『なぜか元カノが俺の部屋に入り浸っている話』




 例年より早く梅雨明け宣言が出たと思ったらその翌週からずっと雨が続いている。
 異常気象である。
 その日、俺は自分の部屋から外の景色を眺めていた。


「すごい雨だよねぇ。西の方は洪水みたいだよ?」

 窓枠の少し手前に見える栗色の髪。
 俺と同じ方向を見ながらポツリと呟く女性が居る。
 短いポニーテールの毛先が湿気のせいで少し跳ねているようだった。


「これっていつまで続くんだろうねぇ」
「……なあ、お前さ」
「うん?」

 俺の声に反応して振り向いた彼女の名前は谷月海奈【やづきみな】という。
 当然知り合いだし、知り合いよりも親しい関係だったが、

「なんで躊躇いも違和感もなく俺の部屋でくつろいでるわけ!?」

 彼女と俺は3日前に別れたばかりだった。

 別れ話を切り出したのは海奈のほうからだった。
 どちらかが浮気したというわけでもなく、なんとなく別れたほうが良さそうだからという理由で押し切られた。

 このままだときっとお互いに嫌いになるから少し距離を置きたいと言ったのは彼女の方なんだが、現在の物理的な距離は30センチ未満である。
 うちの親にも普通に挨拶するし、今日だってお土産とか言いながら雑誌とスナック菓子を持って俺の部屋に上がり込んできた。お菓子は彼女がメインで消費している。


「くつろいじゃ駄目なの?」
「当たり前だろ。俺らもう恋人じゃないんだし」

 チクリと胸が痛む。少なくとも俺からは口にしたくない言葉。

 ちらりと彼女の顔を見る。
 キョトンとした表情で俺を見つめているのがかわいい。


「恋人じゃないとここに居ちゃいけないって思ってるんだ?」
「お前と話してる俺のほうがおかしいんじゃないかって思えてくるの、すげー不思議だよな」

 今でも俺はこいつが好きなんだろうなーって素直に思う。
 でも別れようと言われたのは揺るがない事実で、俺に落ち度があったのだろう。
 そう考えると気持ちが沈む。

「うん、おかしいんだよ。恋人って肩書にこだわってるのが今風じゃないっていうか」

「どうせ俺の価値観は今どきじゃないですよー」

「あ、拗ねた」

 堪えきれず海奈に背を向けてしまう。
 やはり俺にはこいつが何を考えてるのかわからない。

 普通に考えたら元カレの部屋に遊びに来るなんてお互いに居心地が悪くなるはずなのに海奈には全くそんな様子がない。自然体にも程がある。

(本当は俺に未練があったりして……でもそれを否定されたら立ち直れない)

 これ以上問いただそうとするには俺のメンタルは弱すぎた。

 女心がわからないからきっと別れを切り出されたのではないか。
 ふとそんな仮説にたどり着いてますます凹んだ。


「ねえねえ、怒ってるの?」

「……」

「めんどくさい男だとモテないってクラスの友だちが言ってた」

 人差し指で俺の頬をプニプニと突き刺しながら海奈は言う。
 相変わらずの至近距離。俺を異性として意識してないのか!?


「じゃあお前さ、俺にどうしろっていうんだよ! だいたいお前は――」

 勢いよく振り返った俺はそこで絶句した。

 真正面、10センチくらいの場所に海奈の顔があった。
 しかも瞳をうるませて。

(なっ、なんで泣きそうな顔してるんだ……違うな、これは別の意味が)

 彼女は頬を赤く染めて俺に体重を預けてきた。
 そのままだと倒れてしまうので両手を肩に添えて受け止める。

 相変わらず外は雨だし、雨音はうるさいし、ここには俺と海奈しかいない。

 ポツリと彼女がつぶやいた。

「ヤっちゃお? ちょうど雨だし」
「は? 雨と何の関係があるって、のわああああああああああ!?」

 そのまま彼女に押し倒された。
 天井のライトのせいで逆光になった海奈の顔が僅かに微笑んでいる。

 ついさっきまで俺にもたれかかっていたくせに、急にスイッチが入ったように腕を腰に回して、そのままギュウウっと抱きついてきやがった。髪の香りと細い体の温もりにほだされて力を抜いてしまったせいで海奈を余計に意識してしまう。


