)

 挟み込んだペニスを中心にして腰をくねらせ始めるリムカーラ。
 この動きは挿入をイメージしているんだ……心を折るための、いたぶる愛撫。

「今は我慢させてあげる」

 全身を抱かれながらの太ももコキに悶える。
 気持ちよさを刷り込んでくるような無限の時間……

「今度は終わらない射精を体験してみる? 勇者くん」
「なっ!」
「女の子がイかされた時みたいな体験、させてあげるねぇ♪」

 淫らに微笑む淫魔の顔は、僕を強制的に高ぶらせていく。
 ねっとりと円を描く腰使いに翻弄され、たっぷりと精を吐き出したのはそれから一時間以上後のことだった。
 リムカーラにさんざんいたぶられた後、僕はついに気を失ってしまうのだった。





 次の日。
 目覚めは最悪だった。
 どんな夢を見たのかさえも思い出せない。
 一昨日までの勇者の夢、ではなかった。

(すべてがおぼろげで、おかしい……)

 でも登校しなくちゃ……という意識だけが普段より強いのはどうしてだろう。
 僕は着替えて、機械的に朝食を摂った後に家を出た。


 クラスの席について、こちらを見つめている仲里さんに気がつく。

「おはよう」
「おはようございます」

 軽く挨拶をして彼女の名札を見る。
 もちろんそこには彼女の名前が書かれているのだが、

「り、むか……仲里夢香」
「えっ?」
「ご、ごめん! なんだか急に音読みしてみたくなっちゃって」

 慌てて取り繕ったけど、彼女は怒ることもなく上品に笑うだけだった。


 そしてその夜。僕はソワソワしていた。
 なぜか知らないけど不安なのだ。

(このまま寝るのはまずい気が……そうだ、オナニーしよう)

 思い浮かんだのは仲里さんの綺麗な顔だった。
 うん、彼女なら顔だけでイける。
 そう思って準備をしてからベッドに潜り込んだ。

 でも……、

(あ、あれっ、どうして!?)

 右手が動かせなくなっていた。
 そして同じように左手も、どうやろうとしてもペニスをつかめない。

 その代わり、すぐに眠気が襲いかかってきた。
 強制的に睡眠状態にさせられたような感じ。

(これはお仕置きしないといけないかなぁ)

 まぶたの重みに耐えられなくなった瞬間、そんな声が頭の中に響いた。



 僕は昨日と同じ夢の中にいた。夢であることを認識した瞬間、これが昨日の続きであることや、昨日起きたことなどがフィードバックされてきたのだ。

(やばい、このままじゃ……!)

 暗闇からあいつがやってくる。
 その前に目覚めないと僕はきっと――、

「えっ」

 不意に僕の腕がズシリと重くなった。
 両手を見れば力を封じるように大きめのリングが二つ……首輪!?

「それは非常事態だったから無理やりつけただけ。外してあげるよ」

ぱちん♪

 指が鳴る音と同時に手首の重みが消えた。

「キミってさ、なかなかしたたかだよね~」

ぱちん♪

 そしてもう一度指を鳴らす音に振り返ると、リムカーラがふわふわと浮かんでいた。

「寝る前にオナニーすることで無意識に私からの影響を抑え込もうとしたでしょ。
 そんなこともあるかなと思って罠を仕掛けておいたの」
「クッ! まさかあれはお前の……!」
「健気で可愛いなぁ♪
 夜になればそんなの無視されて私に全部奪い取られちゃうのに」

 クスクス笑い出すリムカーラ。眠りにつく前に僕がオナニーしようとした時に阻止したのはこいつの仕業だったらしい。

「勇者くん、現実世界でも私にいじめられたかった?」
「そんなわけあるものか!」
「まさかその程度の祈りで私との縁(えにし)が断ち切れると思ったのかな?」

 いつの間にかリムカーラが間合いに入っていた。
 でも僕は拒めない。
 両手首と喉元が妙に熱い……そうか。

 近づかれるだけで頭がどんどんぼやけてくるのは、リムカーラのせいなんだと気づいた時にはもう遅かった。

 両肩に手を添えられる。顔が近づいてくる。

 目が離せない。ドキドキしてくる……

「私の声を聞いてるだけで興奮してきちゃうでしょ。不思議だよね?」

 わずか数センチの距離で彼女が言った。
 その表情が可愛くて見惚れてしまう。

(み、りょう……チャームだ、これ……)

 わかっているのに外せない。
 淫らな魔術だと理解しているのに拒めない。

 勇者としてのレベルが低すぎるんだ。
 だから僕は――、

「そのおちんちん、もう完全に私のものだから」

ちょんっ♪

「あはあああああああああっ!!」

 人差し指で軽く裏筋をえぐられた。
 ただそれだけなのに、尋常じゃない量の我慢汁が弾けた。

 もう僕は射精寸前だ……

「あはっ、よわ~い♪」
「こ、こんなはずじゃ……」
「女の子に負けちゃうシーンを想像するだけでたまらない?
 イっちゃいたくなるよねぇ」

 そんなことはない、と言おうとしても力が入らない。
 むしろ逆に体が熱くなって、リムカーラの言うとおりにされちゃう……なぜ?

