これは『女性恐怖症の格闘少年、奮闘する』の二次創作です

第103話 if 『再戦と現実 ~佳菜~』





【ここまでのお話】
 佳菜に敗北してから数日が過ぎた。
 その間に彼女から総太郎への連絡はなかった。
 気持ちが落ち着かない毎日を過ごしながら、総太郎は毎晩のように自分を打ち負かした少女の姿を思い浮かべてオナニーに耽っていた。
 会えない時間が長引くほどに佳菜への思いが募る。
 そして放置されてから六日目の昼過ぎになって久しぶりに佳菜から連絡がきた。





 胸の高鳴りを覚えながら総太郎はメールを熟読する。
 今日の夜に彼女のほうから道場へやってくるという内容のメールだった。

(ずいぶんと急だな……でもようやく佳菜に会える!)

 総太郎は怯えながらも佳菜との再会に心を躍らせていた。
 屈辱感はある。
 しかし喜びや嬉しさを隠すことができなかった。
 この時すでに彼は、無意識ではあるが、佳菜に心から屈服してしまっていたのかもしれない。



 数時間後、佳菜は母親に連れられて総太郎の家にやってきた。

「おにーさん久しぶりだね」

 佳菜を車から降ろすと母親である千尋は軽い会釈をして去ってしまった。
 帰りは佳菜から母親への連絡次第ということになっているらしい。

「どういうつもりなんだ」

 先週とは違う服装の佳菜を見ながら総太郎が尋ねる。
 今日はグレーを基調とした上品な装いだ。
 卒業式などで着てもおかしくないようなワンピースと言えばいいのだろうか。
 気が強そうな佳菜の雰囲気にマッチしていた。

「えへへ、二人きりの時間を作ろうかなーと思って」

 一瞬ドキッとしてしまう総太郎だが、その期待は佳菜の次の一言で崩れ去る。

「というのは冗談で、そろそろあの時の傷も治ったでしょ?」
「あ、ああ……」
「だから今日はチャンスをあげる」

 そう言いながら佳菜が腕を絡ませてきた。
 急激に距離が縮まったことで総太郎は反射的に身を引こうとしてしまう。
 佳菜に敗北したことで女性恐怖症は完全にぶり返しているようだった。

「あたしにリベンジできるチャンスだよ。おにーさんずっと悔しかったでしょ」
「そりゃあ……」
「じゃあ決まりだね!」

 佳菜がグイッと腕を引っ張る。
 少女らしからぬ膂力は秘法によるものだろう。

 これは彼女から自分への威嚇に間違いない。
 どのみち拒否権はないのだと総太郎は覚悟を決めた。



 道場に佳菜を招き入れた直後、

「おにーさん、ちょっと着替えちゃうね」
「こっ、ここでか!?」
「うん、そう。だから後ろ向いてて」

 ぱちんと可愛らしくウィンクをして、彼女は警戒する様子もなく衣服を脱ぎだした。
 あわてて総太郎は佳菜に背を向ける。
 よく見ると小さなスポーツバッグを手にしていた。

(あの中に着替えが入っているのか。一体どんな格好を……まさか!)

 何故か過去にプールでたまたま佳菜に遭遇した時のことを思い出してしまう。
 さすがに競泳水着に着替えることはあるまいと考えた時、

「もうこっち向いていいよー」
「随分と着替えるのが早い……ッ! なっ!」

 着替えと言っても予め着込んでいたようだ。
 足元には綺麗にたたまれたグレーのワンピースがある。
 そして、着替えを終えた佳菜を見て総太郎は驚きを隠せなかった。

(な、なぜこいつ、この格好を……)

 佳菜はオレンジ色のタンクトップと黒のスパッツを身にまとっていた。着替え前と同じなのは白い靴下だけである。長い黒髪は激しい動きでも邪魔にならないようひとつに束ねられている。

「ふふふ、似合う? 今日は動きやすい格好でやらせてもらうから」

 彼女にしてみれば単純にそうかも知れないが、総太郎にとってはトラウマを呼び起こすのに十分な装いだ。

(よりによってその格好かよ……)