「カラダ動かしたかったんだよね」

 胸が急にドキドキして落ち着かない俺に、海奈がゆっくりと顔を寄せてくる。

「だからっておま……ングウウッ!?」

 不意に唇を奪われ、すぐに離された。
 たった一度のキスで俺の時は止まったが、海奈は動き続ける。

ちゅっちゅっちゅっちゅ♪

「!?」

 軽めのキスを数回、さらにその倍以上重ねられた。
 柔らかさを味わうたびに彼女が恋人だった頃を思い出し、愛しさがこみ上げてくる。

(未練があるのは、俺のほうじゃないか……くそっ、くやしいけど)

 どうやら俺は彼女のことを嫌いになれそうにない。
 今日だってそうだ。

 海奈の考えはわからなくとも、こうしてそばにいてくれるだけで幸せを感じている自分を否定できなかった。


「ずるいぞぉ……」
「ふふん♪ キスされたくらいで動けなくなっちゃうほうがずるいよ。可愛すぎて」

 可愛いと言われて胸が高鳴る。
 海奈は少し満足そうな笑みを浮かべてから見せつけるようにシャツを脱ぎ始めた。


「久しぶりだから我慢できなくなっちゃった?」

ふるんっ♪

 白いシャツに続いて藍色のブラも自分から脱ぎ去ってしまった。
 実は彼女が部屋に入ってきたときから気になっていた。
 シャツに透けるブラがエロすぎて。

 海奈の肌は病的な白さではなく健康的な色をしている。
 だから素朴なシャツがとても良く似合う。
 目の前にさらされた彼女自身に触れてみたくなり、無言で手を伸ばした時だった。

クニュッ……

「あうううっ!」
「良い反応」

 ビクッと震えた俺を見て海奈がまた笑う。
 彼女の手が俺の股間へ滑り込んでくるほうがわずかに早かったのだ。

ンチュ、クチュ、ヌリュ、チュル……

(き、きもちいいいい!)

 慣れた手つきでズボンの隙間からペニスを弄ぶ。
 指先が踊るたびに肉棒の先端から粘液が滲んでゆく。

 いつしか俺は彼女のペースでズボンとトランクスを脱がされてしまっていた。


チュクッ……

 フロアに大の字に寝かされた俺を見下ろしながら、海奈は膝立ちになって左手を自分の秘所へ向かわせた。そのまま自分を慰め、僅かに頬を上気させながらすくい取った愛液をペニスの先端にまぶしてゆく。

ピトッ

「あああああああああああああーーーーっ!!」

 そのエロすぎる光景を見つめながら俺は叫ぶ。
 ペニスの先に確かに感じた温もりが彼女自身のものだったから。

「間接キス。撫で回されて喜んでる」

 淫らに微笑みながら海奈は何度も先端をこね回し、俺を喜ばせながら自分を慰めて愛液を追加してきた。
 ねっとりした手付きで丁寧に鬼頭をこね回されると、それはまるで卑猥な音を立てながらカリ首と裏筋を舐め回されているようだった。

「じゃ、そろそろしゃぶるね」
「!?」

 すっかり力が入らなくなった俺に海奈は覆いかぶさり、背中を向けてきた。

(シックスナインで、フェ、フェラするつもりか!?)

 海奈の美しい口元に自分のペニスがくわえ込まれる。
 そう考えただけで興奮が止まらない。

 しゃぶられた瞬間に射精してしまうかもしれない。

 ど、どうせなら海奈の口の中に出してやりたい!

 ドキドキしながらこの先の展開を妄想し、彼女の動きを目で追う。


(俺にも意地がある。海奈のアソコも、責めたい……射精させられるとしても!)

 だがその予想は見事に裏切られた。

 海奈はペニスの硬さを確かめるように近くでジーっと見つめてから、膝立ちのまま移動して左手で肉棒の先を膣口へあてがった。

ニュリュッ、ヌチュンッ!