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【反転】の楔。たとえば、抗えば抗うほど
 体が気持ちよくなるように暗示をかけられてるとしたら?」
「えっ」
「キミ、昨日の最後の方は気絶しちゃったよね。だからやりたい放題でした♪」
「お、お前……!」
「何も知らないキミは今日も全力で抵抗するけど、実はそれ自体が罠で……
 すべて私の手のひらの中だとしたら?」

 リムカーラの手が僕を優しく包み込む。
 ペニスをできるだけ刺激しないようなフェザータッチで、本当に緩く、優しく。

ビクビクビクビクウウウッ!

「あ、あ、うわあぁぁぁっ!!」
「逃さないよぉ?」

 腰が震えたせいでペニスが彼女の指に触れる。
 自分から擦りつけたい衝動を押し殺すだけで精一杯だった。

 それなのに、

ツンツンツンツン♪

「あっ、あっ、あっ、あああああ!」

 リムカーラは指先を曲げて、爪の先だけで僕をいたぶり始めた。

 こんなに優しい刺激なのに抗えない! 悔しいのに、恥ずかしいのにこいつの思うままにあしらわれるなんて屈辱だった。

「刺激が優しければ優しいほどキミは抗えないんだよ?」
「な、なんで、そんな……」
「ゆっくりゆっくり時間をかけて、こうなるように作り変えてあげたの。
 だからキミは私からの誘惑に勝つことはできない」

 人差し指がそろりと玉袋の繋ぎ目をなぞった。
 優しすぎる快感に心が溶け落ちていく。

「前世の記憶とリンクさせちゃえばあとは簡単だったよ?」
「ぜ、ぜんせ……」
「そう、私の前でキミはすっかり負け犬の変態くんに成り下がっちゃうんだから」

 頭の中で何かが、記憶のカケラが蘇……った。
 勇者である頃の僕が彼女に与えられた快感の数々。

 面白半分に、気分次第に責められた日々の記憶。

「もっと思い出して? 朝が来たら忘れちゃうんだから」

 今まさに施されている指の動きは、当時の自分が何度も屈服した性技だった。

(こんなの、我慢できない! そうだ、いっそ忘れてしまえばいいッ)

ぎゅっ……

「え?」

 解決策を思いついたのと同時に両手が握られた。
 リムカーラの細い指先が告げる、僕を逃さないという強烈な意思表示。
 でもこれは指と指が絡み合う恋人繋ぎ……

「精神統一なんてさせないよぉ? レロォ♪ ちゅぷっ」

 さらにリムカーラの甘い声が耳に絡みついてきた。

かぷっ……

「ひゃうううううっ!?」

 右の耳たぶを甘噛みされ、その後舌先で首筋を舐められた。
 さらに彼女は喉元にある首輪をペロペロ舐め始めた。

(な、なんだ……だんだん耳の感度が研ぎ澄まされて、舐められてるだけなのに、まずいっ、これやばいいいいいい!!!)

 優しくペロペロされているだけのはずなのに、すぐに全身をリムカーラの舌でなめまわされているような感覚に変化してきた。

「……淫技、感覚置換・極。さらに」

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【永続】の楔。キミの時間を目いっぱい引き伸ばしてあげる」

レロォ♪ チュパチュパ、チュッチュッチュッチュ……

「ふああああああああああっ!!」

「キミの体中の性感帯をね、この首輪に集中させたんだよぉ……♪」


 間違いなく、認めたくないけど僕は全身を舐められている。首輪に舌を這わせる彼女の熱い吐息と柔らかな唇と、甘い唾液や芳香が僕を狂わせる。

ピチュ……

 リムカーラの舌が首輪の縁をなぞる。すると体を内側からめくりあげられたみたいに気持ちよくて勝手に声が漏れ出してしまう。
 続いて舌の広い部分でベッタリと首輪を溶かすように舐められた。

(い、あああ、うごいて、ないのに、きもちいいぃぃぃ……!)

 永遠を感じさせる焦らし攻撃。僕を痺れさせる舌先は右から左へ、そしてその逆へ……首輪の縁に沿って展開されるその動きがたまらなくて、僕はすぐに限界を迎えた。

「あがっ、ああああ……あああっ、なにこれッ、ふああっ!!」

ビュ、クビュッ、ビュル、ルル、ドプ……

 直接ペニスを触れられていないので、ひたすらもどかしさが続く射精。
 一度吐き出してもペニスの絶頂は止まらず断続的に先端から漏らしてしまう。

(普段より、濃い、あ、熱い、どうして……!?)

 自分で止められない衝動。ずっと腰をヘコヘコ振ってしまう。
 でもそれを止めてくれる人はいない……

「あーぁ、メスイキしちゃったね♪ 楔の効果てきめんだ~」
「え……」

 これがメスイキ、女の子の絶頂?
 下半身が爆ぜ続けていると言って良いくらい反則級の刺激。
 快感が永続する。消えない、消せない!

(声が出せない……ま、またイくっ!)

ピュル……

「ふふふふ、キミは自分に負けちゃったの♪ 両手を見てご覧なさい?」

 ビクンビクンと腰を跳ね上げてる僕を見ながら彼女が手を離した。
 何もなかったはずの両手に、喉元と同じ首輪がガッチリとはめ込まれていた。

「んじゃ、二回戦いこ? 今度はキスだけでイかせちゃおうかな~」

 その後もねちっこく首輪を舐め続けられた。正確にはキスなのだが、性感帯と同化した首輪に何度も何度も何度もキスをされて気が狂いそうになる。

(嘘だ……従属の首輪が増えた……
 くっ! ずるい、性感帯を魔道具に集約して愛撫する技だなんて!)