 色違いとは言え、総太郎の脳裏に浮かんだのはかつて自分が敗北した少女の姿だった。 偶然だと信じたい。
 この組み合わせは佳菜が狙ったものではないと信じたかったのだが――、

「そんなに見惚れなくてもいいのに。エッチ~」
「ちっ、違う! そうじゃないんだ……」
「ふふふ、知ってるよ~? おにーさん、こういうコーデをした冴華ちゃんにボロ負けしたんだってね」

 やはり佳菜の背後には冴華がいるようだ。
 そうわかると不思議なもので神倉流に対しての闘気がみなぎってくる。

(目の前にいるのは年下でも冴華の一門なんだ。負けられないんだ!)

 ふつふつと湧き上がってくる気合を早く佳菜にぶつけたい。
 そして今日こそ勝利を手にしたいと総太郎は強く思い込んだ。

「そんなにガン見するほど気になる? この間おにーさんに勝ったご褒美に冴華ちゃんがプレゼントしてくれたんだよ」
「なんだと、冴華が!?」
「気後れしてる場合じゃないと思うけど。またおにーさん、あたしにボコボコにされちゃうよ」

 そう言ってから佳菜は腰を落として身構えた。
 すでに戦闘モードになっているようだ。

「くっ、いくぞっ!」

 短い時間で呼吸を整えた総太郎が佳菜を睨みつけた。

(冷静に、さっきのは挑発だ。佳菜の動きを見切って最初の一撃入れてやる!)

 集中力を高めていく総太郎をあざ笑うかのように、佳菜は余裕たっぷりでニヤニヤしている。

「今日はどんな攻めを見せてくれるのかな。おにーさんは」

 じりじりとすり足で佳菜に近づく総太郎。
 警戒しつつも軽いステップを踏み始める佳菜。

(俺の間合いだ。こちらから攻めるっ!)

 総太郎の右足が畳を強く蹴る。

「はっ!」

 それは絶妙なタイミングで相手の動きを先取りする一撃。
 視線のフェイントを交えて繰り出された右のパンチは、見てから判断したのでは間に合わないほどの速さを備えた踏み込みだった。

 相手が佳菜でなければ。

「よっ!」

 力強い拳が鼻先に当たる寸前で佳菜は拳と同じ速度で後退した。

「な……」

 兎脚法を発動させた見事な回避だった。
 佳菜は空振りした総太郎の拳をチョンと小突いてから距離を取る。

「ふふっ、遅い遅い」
「くっ、逃がすか!!」

 懸命に追いかける総太郎だが、紙一重で佳菜は彼の攻撃を捌いてゆく。
 時々手のひらでパンチを内側へそらしたりしながら、決して自分が被弾するポジションには身を置かない。

(バカな! 前よりも速くなっているなんて)

 目の前で揺れるオレンジのタンクトップに総太郎の拳がなかなか届かない。
 相手に触れることができないもどかしさに苛立つばかりだった。

「あたしに手加減してくれてるの? 優しいなぁ」

 そのまま一分が経過しようとした頃、総太郎が大きく息を吸い込もうとした瞬間を狙って佳菜が踏み込んできた。

「ていっ!」
「ッ!!」

 瞬時にそれが自分の目を狙った鉤突きだと判断した総太郎は、とっさにガードを固めるのだが、彼の防御が生み出した死角を利用して佳菜は攻撃を変化させた。

「たああっ!」

ゴキィッ!

「ぐあああああああああああっ!!」

 総太郎は絶叫する。
 想定外の箇所にダメージを受けてしまった。

「効いたでしょ。秘法を乗せた佳菜ちゃんパンチの威力はどうだった?」
「くそっ、ふざけたことを……!」

 顔面狙いだった拳を、佳菜はそのままの勢いで彼の太ももに命中させた。
 足の付根よりも膝に近い場所ではあったが防御しづらいことに変わりはない。

 弛緩した筋肉に太い木杭を打ち込まれたような痛みだ。
 膝から崩れ落ちそうになるのを懸命にこらえながら総太郎は佳菜を睨みつけた。
 背中には痛みを堪える脂汗が滝のように流れている。

