『誰もいないはずの部屋でストレス発散しようとしたら弱みに握られて逆らえなくされてしまったお話』
それはゴールデンウィーク前の放課後だった。
ずっと考えていたことを今日実行しようと決めたのだ。
音楽室の扉を開ける。
そこにはいつもどおり立派なグランドピアノがあった。
いつもと違うのはこの部屋に誰もいないということだった。
「さすがに誰もいないよね……」
自分に言い聞かせて安心感を得る。
そう、誰もいない日を選んだのだ。
今日は部活動等でこの部屋が使われることはない。
事前に調べたとおりだった。
穏やかな日差しが差し込んでいる静かな大部屋でピアノの前に座る。
僕の家にあるアップライトのピアノじゃない、去年導入されたばかりの最新のグランドピアノだ。
型番まで調べてあるし、サイズも鍵盤の数も頭に入ってる。
僕はすっと手を伸ばし、ピアノを弾き始めた。
やはりいい音だ。思っていたよりも最高だ!
一曲、二曲、さらに数曲……時間を忘れて演奏してしまった。
満足したところで僕は立ち上がり、入った時と同じ状態に戻した。
僕、星野意織(ほしのいおり)は自覚してる。
おそらく自分がクラスで一番目立たない存在であることに。
そんな僕でもストレスが溜まる。発散したい時は家まで持ち帰ってピアノにぶつけるんだけど、たまには違う場所でやってみようと考えたのだ。結果は上々だ。
荷物を持って音楽室を出ようとした時だった。
「今の演奏キミだったんだ?」
「ひゃああああー!!」
後ろから声をかけられてびっくりした。
振り返るとピアノの右斜め後ろのドアが開いていた。
教務員控室の扉から顔を出していたのは同じクラスの女子だった。
沙都村エリ、という名前だったと思う。直接話したのは今が初めてだ。
彼女もまた目立たない系の生徒だ。とは言え、僕みたいな存在感の薄さから目立たないという意味ではなく、ごく普通であるという意味で。しかもちょっとかわいい。
身長は僕と同じくらい。
女子にしては高いほうだと思うけど、体は細い。
大きな目で僕を見ながらパチパチとまばたきをしていた。
耳より少し下で切りそろえられた髪に差し込む光が反射してきれいに見えた。
何故この部屋にいたのかを問われ、僕は観念して全てを話した。
言い訳する材料すら無いのだ。考えるだけ無駄。
それよりも女子と話すことへの軽い抵抗感、恥ずかしさのほうが厄介だった。
彼女はそんなことはなんとも思っていないようだけど。
聞き終えた彼女は面白そうに笑い始めた。
ほらね、やっぱり笑われた。
「男がピアノ習ってるの恥ずかしくって」
「なにそれ嫌味?
エリには遠回しな自慢にしか聞こえないんですけどー」
自分の呼び方が名前とは本当に居るんだ……
それよりも多少の不満感に似たものを彼女の言葉に感じる。
意味がわからない。
「ここでピアノ弾いてたことを先生にチクるとキミはどうなっちゃうの?」
「それは、大変困る。困ります……」
不法侵入よりも先程話した恥ずかしさのほうが上回るので、と彼女に話す。
沙都村エリの口元がニマッと開いた。
「じゃ、取引しよっか」
「え」
「恥ずかしいなら内緒にしててあげる。でも私に協力すること!」
協力ってなんだろう。不安しか無い。
きっとろくでもないことだ。
でも僕は逆らえないので、その内容を尋ねてみた。
すると……、
「合唱コンクール近いじゃない? だからさ」
彼女の要求を聞き終えて僕は青ざめる。
僕に課題曲をピアノで弾けと。
つまり伴奏ってことだ。
「無理無理無理無理! そっちのほうが恥ずかしいよっ」
首を激しく左右に振って拒絶する。どう考えても目立ちすぎる。
そしてクラス全員にピアノのことがバレちゃう!