 現実世界ではありえない魔性の技に陥落してしまった僕は、昨夜と同じように気を失うまで彼女に責め続けられるのだった……。





 その次の日。重い体を引きずるようにして学校へ向かう。
 隣の席にいた仲里さんが心配そうに声をかけてくれた。

「すごく疲れてるみたい。だいじょうぶ?」
「うん、でも、なんだか眠くて力が入らないや……」

 その直後机に突っ伏してしまう。
 自分でも情けないほど集中できない。
 先生に叱られてもうまく謝れないほど疲れ切っていた。
 理由はなぜだかわからない。

 午後には早退を勧められたのでおとなしく従った。
 夢うつつのまま校門をくぐって帰路につく。

 そう言えば帰り際に仲里さんがなにか囁いてくれたけど、僕はその言葉をベッドに入るまで思い出せなかった。



 帰宅後はすぐにベッドへ潜り込んだ。

 そして気づけば静寂と暗闇。おそらくここは夢の世界。
 確実に眠りについたはずなのに意識は妙にはっきりしている。

(なにか大切なこと、悪い意味で、重大なことを忘れている……)

 漠然とした不安に襲われ身震いする。
 その時、僕の背中に優しい声がかけられた。

「おかえり勇者くん」
「あ……」

 振り返るより早く背中を抱きしめられ、耳元で甘く囁かれた。
 僕はこの相手が誰だかわかるけど思い出したくなかった。

「あれ? 震えてるのかな」
「こ、こわい……」
「ふふふふふ、何を言ってるの?」

ぱちん♪

「さあ思い出して。
 キミの首には何がはめられているの?」

 この言葉、聞き覚えがある。なにかのキーワード?
 寝る前にどこかで聞いたけどその時は何も感じなかった。

(なんだこれは、まずい! 暗示が……あああっ!)

 軽い立ちくらみを覚えた直後、膨大な情報が頭に流れ込んできた。

 勇者、そうだ僕は勇者だった……

 でもそれは前世で、今の僕は現実では普通の、

 あ、あれ? 右手が重い。左手も、持ち上がらない……

 手首にリングが!? ちがう、これ、首、輪……

 うわああああああああああああああ!?

 数秒後には現状の把握が済んでいた。

 夢の世界での覚醒。
 それと同時に周囲がほんのり明るくなる。

「リ、リムカーラ……また僕を……!」

 僕は星空のように黒と青と紫が混じったような空間にいた。

「あはっ♪ その顔、いつ見ても最高だよぉ。
 心が折れる瞬間の男の子って、儚くて危うげで可愛いの」

 ほんのり明るさを放つ中心で、クスクス笑いながら僕を弄ぶ淫魔・リムカーラが浮かんでいた。

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【魅了】の楔。キミは私を好きになる」

(ううっ、なんだ、胸が苦しい……ッ)

 思わず手で胸を押さえる。が、不快な気持ちばかりではなかった。

 長い脚を優雅に組むリムカーラの仕草も、ふわふわできれいな髪も、

 余裕たっぷりの表情も、相変わらず真っ白な肌も、淡く輝いてる淫紋も……

 なぜか普段より魅力的に見えてしまう。

 触りたい、感じたい、もっと関わりたい。
 そんな誘惑を気合でねじ伏せる。

「うんうん♪ いいかんじに堕ちてきてるね」
「お、堕ちてなんかないっ!」
「無理しちゃって。一度心を許しちゃえばあとは早いよ?」

 ニヤニヤしているリムカーラを見て闘志を燃やす。
 でもそれ以上に興奮してしまう。

 魅力なんて感じてない、こいつは敵だ、やっつけないと、いけない、のに……

「くっ!」

 思わず目をそらした僕に向かってもう一度彼女が指を鳴らした。

「思い出しちゃえ♪ キミと私のエッチな記憶」

 呪文のようなつぶやき。
 そして昨夜、自分が彼女にされたことが鮮明に蘇ってきた。

「がっ、こ、これ、あはああ! やめろ、おかしくなるうううっ!」
「やめないわ。ちゃんと味わって~♪」

 頭を抱えようとする僕を羽交い締めにするリムカーラ。
 魅惑の肢体が淫らな映像による刺激を加速させる。

「あっ、あっ、あああ!」
「今日も昨日と同じように可愛く鳴かせてあげるよ~」

 映像の相手が自分に密着していることに興奮しないはずがない。

ツッ……

「あうううっ!」

 僕の乳首にそっと指を這わせ、クルクル指を回しながら彼女は笑う。

 抵抗できない。それどころか体が操られて感度が上がっている。
 気づけば僕は膝立ちにされていた。

「そろそろわかったんじゃないかな。
 昨日までは半分くらいしか私に支配されていなかったことに」
「ちがうっ、違う違う違う!」

 しかし、彼女の言うことも一理ある。
 昨日までの自分を思い出すと、まだ抗えていた気がする。

(ま、まさか、日に日に弱くされていくのか……嘘だ!)

「よけいなこと考えるの禁止ー! 集中しよ? ね?」

 覆いかぶさるようにして背後から囁かれると腰の力がまた抜けた。
 聴覚、触覚、視覚、そして……

「えへへ、キスしよ?」
「やめ……」

んちゅ……♪

 味覚までも支配されてしまう。
 溢れんばかりの情報から逃れようとして首を横に振る。
 彼女に溺れていく自分のイメージが広がっていく。

(甘い、こんなキス、駄目なのに……いや、駄目なんだ! しっかりしろッ)

 リムカーラに毎晩調教されて弱体化する自分の姿を思い浮かべてしまったけど、すぐに頭の中から消し去った。
 強く思うと実現してしまうのがこの世界の掟だから。

(でも彼女がすでにこの未来を想定しているとしたら?)