(まずい、フットワークを殺されちまった。回復までなんとかしなきゃ)

 脚を引きずる様子を佳菜に見せるわけにはいかない。弱みを見せたらますますつけあがる相手には平気なふりをしながらやり過ごすしかないのだ。

「あれあれ~、まだ動けるんだ? すごいねー、おにーさん」
「当たり前だっ!」

 軽くジャンプをしながら総太郎は佳菜めがけてジャブを放つ。
 しかし首を軽くひねったりしゃがんだりしながら彼女は難なく攻撃を回避する。
 ずっと間合いは総太郎に有利なままだと言う事実も彼を焦らせる要因の一つだった。

「くそっ、あ、当たらない!?」
「ほらほら、鬼さんこちら~」

 佳菜は至近距離で細かいステップを踏みながら総太郎を幻惑する。
 手を伸ばせば届く距離なのに捕まえられないのは屈辱的だ。

「このっ!」

 総太郎は佳菜に近づいて最速の拳を放つのだが、

「はぁはぁ、ちくしょう……」

 彼が拳を放つのと同時に佳菜も兎脚法を発動。
 踏み込みと同じ速さで後退するので被弾することがない。

 ベストコンディションならリベンジできると思っていたのに届かない悔しさ。
 総太郎の胸に絶望感が静かに積もり始めていた。

(なんてやつだ、これじゃあ当たらない!)

 果敢に攻める総太郎を軽々と回避する佳菜。このやり取りが数回繰り返されたあと、佳菜は一旦距離をとって正面から総太郎に宣言する。

「今からおにーさんを佳菜にメロメロにしてあげるね」

 右手の人差指と中指を見せつけるように、逆ピースを決めながら無邪気に微笑んだ。

「なんのつもりだ?」
「おにーさんの相手はこの指だけでじゅうぶんってことだよ!」
「え……」

 呆気にとられる総太郎の虚を突いて、佳菜が兎脚法を効かせて踏み込んできた。

「いくよー!」

 一秒にも満たない攻防だが回避か防御をしなければ厄介なことになるのは明らかだ。

「くっ、速い!」

 総太郎は回避も防御もせずに彼女を迎え撃った。力を込めずにジャブの速さで左フックを佳菜が到達するであろう場所に打ち込んだ。

(これでいい! 威力がなくても相手が勝手にぶつかってきてくれるのだから)

 総太郎は内心ほくそ笑んでいたが、予定通りのコースへ佳菜は突進してきたものの秘法を解除して急減速してしまった。

「なっ!」
「えへへ、残念でしたー! はい、罰ゲーム」

 そして総太郎の腕をかいくぐり背後を取る。そのすれ違いざまに、二本の指で彼の股間をそっと撫で回していった。

ツウウゥゥ……

「うあああっ!」
「ふふっ♪ どれくらい我慢できるかな?」

 無防備な股間をいじられ総太郎は悶える。ほぼ一週間ぶりの佳菜の性的ないたずらに体が抗えない。あっという間に半分くらいの硬さまで勃起してしまう。

 だがそれを気力で抑え込み、総太郎は振り返りながら裏拳を放った。
 佳菜はその攻撃を首をひねっただけで軽く回避して、今度は正面から彼と向かい合う

「またハズレー! 罰ゲーム二回目っ」

ツウウウッ!

「ふあああああっ!」

 人差し指で亀頭をデコピンされ、総太郎が前かがみになる。
 佳菜は深追いせずにまた距離をとった。

(こ、こいつ、俺を嫐るつもりだ……まるでヒットアンドアウェイのお手本のような攻め方だ)

 やっとの思いで総太郎が呼吸を整えながら佳菜に向き直ると、彼女は口に手を当てて楽しげに笑っていた。

「こっちも弱いね、おにーさん」

 その一言にプライドを痛く傷つけられた総太郎は狂ったように佳菜に襲いかかる。必死の形相でワイルドなパンチを繰り返し、佳菜に肉薄するものの簡単にいなされてしまう。
 回避すると同時に佳菜は総太郎への罰ゲームも忘れない。パンチを交わす時に脇腹や乳首を撫でてみたり、キックを避けるついでに太ももに触れてみたり、攻防が二分を超えたあたりで総太郎の呼吸はすっかり乱されていた。そして……

「んっと、もう十回目? 罰ゲーム、今度は強め!」

 力強さは残っているものの全くキレのなくなったパンチをかいくぐり、佳菜は二本の指を総太郎の股間に当てながら素早く振動させた。

シュッシュッシュッシュッシュ……!