「あはぁっ♪ これ硬すぎ……」

「な、な、なっ!?」

 俺は焦った。ゴムもつけずに秘裂に何度もペニスを擦り付け始めたからだ。

(こ、これはっ、やばい! 挿入するつもりだろうが、その前に出ちまうッ!)

 すでに潤っている海奈の名器の入り口で何度も刺激されている。吸い付くような感触の粘膜の上を何往復もさせられたらどんな男だって暴発してしまうだろう。


「上のお口で、とは言わなかったけど。なんかヘン?」

「だからってお前ッ はうううううううううっ!」

「もうね、そういうのいいから。素直になろうよ」

ヌチュウウウウウ~~!

 言葉を紡ぐことさえできない刺激に突然包み込まれた。


(あっ、やば、い、これ海奈のアソコの中が……)

 挿入しただけで幸せな気持ちにされてしまった。

 内部で吸い付きながらリズミカルに締め上げてくる。
 これはおそらく彼女が意図的にやっている動きだ。


「久しぶりだねぇ。どう?」

 答えるまでもない。背筋が勝手に震えてくるほど気持ちいい。
 付き合っていたときに何度も感じた彼女自身の感触に俺は言葉を失った。

 ドクドク溢れ出す我慢汁が止められない。

 いたずらっぽくペニスを舐めあげるように、不規則に蠢きながら男を喜ばせてくる名器に弄ばれ、俺は必死で射精をこらえるしかなかった。

「素直になれた?」

「うあっ、あああぁぁ~~海奈ぁ!」

「私はなれるよ。あの日よりもずっと、自分にもあなたにも」

 振り向きながら彼女がゆらゆらと腰を動かし始める。

(んあああっ、な、なかでしゃぶられて、犯されてるみたいだ! こんなの……)

 俺の太ももを両手で押さえるようにしながら海奈は器用に腰を動かし続けてペニスを味わい尽くしていたが、やがて髪をかきあげるように両手を頭の後ろに回した。


「このまま後ろ向きで倒れてあげるから、抱きしめて」

 背面騎乗位でつながったままの倒れ込み。
 ゆっくりと彼女の背中が迫ってくる。

 キュッとくびれた腰も、色っぽいうなじも、すべてが美しく感じた。

 そして肌と肌が密着した瞬間、ペニスの根本がきゅっと締め付けられた。


「いっぱい感じてね……♪」

 海奈はわずかに腰を浮かせながら小さく円を描く。

 膣内の動きと噛み合わない小刻みな腰振りは快感のさざなみを生み出し、やがて大きなうねりとなってペニスにまとわりついてゆく。


「でで、でるっ、イくっ、イくううううっ!!」

 ガクガク震え出しながら彼女を抱きしめる。

 逃げ場のないその波に押し流されるようにしながら、俺は数分後には海奈の膣内で何度も連続で射精してしまうのだった。





「なんだかまた好きになっちゃいそうだよ」

 俺に抱かれながら海奈が言う。

「もう遅い」
「えっ」

 彼女の形のよう顎に手を当てて無理やりこちらを向かせた。

ちゅっ♪

 背中を抱かれながらキスを奪われた海奈は、少し驚いていたものの嬉しそうだった。

 我ながら強引だとは思うが、今度は俺から求めてしまった。

(こいつはともかく、俺はもうダメだ。素直になるしかないな)

 海奈のことが好きで好きでたまらない。体の相性よりも、そばにいてもらうだけで幸せを感じてしまうのだから終わってる。理由なんていらない。


「……やり直せるかな俺たち」

 本音がポロリと漏れてしまう。
 それを聞いた海奈が目を丸くしながら返事をしてきた。


「それって、もう一発やりたいって意味?」

「そうじゃねええええ!?」

「ふふふっ、やっぱりおもしろいねぇ~」

「お前なぁ……」

 肝心なところで会話が噛み合わない問題は残っているけれどなんとかなるだろう。

 お互いに顔を見合わせて笑う。

 ふと窓の外を見てみれば雨がやんで厚い雲に晴れ間が見え隠れしていた。


(つづく)


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