 おそらく僕は抗えないだろう。
 直感的に理解してしまう。

 夢の支配者が自分だとしても、この力を運用しているのは彼女なのだ。

(リムカーラへの対策が取れない……
 せめて前の日に何をされたのか覚えていられればいいのに!)

 膝立ちのままキスをされ、頭の中をかき混ぜられて絶望する僕を、リムカーラが優しく押し倒してきた。
 そして美脚を見せつけるようにしながら空中にふわりと腰を下ろす。

「足コキ、好きだったよね?」
「!?」

 スーッと伸びてくるつま先。
 形の良い足の指が、すでに準備万全のように震えているペニスを撫で回す。

「キミの弱いところ、たっぷり教えてあげる」

クニュ……

「あふううううううううっ!」

 優しい刺激だった。
 少なくとも痛みはなく、僕の反応を確かめながらの片足愛撫。

しゅる、くにゅっ、しゅるるる……

「あはああああっ!」
「うふふふふ♪ かわいいなぁ、我慢しているそのお顔♪」

 空中で浮遊したままの足コキは純粋な快感を用意に紡ぎ出すのだ。

(耐えろっ、朝になれば終わるんだ! だから何も考えるなあああ!)

 頬の内側の肉を噛んで痛みで快感をごまかそうとしたけど無駄だった。
 さっきキスされたせいであごに力が入らない……

「もっと気持ちよくしてあげるからいい声をちょうだい♪」

 もう片方の足がペニスの根本へ添えられた。
 足裏で挟み込むようにしながら、ゆっくりゆっくりしごき始める。

(あああっ、駄目だ! こんなのに、負けるなんて、許されるはずがあああ!)

しゅっしゅっしゅっしゅ……

 激しさの少ない柔らかい足コキを繰り返されたらどうなるのか。

 おそらく昨夜みたいにメスイキさせられてしまう。
 それだけは避けなければと思う。

 あれをされたら身動きが取れなくなるからだ。
 絶頂が長続きするほど彼女を喜ばせることになる。
 淫魔は相手が絶頂すると力を吸い取ることができるのだから。

 しかし、必死で抗う僕をくじくためにリムカーラが放った一言に心が揺らされた。

「かわいくイけたら、足首にも嵌めてあげるわ」
「なっ!!」
「キミの大好きな従属の首輪を、ネ♪」

 脳裏をかすめる首輪の刺激。
 リムカーラに密着されて、首輪をカプカプかじられた日の映像が頭に蘇る。

(ああああああああああああーーーーっ!!)

 頭で否定しても体が反応してしまう。
 記憶に残る快感を呼び起こされ、ペニスが否応なしに固くなってしまう。

「くすっ、だらしないなぁ……そろそろイく?」

しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ……♪

 明らかに先程までより速い足の動き。
 間違いなく射精を促すリズムでリムカーラはペニスをしごきまくる。

「うあ、ああっ、やめろおおおっ!」
「イっちゃえイっちゃえ♪」

ドピュウウウウッ!

 足の先で亀頭を揉み込まれた途端、我慢していたのに精液が吹き出した。

「もう一発♪」

 つま先に浴びた精液を器用に絡め、リムカーラは足裏を交互に動かしながら追撃を仕掛けてきた。

ビュルンッ!

「んああああああっ!!」

 我慢が追いつかない。イかされた直後の追い打ちのせいで一旦すべての精液を出し尽くしたかのように見えた。

 だがそれは地獄の始まりに過ぎなかった。

「ごめんね~。手加減できなかったよ」

 ペロリと舌を出して彼女は侘び、浮遊しながら僕の真上に覆いかぶさってきた。

「許してくれるよね?」

 顔が近い。
 それだけでドキドキしてしまう。

「んふふ、じゃあキスしちゃおっか?」

チュ、プ……

 端正なリムカーラの顔が近づいてきて、僕の呼吸を奪う。
 同時に跳ね上がったペニスは彼女の太ももの内側に幽閉された。

(ああああああっ、きもちいいいいいいっ!!)

 なめらかでムチムチしている淫魔の太ももは、射精を繰り返して敏感になった僕のペニスと相性は抜群だった。
 あっという間に固くされた肉棒が雄弁に彼女を求めていた。

「もうすぐ夜明けみたい。よかったね♪」
「うあっ、ああああっ、動かすのやめてくれええええ!」

ぱちゅっぱちゅぱちゅっぱちゅっ!

「素直じゃないなぁ。あと少しなら頑張れるでしょ」

 ささやきと同時に太ももでスリスリされる。
 快感に悶えても彼女の腕の中、また新たな快感を上積みされる。

 容赦ない腰振りと包容、そしてキスの嵐に意識がとびかける。

(まける、もんか……絶対、僕は負けない……ああああああああッ!!)