「あっ、あああああああああーーーー!!」

 衣類越しとはいえ待ちに待ったペニスへの直接愛撫を受けた総太郎は、へなへなとその場に崩れ落ちて膝をついてしまう。

「クスッ、ついにダウン取られちゃったね。あたしは指先しか使ってないのに♪」

 得意げに笑う佳菜を見上げながら総太郎は悔しさに身を震わせた。

(なぜこうまで軽くあしらわれちまうんだ……こうなったら、体ごとぶつけて動きを止めてやる!)

 全身の力をかき集め、素早く立ち上がる勢いを借りて佳菜に突進する総太郎。
 勝負を急いだ彼の胸中を察したのか、佳菜も即座に立ち上がる。
 天才少女の目がキラリと光った。

「やあっ!」

 そしてほんの数瞬、総太郎が玉砕覚悟で佳菜に覆いかぶさろうとする前に、彼女の体が沈み込み、軽く握った左手で総太郎の顎をしたたかに撃ち抜いた。

ガチンッ

「が、は……ッ」

 軽く握った拳のせいで衝撃が突き抜けずにとどまり、脳が揺らされた。
 総太郎の目の前が一瞬だけ真っ暗になる。
 彼が次に見たのは道場の天井につるされた照明だった。

(なん、だ、佳菜のやつ……今、俺に何を、した……)

 理解が追いつかない。
 カウンター気味にキレのあるパンチを受けた。
 それ以外のことがわからなかった。

(ま、ずい、動かなきゃ……やられる!)

 危険を察した総太郎の願いも虚しく、動きが完全に止まってしまう。
 時間にすれば一秒から二秒程度だっただろう。

 だがそれは佳菜が次の動きを完了するには十分すぎる隙だった。

「せいっ!!」

ゴキッ……

「あ、うっ、ぎゃああああああああああああ!!」

 足元から駆け上がってきた激痛で総太郎は覚醒した。
 そして今度こそ彼は少女の格闘技術によって膝から崩れ落ち、うずくまって左足を抱え込むことになる。

「うあ、あああ、膝があああああああ!」
「んふふ、大げさだなぁ、おにーさんったら♪」

 最初に入れた一撃と寸分違わぬ場所へ佳菜は打撃を入れていた。
 しかも総太郎の全身に衝撃が響くように。

「佳菜、おま、え、今なにをした……」
「今のはフツーの掌底だよ。もちろん秘法で強化してたけどね」

 ひらひらと手のひらを振りながら佳菜は再び可愛らしくウィンクをした。
 激痛の中、総太郎は彼女を見上げていた。

(悔しいけど、こいつ、綺麗だ……)

 自分を圧倒する先読みとスピード。そして性的な罰ゲームのせいで股間まで痺れている始末。攻防で必ず一枚上手を取られてしまう美少女を見ているだけでドキドキが止まらなくなる。
 佳菜の細い体の線をきれいに映し出すオレンジのタンクトップとスパッツ姿にも思わず見とれてしまう。そして総太郎にはそれが冴華の姿と重なって見えてしまうのだ。


「ほらほら、早く立ちなよ。これで終わりなんてことはないよね、おにーさん」
「ぐうううぅぅ!」

 佳菜に挑発されて総太郎は立ち上がる。
 しかしすでに満身創痍に等しい状況だった。
 傷ついた太ももの芯がドクドクと心臓のように痛みが脈を打っている。

「これでもうおにーさんはしばらく動けないってわけ。回復するまでサンドバッグにしてあげるからね」

 佳菜は微笑みながら右回りにステップを踏む。
 そして秘法を使わずに総太郎にパンチとキックを浴びせてきた!