「じゃあもっと恥ずかしいこと教えてあげよっかな」
「ふぇ?」
気づけば彼女との距離が縮まっていた。
さっきまでは1メートル以上離れていたのに、今は30センチ以内になって、それがもっと縮まって、
「んちゅ……」
突然、呼吸が、塞がれた。
(柔らかい……こ、これ、キスされてるんじゃ……)
あまりに近すぎて焦点が合わない。でもわかる、彼女の香りと感触、それに、興奮している自分……設定をミスったメトロノームみたいに鼓動がおかしい。
沙都村エリは首を少し傾けて、チュッチュと何度も僕の唇を味わっている。
それがとてもエッチで、心臓に直接キスをされてるみたいで、僕は十秒も絶たないうちにヘナヘナと腰が抜けてしまった。
「これで私にファーストキスを奪われちゃったね。はっずかしー」
息を弾ませる僕に目線を合わせてから沙都村エリはクスッと笑う。
この状況でそんな愛らしい表情をするのはずるいと思う。
(なな、なんで僕にキスしてきたんだ? これは彼女のイタズラか何か、それとも深い考えがあるとか……)
彼女は考えがまとまらない僕を抱きしめ、無理やり立たせるようにしてピアノの椅子に座らせてきた。相変わらず全身と気持ちがフワフワしている僕に向けて再び微笑んだ。
「さらにさらにー♪」
そう言いながら突然僕のワイシャツのボタンを外し始めた!
しかも妙に手際が良くて、あっという間に脱がされてしまう。
「うあああああああああああっ!!」
「乳首かわいいねー」
シャツの下、地肌に彼女の手が潜り込んできた。
僕が逃げないように片手は背中にまで回されてる。
細い指先でコリコリいじられると妖しげな気持ちになった。
「さ、沙都村さん……」
「う~ん? なぁに」
「そこ、さ、さわらないで……」
精一杯の抵抗だった。だがそれが彼女に火をつけてしまったようだ。
「それこそ無理だよぉ。だっていい反応するじゃん、キミ」
コリコリコリコリ……
「ああああーーーー!!」
自分でもびっくりするくらい背中をのけぞらせてしまう。
無意識に空いている手で彼女の肩を掴んでしまった。
まるですがりつくように。
「ピアノだけじゃなくてドMの才能まであったりして?」
ニヤニヤしながら彼女は言う。
あまりの恥ずかしさに僕が目をギュッと瞑ると、彼女がクスクス笑う。
(は、はずかしい、はずかしい! で、でも彼女の指、すごくつるつるしてて……)
それを気持ちいい、とは認めたくなかった。
口に出すことなんてなおさら無理だ。
沙都村エリにヘンタイ認定されてクラス内に広まってしまうかもしれないのだから!
「ま、いいや。そろそろおっきしてるでしょ」
僕の胸を触るのに飽きたのか彼女の手の動きが止まった。その直後、ズボンのベルトが外されて、彼女の手のひらが僕の下半身へ伸びてきたのだ。
(うわああああああああっ、見られちゃうううううう!!)
もがこうとしても無駄だった。
バナナの皮を向くようにあっさりと彼女の目の前に僕のペニスがむき出しになる
ワイシャツの時と同じように、服を脱がせるのがうますぎる!
一瞬驚いたように口を小さく開けた彼女が、うっとりしたような声で言った。
「ふふ、立派……触っちゃお」
細い指先が、さっきまで乳首をいじりまくっていた彼女の指が僕自身をそっと包み込んできた。その力加減は絶妙で背筋に快感がゾクゾクと湧き上がってくる。
「だ……だめえええええ!!」
「あんまり騒ぐと外に聞こえちゃうぞ?」
「っ!!」
彼女の言うとおりだ。僕は声を噛み殺す。
さっきと同じように目をギュッとつぶる。
また彼女がクスクス笑いだす声が聞こえた。
「キミかわいいなぁ。じゃあもっと恥ずかしくしてあげるよ」
「え……」
「エリね、小学校の時にフルートやってたことあるんだ」
薄目を開けた僕の視界に入ってきたのは、ペニスまであと数センチに迫った彼女の唇だった。
(フェ、フェラってやつだ……なんで、嘘だろ……)
美しい同級生の顔がさらに近づき、ファーストキスを奪われた唇がチュッとペニスの先端にキスしてきた。
二度、三度とキスをされ、今度は舌先だけで僕を舐ってくる。
チロチロとうごめく舌先は動きが予測できない蛇みたいに淫らで、それだけで射精しかけてしまう。
片手で髪をかきあげてる沙都村さんの仕草がとても綺麗で、何より僕の敏感なところへキスをしてきたことが刺激的で……この先に待ち受ける快感を期待してしまって身動きが取れなくなった。
「キミのこと、フルートみたいに吹いてあげる。いい音色出してね」
それは歯を立てずにカプッと唇だけで噛まれたような刺激。
彼女は静かに目をつむり、首を傾けて口と指先で僕自身を抑え込む。
(だ、だめだ、これ我慢できないやつだああああ!)