 悶えながら必死で抗う。
 これ以上彼女に力を与えるわけにはいかない。

 実体化などされたら本当に始末できなくなる。
 それだけは、それだけは絶対に――

 思いを連ねながら射精を繰り返すうちに、朝が来た。

 リムカーラの体が薄くなって消えていく。
 夜が来ればまた復活してしまうのだから彼女にしてみれば大したことではない。

「今日はまだ気絶してないんだ? えらいえらい」

ちゅ♪

 消えかけた肉体でリムカーラがキスをしてきた。
 その瞬間、ピリッとした電気みたいなものを感じた。

「夢が終わる直前に、キミの気持ちいい記憶はいつも消されているのよ」
「う、ああ、な、なぜ……?」

 消えていく……

 ゲーム機のリセットボタンをゆっくり押されたような感覚。

 周囲の時が止まり、快感が固定されていくみたいな――、

「記憶を消してあげれば頭の中に空白ができる。
 そこへほんの一滴、私への思いを残してあげるの。
 その残滓を求めてあなたは明日も自分からこの世界へ足を踏み入れるのよ」

 消えゆく姿のリムカーラはそう告げた。

 さらに何度かキスを繰り返し、僕の記憶を改ざんしていく。

 夢の中で誰かに打ちのめされたという感覚を残したまま、僕は目覚めるのだった。





 翌日。朝食を食べて登校する。
 昨日ほど疲労感はなかった。

 つつがなく午前中の授業が終わる。

 ただ、クラスで隣の席にいる仲里さんが昼休みに耳打ちしてきた。

「今日も思い出させてあげる」
「えっ!」

 何のことかわからなかったけど、妙に興奮してしまった。
 明らかに狼狽している僕を見ても彼女は何も言わない。
 それもまた不思議だった。

 ――興奮と期待と、少しの嫌悪感が混じったみたいな胸騒ぎが、した。



 その夜。
 夢を意識した途端、僕はすべてを思い出す。
 そして僕の体には5つの首輪が取り付けられていた。

「どうして……あんなに我慢したのに!」
「でも最後は可愛くイキまくってくれたよね」

 首輪がついているのは昨夜の頑張りに対するご褒美だと彼女は言うけど、そんなの褒美でもなんでも無いだろう。

「今夜も私に負けちゃうのがきもちいいって思い出させてあげる」

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【恍惚】の楔。一度でも射精したら、キミはもう動けない」

 リムカーラが指を鳴らす。
 僕の体は勝手に動き出し、膝立ちになった。
 さらに両方の腕が背中に回り、彼女に向かって腰を突き出すような姿勢になる。

「はずかしいねぇ~」

 すべて仕組まれたこととは言え、屈辱だった。
 まるでリムカーラにおねだりしているような自分の姿が悔しい。

ちょんっ

「んあっ!」
「そろそろここの首輪も復活させたいよね」

 リムカーラが指先でこね回しているのは僕の亀頭、カリ首と裏筋だった。

(こんな、雑にいじられてる、だけなのにッ!!)

 技工を凝らした手コキでもなく、ただ指先を伸ばしてクリクリと弄ばれてるだけ。
 ニヤニヤしながら僕を見ている彼女と目が合うと、我慢汁がドパッと溢れ出した。

「キミのほうは準備万端ってことだよね」
「な、なにっ」
「6つめの首輪、つけてほしいでしょ」

 そう言いながら見せつけるように彼女は衣装を脱ぎ始めた。
 浮遊したまま僕に近づいてきて、鼻先でゆっくり美脚を広げる。

 紫色のビキニがするりと太ももから抜けて、僕の脇に落とされた。

「ふふ……最後の首輪、どうやってつけると思う?」

 問いかけながらさらに足を開いて、二本の指で内部を見せつける。
 その淫らな様子に思わずごくりと唾を飲み込んだ。

(嘘だろ……奥までピンク色で、きれいだ……)

 今まで見た中で一番と言ってよいほど、リムカーラの秘所は静謐に見える。
 セックスのし過ぎで使い込まれた様子もなく美しくピタリと閉じていた。

「狭そうでしょ? 男の人を逃さないようにできてるんだよ……」

 リムカーラの言葉が終わると、奥の方からトロリと蜜が溢れ出した。
 そしてきれいに閉じていた部分がクニュクニュ動き出す。

(こんなのに入れたら、絶対に……!)

 イかされる。それも瞬殺されてしまうかもしれない。
 自由自在に腟内を動かせるサキュバスに絡め取られてしまう。
 そんな妄想が頭の中で広がっていく。

 リムカーラの美脚を見ているだけでも興奮してしまうのに、

 キスされたことを思い出すだけでも射精しそうになるのに、

 直接ペニスをこんな蜜壺に閉じ込められたらどうなるか……

「い、入れるのか……」
「うん特別だよ? キミのはオマンコの中でもう一度嵌めてあげる」

 そうだ、過去に体験済みなのだ。
 ただそこの部分だけが思い出せない。

 どうやってハメられたのか、その後の自分がどうなったのか、おそらく記憶を改ざんされているのだ。

(以前と同じように僕をよがり狂わせるつもりなのか……)

 彼女にとってそれが楽しみなのだろう。
 ならば絶対に耐えてやる。

 こいつの思い通りになどさせてやるものか!