「ちぇいっ!」

ドカッ

「ぐっ!」

 総太郎が佳菜の姿を見失った瞬間、横蹴りが飛んできた。
 そしてさらに、

「やあっ、はああっ!」

バシッ、ボスッ!

「がはああっ!」

 総太郎がふらついた先には佳菜が待ち構えており、アッパー気味のパンチを叩き込んだあとで無傷だった脛にローキックをして完全に動きを止めた。

「えいっ、とおっ!」

ガッ、ズムッ……

 くの字に折れかかった総太郎を突き上げるように顎に一撃を入れ、今度はみぞおちに肘を入れる。

 崩れ落ちることすら許さない責め苦。
 佳菜は壁際に総太郎を追い詰めて追撃を重ねていく。

「ぐ、お……」
「まだ気絶しないでよね」

ぱん、ぱんっ! ぱんぱんぱん!

 意識を手放したい総太郎を引き止める無情なビンタは十回以上続いた。

「ぶふっ、あ。や、やめ、あぁっ!」

 泣き出しそうになりながら許しを請うと、ようやく佳菜の手が止まる。

「ふうー、手が痛くなっちゃったよ。おにーさん降参してくれないんだもん!」

 連続ビンタで熱を帯びて自分の手を空気中に泳がせながら佳菜は総太郎を見下す。
 そして痛みと恐怖でビクビクと体を震わせている彼の肩を掴んで横に転がした。

「格闘技でボコボコにするのはこのあたりでおしまいにして、今度はエッチのテクでおにーさんをボロボロにしてあげようかなぁ?」





 淫らな欲望を浮かべた少女の視線に気づいた総太郎は、恐怖と同様に期待を抱いてしまった。自分の実力が佳菜に劣っていることを再び味わうことになるというのに。

「おにーさん、会えない時はなにをしてたのー?」
「そ、それは……」
「言わないとビンタするよ? 嘘もダメ」
「ひいいっ……!」

 前回敗北した時に受けた屈辱と興奮はまだ心と体に刻まれている。

「早くいいなよ、おにーさん」
「お、オナニーしてました……」
「ふぅん? 誰のことを思って?」
「くっ……そ、それは」

 総太郎が涙を浮かべて言い淀んでいると、不意に佳菜の手のひらがそっと彼の頬をなで上げた。

「うふふふ、全部言わなくてもいいよ。意地悪してごめんね?」

ちゅ、ううぅぅ……

 ぷっくりとした少女の唇が総太郎の呼吸を塞いだ。

(ああぁぁ……佳菜ぁ……)

 それは柔らかで心地よいキスだった。全身に広がった痛みが快感にすり替えられるような毒性を持った口づけ。それが自分より強い年下の女子によるものだと感じると、ますます興奮してしまう。

「ここからは優しくしてあげる。あたしの魅力でめろめろになっちゃえ!」
「佳菜ぁ……」
「なぁに? おにーさん」

 総太郎を抱きしめ、覆いかぶさるようなキスをしながら佳菜は微笑みを絶やさない。

(あ、あああ、佳菜、まるで天使みたいだ……でもこいつは、こいつの本性は天使じゃない……けど……)

 今回も格闘で圧倒され、これから性的に蹂躙されてしまうのかという不安と、抱いてはならないはずの甘い期待が入り混じり、総太郎はおかしくなりそうだった。

 彼が迷っている最中も佳菜は愛撫を重ねていた。キスで口内を荒らし、舌の動きで彼を制圧した。小さな手のひらで胸元や首筋、それに腕や背中まで刺激すると面白いように総太郎は良い反応をした。

「じゃあそろそろおにーさんのおちんちんを虐めてあげようかな」

 佳菜はキスをやめ、恍惚とした様子の総太郎の足の間にペタンと座り込んだ。目の前には剥き出しになったペニスが天を仰いでいた。少し強めに刺激すれば射精してしまいそうだ。