偶然なのか狙ってなのか、それはわからない。
でも彼女の唇と指先が捉えていたのは僕の感じやすい部分だったのだ。
我慢が効かない場所と言い換えてもいい、おそらくこのまま僕は必ず射精してしまうだろう。彼女の体温と、指先と、美しい横顔を感じながら。
そして我慢汁が溢れ、ペニスの先を伝って彼女の唇に到達した時、
「んちゅ、エッチなおつゆ……チュルルッ」
急に口を離し、パクっと先端を咥えこんできた。
そこは唇よりも熱い場所だった。
咥えこまれたペニスにとって逃げ場のない場所。
トロトロした彼女の唾液にまとわりつかれ、しかも舌先は戒めるように亀頭を幾度も優しくいたぶってくるのだから。
(出るっ、出ちゃう! こんなの我慢できないよおおお!!)
勝手に反り返っていく自分の背中、気づけば両手で椅子の端を掴んでいた。
チュポチュポと音を立てながらペニスを頬張って上下に揺れる彼女と偶然目があった瞬間だった。
ビュクビュクビュクビュクウウウッ!!
「んはああああっ!!」
ついに堪えきれず僕は爆ぜてしまった。
今まで感じたことのない盛大な射精だった。
沙都村エリは何も言わず、コクコクと喉を鳴らして精子を飲み込む。
とても申し訳ない気持ちだったが僕はそれどころではなかった。
射精してる間もずっと彼女の口の中ではペニスがチョロンチョロンと舌先にいたぶられ続けていたのだから。
(に、逃げられないっ、これ、気持ちよすぎてだめだよ、また出ちゃう……腰が、我慢できない、力が入らないのにどうして……)
もがいても一向に許してくれない彼女。
あえなく僕は二度目の射精をその熱い口の中でしてしまうのだった……
「エリの演奏途中に全部吸い出されちゃうなんて恥ずかしい~」
やっと僕が落ち着いた頃、彼女はスッキリした表情だった。
「ごめんなさい……」
「じゃあコンクールの伴奏、お願いね!」
にこやかに言い放ってから彼女は僕に背を向けて部屋を出ていった。
これは口封じのための行為だったのだろうか。
その翌日、ホームルームの時間に沙都村エリから合唱コンクールのピアノ伴奏の件で推薦をされた。皆驚いていたけど誰も否定はしてこなかった。
僕はその重責を引き受けた。
帰り道、彼女と並んで歩くことが多くなった。
沙都村エリもコンクールでは指揮者として頑張っていたのだ。
偶然あの日は音楽室へやってきて、教務員控室で先生を待っていたのだという。
そして無事に合唱コンクールが終わった。
やれるだけのことはしたけど順位は三位。
反省会も兼ねて今日も彼女と一緒の帰り道だ。
あの日以来、エッチなことはしていないのだけど自然と興奮してしまう。
前よりも彼女のことを可愛く思えるし、もっと言うなら好意を覚えている。
「順位は今ひとつだったけどさ、ピアノのこと皆に認められてよかったじゃん」
晴れ晴れした表情で彼女が言う。
「う、うん……でもどうしてあんなことを?」
「あんなことって?」
「えっと、音楽室で……したよね」
「あー……あれね、そんなの決まってるじゃん!」
すると彼女は一度うつむいて、それから僕の正面へ回った。
真っ直ぐにこちらを射抜いてくる視線に戸惑う。
「キミ、自分からエリを引っ掛けておいて今さら何を言ってるの?」
「ますますわからないよ!?」
僕がそう言い返すと、何も言わずに彼女が抱きついてきた。
すっと目をつぶり唇を僕に重ねてきた。
チュ……
手に持っていた鞄を落としそうになった。
久しぶりに感じる彼女の唇は柔らかくて、あの日よりも熱く感じた。
(あの日のキミと、ピアノの音色に私はひとめ惚れしちゃったの♪)
キスをしながら囁かれ、一瞬だけ彼女の顔を見ることができた。
それは彼女が僕に初めて見せる照れ笑いの表情だった。
「また聞かせてね……エリと約束だよ?」
そしてまた唇を奪われ、僕は彼女に魅了された。
(了)