「ずいぶん気合入ってるみたいだけど」
「僕はお前になんか負けない!」
「ふぅん、そっか。でも無駄だと思うよ?」
「くそっ、言わせておけば……」
「いちばん大切な部分に服従の首輪をつけられたらどうなるかわかるでしょ」

 ピッと指先を立てて、彼女は笑う。

「おちんちんの敏感な部分が私のアソコに埋もれちゃうんだよ?
 一度入ったら最後、脱出できなくて嬲られ放題のサキュバスおまんこに」
「耐えてやるさ……」
「絶対無理。キミはずっとイキまくり、朝までずっと正気を保てなくなるんだヨ?」

 クスッと笑ってから彼女が腰を近づけてきた。

「じゃ、入れよっか」

 いきり立つペニスの先端に、ちょこんと粘膜が触れる。

「はうっ!」
「ふふふふふ、どうしたのかなぁ~?」

クプリ……

 浮遊したまま彼女に犯される。
 手を後ろに回し、腰を突き出した膝立ちのまま、僕は彼女と結合してゆく。

ズプッ、クチュ……

「おちんちんの首輪はね、ゆっくりゆっくりピストンしながらはめていくの」

 先端が包み込まれた。それだけでもう射精してしまいそうになる!

「ああああ、くそっ! こんなの、ああああーーーー!!」

 必死でこらえると、リムカーラはいたずらっぽく腰を引いて先端の2センチ程度をくわえ込む位置まで戻した。

「もう一度、舐めてあげるね~」

クプ、チュ、チュプ……

 歯を食いしばる。それでも足りない。
 足の指をギュッと握る。
 目をつぶる。

 必死でこらえ続ける僕をあざ笑うように彼女は近づく、手のひらで顔をなでながら僕の耳にキスをした。さらに甘い声で囁いてくる。

「おちんちんを膣内で転がして、おまんこでエッチに舐め続けて、
 きゅうううう~ってしてあげるとね、ふたりの魂の束縛が強くなるんだよ」
「やめろっ、いうなあああああああ!!」

 これ以上頭の中に情報を植え付けられては堪らない。
 だが泣きそうな声で叫んでも彼女は淫らな解説を止めてくれなかった。

「キミだって気持ちいいの、好きでしょ?
 淫魔のアソコでドロドロに溺れて私に翻弄されたいよね」
「があ、ああ、そんなこと、あるもんか! 負けない、僕は望まないッ!!」
「でもおちんちんはもう私にメロメロみたいだよ~? ほら」

ズッ……

「え」

 僕が視線を落とした瞬間を見計らって、リムカーラは一気に腰を沈めた。

「あはっ、簡単に引っかかってくれるの好き♪」

ズチュウウウウウウウウッ!!

 ついにリムカーラに捕食された……
 口を開いて僕自身を迎え入れたのは魔性の肉穴。

(な、なんだよこれっ! うあっ、ニュルニュルが、増えて、絡んで、おかしくなるうううう!!)

 狂おしいばかりの刺激。ペニスの根本が見えなくなるほど深く結ばれてから数秒遅れで、僕に襲いかかってきたのはとんでもない快感だった。

「お気に召して? 勇者くん♪」
「あ、あああ、あ、やめろおおおっ、腰を、動かすなああああ!」
「動かしてないよぉ。まだ入れただけだもん?」

 嘘だろ、まだ動かしてないなんて!
 でも彼女の姿を見ると本当に腰を振っていなかった。
 ただ挿入しただけでこの刺激だなんてありえない。敏感だったペニスがさらに感度をあげられているようだ。

「催淫効果がある淫魔の愛液に直接触れちゃったからね」
「なっ……」
「キミのおちんちん、普段よりも数段硬く、何倍もイきやすくなってるよ?」

 ニコニコしながら恐るべきことを口にするリムカーラ。

(こんなやつに、遅れを取るなんて……ッ)

 悔しい! 今すぐ聖剣で切り刻んでやりたいのに!
 僕の四肢は支配されていて動かせない。

 しかもここは彼女のステージで圧倒的に自分が不利なのだ。

「あら、もしかしてもうあきらめちゃった?」
「そんなわけ、あるかっ!」

 しかし相手は何日もかけて僕に弱体化の暗示をかけてきた宿敵リムカーラ。
 本当ならこいつ相手に精力を与えることなどしたくもない。
 だが心より体が耐えられなくされてしまった。

「犯してやる!」

 へそのあたりに力を込めて、自分から腰をふる。

ズ、プ……

「あんっ、すごーい!」
「ほざけ!」

 わずかながら動かすことができた。だが本当に僅かだ。
 やつに致命傷を与えることは難しい。

「頑張ってくれたご褒美あげちゃう!」
「ま、待てっ、あああああ!」

ドチュドチュドチュドチュッ!

 リムカーラは頬を赤く染め、腕を僕の首に回してガンガン腰を振り始めた。
 密着したままペニスをこね回される。
 前後と上下のピストン、そして腰をえぐるようなグラインド……

「あんっ、あんっ、あんっ♪」
「あがっ、あ、やめ……っ」
「気持ちいい? きもちいい? 勇者くん、私の中でいいこいいこしてあげるからね」

ヌチュッ、クチュクチュクチュ♪

「あああーーーーーーーーーーーーっ!!」

ビュルルル、ビュクンッ、ビクッ!

 次の瞬間、僕はイかされていた。
 全身が石になったみたいに硬直する。あまりの気持ちよさに言葉が出ない。

 リムカーラはその言葉通り、膣内でペニスを四方八方から「いいこいいこ」してきた。
 優しい感触の粘膜で、感じやすい部分を容赦なく何度もこすられてしまった。

「あれれ、もう射精しちゃったの? いいのかなぁ~」

きゅっきゅっきゅっきゅううう~~~

「あひっ、だめっ、やめてええええ!」
「射精の最中ももちろん締め付けるよ。常識だよね」

 クスクス笑っているリムカーラ。
 その膣内の襞という襞が全て僕を喜ばせにかかってきた。

「おまんこに閉じ込められたままでイっちゃうような弱いおちんちんなんて
 連続射精させられて当たり前だし」

 さらに膣奥へ吸い上げるような動き。
 子宮口の柔らかさに亀頭が包み込まれ、揉みしだかれ、屈服させられた。

「硬いだけなら全然怖くないしね? それそれっ」
「ひぎっ、イってる! もうイってるからっ、だめだああああ!」
「そんなのわかってるってば。えいっ」

クキュウウッ!