「ふふ、今日も大きいねー! いっぱい狂わせてあげるからね」
「う、うううぅぅ……!」

 佳菜が静かに手を伸ばし、指先をゆっくり巻き付かせるようにして総太郎自身を握り込む。刺激に耐えるため、総太郎は両手を後ろについて踏ん張る。その様子が佳菜にはとても健気なものに見えた。彼女はタンクトップとスパッツ姿のままだが、総太郎は愛撫をされながら少しずつ服を脱がされて全裸になっていた。

しゅ、しゅ……

 それはまるで蜘蛛の子が這い回るような刺激だった。細い十本の指を駆使して、佳菜はペニスの薄皮のみを刺激するような愛撫を丁寧に施してゆく。

「こんなふうに優しくされるの好きだよねぇ」

 不規則な動きから一転して指先を亀頭に集め、さわさわと動かしてみたり、両方の手のひらで肉棒を挟み込んでゆっくり上下にピストン、さらにはアライグマのように揉み込んでみたり――、
 佳菜の指技はすでに完成しており、男殺しと言ってよいほどのテクニックだ。

「うあああっ、あああ、佳菜ッ、佳菜ああああああーーー!!」

 思わず声を上げてしまうほどもどかしい刺激が続く。もう少し速くしごいてくれたら、もう少し強く握ってくれたら、すぐにでも総太郎は射精してしまっただろう。しかし佳菜はその加減を完璧に見きっている。生かさず殺さず長時間快楽を与えるのが佳菜の狙いなのだ。

「おにーさん気持ちよさそうだねー。このままじわじわ私の指でイかされてみる? それともオマンコに挿れてみる?」
「ッ!?」

 予想外の提案に総太郎の全身がビクッと震えた。

「まだピンク色で、柔らかくて、他の男になんて見せたことなくて、おちんちんが入ってきたら絶対に気持ち良い場所」
「う、嘘だろ……」
「嘘じゃないよ。おにーさんに処女をあげようかなって」

 総太郎の前に座ったまま脚を大きく広げ、佳菜は見せつけるようにスパッツの上から人差し指で秘所をゆっくりなぞった。

「あはぁんっ♪」

 じわり、とスパッツの一部が潤ったように見える。

(俺がこいつとセックスを……できる、のか?)

 佳菜の艶を帯びた声と大胆な行動に総太郎はますます興奮してしまう。

「冴華ちゃんから話だけは聞いてるから、けっこううまくやれると思うんだけど」

 おそらく佳菜は経験が浅くとも自分を圧倒するくらいのセックスはできるのだろうと総太郎は思った。

(で、でもだめだ! そんなことをしたら俺は本当にロリコンになっちまう……)

 葛藤はある。、だがそれ以上に彼自身が佳菜にリードされるセックスを期待してしまっていた。年下の美少女に圧倒されることに抵抗がなくなりかけているのだ。

 言葉を失う総太郎に顔を寄せながら佳菜が甘く囁いてくる……

「おにーさんのおちんちんを佳菜の中に入れて、ギューってしながらキスしたら、きっと何でも言う事聞いてくれるんじゃないかな」

 じっと自分を見つめる黒髪の美少女。佳菜は将来的にも相当な美人になることが容易に想像できる。そんな彼女の口から次々と淫らな提案が紡がれているだけで総太郎のペニスは限界まで膨らみきってしまう。

「試してみたくない? おにーさん」
「だ、だめだ……お前はまだ……」
「子どもだからなんて言わせないよ。おにーさんこんなに興奮してるじゃん。全然説得力ないって」

ぴしっ!

