『最強スライムだった私が転生してみたら一見すると普通の村娘だったのでスローライフを送ってみることにした』



 私の名はラムス。
 穏やかなこのフーツ村で両親とともに暮らす平凡な村娘だ。
 いつものように時間が流れ、ゆっくりと積み重なっていく日々。
 このまま特に不満もなく毎日が続いていくはずだった。

 だが転機が訪れた。それはほんの些細なきっかけだった。
 大きな声で母に名前を呼ばれたのだ。
 洗濯物を干している最中に頭痛がして、体の一部が液状化した。
 一瞬何が起きたのかわからずパニックになってしまう。
 悪い疫病にかかって体が腐り始めたのかと思った。
 でも溶け落ちた部分は自分の意志に従って蠢き、原型を取り戻すことに成功した。
 さらにそれからも自由自在に形を変えることができた。
 私はスライムなのだろうか。
 そう考えた途端、さらに頭痛が激しくなる。
 だがそれもすぐに収まり私は前世の記憶を取り戻した。

 私の名前はレベッカ。やはり種族はスライムで、その世界では貴族と呼ばれる存在。強大な魔力は他の追随を許さず、名門クロリス家の……そう、レベッカという名前は後に自ら名乗った偽名で、本名はフローラ・クロリスという名前だった。
 そのさらに前は純然たる淫魔だった。まさに前前前世というやつだ。

 遠い昔のことはそれなりに覚えている他人事に過ぎないのだが、直前の前世(なんだかおかしな表現ではある)について確実に覚えていることがある。私はヤツに倒されたのだ。
 スライムバスターと名乗っていた男に。

 そいつを探し出して血祭りにしてやろうかと思ったが、心中で渦巻くはずの復讐の炎がそれほど生まれてこない。
 せいぜいあの日は任務に失敗しちゃったなーっていう程度の反省。
 強いて言うなら唯一の部下であり友人だったライムともう少しだけ過ごしたかった。
 それ以外にも心残りがないわけでもないが、今の自分に関係ないということでストレスが軽減されてしまったのだろう。
 これではとてもじゃないが仇討ちなんてできやしない。

 ではさらに前世の記憶はどうだ?
 静かに目を閉じて思い出そうとしたのだが全くもって駄目だった。一切思い出せない。

「あっ、元に戻ってるわ。私の体」

 とりあえずやりかけだった洗濯物干しの続きをすることにした。



(とりあえずここまで)


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