「んああああああああっ!!」

ビュクビュクッ……

「はい、またイっちゃったー♪」

 さらに何度か僕を射精させてから、ゆっくりとリムカーラが腰を引く。
 結合部からドロリと大量の精液が溢れ出した。

「おちんちんに首輪も定着してるね。おめでとー」

 抜け落ちたペニスはまだひくひく震えながらも健在で、もう一度すぐにでも挿入できてしまいそうだった。
 そしてそのカリの部分に、小さめの首輪がはめ込まれていた……

(完全に、負けた……)

 僕の心は彼女に滅多打ちにされていた。
 それなのに痛みを感じていない。
 悔しさや屈辱を快感にすり替えられてしまったのだ。

 絶望感に浸る僕を見ながら彼女が呟いた。

「そろそろいい頃合いかな……」
「えっ」
「キミの夢の世界が現実とうまく繋がりそうだから、一つにしちゃおうか?」

 リムカーラの問いかけに僕は応えることができない。
 恐ろしい提案だ。
 今の状態で夢と現実をリンクさせられたら……、

「なんのために、そんな、ことを……!」
「ターゲットはキミの魂だよ♪
 過去のキミと同じように私が抱きしめてあげる」

 そして彼女は指先で6つめの首輪を軽く弾いてみせた。

「今なら完全に思い出せるよね? 過去の勇者くんが私に何をされたのか」
「あっ……ああ、あ……うわあああああああああっ!!!」

 頭の中に濁流が、情報の渦が湧き上がってくる。

 僕はリムカーラに愛されていた。

 彼女が望む愛を、無理やり飲まされていた。

 淫らな毒のツボで煮詰められたように、毎日骨抜きにされていた。

 嫌だ、そんな毎日に戻されるのは嫌だ!

 だからここまで逃げてきたのに、ニンゲンの世界で平和に暮らしたいだけだったのに、追いかけてきた……リムカーラにとって僕は最高の獲物なんだ。

 獲物ですら無い、愛玩動物なのかも……



ぱちん♪

「とりあえず、出来上がった指輪を一旦預かるね」

 リムカーラが指を鳴らすと、僕を拘束していた首輪が全て彼女の手の中に現れた。
 体が軽い。今なら逃げられる。

 でも……、

(動けない! どうして!?)

 彼女の前にいるだけで全身に力が入らないのだ。

 そして彼女もそれを承知の上で僕を開放したのだろう。
 ニヤニヤしながら僕を優しく抱き起こし、軽くキスをしてからもう一度押し倒した。

「ま、またやるの……?」
「違うよ。今から大切な儀式をするの」

 どうやらセックスではないらしいが、それ以上に嫌な予感がする。

「儀式?」
「キミの魂の大きさが、例えばこれくらいだとするじゃない?」

 リムカーラは手のひらの上に魔力で小さく光る球体を作ってみせた。
 ふわふわしている様子はまさに魂そのものに見えた。

「これに従属の首輪をつけていくの」
「な……」

 そして手に持っている球体に首輪をはめ込んでいく。

「たて、よこ、ななめ、反対も、丁寧にできるだけ隙間をなくして包み込むと……」

 球体を十字に縛り、さらに角度を変えて覆い隠してゆく。
 リムカーラの手の中で球体の輝きが消えてゆく……

「もしこんなふうに拘束されたら、キミは私から逃げられると思う?」
「うっ、わああああああああっ!!」

 全身に力をみなぎらせ、跳ね起きた。
 僕は恐怖とともにその場から立ち去ろうとした。

(逃げろ、逃げるんだ! 飼い殺しにされてしまう前に!)

 しかし、必死に足を出したその先にいたのもリムカーラだった。
 柔らかな彼女の体に拘束され、また押し倒される。

「ふふっ、ここまできて逃さないってば。
 今からキミはこうされちゃうの。
 最後の仕上げに今までの首輪を一つにまとめて私に完全服従してもらうわ」

 指先に魔力を集めたリムカーラは、光る手のひらを僕の心臓の真上に置いた。
 そのままズブズブと指が沈み込んで、僕は彼女に命を握られた……

「きれい……」

 さっきの球体とは違う本物の魂。
 それは紛れもなく僕のものだ。

 リムカーラは透明なその球体に頬ずりしてから、軽くキスをしてきた。

(あああああっ!)