 そう言いながらペニスの先を軽く指で弾いてみせる佳菜。

「あうううっ!」
「痛くても気持ちいいんだよね。おにーさんってばヘンタイ!」
「ち、ちがっ……」
「ヘンタイの上にエッチでロリコンだし、もうあたし以外では感じない体になってるんじゃないかな? 前におにーさんの体を作り変えてあげるって言ったよね」

 言われてみればそのとおりだった。総太郎は先程から性欲を全く抑えきれずにいる。目の前にいる佳菜のせいだと思いたくなかったのだが、彼女の声を聞いているだけでも体の芯がうずく。ましてやペニスに触れられたのだからたまらなかった。
 彼が目の前の少女に興奮していることはもう隠しようがない。

「覚悟を決めてセックスしよーよ。もしかしたら佳菜のほうが先に参っちゃうかもしれないよ」
「……ッ!」
「そしたら逆にあたしがおにーさんの言うこと全部聞いちゃうようになるかも」

 ウィンクしながら口元を手に添える佳菜を見て総太郎はハッとする。

(たしかにその可能性はある。なんだかんだ言っても相手は処女だ。セックスなら俺にも十分に勝ち目はある!)

 相手は年下なのだ。しかも処女だと宣言してる。
 性的な経験値では確実に自分のほうが上。
 一発逆転が狙える状況なのではないか……総太郎のプライドがそう囁いていた。

「ふふっ、やる気は十分みたいだね」
「ああ。お望み通り受けて立とう」
「じゃあ挿れるよ」

 総太郎の目に光が戻ったのを見てから、佳菜は親指を腰のあたりに滑らせ、スパッツとショーツを脱ぐためにゆっくり立ち上がった。

「あんまりジロジロ見ないでよね。恥ずかしいじゃん」

 少しだけ照れた様子を見せながら佳菜がスパッツを脱ぎ始める。ほっそりした脚のラインからじょじょに剥がされていく黒い三分丈のスパッツは汗に濡れたせいで引っかかりながらずり落ちていく。

(こいつの体、もうしっかりと女を主張してる……!)

 振り返った佳菜は長い黒髪を一つに結んだまま、タンクトップを脱がずに総太郎の前に立つ。顔の前で見せつけるように腰を軽くひねってみせた。

「おにーさんのおちんちん、今からあたしに飲み込まれちゃうんだよ」
「う……は、早くしろ!」
「はいはい。そんなにあわてなくてもいいのに」

 ペロリと舌をだして佳菜はおどけてみせた。
 そこから腰を突き出し、人差し指と薬指で膣口を大きく広げながら中指でクリトリスを軽く撫ではじめた。

クチュッ……

「はぁん、おにーさん……あたしね、一人でおまたをいじる時はこうしてるの……」

 わずかに体を震わせながら少女が喘ぎ始める。

(オナニーだと!? どうして俺の前で……)

 見てはいけないものを見てしまった感覚と、目の前で少女が淫らに解けていく様子を見せつけられた板挟みに総太郎は興奮してしまう。

「ふふふふ、おにーさんの目がエロすぎ……」

 興奮しながらも佳菜は総太郎を観察していた。

 彼女の言葉を総太郎は否定できない。
 ゴクリと息を呑みながらその美しさに目を奪われてしまったのだから。

(い、今から俺はこいつと……)

 相手は年下の少女だ。それなのに興奮が抑えきれない。
 たしかに冴華と比べれば凹凸は少ないのだが、スラリとした手足を逆に引き立たせているようにも見える。

 剃毛すらしていない無毛の秘所なのに、気を抜いたら射精してしまいそうだ。
 挿入前に緊張感が高まる。

 しかし佳菜は何のためらいもなくペニスへ近づけてくる。

ぴとっ……

「ううううっ!」
「どうしたの? おにーさん」

 しっとり濡れそぼった佳菜の秘所にペニスの先端が触れ、さらにひと舐めされた。

「すんなり入りそうだね」

ク、プゥ……

 佳菜がじわりと体重をかけてきた。
 すでに両手は総太郎の肩に置いてある。

 窮屈な入り口が亀頭を押しつぶすように圧迫してくるが、佳菜が大きく息を吸った瞬間にヌルリと先端が膣内へと飲み込まれていった。

「はぁんっ♪」

 佳菜が小さく喘いだ。その直後、

クチュウウウウウウッ!

「うあっ、ああああああああああーーーーーーーーーっ!!」

 総太郎の全身に快感が駆け抜けた。

(あ、あついっ! あつすぎる! 佳菜の膣内、なんだよこれっ!?)

 ペニスだけでなく全身が溶かされるような熱量に総太郎は身動きが取れなくなる。

「逃げないで、おにーさん」
「あ、ああっ、か、佳菜……むぐっ!?」

ちゅううぅぅぅ……

 戸惑う総太郎を抑え込みながら、佳菜は一気に腰を下ろすと同時に彼の唇を奪い、自分の喘ぎをキスでかき消した。しかし総太郎にとってはそれがトドメとなってしまう。

ビュクンッ! ドピュドピュドピュウウウウ!!

(か、佳菜にキスされて、こんなの我慢できない、イくっ、イっちまううううう!)

 目の前で健気に震えながらキスを続ける美少女と、ペニスに絡みながらキュンキュン締め上げてくる彼を喜ばせる名器のせいで興奮が高止まりしていた。
 処女のはずなのに男を喜ばせる手段をすでに知り尽くしているような佳菜の膣内に総太郎は翻弄されてしまう。

ビュクッ、ビュルルッ!

 そしてまた射精へと導かれ、総太郎は全身の精気を佳菜にしぼり尽くされてしまったように畳の上で大の字になってしまった。

「はぁはぁ、いっぱいでるんだね……♪」

 総太郎を見下ろす佳菜の髪は、いつしか髪留めが取れていた。いつものようにサラサラした美少女の髪に見惚れながら総太郎は荒い呼吸のまま動けずにいる。

「あれ? 反撃してこないんだ」
「くっ、あ、ああぁぁ……」

 不思議そうに覗き込む佳菜とは無関係に少女の膣内は貪欲にペニスとの接触を望んでいた。柔らかく撫でるような動きでペニスを萎えさせず、硬さを楽しむように時折震え続けているのだ。

(に、逃げられない……気持ちよすぎて、こんなのって……)

 いったん肉棒を引き抜いて快感を冷ましてやらねばならない。そうしなければと思っても総太郎の体もまた彼女を求めきっていた。

「じゃああたしのほうから動いちゃうね」

ずりっ……ずりずり……

 緩慢な腰使いだが今の総太郎には過ぎた快感をもたらす。
 そして彼はこの追撃を回避することができなかった。

「うっ、いいっ、あがあああ!」
「それそれっ、気持ちいいんでしょ。もっとイっちゃいなよ」

ビュルッ、ビクビクッ!!

 佳菜の言葉に導かれるような射精。
 もはや彼女には逆らえないと総太郎は認識していた。

「せっかっくだから手もつなごーよ。おにーさん」

きゅっ……

 手のひら同士を合わせ、握られる。総太郎はドキドキしながら、ますます佳菜と自分とのつながりが深くなったような気がした。

「おにーさんの弱いところは今までのエッチで全部わかってるから、これからはおまんこの中で虐められるように練習しておくね」

 すでに破瓜の痛みすら感じていないのか、佳菜はゆっくりと船をこぐような腰使いで再びペニスを味わい始めた。

「硬いけど弱いからかわいいんだよ。おにーさんのおちんちんは」

 手をつないだまま佳菜は腰振りを続け、ペニスを蹂躙しながら感じやすいポイントを学習していく。前後と左右の腰振りで総太郎の反応が違うことに気づき、彼の我慢がしづらい方向や締め付けの強さがあることも再確認していく。

「おにーさんのおちんちんそろそろ限界でしょ」
「くそっ、そんな簡単に……」
「うるさいなぁ。ほら、イっていいよ?」

きゅううっ!

「んはああああああああああーーーーっ!!」

ドピュウウウウウウウウッ!!

「ねっ、簡単でしょ? 佳菜の中で何度でも負けさせてあげる」

 こうして総太郎はじわじわと快感を刻みつけられていった。

 しかも今回は今までのように罵倒や苦痛ではなく、純粋な快楽を媒介として少女の体に魂を縛り付けられていったのだ。

 佳菜が満足して腰を上げる頃には、総太郎は完全に彼女の虜になっていた。







第103話 if 『再戦と現実 ~佳菜~』(了)












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