 さらに何度もキスをしてから、舌先で優しくペロペロし始める。

 僕の全身に甘い刺激がほとばしる。
 魂を直接愛撫されたのだ。今までとは比較にならない快感だった。

「今度は万が一でも逃げられないように、私と溶け合ってひとつになろうね。
 そうすればキミは夢の中じゃなくても私に繋がったまま……」

 優しく球体を撫でられると僕は快感に支配され、透明だった内部が僅かに桃色に濁っていく。やがてその濁りは桃色から薄紫へと変化していった。

「体は射精しなくても、心をちょっといじられるだけで
 何度でもイくことができるようになるんだよ♪」

 すでに僕は動けない。
 全身を快感で支配されたせいで。

「そしてこれが私のコア。
 キミの魂と同じものだよ。今から混ぜ混ぜしようね」

 リムカーラの反対側の手に、桃色に輝く球体が現れる。

「や、やめてくれ……それだけは、たのむからああ!」
「私から脅すような真似はしない。
 それなのにキミは自発的に私へ精力を捧げるようになる」
「だ、誰がそんなことっ!」
「もちろんキミだよ。ずっとずっと捧げ続けるの。悲しいほど忠実にね」

コツン……

「ふあああああああああっ!」

 リムカーラのコアが自分に触れた途端、さらに甘い刺激が襲いかかってきた。

「んっ、私も感じちゃう♪」

 リムカーラはもう一度僕と彼女自身を優しくこすり合わせた。
 少しだけ彼女の中に僕の魂が沈み込む。

「ああああああ~~~~~~~~っ!!」
「きもちいいねぇ♪ 私と一緒になろ?」

 今までみたいな肉体の接触を超えた魂の結合。
 優しい手付きで魂を接触愛撫されるとどうしても感じてしまう。
 喜悦の声が自然に湧き上がり、思考が乱される。


 拒否しなければならないのに心が受け入れてしまうのだ。
 いつしか僕は彼女に屈していた。
 自分から彼女におねだりしてしまった。

「いいよ。望み通りにしてあげる。」

ツプリ。

 魂同士の端が溶け合い始める。
 僕のものより彼女のほうが大きいので、吸収される形になる……

「平日の昼間は見逃してあげる。夢の中で毎晩搾り取るから。
 でもお休みの日は朝から晩まで支配して、休ませてあげない♪」
「そんな……はうううううっ!!」

 魔力が乗った手のひらで、彼女が球体にぐぐっと力を込める。
 僕の魂がさらに深く飲み込まれる。

 同時に彼女と一つになれる感覚に、多幸感に支配されていく。

「あはっ、絶望しちゃった?
 悔しいのに幸せを感じちゃう充実した毎日を送るんだよ」

キュポッ。

 そして、僕たちは一つになった。もう離れられない。

ぱちん♪

「首輪に仕込んだ【結合】の楔。ねえ、私とひとつになろ?」

 にっこり微笑むリムカーラ。
 それを合図に、彼女の手にした首輪が僕たちの球体を包み込み、軽く締め上げた。

「うああああああああああああああああっ!!!!」

 全身が泡立つような快感が収まらない。
 そんな僕を彼女がギュッと抱きしめてくれた。
 彼女という球体の中に僕は存在するのだから。

「これで完了。幸せだね、勇者くん♪」

 リムカーラはそのまま僕に覆いかぶさり、膣内にペニスを招き入れた。
 そしてゆっくりと内部を締め上げ、僕を喜ばせにかかってきた。

(ああああああ、かわいい、きれいだ、リムカーラ……)

 間近で見る彼女の瞳は燃えるように赤く、淫らで情熱的だった。
 僕たちはどちらからともなく口づけを交わす。
 ますます好きになる。
 お互いに離れられない存在になる。

「キミが自力で立ち上がれなくなるまで今夜は膣内で犯してあげる」

 小声で宣言してから、彼女と僕の長い夜が始まった。

 一方的に腰を振られ、フェラで喘がされ、キスと手コキで蕩けさせられた。

 朝を迎える頃には記憶を消され、気絶するのと同時に夜明けを迎えた。


 リムカーラの呪いは強力だった。
 夜になるたび彼女を思い出し、朝になるたび与えられた屈辱と快感を忘れ去る。

 だが微かに残っている夢のカケラが僕を惑わす。毎晩見させられている夢が心地よいものであるという錯覚。夢に逆らってはいけないという暗示。

 これらは仕組まれたものなのに、リムカーラにコントロールされてしまう。





 一週間後。僕は休日に仲里さんに誘われて彼女の部屋にいた。
 初めてなのにどこか懐かしい、そんな部屋に。

「仲田くん、変わったファッションだね」
「そう、かな……」

 彼女が指差したのは黒いチョーカー。 
 近所の雑貨屋で見つけたものだが、なんとなく最近お気に入りで身につけている。

「綺麗ね」

 彼女の指が近づいて、軽くチョーカーに触れた。
 こんなに近づかれたら緊張しちゃうよ……

「僕、首輪……好きなんだ」

 恥ずかしさをごまかすように僕がいうと、彼女は笑った。

「よく似合ってる」
「え、そう? ちょっと嬉しいや」

 褒められて嬉しくなる。
 ますます照れてしまうので、出された紅茶を口に運んだ。

「ねえ、私と付き合ってみない?」

 思わず飲み物を吹き出しそうになった。

(まじ、ですか……?)

 思わず聞き直してしまった。
 さすがに彼女も顔が赤くなっている。

「いいの……?」

 確認すると彼女は小さく頷いた。

 本当に可愛いな……と思う。
 まるでずっと前から好きだった相手みたいに。

「素敵な首輪、今度私からもプレゼントしてあげたいな」

 その言葉に僕も頷いた。誕生日はまだだけど、もしも彼女から首輪をプレゼントされたら毎日身に着けてしまうかもしれない。




 何事もなかったかのように、偽りの幸せな日々が紡がれていく。

 気まぐれな淫魔がその遊びに飽きない限り。



(了)





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